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ISも蠢動 [世の中]

 イスラム原理主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧して以来、混乱はいまだ収まる気配を見せないようです。各国の空軍機その他が、カブールに滞在していた自国民を脱出させるべく駆けつけていますが、問題は自国民だけでなく、その自国民に協力していた現地人スタッフなどです。タリバンからしてみると、その人たちはいわば外国勢力に協力していた売国奴ということになり、国内にとどまっていると早晩粛清の対象になることが充分に予想されるのでした。
 必然的に、空港へ向かって大変な人数が押し寄せることになります。空港は大混雑で、出発する飛行機の脚にすがりついて振り落とされ、大怪我を負うような人も出ています。
 タリバンは、アフガン人が国外脱出しようとするのを面白からず思い、空港へ向かう道に厳しい検問を張りました。それでまた、市中の交通も麻痺状態になりつつあるようです。
 運良く脱出できたアフガン人たちは、その大半がひとまず隣国であるパキスタンに逃れているようですが、パキスタンはどちらかというとタリバンに宥和的な立場の国であり、タリバンから強く要求されれば、彼らを送り返すことになるかもしれません。今後彼らがどうなるか、楽観は許されないところであるような気がします。

 そんな騒ぎの中、空港付近で爆破テロまで発生しました。米兵十数人を含む、180人以上の死者が出たそうですから、これはゆゆしき事態です。これに関してはIS-Kの仕業らしいとされています。Kはホラーサーン(Khorasan)で、この地名は現在イラン国内の州名となっていますが、本来はイラン・アフガニスタン・パキスタンにまたがった広域名でした。このあたりにISの一派が拠点を構えており、そのため「イスラム国ホラサン州」などとも呼ばれています。
 ISもタリバンも、いずれもイスラム原理主義を奉ずる組織であるわけですが、非常に仲が悪いらしいので、外から見ているとわけがわかりません。ごく近い大義を掲げている同士だからこそ折り合えないということなのかもしれません。
 自国の兵士を殺されたUSAは激怒し、バイデン大統領はただちに報復することを指示しました。それで米軍は無人航空機を飛ばし、空爆してテロの立案者を殺害した、と発表しましたが、あまりあてにはなりません。そんなにピンポイントで空爆などできるものなのか微妙ですし、アフガニスタンという国はほぼ全域が山岳地帯なので、山の中に逃げ込まれればどうしようもなさそうです。
 USA国内でのバイデン大統領への風当たりも強くなってきました。USAという国は、いかに内部での政争が激しくとも、外国で米兵が殺害されたりすると、超党派で報復を叫ぶのが常だったのですが、今回はどんなものでしょうか。

 進駐していた米軍が8月末日をもって撤退する、ということをバイデン氏が明言したからタリバンが勢いづいた、ということはあるでしょうが、撤退についてはもともとオバマ時代から言われていたことです。USAが「世界の警察官」であることを辞める、という方針からの結論でした。
 そもそもUSAは20年間もアフガニスタンに駐留して、何をしようとしていたのか、という問題もあります。
 それはおそらく、ヴェトナムでもイラクでもUSAが希望していたこと、すなわち「米軍の監視のもと、親米的で民主的な国を作る」ということなのでしょう。そのことにはヴェトナムでもイラクでも失敗しているのですが、こりずにアフガニスタンでもやろうとしたわけです。
 だいたい、他国に軍隊を駐留させて、自分の国に都合の良い政権を作らせようなどという甘い考えが、そううまくゆくはずもないのですが、USAは何度失敗してもそのやりかたを試みようとします。
 もちろんそれは、USAが最初に試みた国で大成功をおさめたからです。その成功体験が忘れられないのだと思います。
 言うまでも無く、その国とは日本のことです。

 日本は、確かに第二次大戦後、米軍(連合軍という建前ではありましたが)の監視のもと、すこぶる親米的でたいへん民主的な国となりました。半世紀以上が経っても、その立ち位置は揺らぎません。USAとしては、国のありかたまで変えようとするほどに他国に干渉したのは、それがはじめてでした。はじめての試みでびっくりするほどの大成功をおさめたので、その試みを各地で繰り返すことになったのです。
 あれほどの強敵だった日本でさえ意のままになったのだから、ヴェトナムやイラクで親米政権を起ち上げることなど造作もない、と思ってしまったに違いありません。
 しかし、USAは……というかその指導者たちは、まったく思い違いをしていました。
 日本でさえ、ではなく、日本だから成功したのだ、ということに、彼らはなかなか気づきませんでした。
 日本は、第二次大戦の前においてすら、実はUSAとそれほどはなはだしく乖離した価値観を持っていたわけではありません。れっきとした資本主義が根付いた近代国家であり、民主主義はやや未成熟だったかもしれませんがその萌芽は充分にあり、立憲主義も確立していました。もちろん法治体制も行きわたっていました。USAが排日移民法などの露骨な反日ぶりを見せつけるまでは、むしろUSAを好み、憧れる人が多かったと思います。戦時中の「鬼畜米英」のようなどぎつい宣伝文句は、

