SSブログ

新しい「仕事」 [お仕事]

 ご無沙汰いたしました。約半月ほど更新が滞ってしまいました。
 6月の板橋オペラ『ラ・ボエーム』の楽譜を作成したり、5月に上梓する『続・TOKYO物語(混声版)』の最終校正にかかったり、その刊行と同時に初演をおこなうChorus STの演奏会の準備があったりと、傾向の違ういろんな作業を同時進行しなければならず、日誌に振り向けるエネルギーが残っていませんでした。作業そのものが手間取るものであっても、1種類であれば、息抜きに日誌を書くみたいなことができるのですけれども。
 Chorus STの演奏会は、本来は去年(2020年)の5月5日に開催されるはずだったものです。しかしご承知のとおりの事情で延期となり、ほぼ1年後である今年5月1日に復活公演をおこなうことになりました。去年がChorus ST創立30周年ということで、OB・OGや関わりのあった人たちなどに声をかけ、記念合唱団として賛助出演して貰うことになっていたので、延期は残念なことでしたし、復活公演にあたっての調整なども大変だったのですが、幸い大半のメンバーが再チャレンジに同意してくれました。ごく少数、日程の都合がつかずにキャンセルとなったのみです。
 そのつもりで動き出した途端に、今年の頭からまたしても緊急事態宣言が出たりして、はなはだ心許ない状況ではありましたが、なんとか実現しそうです。開催場所は東京文化会館のはずだったのが北とぴあに替わり、プログラム内容も若干変更になりましたが、お時間のある向きはぜひご来聴ください。ここにチラシのデータを置いてあります。

 さて、『ラ・ボエーム』もまた、去年の6月に公演予定だったものが延期となったイベントです。
 これも復活公演ということになり、ほぼ同じ(ちょっとだけ違う)配役で開催することが決まっています。
 私の役割は、恒例の板橋編成オーケストラへの編曲、そして字幕操作です。
 フルオーケストラを用意する余裕が無いので、毎回規模を縮小した室内サイズのオーケストラを用いており、そのために毎回編曲が必要になり、もう十数年にわたって手掛けています。
 もっとも、数年前から外部の演奏者を頼むようになって、かなり大規模化してきました。もとはサクソフォンアンサンブル主体で、ピアノも交え、それに若干の楽器を加えるという編成であることが多かったのですけれども、最近はフルオケまでもう一歩という感じになってきています。
 とはいっても、『ラ・ボエーム』の原曲の編成は準三管編成というかなりの大編成で、まともに揃えようとすればまだまだ道遠しというところです。木管楽器はかろうじて2本ずつ(ただしファゴットの代わりにサクソフォン使用)集めましたが、金管はまだだいぶ少なく、弦楽器も各パート2~3人というところでフルオケの迫力には遠く及びません。
 そんなわけで、やはりまだまだ編曲無しで演奏するのは困難なのでした。
 それでも、以前に較べるとだいぶ大きくなってきたのは事実です。『ラ・ボエーム』の上演はこのシリーズで2回目なのですが、編成が大きくなったので、前の編曲譜をそのまま使うことは無理であるわけです。
 まったく新たに編曲をし直しました。
 この作業自体は、去年のうちに終わっています。去年の4月は、『ラ・ボエーム』の編曲に追われていたのです。
 幸い、オーケストラの編成は去年とまったく同じで済み、弦楽器の人数が若干異動した程度でしたから、今年の復活公演に際して手を加える必要はありませんでした。それで今年は楽ができる……と皮算用していたのですが、パート譜をまだ作っていなかったので、それは今年の作業としてやらなければなりません。
 例年、パート譜づくりは、スコアを作成してからさらに数日を費やしておこなっています。ということは、今回も数日を費やせばできるだろうと踏んだのですけれども、これがそうはゆきませんでした。
 第一幕の弦楽パート分を作るだけで、一日かかってしまったのです。
 『ラ・ボエーム』は第一幕が突出して長いので、やむを得ないところはあるものの、それよりも小節や音符につけられた発想記号がやたらと多く、その位置調整などに手間取りました。その小節が全休符であってもつけておかなければならない記号や標語がたくさんあるのでした。
 翌日は同じ部分の打楽器と金管楽器までしかできませんでした。木管楽器はそのまた次の日をまるまる費やしました。早い話が、第一幕だけで3日もかかってしまったことになります。
 第二幕から第四幕までは、いずれも第一幕の7割くらいの長さですので、3日×4幕で12日かかったというわけではないものの、目算をつけていた日数よりはずっと手間取ってしまいました。こんなことを去年やっていたらいつまでかかったろうかと肝を冷やすほどでした。
 なぜこんなに手間取ったのだろうかと思い返してみましたが、単純にパート数が多かったからであるようです。木管が8パート、金管が6パート、打楽器が3パート、ハープ、弦楽器が5パートで、計23パートというのが今回の編成でした。確かに、こんなにパート数の多い編成は、いままでの板橋オペラでは無かったように思います。

