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「夢の」海底トンネル [世の中]

 自分のサイトの整理に没頭しているあいだに、世の中ではいろんなことが起こっていました。まとめサイトなどはチェックしていたので、それぞれに思うことはありますが、とりわけ私の興味を惹いたのは、日韓海底トンネルの話題です。
 もちろん、できたらいいなあ、などと思っているわけではありません。韓国とのあいだに海底トンネルを作って何になるんだという感想しか湧かないのですが、日本側が全然乗り気になっていないのに、韓国側だけで妙に盛り上がっているという、その極端な温度差が非常に面白いのです。
 今回そんな話が持ち上がっているのは、どうも釜山の市長選か何かにからんでのことであるようです。ある候補が大規模公共事業で多くの人の雇用を創出するプランとして、海底トンネルの案を訴えたところ、賛否両論・侃侃諤諤の大騒ぎになってしまったというわけです。
 そんな莫大な予算が必要なことができるわけがない、という反論が出ましたが、その候補は、
 「施工費の70%は日本が出す。われわれは30%だけ負担すれば良いのだ」
 などとぶち上げたとか。「日本が出す」ってちょっと待てい……とツッコみたくならない日本人は居ないでしょう。こちらがなんにも知らないうちに勝手に話が進んでいるのです。まあ、「願望の既成事実化回路」を備えた韓国の人々は、いつもこんな感じではありますが。
 韓日トンネル(日本側では「日韓トンネル」と呼ぶべきでしょうが、今回はあまりと言えば一方的に韓国だけで盛り上がっているので、あえてこの名称とします)に関する世論調査までおこなわれ、賛成派は多数こそ占められなかったものの40%以上に及んだそうです。
 反対派の論拠がまた面白い。
 「日本が一方的に得するだけの事業ではないのか」
 「日本が悲願であった大陸への直通ルートを手に入れるだけで、こちらにはなんのメリットも無い」
 「日本が100%費用を出すべきだ」
 「いや、100%出してもそんなことを許してはいけない。日本の侵略が進むだけではないか」
 いつのまにか、日本側がトンネル開通を切望しているかのような論調になっているのでした。無責任なネット民のコメントというわけでもありません。いちおうれっきとした新聞にそんなことが書かれているのです。そして書いているのは大学教授だったりします。
 自国に関わりさえしなければ、こんなに面白い生態を持つ国民は居ないと思うのですが、あいにくなことに韓国は隣の国であり、しかも何かというとこちらにからんできます。その都度払いのけないと、厄介なことになります。

 日本と朝鮮半島を海底トンネルで結ぼうという話が、かつてまったく無かったわけではありません。ただし100年以上昔の話です。
 日露戦争に勝って、一等国の仲間入りをし、かつ満洲の権益も手に入れた大日本帝国が、大陸への直通ルートを欲しがったのは確かです。
 当時、東京ー下関には直通の豪華特急が走りはじめました。のちに「富士」と名付けられた列車です。一等車と二等車だけの編成で、いまの普通車にあたる三等車は連結されていません。一流レストランに比すべき食堂車や、ホテル並みのサロンカーなどもありました。まさに、国威発揚のために贅を尽くした列車だったのです。
 関門トンネルはまだ無かったので下関止まりでした。下関からは、これまた豪華客船に乗り継いで朝鮮半島に渡り、半島、そして満洲を経てシベリア鉄道に接続したのです。シベリア鉄道からはヨーロッパの各鉄道に直通できますので、これでいわば大陸横断鉄道が実現したことになります。
 「富士」はその大陸横断鉄道の最東端を担うべき列車でしたが、下関ー釜山間で船に乗り換えなければならないというのがどうしても輸送上のネックになります。それで、この区間を海底トンネルで結べないかということが検討されたのです。
 しかし、下関ー釜山間は直線距離で約200キロ、それを掘り抜くのはいくらなんでも無理です。現在の技術でも容易なことではなく、ましてや20世紀初頭では夢物語のようなものでした。
 九州の東松浦半島から、壱岐・対馬を経由してだったら、もしかしたら掘れるかもしれません。東松浦半島の突端の波戸岬あたりから壱岐までは30キロくらい、壱岐北端の勝本から対馬南端の豆酘(つつ)までは50キロくらい、そして対馬北端の比田勝(ひたかつ)から釜山までは60キロくらいです。
 そのプランを進めるにしても、まずは関門トンネルを掘らなければ話になりません。ここはせいぜい3.6キロくらいの海底トンネルになります。昭和12年から工事をはじめ、17年に開通しました。戦時中であるため突貫工事ではあったでしょうが、それにしても資材も工員も不足の中よく通したものだと思います。
 とは言っても4キロ足らずを掘るのに5年もかかっています。ノウハウは活用できるので、40キロ掘るためにその10倍の工期がかかるというわけではないにせよ、もう半島にトンネルを通すというような計画は、日本としては断念したようなものだったでしょう。
 一方青函トンネルのほうは、大正時代に発案され、昭和15年に調査室が設置されました。こちらは関門トンネルとは文字どおり桁が違う、25キロ近い海底部分と50キロ以上の延長距離を持つ長大なトンネルですので、当時としてはこれも夢物語みたいなものでした。しかし、昭和29年洞爺丸事故が発生。青函連絡船が颱風の直撃を受け、1100人以上の死者や行方不明者をもたらした、日本海難史上最大最悪の大事故です。これを契機に青函トンネルのプランがまじめに考えられるようになり、充分な調査を経て昭和36年に着工、昭和62年に完成しました。26年かかっています。

