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川口市と鳩ヶ谷市の合併 [世の中]

 だいぶ前に「まぼろしの『武南市』」なる稿を書いたことがあります。私の住んでいる川口市が、隣接する鳩ヶ谷市・蕨市と合併するという話がかなり具体化したのは2004年のことでした。
 ところが、この合併計画はあっさりと覆りました。破談になった理由はいろいろあったと思いますが、市名が「武南市」と「決定」したことがそのひとつであったと言われます。住民に市名のアンケートをとったところ、52パーセントの回答が「川口市」を推すものであったのに、合併協議会で投票したら、22対19で「武南市」が通ったのでした。

 ――なんのための住民アンケートだ。

 という抗議が殺到したのは無理もありません。何しろアンケートで「武南市」を推したのはわずか2パーセントに過ぎなかったのです。
 鳩ヶ谷市・蕨市に較べ、川口市は面積でも人口でも圧倒的に大きいので、新市名を川口市にすると、鳩ヶ谷市と蕨市が「吸収合併」されたように見えて面白くない、という意識が協議会の委員にあったかもしれません。
 「平成の大合併」で、あちこちに自治体の合併が相次ぎましたが、市名の選定というのはどこもなかなか苦労しています。合併するうちのひとつの市名をそのまま使ってしまうと、他の市町村の住民にとってはどこか屈辱的な気がするようです。例えば静岡市清水市の合併のような場合、市の規模からしても、県庁所在地であるという立ち位置からしても、静岡市となるのが順当だったわけですが、それでも旧清水市の住民のわだかまりが融けるまでにはかなりの時を要したと聞いています。
 そういうことを避けるため、各地でいろいろなアイディアが試されました。構成自治体から一文字ずつとった新市名にするというのはわりにすぐ思いつく方法です。二文字であればある程度元の地名も想像できるのですが、三文字(小美玉市《茨城県》他)になるとなかなかわかりません。昔は4つの村の、それぞれを仮名書きした時の頭文字をつなげて新しい町名にしたということもあったようですが、こうなるとよそ者には全然わからなくなります。平成の大合併ではさすがにそのケースは無かったようですが(未遂に終わったところはあったらしいです)……。
 もとの自治体名にこだわると、住民エゴが噴出して大変なので、あんまり意味もない佳名をつけたところ(みどり市《栃木県》他)、広域地名を無理矢理つけたところ(奥州市《岩手県》他)など、あれこれ手段を弄しています。前者は「どこにあるのか見当もつかない」と批判されますし、後者はその広域地名に属する市外の住民から文句をつけられますし、なかなか納得できる名前にはなりにくいようです。「武南市」も一種の広域地名と言えたかもしれません。もっとも、鳩ヶ谷市に「武南警察署」、蕨市に「武南高校」がありましたので、この周辺を表す地名ではあったようですけれども。
 住民アンケートすらとらずに、合併協議会が勝手に決めてしまったところもあるということなので、一応アンケートがとられた川口・鳩ヶ谷・蕨の合併話は、まだましだったとも言えます。名前だけが問題であったとも思えませんが、とにかくこの合併は一旦流れました。

 それから6年半ほど、また合併の話が持ち上がっているようです。
 今度は蕨市は含まない、川口市と鳩ヶ谷市だけの合併案だそうです。そして市名は川口市ということで、鳩ヶ谷側も応じているとのことです。
 蕨市はともかく、鳩ヶ谷市はいずれそうなるのではないかという気がしていました。
 もともと、接している自治体が、川口市と足立区しかないという市です。言い換えれば、川口市に包囲されて県境に押しつけられている形です。
 岩槻街道の宿場町として、川口よりはずっと伝統と格式を持つ町であるため、旧家の当主のようにプライドが高く、昭和15年にいちど川口市に編入されながら5年後に独立しています。その後、安行地区、戸塚地区、大門地区などが相次いで川口市に編入されたため、包囲される形になりましたが、それでも頑として独立を保っていたのでした。
 とはいえ、鉄道がなかなか通らず(鳩ヶ谷に本拠を置いていた国際興業バス、なかんずくそのドンであった小佐野賢治氏が、鉄道を通す話が持ち上がるたびに片っ端から潰していたという噂もあります)、だんだん陸の孤島化して財政も悪化しました。私が川口に住み始めた頃はさすがに改良されていましたが、以前は国道122号線が川口市から鳩ヶ谷市に入ると未舗装になっていたと言います。
 昭和61年に小佐野氏がこの世を去ったのち、埼玉高速鉄道が開通して、ようやく鳩ヶ谷市にも念願の鉄道路線が通りました。駅も鳩ヶ谷南鳩ヶ谷のふたつが設置されました。
 ところが、埼玉高速鉄道は第三セクター路線なので、沿線自治体が出資しなければなりません。私は埼玉高速鉄道が通った時、鳩ヶ谷市はこの財政負担に耐えられるのだろうかとひとごとながら心配したのでした。そして、もしかしたら遠からず、川口市との合併を望むのではないかと予測しました。