 ──友達だと思っていたのに、なんてヤツらだ。

 という失望感の裏返しだったような気がします。
 日米はその当時の価値観においてそれほど離れていたわけではありません。さらに、日本人の美意識として、「マナイタの上の鯉」というのがあります。武運拙く敗れたからには、じたばたせずに運命を受け容れようという姿勢こそ美しいと感じるのです。運命から逃れようとあがくのは見苦しいとされます。
 このために、日本人は勝者であるUSAに、驚くほど協力的だったのでした。それで、USAはもくろみ以上の成功体験をここで持ってしまったのでした。
 しかし、東南アジアや中東で同じことを試みても、うまくゆくわけがありません。
 資本主義も民主主義もまったく根付いておらず、あまりに価値観が異なっているのです。資本主義や民主主義をこの国に根付かせたほうが良い、と指導者たちに納得させるだけの材料をまず提供できなければ話にならないわけですが、USAに言えたのは

 ──おれたちと同じになれ! それがいちばんいいんだ!

 という程度のことではなかったでしょうか。
 武力で制圧できたとしても、人の価値観まで変えさせるのは容易なことではありません。まして、中東あたりの美意識は、日本人とは真逆と言って良く、最後のひとりになっても敵ののど笛に食らいつくことを格好良いと見なすのではないかと思われます。つまり、マナイタに載せられてもぎりぎりまで暴れて、料理人の手元を狂わせて怪我くらいさせることを良しとしていそうです。
 米軍を駐留させて、親米的で民主的な政権を作らせる……というUSAのもくろみは、いまのところ日本以外ではことごとく失敗しています。一見成功したかに見えても、10年くらい経つうちには確実に反米的な立場に変わっているのです。イラクなどは典型的でした。イラン・イラク戦争で、USAはイランを懲らしめるためにイラクに肩入れしたのでしたが、その結果イラクに親米政権ができたかと思いきや、10年後にはサダム・フセインがはっきりとUSAに楯突きました。USAはこんどはイラクと戦わなければならなくなりました。USAの中東政策というのは、戦争があろうがなかろうがおおむねこんな感じで、外から見ていると、いい加減学習しろよと言いたくなります。
 アフガニスタンでも、20年もかけて親米的で民主的な政権を育てたつもりが、タリバンの攻勢を前にあっという間に逃げ出すような政権担当者しか見いだせなかったようです。形だけは選挙くらいしたかもしれませんが、ガニー大統領には、アフガニスタン国民を、自分が護るべき人々だという実感をもって見ることができなかったのでしょう。国軍にも、自分たちが国土を、国民を保護するのだという意識は無かったのだと思います。おそらく、USAの考えている大統領や軍のイメージは、アフガニスタンの指導者たちには理解されていなかったのではないでしょうか。
 20万とも30万とも言われる国軍が、はるかに少数のタリバン兵にボロ負けして、ほとんど瞬時に瓦解したのは、上層部が腐敗していたからというだけの理由ではなさそうです。彼らはきっと、「戦う理由」がわかっていなかったのだと思います。自分たちが何を護ろうとしているのかがあいまいなままだったのでしょう。それではいくら数が多くとも、揺るがぬ信念を持って攻めてくるタリバン兵には勝てません。
 USAは20年かけても、そういったことをアフガニスタンの国民に教えることができなかったと考えるほかありません。はたして教える必要を感じていたのかどうかもわかりません。USAにとって、政府とか軍とかの目的というか心構えなどは、あまりに自明であって、教えられなければわからないなどということがありうるとは想像もつかなかったのかもしれません。
 せいぜい6、7年でらちのあいた日本とは、あまりに違いすぎたと言わざるを得ません。USAはそろそろ、「日本が特別だったのだ」と悟るべきです。自国に都合の良い政権を他国に作らせるというのは、諜報・謀略の次元ではもちろん考えられることですが、軍隊を差し向けて真っ向からやろうとしたところで、成功するはずもない……とUSAが学ぶのはいつになるでしょうか。英国などはその点さすがに老練・狡猾で、そんなことはしていません。

 ともあれ、カブールが落ち着くには、まだまだ時間がかかるでしょう。タリバンに加えてISも蠢動しはじめたとあっては、治安の回復などは絶望的と言えるかもしれません。イスラム法があればほかの法整備などは不要と言い切るタリバン、人の命などまったく顧慮しないIS。それが協力し合っているならまだしも、お互い不俱戴天の仇として角突き合わせているのですから、これから凄惨な殺し合いや粛清劇が繰り広げられてもまったく不思議ではありません。願わくば、アフガニスタンの「普通の」人々に平穏があらんことを。

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