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納骨堂参りと谷中銀座 [日録]

 一昨日(2月9日)の夜から今朝がたにかけて、関東地方でも大雪になるという予報が出されていて、電車は計画間引き運転をはじめるし、停電の恐れがあると言うので電気製品の使用を控えるようにというお達しが出るし、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの棚からは食糧品があっという間に売れてしまうし……という騒ぎになっていましたが、蓋を開けてみれば大したことはありませんでした。確かに昨日(10日)は一日中陰鬱なみぞれが降りしきり、夜には雪になったりもしていましたが、積もることは無く、今日の午前中には陽が差しはじめました。なんとも拍子抜けです。
 交通機関も特に間引かれたり遅れたりはしていないようですので、マダムも私も、予定していたスケジュールで動きはじめました。マダムは午前中、フィットネスクラブのいつもとは違う支店に出かけてゆきました。受けたいインストラクターのレッスンがその支店でおこなわれるのだそうです。クラブの利用ポイントがかなりの量に達していて、それを使えば他の支店のレッスンでも無料で受けられるのだとか。
 私は午前中は家のトイレを掃除したり、エアコンのフィルターを洗ったりして過ごしましたが、昼から出かけて、鶯谷駅でマダムと待ち合わせて合流しました。

 鶯谷といえば、正月にも下谷七福神めぐりの出発駅として下車しましたが、そのときは入谷側となる南口から歩き出しました。今日は谷中側の北口です。私は不明にも、鶯谷に南口と北口の2箇所があることをついこの前まで知りませんでした。通っていた大学から近いため、学生時代に鶯谷駅から乗り降りしたこともあったのですが、つねに南口しか使っていなかったのです。こんな地味な駅にもふたつの出入り口があるのに、わが住まいの最寄り駅である川口駅ときたら……というじれったい気分でした。
 鶯谷の北口といえば、名にし負うラブホテル街のど真ん中です。北口の近くにある元三島神社が、七福神めぐりの寿老人にあたるため、この前も訪れたのですが、ここなどまったくラブホに囲まれたような神社で、子供を連れてくるのがはばかられる立地でした。
 そのラブホ街を抜けて、寛永寺陸橋を渡ります。鉄ちゃんの聖地などと呼ばれるのは日暮里駅北側の下御隠殿橋ですが、寛永寺陸橋も見下ろす線路はなかなかのものです。まだ新幹線が地下にもぐったままで、京成本線が合流していないため、線路の本数は若干少ないとはいえ、山手線・京浜東北線・東北線地上線・東北線上野止まり線・常磐線と並んでいて、昔ほどではないにせよいろんな車輛が行きかいます。ここでカメラを構える若者も多いのではないでしょうか。
 その寛永寺陸橋を渡り、その先に進むと、浄名院というお寺があります。ここに、上野さくら浄苑という納骨堂があるのでした。
 最近、納骨堂というのはよく見かけます。都心などでは、もうお墓を建てる土地がほとんど残っておらず、先祖代々の墓のようなものが無い人があらたにお墓を持つのは、ほとんど絶望的に困難になっています。また、お墓を守ってくれる子供などが居ない人たちも増えました。それで、お骨を預かるだけの簡素な納骨堂があちこちに出現しています。
 2か月ばかり前に、知人が急死して、この上野さくら浄苑に葬られたというので、お参りに来たのでした。かなり長きにわたっていろいろとお世話になった人でしたので、早くお参りしたかったのですが、なかなかふたりで出かける日程がとれなかったのです。
 浄名院というのはそんなに広いお寺ではなく、主な建物といえば本堂と「信徒会館」と記された2階屋があるばかりです。納骨堂というのはどちらかと迷いましたが、マダムが調べていた詳細アクセス案内に、「茶色の建物」という記載がありました。それだと信徒会館が相当するようです。中に入って受付の女性に訊いてみると、果たしてそのとおりでした。故人の名前を書いて渡すと、若干の間があいたのち、案内してくれました。
 納骨堂にお参りしたことは、マダムも私もいままで経験がありません。手ぶらで良いと聞いてはいたのですが、いちおう供花と線香を持って出ました。供花は出がけに駅前のマルエツで買い求めたのでしたが、マダムもフィットネスクラブからこちらへ来る途中で買ったらしく、2束になりました。また、私が線香を忘れてきた場合に備えたのか、お香も買ってきたようです。
 案内の人についてゆくと、小さなブースのような区画がいくつも並んでいて、そのひとつに招じ入れられました。ブースの奥に、仏壇めいた小空間があって、そこに墓石のようなパネル、花台、焼香台、それに故人の写真と戒名が交互に映る小さなモニターが置かれていました。
 花台にはきれいな花がすでに供されています。また線香を立てたりする場所は無く、焼香台にすでに抹香が用意されていました。焼香台には電磁調理器を小型にしたようなヒーターがついており、そこに抹香を載せるとちゃんと燃えるようになっています。熱くなっているので触れないようにと注意されました。
 あとで浄苑のサイトを見ると、供花と抹香は当苑で用意します、としっかり書かれていました。本当に手ぶらで良かったようです。しかし、持ってきた花束を持ち帰るのも億劫だったので、花台の隙間に押し込みました。
 焼香して手を合わせ、しばし故人を偲びました。その後かたわらのボタンを捺すと、小空間の扉が閉まりました。
 周囲の様子を見ると、ブースはそう何十区画もあるわけでは無さそうです。仕掛けはよくわかりませんが、参拝の申し込みがあるとその人の仏壇をブースに移動させるのではないかと思います。だからたぶん、次に来たときには別のブースに案内されることもあるでしょう。また、お彼岸やお盆など、参列客が多い場合は、ブースが空くまで待たされたりもするのだと思われます。
 お手軽な感じではありますが、全部屋内で済むので、傘を差しながらお参りしたり、風が強くて線香に点火するのに苦労したりすることが無いのはありがたい話です。それに郊外の霊園などに出かけてゆく手間も要りません。うちも子供は居ないし、御百歳ののちはこういうところに葬られるのでも良いかな、とも思いました。
 鶯谷駅から来ましたが、地図を見ると、上野さくら浄苑は私の出身大学の裏手と言って良いほどに近いところにあります。故人は大学の先輩でもありましたし、卒業後もずっとその大学に勤務していました。とても良いところに葬られたものだと、故人のために喜ばしく感じました。

