SSブログ

迷惑動画 [世の中]

 しばらく前から問題になっている「迷惑動画」……回転寿司とか牛丼屋などで迷惑なふるまいをし、それを動画に撮って公開するという、何がしたいのかさっぱりわからない風潮が、一向におさまらない様子です。
 先日は逮捕者が出ました。牛丼屋で、自分の使った箸を据え付けの紅ショウガ入れにつっこんで、むしゃむしゃ食べたという35歳だかの男と、それを動画に撮って公開した同い年くらいの男が揃ってお縄となったのでした。まあ刑事事件としては大した罪にはならないと思いますが、民事のほうで多額の賠償金をとられることになるでしょう。
 調味料入れを舐めまわしたとか、回っている寿司に片っ端から指を当てるとか、これまでもさまざまな迷惑動画が公開されています。公開されれば、どこの店とかいうことはネット上ですぐに検証されますし、迷惑行為をしたのがどこの誰かというところまでも突き止められたりします。いままでのところは未成年が多く、そのためおおやけに名前が出るということはあまりありませんでしたが、30代ともなればそうもゆきません。新聞でもテレビでも、しっかり本名が出てきましたから、勤め先もクビになるかもしれませんし、近所の住民から後ろ指をさされることにもなるでしょう。
 いい大人が、そうなることくらいわかっているでしょうに、どうしてそういう真似をしてしまうのか、どうにも理解ができません。
 未成年事件と違って、珍しく犯人のコメントが出ていました。
 ふたりは小・中学校の同級生で、動画撮影者のほうが、
 「なんか面白いことやってよ」
 と言い出し、そう言われた相手が、やにわに自分の箸で紅ショウガを食べはじめたのだそうです。それを見た撮影者が、あまりに可笑しかったので、これはぜひみんなに見て貰いたいと思ってスマホで撮影し、SNSに上げたということであるようです。
 自分の箸で紅ショウガを食べることが、なぜそんなに可笑しいと思ったのかが謎です。はたから見ればちっとも面白くはありませんし、彼ら自身も、冷静になって考えてみれば、何がそんなに面白かったのか途方に暮れるのではないかと思います。
 要するに、その場の空気というものでしょう。箸が転がっても可笑しい、というのは若い娘さんの形容ですが、何も若い娘でなくとも、その場の空気によって、なんでもないことがむちゃくちゃ可笑しく感じられるということは充分にあり得ます。昔やったオフ会で、参加者のひとりが突然笑い出し、誰が何をしても可笑しいようでひたすらに笑い続け、顔が真っ赤で息も苦しそうになってもおさまりがつかなかったことがありますが、ツボに入ったときというのは本当に感情のコントロールが利かなくなるものであるようです。
 それで「あまりに可笑しかった」と思ったのはまあ仕方がありません。
 が、それを「みんなに見て貰いたかった」というのが常軌を逸しています。仲間うちだけならともかく、不特定多数の「みんな」が見れば、これは迷惑動画とされることはわかりきっていますし、通報されて、子供ではないのだから最悪逮捕されることもあり得る……ということを少しでも考えなかったのでしょうか。思い至らなかったのなら愚かなことですし、思ってもついやってしまったとなるともっと愚かしく思えます。
 このふたりが飲酒していたかどうかはわかりませんが、ほとんど泥酔していたのでもない限り、紅ショウガを食べた男も、撮影公開した男も、30代とは信じられないような知能の低さであると断じざるを得ません。