 韓日トンネルはこれに較べてもさらに長大であり、工費工期ともにとんでもないことになるでしょう。何より、飛行機で簡単に外国と行き来することができるようになった現在、鉄道を半島につなげてなんの意味があるのか、こちらとしてはあっけにとられるほかないのでした。
 これだけ長いと、鉄道以外には使えません。クルマを走らせたら排気ガスが充満してえらいことになるでしょう。はるかに短い東京湾アクアラインでも、何箇所か排気のための設備を作らなければなりませんでした。玄界灘に数キロおきに排気塔が並ぶ光景など、冗談にしかなりません。すべて電気自動車にでもならない限り、クルマを通すのは無理です。
 そして鉄道となると、新幹線級の高速鉄道をノンストップで走らせたとしても、トンネルを抜けるには1時間近くかかります。貨物列車ならもっと時間を要します。
 日本側からだと、福岡あたりの人が韓国に買い物や遊びに行くのに使うかもしれませんが、東京や大阪あたりからトンネル経由の列車を使う人が居るとは考えられません。その距離だと飛行機のほうがずっと便利です。つまり、日本側からのトンネル利用は、ほとんど期待できないのです。
 にもかかわらず向こうで、日本ばかりが得をするとか、日本が悲願を果たすことになるとか言われているのは、まったく腑に落ちません。100年前に検討してやめておいたというだけのプランが、どういうわけだか悲願ということにされてしまったようです。
 また、日露戦争のときのシベリア鉄道ではあるまいし、鉄道がつながったから侵略してくるなどというのは、妄想にしてももう少し現実的に考えたらどうだ、と言いたくなるような言いぐさです。
 また百歩譲って、日本が大陸とつながる鉄道を欲しがっていたとしても、現在の朝鮮半島では38度線までしか行けないわけです。まず北朝鮮をなんとかして貰わないと、大陸にはつながりません。
 もし大陸と直通したいなら、朝鮮半島経由ではなく、宗谷海峡間宮海峡にトンネルを掘って、樺太経由でシベリア鉄道につなげるというほうが、距離的にも海峡の扱いやすさ的にも、よほど実現性が高いと思います。もちろん、そんなものも特に必要とは思えませんが。
 要するに日本列島と朝鮮半島を結ぶ海底トンネルなどを掘っても、日本側にはほとんどメリットというものが無く、工費を70%支弁する謂われも何ひとつ無いというわけでした。

 まあ、釜山の候補も、本気でトンネルを掘ろうとは思っていなかったでしょう。ある意味、ホラを吹いて有権者の興味を惹いてみたというところではないかと思います。
 そもそも釜山という街の位置が、半島の突端というかどん詰まりというか、あんまり先の無い感じの場所ではあります。そして上にも書いたとおり、韓国は半島のうち大陸につながるほうの北半分を北朝鮮に押さえられているわけで、言ってみれば陸の孤島みたいなものです。かと言って海に活路を見出そうにも、韓国の領海からは、日本か中国かロシアか、いずれかの領海を横切らない限りどこにも出られません。地理的に考えて閉塞感を覚えずにはいられないようなところであるのは、気の毒ながらやむを得ないことです。
 そのさらにどん詰まりである釜山としては、日本への海底トンネルというプランは、その閉塞感に穴をあけるような気分にひたれることなのかもしれません。だから40%という、ちょっとびっくりするほどの賛成意思が寄せられたということなのでしょう。
 それにしても相手方の都合も意見も、なんにも考慮せずに話を盛り上げるというのが、実にかの国らしいと言えるのですが。
 さすがにしばらく経って、日本側がまったく乗り気でない、というより関心さえ示していないという報道も出はじめたようです。向こうでは拍子抜けしたりがっかりしたりしているかもしれませんが、こちらの知ったことではありません。

