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インフレ到来 [世の中]

 先月くらいから、ものの値段がえらく上がりはじめて、ちょっと生活が困ったことになりそうです。
 私が子供のころは、まだ高度経済成長期の後半で、年々物価が上がってゆくのが普通ではありました。食パン1斤の値段が、30円から40円、60円となってやがて100円を超えてゆくのを見ていました。アイスクリームなんかも同じくらいの上がりかただったように思います。
 まあ当時は、会社の給料も年功序列型であり、いまより将来が必ず収入が多くなると信じられていましたし、実際物価の上がりかたと給料の上がりかたはそんなに乖離していませんでした。少しずつですが、生活はだんだん豊かになって行く実感がありました。
 それがバブル期を経て、やがてはじけ、日本経済は長期にわたる低迷を経験することになりました。
 価格破壊ということが至るところで起きて、いろんなものが安くなったのは、生活者としてはありがたかったのですけれども、そのうち収入も上がらなくなりました。
 年功序列が崩れ、同じ会社に勤め続けても、将来の収入がいまより多くなる保証は無くなりました。小泉純一郎首相は非正規雇用を奨励するような政策をとり、非常勤社員、派遣社員などが激増しました。この人たちは、昇給の希望などはまずありません。クラスアップを図りたいならば、自分でなんとかするしかないのです。
 ものの値段が上がらなくなりましたので、企業の収益も悪くなりました。企業の収益が悪くなれば、あまり人を雇わなくなります。かくして、就職氷河期と呼ばれる時代になりました。昔は、良い大学を出れば良い会社に就職でき、良い給料を貰って生涯安定、というのが普通だったのですが、氷河期となって、どんなに良い大学を出たところでまともな職にありつけず、それこそ派遣社員などで糊口をしのがざるを得ないことが多くなりました。そうすると良い大学を目指すモチベーション自体が低下してゆきます。さらに少子化が深刻となり、世の中全体が暗い空気に包まれることになります。
 結婚しない、子供をつくらない人が増えました。家族を養えるだけの収入が得られないと言うのです。高度成長期なら、最初は貧しくとも、いずれは楽になるという見通しが立てられましたが、いまはそんな見通しはどこにもありません。そして彼らは、子供をこんな世の中に放り出すのは気の毒でならない、とても子供をつくる気にはなれない、とも主張します。
 いわゆるデフレの世の中になっていたわけですが、狂乱物価などと言われたインフレを経験した者としては、インフレも勘弁して欲しいなあとつい思ってしまいます。それにしても、デフレというのがこれほど世の中を沈滞させるのかと驚きました。
 さらに経済をめちゃくちゃにした民主党政権時代を経て、安倍晋三首相のもと、ようやく政府はデフレ退治に乗り出しました。とはいえ、長い停滞期を経た日本社会は、そう簡単には変革しませんでした。インフレターゲット2%とか言い出しても、あいかわらず停滞が続いていた気がします。

 それが、このところ急激に動きはじめました。主にUSAで、際限の無いインフレが起こりはじめたのが契機でしょう。さらにヨーロッパは、ロシアへの経済制裁の報復として天然ガスを止められ、その結果エネルギー源が乏しくなり、その帰結としてやはりインフレがはじまりました。
 日本はまだインフレと言ってもゆるやかであるようで、そこへ円安が進み、外国製品がえらく高くなってきました。それでいままで国外に逃げていた製造業などが、次々と国内に戻りつつあります。人件費などが安いため中国や東南アジアに生産拠点を移していたのが、いまや輸送費などを加えると日本国内で生産したほうが安くなってきました。またチャイナリスクもよく知られるようになりました。中国で稼げたとしても、そのお金を持って帰ってくることが容易にできず、結局身ぐるみはがれるようにして逃げ帰ってくる企業が多数見られたのです。
 そしていよいよ、市井の物価がはっきりと上がりはじめました。

