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晩秋の花火 [日録]

 近所の荒川土手で、川口商工会議所主催の花火大会が開催されたので、仕事から帰ってきたあとで、マダムと一緒に観に行きました。
 この季節に花火大会というのは珍しいと思います。普通は夏に開催されるものでしょうし、川口でも以前はそうでした。それがコロナ禍で、2020年2021年と連続で開催できず、今年もまた夏場は第7波が来ていて無理でした。花火大会となると、観客が「密」の状態になるのは避けられないので、やむを得ぬ次第でした。
 しかし3年連続で中止となると、さすがに商工会議所の士気にもかかわるという判断だったのかもしれません。第7波もいちおうおさまってきたことでもあるし、季節外れとも思える今日(11月5日)、敢然と開催を決定したのでした。
 花火大会のポスターは、しばらく前から川口駅にも掲示されており、マダムが注目して、ぜひ観に行きたいと言っていました。正確には「人と街を笑顔でつなぐ川口花火大会──みんなの笑顔が花火(はなひ)らく未来を。」というタイトルです。18時半から19時半まで、1時間にわたって打ち上げ花火を上げ続ける、本格的な花火大会です。
 土曜日は仕事日ですが、最近はたいていピアノ教室の仕事は16時には終わります。だいたい自転車で行っていますが、途中で買い物などしたとしても、17時半前には帰ってこられます。帰宅して一憩してから観に行くのは充分可能でした。
 私より先に帰宅しているはずだったマダムは、少し遅れて帰ってきて、川口駅が花火見物の客ですごい混雑だったと言いました。
 同じ川口市でも、電車に乗らなければならない場所もあるわけですが、それとはまた別に、けっこう遠方から観にきた人も居たようです。マダムが駅構内のショップでケーキを買おうとしたら、前のお客が、持ち帰り時間が5、6時間、と言っていたそうです。おそらく花火大会を観てから帰る気なのでしょうが、花火大会の終了時間を差し引いても、2時間くらいはかかるところから来ていたと思われます。今年の夏も各地の花火大会は中止するところが多かっただけに、この季節の開催ということで勇んで駆けつけたという人も少なくなかったのかもしれません。

 11月の花火というのは奇異に思われる人が多いかもしれませんが、花火が夏の風物詩というのは日本独特なところがあって、外国では必ずしも夏のものとは限りません。
 実は、11月5日というのは、ガイ・フォークス・デイなのです。
 これは英国のお祭りで、ガイ・フォークスという人物を記念して花火を打ち上げることになっています。で、ガイ・フォークスとは何者かというと、1605年に英国王ジェームズ一世を殺害しようとして、議事堂の地下に火薬を運び込んだ人物です。つまりまあテロリストですね。
 彼はカトリック信者で、英国で着々とその地位を固めつつあった英国教会に反対し、英国教会に加担していたジェームズ一世を殺して、カトリックに融和的なエリザベス王女を擁立しようと、同志たちと計画したのでした。同志は13人くらい居たそうですが、なぜかガイ・フォークスだけが有名になったようです。いわば大逆罪の罪人であるわけですが、わりに早い時期から擁護する人も現れ、ロビン・フッド同様「反体制のヒーロー」として遇されるようになりました。
 犯行は事前に露見し、ガイ・フォークスは仲間たちと共に逮捕投獄され、やがて処刑されました。危うく難を逃れたジェームズ一世が、ロンドン市民に夜通しかがり火を焚くことを許可して自身の無事を祝ったのが、ガイ・フォークス・デイのはじまりです。暗殺が予定されていたのが11月4日で、無事を祝ったのが11月5日だったのでした。ただし旧暦──ユリウス暦──によるもので、現在のグレゴリオ暦では10月23日にあたります。赤穂浪士の討ち入りの日が、新暦では1月になるのにいまでも年末のイメージが強いのと同様、ガイ・フォークス・デイもグレゴリオ暦になっても同じ11月5日のものとして扱われているのでした。
 最初はかがり火でしたが、そのうち花火が上げられることとなり、英国人にとっては11月5日こそ「花火を打ち上げる日」と認識されているわけです。
 今回の川口花火大会が、ガイ・フォークス・デイとまったく同じ日になったのが、意識的だったか偶然だったかはわかりませんが、時差分だけ遅れて英国でも盛んに花火が打ち上げられているはずです。
 英国の11月ともなれば、もうすっかり寒くなって、人々も冬の装いになっているはずです。花火が万国共通で夏のものとは言えないという、ひとつの証左ですね。
 もちろん、たとえばフランスでは7月14日戦勝記念日によく花火が上げられるとおり、夏の花火大会というのも珍しくはありません。ニースで、戦勝記念日の花火を見物していた群衆の中にトラックがつっこみ、80人以上を轢き殺した事件は記憶に新しいですね。