 どうも韓国人は、島国に偏見を持っているようで、日本について「小さな島国」みたいに言うことが少なくありません。小さなも何も、面積で言えば韓国は日本の3分の1にも達しないのですけれども。北朝鮮と一緒になれば日本の面積を上回ると信じている人も多いそうですが、北朝鮮が大体日本の3分の1くらいですので、併せても3分の2に届きません。向こうのテレビなどで自国周辺の地図を出すとき、朝鮮半島を実際より大きくデフォルメしたものを使うそうなので、そのせいでしょう。ネットではウリカトル図法と揶揄されています。
 つまり日本を実際よりも小さく思っている人が多いことになります。それでその小さな島国は、海に囲まれて逃げ場がないゆえに、なんとか大陸とつながりたいと熱望しているに違いない、と考えてしまうようです。
 その証拠に、島国である英国ドーヴァートンネルを掘ってヨーロッパ大陸とつながったではないか、というのでした。韓国は英国のことも、島国であるゆえをもって微妙に軽く見る傾向があるようです。他の国と違って、英国という元「日の沈まぬ帝国」の脅威に直接さらされたことが一度も無かったおかげかもしれません。夜郎自大という言葉の正しい意味を示しているように思えます。
 ドーヴァー海峡は幅もそう広くなく、水深も大したことがないので、韓日トンネルなどよりはよほど容易にトンネルを掘ることができました。青函トンネルより海底部分は少し長いにもかかわらず、トンネル自体は短くなっています。津軽海峡は水深が深いために、取り付き部分を長くとって充分な深度まで掘らなければならなかったのでした。そのため地底部分のほうが海底部分よりも長いくらいになっています。
 ドーヴァートンネルは、英国にとってもフランスにとっても充分採算が合う見込みがあったから開通しただけのことです。別に英国が島国であることを心細がって、ヨーロッパと地続きになりたかったから掘ったわけではありません。しかもドーヴァーはロンドンから100キロ程度のいわば近郊、対岸のカレーパリから200キロ程度しか離れていません。ドーヴァートンネルをはさんだ両首都の距離は350キロほどであり、これは鉄道が飛行機に対抗しうる範囲です。
 現代の交通学では、高速鉄道で4時間程度、500~600キロ程度までであれば、飛行機よりも優位に立てるとされています。実際、東京ー大阪間のシェアは、新幹線が飛行機を上回っていますし、東京ー新潟、東京ー仙台などでは、新幹線開通前には飛行機の便があったのですが、新幹線との競争に勝てずに廃止されました。つまり、ロンドンーパリは、充分に列車利用が見込める距離であったのです。しかもそんなにトンネルが長くないためにクルマも通せるようになりました。
 これに対し、東松浦半島は福岡市からでも約50キロ、広島あたりからで330キロくらいで、大阪や東京からは遠すぎるのでした。対する釜山からソウルまでも300キロくらいあります。上にも書きましたが、福岡ー釜山間の利用くらいは少しはあるかもしれませんが、両国の首都同士を結ぶにはあまりに距離がありすぎ、飛行機のほうがはるかに便利です。とても採算がとれるとは思えません。
 日本が海底トンネルを掘って大陸と直通するというのは、鉄道が最速輸送手段であった時代の一案に過ぎず、しかも検討の結果とっくに捨てられたプランです。悲願でもなんでもありません。韓国人はずいぶん古いイメージで日本人を考えているのだなあと思ってしまいます。まあ、他のいろんな言動を見てもそれは窺えますけれども。
 むしろこのたびのコロナ騒ぎを考えても、日本は島国であるメリットを活かして対策をとりうるアドバンテージを持っています。残念ながら変異株の侵入を完全には防げていませんが、もしトンネルで地続きになっているところから、列車やクルマで外国人がどんどん入ってくるとしたら、いまのような防疫・医療体制ではとても間に合わないでしょう。
 戦前には、大陸に夢を見て向こうに渡る「大陸浪人」といった若者がたくさん居たのは確かに事実です。しかし、現状で大陸に夢を見る日本人はほとんど居ないでしょう。韓国では、日本がふたたび侵略してくるのをわりと本気で怖れているふしがあり、上記の調査結果などでもそれが窺えますが、「たとえノシをつけて頼まれても御免だ」というのがおおかたの現代日本人の本音だと思います。さんざん持ち出しでカネをかけて近代の体裁を整えてやったのに、収奪されたの虐殺されたのと、蜿蜒と恨まれたり憎まれたりするのでは、もう金輪際関わりたくないと思うのも無理はありますまい。
 たぶん選挙が済んだら、トンネルの話も自然と立ち消えになるのではないかと思っています。

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