 まあ、酔っ払いが迷惑行為をしでかすというのは、昨今はじまったことではなく、人類が酒というものを発明して以来、もう何千年にもわたって絶え間なくおこなわれてきたことです。しらふの時なら本人でも眉をひそめるような行為を、わざわざ見せびらかすようにやらかすことも珍しくはありません。
 その「見せびらかす」のが、いまは誰でもスマホという情報ツールを持っているので、簡単にできるようになってしまいました。昔はその場に同席した人をヒンシュクさせる程度で済んでいたのが、現在では本当に不特定多数に弘まってしまいます。昔なら、後日菓子折りでも持って、迷惑をかけた店にお詫びに行くなどして、まるくおさめることも可能だったでしょうが、ネットに拡散した迷惑動画は、もうまるくおさめようがありません。そういうことを、10代の若者ならともかくも、いい大人が失念しているというのはどうしたことでしょうか。
 いちばん有名になった、回転寿司屋で調味料の注ぎ口を舐めまわした高校生、ペロペロ君とかペロリスト君とかネットであだ名されていますが、考えてみればあれも確か、撮影して公開したのは彼のお母さんではなかったでしょうか。この母親は間違いなく酔っ払っていたと思われます。息子がバカなことをしているのを面白がって撮影し、あまつさえそれを公開するなど、正気の親がすることとも思えません。酔っ払いでも簡単に動画のアップロードができてしまうところに問題がありそうです。迷惑動画は、無軌道な若者がどうのということではなく、むしろ大人がどうかしていると思わざるを得ないのです。

 とはいえ実際にやらかすのが若者が多いことは確かです。やはりその場の空気みたいなものが変なことになっているのでしょう。もしかするといちばん弱い立場の者が実行させられているということもありそうです。ほかの連中は「ウケルー」とか笑いながらスマホを構えているわけです。実行を断れば、
 「なんだよ、つまんねえヤツ」
 「おまえ、空気読めよな」
 とか責められる、なんてこともあるかもしれません。だとするとこれは一種のイジメでもあります。バカな連中だとひとくくりにせずに、しっかり事情を明らかにすべきだと私は思います。

 最近は動画が目立ちますが、何年か前には迷惑写真のアップが流行したこともありました。コンビニや飲食店でアルバイトをしている若者が、たとえばアイスクリームの冷凍庫の中に寝そべったり、食材を床に撒き散らしてその上で寝転んだりと、いろいろバカなことをしつつ、その写真をインスタグラムツイッターなどで公開するというものです。
 イタズラの域を超えており、バイトテロという言葉もはやりました。
 これも、店舗などすぐに突き止められ、犯人が特定されることも多かったにもかかわらず、次から次へと出てきたものでした。どうも、ネットでヒンシュクされること自体が嬉しかったように思われます。悪いことであっても、とにかくネットで話題になることで快感を覚えていたのではないでしょうか。その結果職を失い、これまた下手をすると警察沙汰になりかねないというようなストッパーが働いていなかったらしいのは、最近の迷惑動画と同様です。結局、バイトテロが下火になったのは、みんなが飽きて話題にしなくなったからだったようです。
 悪名は無名に勝る、という言葉もありますが、こういう人たちは、やはりなんらかの承認欲求というようなものが強いのではないかという気がします。なんでもいいから目立ちたい、話題になりたいという気持ちがあるのでしょう。それが「バカじゃないの」「何が面白いんだ」という否定的な言葉であっても、知らない人が自分のことを話題にしてくれるのが嬉しくてならないのではないでしょうか。
 自己表現の手段をちゃんと持っている人は、こういうことをしないと思います。その手段を持たず、自己表現欲求だけを持っている人たちがやらかしてしまうのでしょう。昔は、そんな人が居ても、そうそう注目されるような方法がありませんでした。しかしいまでは、誰もが容易に、世界へ向けて発信することが可能になったわけで、これまで表に出なかったバカな行為が、衆目にさらされるようになったということです。
 今後また、周期的に「迷惑○○」が流行することもありそうです。犯罪かと言われればせいぜい軽犯罪に過ぎないのですが、とにかく商業施設にけっこう継続的なダメージを与える行為を、隠すことも無くむしろ得々と見せびらかす……冷静な頭では理解できないような「迷惑○○」、厳罰化くらいしか抑止方法が思いつかないのも、なんだかやるせない気がします。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。