 打ち上げ場所はJR線路の少し西側で、そのあたりの土手には有料観覧席なども設けられていたのですが、そんな席は別にとっていません。荒川の河原は広くひらけていて、隅田川の花火のようにビルに阻まれて容易に観られないなどということもありません。少し上流または下流側の土手の、少し高いところに行けば容易に観られます。
 ただ、有料観覧席の近くには、近場の飲食店が出店を出していたりします。その数、実に64店舗。マダムはそういうところで買い食いするのを楽しみにしていたようで、少し離れたところで観ようと言うと、残念そうな顔をしていました。
 18時過ぎに家を出ると、すぐ目の前の善光寺通りがすごいクルマの列になっています。普通の日では決して見られないほどの渋滞状態でした。なおその道路の当該区間は、荒川土手を背にしての一方通行ですので、花火見物客のクルマとは思えません。駐車場を探している人も居るかもしれませんが、全員ではないでしょう。なんでそんなことになっているかと思ったら、途中で交差する環状線通りが、花火会場に近いエリアを通行止めにしていたからでした。進めなくなったクルマたちが、みんな善光寺通りへと曲がってきていたのです。
 歩いている人たちもいつになく大量です。環状線通りで曲がって、線路の下をくぐるつもりらしき人たちも居ましたが、多くはそのまま進んで土手に向かっていました。通りの名前のもとになっている善光寺という寺が土手の上にあり、その境内に通じる小径が土手を昇っています。小径はぐるりと西側へ向けて迂回した形をとっており、その西端あたりが、ちょうど良い観覧スポットとなっているのでした。そこもすでに多くの見物客でごった返しています。
 線路をはさんでの観覧となりますが、空は大きくひらけており、花火見物に支障はありません。むしろ頻繁に行きかう電車と花火のコントラストが、素晴らしい効果を上げているようでもありました。
 1時間、立ちっぱなしで少々疲れましたが、次から次へと打ちあがる花火を堪能しました。
 いわゆる三尺玉、四尺玉と言われる特大のものは無かったようですが、いろいろと趣向を凝らした出し物に眼を瞠ります。
 ハートマークとか星形、ニコちゃんマークみたいな形に打ちあがるものもたくさんありましたが、ああいうのはどうやって制御しているのでしょう。
 何しろ3年ぶりの花火大会とあって、花火職人たちも気合いを入れて用意したものと見えました。
 私が気に入ったのは、まず大きなのが打ち上がって、そのあと普通ならすぐ消える火花がしばらく残って輝き続けており、そのうちその一部からまた別の花が開くといった趣向のものでした。連続花火、とでも言うのでしょうか。
 最後などは、白一色となりましたが、いくつもの玉が連続して打ち上げられ、まるで星の終焉を観ているかのような幻想的な気分にひたれました。カラフルな花火も良いですが、白一色というのも何やら神秘的です。
 1時間も経ったとは思えないような、濃密な花火大会でした。
 ただ、それらの見事な花火を、写メしようと悪戦苦闘している連中の多いこと多いこと。
 気持ちはわからないでもないのですが、花火の写真など、素人が撮っても満足できる出来ばえになることは稀です。プロらしい人も居ましたが、その人は三脚にカメラを固定し、ファインダーを覗くことなく少し離れたところからリモートシャッターを切っていました。
 マダムも何枚か撮影していましたが、サムネイルを見るとなかなかきれいに撮れているように見えたものの、実際にはかなりピンボケでした。暗い夜空に、高速で動いている火花を撮影しようというわけですから、普通の機材と技術ではボケるのがあたりまえなのです。花火はなんとなく、平面に拡がってゆくように感じられますが、もちろん実際には球状に拡がるのであり、火花がこちらへ向かってくる速度はスマホのカメラごときの焦点反応速度をはるかに上回るでしょう。
 いちど、マダムが何か手振りをしながらしゃべっていたら、うしろから迷惑そうに
 「ちょっと、手を上げないでくれませんか」
 と苦情が入りました。たぶん画面に、振り上げたマダムの手が入ってしまったのでしょう。それは申し訳ないことをしましたが、しかし撮影前提で花火を観るというのも寂しいものがあります。せっかく空一面に拡がっている見事な花火を、大半はスマホの画面越しに観ることになってしまうのです。良いな、と思うと反射的にスマホを構えてしまうのでしょうけれども、もったいないことに思えてなりません。写真が良ければ、プロの撮った高品質の写真くらいいくらでも入手できるのです。こういう場では、自分の眼でしっかり観ることにこそ意味があるのではないでしょうか。

 観に行って良かったと思いましたが、それにしても「密」でした。これほどの「密」は久しぶりであったと思いました。第7波がおさまってコロナ禍も小康状態とはいえ、東京などではまた少し増えてきています。年明けには第8波が来るかもしれないとも言われています。大丈夫でしょうか。
 まだ本格的に寒くなる前だったので、防寒などの問題はありませんでした。夏とちがって虫なども少ないし、この季節の花火大会というのも悪くないな、と思ったのでした。

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phaos

ハートマークとか星形、ニコちゃんマークみたいな形に打ちあがるもの
は「型物」と呼ばれているらしいです。
http://japan-fireworks.com/catalog/catalog3.html
作り方についてはこんな説明がありました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1145359451
こっちの YouTube の方が分かり易いかも。
https://www.youtube.com/watch?v=swG5ubZpoU0
by phaos (2022-11-06 10:58) 

コンビニ作曲家MIC

#phaos先生
情報ありがとうございます<(_ _;;>
なんにせよ、日本の花火職人の技術は世界に冠たるものがあるようですね。
by コンビニ作曲家MIC (2022-11-06 23:25) 

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