 インペク(オーケストラのマネージャーのような役目)には、パート譜は3月中くらいにデータを用意すると言ってあったのですが、とても3月中には終わらず、4月の最初の一週間くらいまでかかってしまいました。
 ともあれなんとか仕上げて、データをインペクに送りました。スコアのほうは指揮者にデータを送ります。
 しかし、これで終わりではありません。データを送るだけでなく、ちゃんと印刷・製本して冊子にしたものを各自に渡さなければならないのです。各自でデータをダウンロードしてなんとかするように……とは、まだ言えないようなのでした。
 最近は譜面をタブレットに入れて演奏するという人もけっこう多く、紙の楽譜を用意しなくとも良いようでもあります。少なくとも、紙の楽譜がどうしても必要なら自分でプリントアウトしろ、と言っても差し支えなさそうな段階にさしかかっているような気がします。しかし、インペクの立場としては、まだそれは忍びないものがあるのでしょう。あと10年もすれば、状況も変わるかもしれません。
 そして、その印刷製本も、私がやらなければならないらしいのでした。
 前々回までは、編曲を分担していた金井くんがそれをやってくれていましたが、前回の『セーラ』再演のときから私の仕事となり、実際にスコアとパート譜の印刷製本をおこないました。と言っても、キンコーズにデータを持って行って、お任せでやって貰っただけでしたが、その結果、経費をかけ過ぎだと会計から怒られました。
 キンコーズはこういう作業をやって貰うにはかなり安上がりな店ではありますが、全部お任せにしてしまうとそれなりの金額になります。まず楽譜用の厚手の紙を買い、印刷は自分でおこない、リング製本だけやって貰うようにすればずいぶん安くなるというのですが、印刷面はスコアとパート譜を合わせて1000ページを超えるので、思うだに気が遠くなりそうな作業です。金井くんはよくやってくれていたものだと思いますが、以前はパート数もいまほど多くはなかったのでした。
 少々うんざりした気分でいたところ、指揮者の成田くんから、今回のスコアは知人が印刷製本してくれるそうなのでデータだけ送るようにと言われました。
 奇特な知人が居るものだと思い、様子を聞くと、キンコーズで作るよりずいぶん安くやってくれるようなのでした。私がパート譜の印刷のことを愚痴ると、成田くんはそのこともその知人に訊いてくれたそうで、やってくれるらしいとの話が伝わってきました。

 どんな人なのだろうかと不思議に思っていましたが、直接連絡をとってみると、成田くんの関わっているアマチュアオーケストラのメンバーで、やはり毎回のパート譜の印刷や製本が高くつくのでイヤになり、なら自分でやってしまおうと、必要な機材などを買い集めたのだそうです。ライブラリアンでもやっていたのでしょうか。それで、いっそのことこれを仕事にしてしまおうと考えたのだとか。まだ本格始動はしていないそうで、板橋の『ラ・ボエーム』の譜面づくりを、いわば試行というか研修みたいなつもりでやってみたいとのことでした。
 なるほど、と私は得心しました。23パート30冊にもなるパート譜を全部やって貰うことに、多少の心苦しさを感じていたのですが、仕事として請け負ってくれるのであればこちらも気が楽です。
 楽譜の印刷製本という仕事はいささかニッチ的ではあるものの、軌道に乗ればそれなりの需要はあるのではないかと思います。実際、今回やって貰って、結果に問題が無ければ、今後も頼みたいと考えていますから、それだけでも「お得意様」がひとつできることになります。その種の「お得意様」をいくつか作っておけば、定期的に仕事が入るわけです。
 私自身も「譜面作成」という小遣い稼ぎをやっています。私のほうは譜面データを作るところまでが仕事ですので、もちろん「印刷製本」とはバッティングしませんが、似たような分野の仕事ということは言えるかもしれません。それを本業にするほどの需要は無さそうですが、副業としてはけっこう良し、というあたりも似ています。
 モノによっては、お互い連携することも可能かもしれません。私がデータを作ってその人に流し、製本された状態でクライアントに渡す、なんてことも考えられます。そこまで行けば簡易出版業務と言っても良さそうです。
 人がなかなか外へ出られない昨今、こういう形の一種の「代行業」というのはどんどん増えるのではないでしょうか。楽譜の印刷製本など、自分でコピーをとり、糊付け、あるいはもっと簡単にホチキス止めやガチャック止めなどで冊子状につくることは、手間はかかりますが充分に可能なことです。しかし、コロナ禍で、そんなに外のコピー機で時間をかけてプリントアウトするのも憚られる、という人も多くなっています。廉価でやってくれる業者が居れば、任せてしまいたいと思うでしょう。
 私の譜面作成だって、昔なら手書きで写譜したものです。1ページ千円という規定でやっていますが、そこそこクライアントがあるということは、その程度の出費で面倒くさい写譜をやって貰えるのなら頼みたい、という人がそれなりに居る証拠でしょう。
 そういう「代行業」をうまくつなげれば、何か面白い業態が生まれそうな気もするのでした。
 知人のひとりは「ホームページ作成代行業」という仕事をやってけっこう稼いでいるようです。これなんかも、20年前にはあまり考えもつかない業種であったと思います。いまは、既成のいろんな業態が破壊され消滅してゆく厳しい時代でもありますが、新しい「仕事」がどんどん生まれてもいる面白い時代とも言えます。それらの新しい仕事は、最初はニッチ的に思えるかもしれませんが、その中から案外と、次の時代を支えられるような業態が誕生してゆくのかもしれません。
 閉塞感に満ちたイヤな時代だと思っている人が多そうですが、私は逆に、いろんな可能性を試せる時代という印象であり、過渡期の面白さというのがあるように感じられるのです。
 ともあれ、大量の印刷製本を自分でやらずに済むことになってものすごくホッとしていると共に、楽譜の印刷製本を「仕事」にしようとしているその人の前途に幸あらんことを祈る次第です。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。