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「きゅぽらんと秘密の大冒険」挑戦記 [日録]

 高島平の街歩き謎解きが結局プレイできなかった代わりというわけでもないのですが、今日はわが住まいする川口市の謎解きをしてきました。
 川口市のマスコットキャラクターはきゅぽらんと言います。お察しのとおり、かつて川口市を象徴するような存在であった「キューポラ」のキャラです。ただしキューポラとはなんぞやということを、もう知らない人も多くなっているのではないでしょうか。
 若き日の吉永小百合が、その圧倒的な美貌と演技力を発揮した映画「キューポラのある街」は、全国のサユリストを魅了しただけでなく、川口と言えば
 「ああ、『キューポラのある街』の」
 と知らしめたものでありました。関東地方だけでなく、かなり遠くに住んでいる知らない人でも、川口に住んでいるというと、「ああ、あの」とうなづきます。ただしその人に
 「キューポラってなんだか知ってます?」
 と訊くと、あんまり即答できる人はおらず、
 「ええと、あの、煙突のついてるヤツだよね……」
 と口ごもったりするのでした。
 キューポラというのは「溶銑炉(ようせんろ)のことです。鉄を溶かして、鋳型に流し込み、鋳物を作るための設備です。川口は昔から、鋳物の街として知られていました。鉄が、鋳型に流し込めるような液体状になるには、1500度以上の高温が必要とされており、それだけの高温を維持するための炉は、特別な仕様が必要だったのです。
 コークスなどを燃やしますので、排気がかなり発生します。それを地面に流すと、空気よりも重いために窒息や中毒が起こりかねません。それで、高い煙突を立てて、空中に逃がすようにしたわけです。
 「溶鉱炉」とまぎらわしいのですが、溶鉱炉は鉄鉱石から鉄を取り出すための炉、溶銑炉は溶鉱炉で取り出した鉄を鋳物にするための炉と思えば良いでしょう。
 この、溶銑炉の煙突が、かつては川口の風物でした。
 私が引っ越してきた38年前にも、市内には鉄工所がずいぶん残っていました。むしろ肩で風切る勢いだったと言えるかもしれません。彼らは新しく越してきた住民など何するものぞという態度で、私の住んでいるマンションの向かいにも、大きな鉄工所が幅を利かせていました。ほとんど駅の尖端から私の家のあたりまで、線路沿いに大きな工場が建っていたのです。
 うちのほうに面した門扉の前には、私の住んでいるマンションの住人に対する宣言状が張り出されていました。

 ──わが工場は400年前からここで鉄工所を営んでいる。これからも末長く誇りを持ってこの仕事を続けてゆくつもりである。工場の性質上、多少の騒音、振動、匂いなどは避けられないが、新しくここに来たあんたたちが四の五の言うことじゃない。そこんとこ理解して、まあ我慢してくれや。

 という趣旨のことを、もう少し丁寧な文体で書いてありました。
 ところが、市の土地利用区画が変更され、その工場のところに住居が建てられることになった途端に、400年続いていた誇りある鉄工所は、あっという間に土地を不動産屋に売り払って、どこかに行ってしまいました。ずいぶん安い誇りだなあ、と苦笑したものでした。現在その跡地には、大きな高層マンションが2棟建ち並んでいます。
 いまでも、古そうな鉄工所の脇を通りかかると、近隣住民に対して同じような宣言状を掲げているところがよくあるのですが、土地利用区画が変更されるまでの「誇り」に過ぎないのじゃないかと、私はいくぶん皮肉に考えています。
 ともあれ、かつてキューポラと、その煙突こそ、川口を象徴する光景だったのでした。
 現在の川口はむしろ、安行の植木とか、映像とか、そちらのほうに力を入れている感じで、高熱と排気を撒き散らすキューポラなどは、環境的にどうなのだという感覚もあって、いまやあまりアピールしたくないのかもしれません。
 まだ鉄工所はいくつも残っていますけれども、私が越してきたころに較べれば相当に減りました。その多くは高層マンションとなり、川口は「埼玉のマンハッタン」などと呼ばれるようになりました。東京の側から、荒川をはさんで林立する高層マンションが、ハドソン川を隔てて望むマンハッタン島の摩天楼群に似ているということのようです。
 しかし、ご当地キャラクターを考えるとなれば、まだ植木や映像で川口を代表させるのは厳しいということになりそうです。だいぶ廃れたとはいえ、やはり川口と言えばキューポラなのであり、そのキューポラを元にしたキャラ「きゅぽらん」が誕生したのでした。
 溶銑炉をデフォルメしたような顔に、ロボットのようなからだと手足がついているキャラです。手の先はマジックハンドのようになっています。
 このきゅぽらんに、ある日いきなり遭遇し、挑戦状を渡された……というのがイベントの前置きです。
 川口市内の4つのポイントをまわって手がかりを集め、謎を解いてクリアキーワードをイベントサイトに送ると抽選で景品がもらえるという、まあよくある謎解きイベントですが、制作はあのタカラッシュ! であり、それなりに歯ごたえはあるのではないでしょうか。