 案の定というか、それから間もなく、合併の話が持ち上がりました。ただしその時は、蕨、戸田草加も含む、なかなか壮大な5市合併というプランで、話が大きすぎてほどなく流れました。その次に出てきたのが前述の3市合併です。
 それもまた流れたあと、とうとう鳩ヶ谷市から2市合併が提案されました。新市名は川口で良いと鳩ヶ谷市のほうから言ってきたのですから、実質的には編入です。もはや鳩ヶ谷市の財政はなりふり構っていられないところまで来てしまったのかもしれません。
 そして、どうやら今度こそ実現しそうです。合併協議はかなり具体的なところまで進んでいるようです。
 具体的なメリット・デメリットがどうなるのかはよく知りませんが、川口市は現在でも特例市の中でいちばん人口が多い市で、鳩ヶ谷市の6万何千人かを加えるとさらにダントツに多いことになります。そろそろ中核市もしくは政令指定都市を狙うことができるかもしれません。


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コメント 14

phaos

無難に纏めようとしたから「武南市」なんてね。
by phaos (2011-04-24 13:48) 

コンビニ作曲家MIC

#phaos先生
そのギャグ、当時よく聞きました(^o^)

「武蔵国の南」という意味なら、東京都や神奈川県の一部まで入ってしまうので、その意味でも不適当だと思うんですが、その手の市名は各地でずいぶん増えましたね~~……
往々にして合併協議会は、該当地域のことばかり考えて、他の地域とのバランスといったようなことを考慮する余裕がなかったみたいです。
by コンビニ作曲家MIC (2011-04-25 01:02) 

旧鳩ケ谷市民SS

独身時代、鳩ケ谷に住んでいたものです。今は都内在住ですが、慣れ親しんだ鳩ケ谷が川口に吸収されことは大人の事情では賛成ですが、子供時代を振り返るとさびしい気持ちもあります。
まだ田んぼが多かったころの通学路、鉄道に縁がない分、地元が東京に接していることも凄く不思議な感じでした。(東京が近い感覚がなかったんです)
都内の学校や、都内で仕事をするようになるまでは地元がスタンダードだったので、都内の交通の便の良さや私鉄の運賃の安さ(昭和末期ころまでは初乗りは私鉄や地下鉄が安かったです)にカルチャーショックを受けました。
今は合併して逆にバス交通なども市内、市外を考えずスムーズにネットワーク化されればといいなと思っています。
学区域なんかも多少の変更はありそうですね。
…牧歌的だった鳩ケ谷が近代的になり、使いやすくなるのは良いですが、新しい街としてやみくもに市街化するのではなく、道路も高齢者や歩行者に重点を置いた道路など、整備の仕方を考えて頂けると、素敵な市街地になる要素は多分にある気がしています。

実家はまだ鳩ケ谷にあるので、年に数回帰ったりします。
行くたびに少しずつ変わっていく鳩ケ谷が、郷土愛を感じずにいられない自分に驚いています。
by 旧鳩ケ谷市民SS (2011-05-01 21:30) 

コンビニ作曲家MIC

#旧鳩ヶ谷市民SS様
生まれ育った町が、それ自体はそのままでも、合併などで名前が無くなってしまうのは寂しい話ですね~。
私は子供の頃だいぶ転々としていたので、ひとつの土地で生まれ育ったという感覚が乏しいのですが、久しぶりに昔通っていた幼稚園の近くへ行く機会があって、その幼稚園の名前が変わっていたことを知って少しばかりがっかりした経験はあります。
市内の町名のいくつかくらいには「鳩ヶ谷」の名前が残ると良いですね(もっとも、「鳩ヶ谷八幡木」とかいう住居表示になると、宛名などの字数が多くなってかないませんが(^_^;;)!
川口市は、例えばかなり老朽化した市役所をそのままにしているように、けっこうお金の使い方にはポリシーを持っているようなので、合併することで鳩ヶ谷地域の有機的な発展にも役立てば良いと思います。
by コンビニ作曲家MIC (2011-05-03 11:30) 