 墓参り、いや納骨堂参りを済ませてから、千駄木まで歩きました。谷中から千駄木にかけては、地図を見てもうじゃうじゃと寺社のたぐいが点在しているのですが、その中で観智院というお寺に差し掛かったとき、なんとなく心に引っかかるものを感じました。そこは台東初音幼稚園という仏教系幼稚園にもなっており、また「日本声楽家協会」という看板もかかっていたのです。お寺、幼稚園、声楽家……と三題噺のようですが、何かが記憶の底を触っているような気がしてなりません。
 しばらくしてから、スマホであいまいに検索していて、はっと気がつきました。声楽の高橋大海先生のお宅がそのお寺だったのです。私が学生のころ、すでにもう大先生だったので、とっくにお亡くなりになっているとばかり思っていたのですが、Wikipediaで見たらまだご存命だったようで、お見それいたしました。
 学生時代に誰かの伴奏をしていて、その人の師が大海先生であり、レッスンを受けにそのお寺まで行った記憶があるのでした。お寺ではなくて幼稚園のほうだったかもしれません。台東初音幼稚園は、「グランドピアノのある幼稚園」として知られているようです。
 それにしてもいまのいままで完全に忘れていたことを、現地を偶然に通りかかっただけでなんとなく思い出すという、不思議な心理現象を経験して、なんだか愉しくなりました。
 千駄木駅近くのラーメン屋で、少し遅い昼食をとりました。マダムが銀座で務めていた頃、先輩がたがよく行っていたという店の系列店だったようです。昔懐かしいというか、正統的な感じのラーメンでした。セットになっていた麻婆丼も、ああ昔の麻婆豆腐ってこんな感じだったよな、と思うような味でした。