 このイベント「キャッチ・ザ・ヒストリー! きゅぽらんと秘密の大冒険」は、マダムと私がそれぞれ別々に発見したのでした。私がネットニュースを見ながら
 「おっ、川口市の謎解きイベントなんかあるのか」
 と呟くと、マダムが
 「わたしもそれ、気になってたんだ」
 と応じたわけです。
 パンフレットはネットからもダウンロードできるようでしたが、駅前ビル「キュポ・ラ」の2階にある川口市観光物産協会でも配布しているとのことだったので、出かけたついでに貰ってこられるな、と思っていました。しかし、そういう魂胆で居ると、結局いつまでも貰いに行かないというのはよくあることです。イベントは去年の年末からはじまっており、それを知ったのは1月なかばごろであったと思いましたが、貰いに行ったのはつい先週のことでした。
 パンフレットの表紙をめくると、上に書いたストーリーと遊びかたの注意が書かれており、次に川口市内のマップがありました。全図ではなく、主に埼玉高速鉄道を中心としたような周辺図です。いくつかの公園施設などの名前が記されています。
 次のページに、見開きで「謎」が掲げられていますが、その「謎」を解くと「行くべき場所」がわかるわけです。もっとも、「行くべき場所」は、マップに記された施設ということでしょうから、それだけで大ヒントと言えます。
 「行くべき場所」は4箇所、従って「謎」も4問あります。「謎」を解いて場所を特定し、その場所に実際に行って「手がかり」を探し、その「手がかり」を「宝箱の謎」と記されたコーナーの空欄に転記すると、第5の場所が判明して、その指定場所へ行けば「宝箱」が見つかる、という段取りです。タカラッシュ!のイベントですので、「手がかり」はお馴染みのステッカーです。「宝箱」もいつものアレでしょう。
 「謎」そのものはそんなに難しくありません。タカラッシュ!の基準で言えば初心者クラスでしょう。私はパンフレットを見て数分で全問解きました。例によって、出てきた場所については匂わせることもできないので、話を進めづらいのですが。