現鳩ヶ谷市民

子育て支援の観点からすると合併大反対です。
保育園の園庭解放は4園すべて毎日が一園のみ月3回程度、毎月二回遊ぼう会は40組ほどが15組に。0歳児講座有料に。1.2歳児講座廃止。ファミサポの料金値上がり、保育園給食直営が民間に。保育園料金値上がりの家庭が増える。小学校、中学校が給食センターに。支援センターの昼食禁止、土曜日廃止。
公園デビューなんて言葉はなく、園庭、支援センターで子供を好きなように遊ばせる、そこには先生がおり、何か悩んでても相談するには敷居が高い、、そんなふうに感じてる人も気軽に相談できる。保育園の子達も地域のお友達と言って気軽に遊んでくれるそんな光景が合併によってなくなるんです。
そもそも、20年以上前から保育園職員が頑張って行政に働きかけて築き上げてきたものが合併で縮小されるなんて。
援に積極的で3.4人子供がいる家庭も多いんですよ。

by 現鳩ヶ谷市民 (2011-09-16 13:30) 

コンビニ作曲家MIC

#現鳩ヶ谷市民様
合併することによるメリットとデメリット、しないことによるメリットとデメリットがあって、いろいろな意見があることは当然だと思います。
全員にメリットとデメリットが当分にかかってくるわけではなくて、どうしても「メリットの多い層」と「デメリットの多い層」が出てきてしまいますよね。
当然、デメリットの多い層にしてみれば大反対ということになるでしょう。

が、今回の話は鳩ヶ谷側から持ち出したわけで、それは現鳩ヶ谷市民様が挙げておられるような行政サービスが、現状ではもはや維持できないと悲鳴を上げているようにも思えるのです。
そうだとすれば、もし合併しないとしても、鳩ヶ谷市の税収が飛躍的に伸びるということがない限り、今後どんどん行政サービスが縮小されてゆくことも予想されますね。

まあ、禍福はあざなえる縄のごとしということで……(^_^;;
鳩ヶ谷市でやっていたことが、まるっきり御破算になるということもないでしょうから、残った芽を大切に育てていただければと存じます。
by コンビニ作曲家MIC (2011-09-18 10:42) 

ふなつ君

私利私欲のため、合併に反対したふなつ君の願いは叶わなかった。
今日も、かわら屋と悪巧みか?
by ふなつ君 (2011-11-19 09:18) 

コンビニ作曲家MIC

#ふなつ君
ふなつ君って誰ですか?
あと、かわら屋って?
by コンビニ作曲家MIC (2011-11-19 21:16) 

蕨駅市民


蕨市を川口市に入れて欲しいです。
こないだのTVで川口市が江戸川区,横浜市を下し日本1儲かってるってやってました。
プールも10個くらい(中には200円で流れるプールとかスラーダーがある所もある)あり、スケート場とか科学博物館とか中央図書館とか、、、
中学生まで医療費が無料、住民税安い

実際、川口市ブランドが確立されているので武南市にするのはもったいない


by 蕨駅市民 (2013-02-13 18:09) 

コンビニ作曲家MIC

#蕨駅市民様
なるほど、いろいろな意見のかたが居られるわけですね~~(^_^;;
蕨市は、「日本一面積が小さい市」というタイトルを持っているので、それを失いたくないという人も居るかもしれませんな。
しかし川口市が日本一儲かっている市だとは知りませんでした。
新規住民が多いのと、ギャンブル場(オートレース)を抱えているのと、けっこう企業が多いからでしょうか。
あと、スーパーが乱立気味なせいか、物価が安いんですよ。これはホントに助かってます。
by コンビニ作曲家MIC (2013-02-14 16:38) 

♬

鳩ヶ谷民悲しかっただろうな…
by ♬ (2017-10-21 00:37) 

コンビニ作曲家MIC

#♬様
悲しかった人と、喜んだ人と。
何かしようとすれば、必ずどちらの人も居たと思いますよ。
ちなみに、旧鳩ヶ谷市役所である鳩ヶ谷出張所は、川口市役所よりはるかに立派です(^_^;;
by コンビニ作曲家MIC (2017-10-22 02:16) 

music

市政も市名も完全に消滅して鳩ヶ谷民可哀そう。まあ吸収合併された市町村はいっぱいあるけどね…
by music (2019-09-08 01:56) 

コンビニ作曲家MIC

#music様
鳩ヶ谷本町はじめ、鳩ヶ谷の名前を残した町名もいくつかありますし、駅名としては鳩ヶ谷・南鳩ヶ谷が残っているので、まあそのあたりで納得して貰うしかなさそうですね。
by コンビニ作曲家MIC (2019-09-10 20:20) 

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