 そのあと、谷中銀座をぶらつきました。この前、日暮里側から入口のところまで来たことがあるのですが、マダムがぜひ全部歩いてみたいと希望していたのです。私は何年か前に、東京メトロ「地下謎への招待状」の落穂拾いのときにはじめて訪れ、マダムが来たら面白がりそうだな、と思ったのでした。
 落穂拾いというのは、「地下謎」では第一段階としていくつかの駅を割り出すのですけれども、割り出した駅全部を訪れる必要がありません。割り出した中からふたつか3つの駅を訪れればそれで先へ進めます。つまり、同じ答えが出るような問題が複数の駅に設定されているわけです。
 そのときの「地下謎」では、割り出した中に千駄木駅もあったのですが、結局訪れた駅は他のところでした。それで後日、本番で訪れなかった駅へ行って、答えのわかっている「謎」を解いてみたわけです。
 中にはむちゃくちゃ難しくて、これは答えがわかっていない状態で解こうとしたらえらく時間がかかりそうだというものもありました。千駄木は、物理的に時間を食いそうだと思われる駅になっていました。須藤公園という、団子坂に隣接したような立地のためやたらと高低差のある公園で手がかりを探し、それから谷中銀座にも足を踏み入れる必要があったのでした。そのときはもう陽が暮れていて、谷中銀座はずいぶん賑わっていた記憶があります。
 今日はまだ昼間でしたが、休日のせいもあってやはりだいぶ賑わっていました。大雪の予報が出ていて、連休に遠出をすることを断念していた人たちが、思いのほかの晴天となって、近場に繰り出したというところかもしれません。
 最初に訪れたときは暗かったのと、いささかくたびれていたせいか、ずいぶん長い商店街という気がしたのですが、今日はわりとあっという間に歩ききってしまいました。マダムは確かにいろんな店に興味を示してはいましたが、そんなに長時間ひっかかることは無く、なぜかやたら鉄腕アトムにこだわりをもっているパン屋でパンを買ったにとどまりました。
 店の中にはアトムの人形などがたくさん飾られていましたが、アトムの頭のでっぱりを三次元的に造形しようとするとけっこう大変であるらしいことがわかりました。そもそもあのでっぱりは、ツノであるのか単に髪型であるのかも判然としません。女の子のツインテールみたいに斜め下に2本生えている人形もあって、違和感を禁じ得ませんでした。サイボーグ009あしたのジョーなどの髪型も、現実に再現しようとすると難しそうですね。
 あとは先日も訪れた、谷中銀座の日暮里側の入口である「夕焼けだんだん」の近くのイスラムショップで小物を買い、階段の上にあるインド料理屋「ダージリン」でティータイムを愉しみました。ダージリンとアッサムをブレンドしたミラジュラという紅茶が売りで、店内の雰囲気も非常にインドっぽく、マダムは大喜びでした。ずいぶん前からこの店が気になっていたのだそうです。
 ラーメンを食べてからティータイムまでにあまり時間差が無かったせいか、さすがのマダムもおなかがいっぱいになったようで、そこから近い日暮里ではなく、西日暮里まで歩いて電車に乗りました。腹ごなしのつもりだったのでしょうが、実は歩く距離にさほどの差はありません。
 好天に恵まれ、気持ちの良い散策でした。

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phaos

蘭姉ちゃんの髪形もお忘れなく。(笑)
by phaos (2022-02-12 10:51) 

コンビニ作曲家MIC

#phaos先生
蘭姉ちゃんですか……そんなにややこしい髪型だっけ?
by コンビニ作曲家MIC (2022-03-09 18:55) 

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