 私は食糧品や日用品の買い物をよくしているので、スーパーマーケットなどでの払いが急に多くなってきたことには、すぐ気がつきました。
 現在の物価上昇率は3%くらいとされていますが、とてもそんなものとは思えません。100円くらいだったものは110円や120円となり、258円だったものが298円となり、どう見ても1割2割は値上げされているように見えます。50枚入りのゴミ袋が、200円台から400円台に値上がっているのを見たときには眼を疑いました。トイレットペーパーも上がっています。
 原材料や加工費が高騰しているからであろうとは思いますが、公式の発表どおり、3%程度に抑えて貰えまいかと思わずには居られません。
 そして、円安が解除されても、たぶん一旦値上げしたものをもとの値段に戻したりはしないでしょう。欧米より遅れてではあっても、日本も着実にインフレへの道を辿りつつあるのです。
 長いデフレ期間の閉塞感や沈滞感を思えば、インフレのほうが良いとも言えるかもしれませんが、問題は物価が上がるのに較べて、給料が上がっていないことです。企業は、社員(パート、派遣などを含めて)に支払う賃金を上げることに、いまだ及び腰です。また、年功序列体制はいまやすっかり亡びて、将来給料が増えるという見通しが誰にもありません。
 将来給料が増えると思えばこそ、人々は多少の無理をしても高額の製品を買うわけですが、その見込みが無いのでは、とてもそんな気にはなれないでしょう。インフレになっても消費が一向に増えず、不景気な世の中のままであれば、これはスタグフレーションと言って、非常にたちの悪い不況になります。
 こう考えてくると、景気というのは、あるひとつの時点を切り取って判断できるものではないなと思います。「気」の字がついているとおり景気とは一種の「空気」なのであって、昨日よりも今日、今日よりも明日がより良くなるという「期待感」があってこそ活溌化するものであるのに違いありません。数年後の自分が、いまの自分よりも豊かで幸せである、と信じられるようにならないと、世を覆う空気はなかなか明るくはならないのではないでしょうか。

 さて、私などは給与生活者でないため、本格的にインフレがはじまると、さらに苦しいことになりそうです。
 私が主に依存しているのは、ピアノだとか合唱だとかの指導料です。作曲料・編曲料で生活できないのは忸怩たるものがありますが、これらは不定期なものですのであてにするわけにもゆきません。特にコロナ禍以来、作曲や編曲の依頼もめっきり減りました。
 それで指導料ということになると、もともと確乎たる根拠があって決めているものではないため、逆に安易に値上げするわけにもゆかないという事情になっています。つまりたとえば合唱団であれば、団員の人数とか年齢層とか、いろいろな条件で指導料が決まってくるもので、「1時間教えるのにつき1万円」といったように、こちらの労力や拘束時間によって一意的に決められるものではないのでした。
 それぞれの事情により、それなりにきりのいい数字になっているため、いわゆる最低時給のように、何十何円アップということはしづらいのです。値上げするとすれば千円単位とか五千円単位とかいうことにならざるを得ず、そうなるとそれこそ1割増し2割増しといったことで、インフレ率以上になってしまいます。
 ピアノの教室では、35年ほど前にはじめたときから、一度だけ値上げしましたが、ここ四半世紀くらいはずっと月謝が据え置きになっています。合唱団もほとんど変わっていません。
 つまり、インフレがはじまっても、私らには収入が明らかに増える要素というものがほとんど無いのでした。せいぜい、景気が上向いて、企業などがまたメセナ活動などに積極的になり、そのおこぼれにでもあずかれないものかと期待するくらいです。
 とりあえず、私の国民年金の払い込みが、あと2年で終了するはずであり、そうすれば年間20万円ほどの支出が減るわけなので、大いに期待しています。そんなものに期待するしかない実情には、いささか情けなさを感じざるを得ないのですが……
 ともあれ、また狂乱物価などということにならぬよう、インフレにしてもコントロールの利いたものにして貰いたいと願うばかりです。

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