 「謎」は簡単でしたが、それによって判明した4つの「行くべき場所」は、川口市の全域……というほどではないにせよ南から北まで散らばっていて、全部回るのが容易でないことは見当がつきます。
 実は私が毎週行っているピアノ教室までの往復のルートに、どれもわりと近いようです。ピアノ教室は市内のかなり北のほうにあって、西南の隅にある川口駅から近い私の家からすると、実際、市域を縦断しているようなものなのでした。
 それで、教室に行くときと同様、自転車で回ることにします。教室までは自転車で1時間くらいです。往復で2時間、それに各ポイントに「寄り道」する時間を加え、さらに予備時間を考えると、3時間か3時間半くらいで回ってこられるように思えました。
 たまたま今日の午後、マダムの予定が空いたので、行ってくることにしました。もっとも晩にはフランス語の授業があるので、そちらに出かけるまでには帰らなければなりません。終わり時間が決められている謎解きというのは少々厄介なのですが、まあなんとかなるだろうと多寡をくくりました。
 午前中は快晴だったのに、午後には少し雲が出てきました。しかし雨っぽくなったわけでもなく、寒すぎもせず、まだ花粉も飛んでおらず、サイクリングにちょうど良い天気であったと言えます。
 実際、気持ちの良いサイクリングではあったのですが、ひとつ計算違いがありました。それは、川口市内にある公園の広さを舐めていたということです。
 市域のほぼ中央にグリーンセンターというのがあって、ここは医療センターと隣接している園地でもあって数回行ったことがあります。ミニ動物園・ミニ植物園みたいなものも付設されており、ここはかなりの広さがあり、半日くらいなら楽に潰せます。
 とはいえ、このグリーンセンターが川口市内では最大の公園なのだろうと私は思っていました。「行くべき場所」として割り出されたのはやはり各種公園施設でしたが、どこもそんなに広いわけはないとひとり決めしていたのでした。
 しかし、それぞれの園地は意外とどこも広く、手がかりステッカーが容易に見つからないところもありました。それぞれの場所できゅぽらんがどこに手がかりを隠したかは、パンフレットに書いてあるのですが、それがなかなか判じづらかったりします。また、園地に進入した入口によっては、手がかりステッカーまでかない遠いということもありました。園地の中には自転車は乗り入れ禁止というところが多いので、だいぶ歩かされました。
 1箇所など、本来ステッカーはそう遠くない場所にあったのに、きゅぽらんの言葉を読みあぐねて、相当に遠い場所まで歩いてしまい、当然見つからずにしばらくうろうろし、ようやく見つけて自転車置き場に帰ってみると、もう到着してから1時間くらい経っていたりしました。そんなこんなで、3時間くらいでクリアできると思ったイベントは、4時間ほどかかってしまい、しかも最後の「第5の場所」に訪れる時間は無くなってしまったのでした。マダムの学校へも、ギリギリの時間になってしまい、かろうじて遅刻しなかったとはいえ気の毒なことをしました。
 まあ、その「第5の場所」も、あらかじめ見当はついていたのは確かです。「謎」のページに、いろいろと意味ありげなイラストが描かれており、折り紙をすればそれがつながりそうです。たぶん、4つの場所で得られる「手がかり」とは、パンフレットをどのように折り紙するかの手順が記されているのだろうと予想していました。そしてその予想に基づき、折り紙の結果として出てきそうな「第5の場所」の名前も、ほぼわかっていたのでした。ただ、それでも実際に行ってみるのが愉しいのです。
 自分の住む市内に、こんな場所があったのかと眼を瞠る想いでもありました。ちょくちょく見かけているものの実際に入ったのははじめてで、思ったよりも縦深度がある公園であることに驚いたりもしました。

 ──川口市の魅力、君はちゃんと気付けてるきゅぽ?

 という、ちょっとイラッとくるようなきゅぽらんの挑戦でしたが、恐れ入りましたと頭を下げたくなりました。

 私たちは自転車で回ったわけですが、自転車を使わないとすればどうやって回るのだろうかと心配になります。
 パンフレットにはシェアサイクルの案内もありましたが、そうではなく電車やパスを使おうとすればなかなか大変そうです。クルマにしても、駐車しづらそうなところもありました。
 バスの便が比較的たくさんある公園もありますが、平日にはバスが行かないというところもありました。休日にしても、しかるべき拠点駅からは出ておらず、乗り継がなければなりません。最寄りのバス停からけっこう遠いという場合もあります。ましてや電車で回ろうとすれば、どの公園も駅からは1キロ2キロ離れているため、相当に歩かされるはめになります。
 そういえば去年やった足立区の街歩き謎解きも、電車とバスだけで動いたら、脚が攣(つ)りそうになるまで歩くはめになり、しかも一日では終わらず、2日かけてようやくクリアしたのでした。2回めにはある公園で木の根っこを踏んでしまって転倒し、大流血になった想い出もあります。そのときのひざの傷はまだ残っています。
 あのときも、自転車があればなあ、と思ったものでした。街歩き謎解きは意外な発見もあって楽しいのですが、時間はけっこうかかると考えたほうが良さそうです。

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