SSブログ

ゴージャスなファミリー音楽会 [日録]

 今年はいろいろと関わり合いのある演奏会が多くなりそうですが、まずトップを切って、板橋ファミリー音楽会が開催されました。
 普通のコンサートに較べていろいろと段取りがややこしいため、本当は年頭早々に開催するのはなかなか大変です。昨年末からリハーサルをおこない、年明けも松の内から再度リハーサルがあって、関係者一同正月気分もそぞろなものだったのではないかと思います。1月下旬くらいが、準備の上ではちょうど良いのですが、会場がうまくとれることととれないことがあって、なかなか思うに任せません。2月にずれこむこともあり、会場が1~2月に改装工事をやっていた時には3月にやったこともあります。そんなわけで、もともとは「お正月ファミリー音楽会」と称していたのですが、いつの頃からか「お正月」を冠さなくなりました。
 私が板橋区演奏家協会に入会したのは、もうかれこれ24年くらい前になりますが、その頃もファミリー音楽会はあったものの、いまほど手が込んでいませんでした。出演者が自分の持ちネタを持ってきて、それぞれ歌ったり楽器を奏したりする、つまり発表会みたいなありかたでした。

 ただラストなどに、出演者全員が出てきて合奏・合唱する曲が置かれたりして、そういう曲のアレンジをするのが、最初の頃の私の仕事でした。だから1曲か2曲アレンジすればそれで良かったわけです。
 それから、後半だけ演出を入れた企画ステージみたいなことにするようになりました。「動物たちの音楽会」とか「森は生きている」といったタイトルでやった記憶があります。確か「森は生きている」の時に、歌い手だけではなくて楽器奏者にもちょっとしたかぶりものをして貰おうとしたら、ひどく反撥されたということがありました。楽器奏者がそんなふざけたことをするなんてとんでもない、という感覚があったようです。しかしだんだんと、楽器奏者をも含めた演出、ということが浸透しました。ひとつには当時会長であった故神野明先生自身が、モーツァルトのコスプレでピアノを弾いたりして、楽器奏者の意識改革を進めてくれたからかもしれません。
 やがて、半分だけではなく、全体をひとつのコンセプトでまとめるということがはじまりました。それでもはじめの頃は、とにかく出演者のやりたい曲を持ち寄って貰って、それをうまく台本や演出でつないでゆくという方法でした。私も1、2本、台本を書いたことがありますが、一見バラバラな選曲であっても、話のもってゆきかたで、なんとかひとつの筋にまとまるものです。
 また、紅白歌合戦みたいなやりかたをしたこともあります。この時は本当に審査員を呼んだり、客席に紅白を判定させて野鳥の会の人に数えて貰ったりもしました。
 その後、アマチュア合唱団を舞台に乗せることもはじめました。人数が増えて、お正月らしく派手になりました。しかしこのあたりから、編曲を要する曲が増え始めたようです。

 アマチュア合唱はたいてい最初と最後に参加する形になり、その曲については楽器奏者総出で伴奏にあたることになったため、少なくとも2曲は必ずフル編成でアレンジしなければならなくなりました。
 そして徐々に、その他の出し物でも、ピアノ伴奏で独唱するだけではなく、何か楽器を入れたいという声が多くなりました。企画がだんだんと凝ったものになり、それにつれて演奏曲目も、出演者の持ち寄りではなく制作側から指定することが増えてきたのですが、お客が娯しめるということを第一に考えて、オペラのアリアやドイツリートなどよりも、ポピュラー系の楽曲を採り上げる割合が大きくなってきたのです。そうすると、ピアノ伴奏だけでは物足りなくて、何か他の音も欲しいという気がしてくるのでしょう。
 それがどんどん増えて、とうとう今年などは、全22曲中、12曲を私がアレンジするはめになったのでした。しかもその他に『セーラ』の終幕の合唱が入ります。半分以上私の手が加わったわけです。それから金井宏光くんがアレンジした曲が2つあり、吉原友恵さんがみずからオプリガートをつけた曲も2つありましたから、既存の楽譜をそのまま演奏したのはわずか5曲しかありませんでした。
 さらに今回は、楽器奏者総出、つまりフル編成のものが多く、指揮の成田徹くんが大変そうでした。成田くんは指揮するばかりでなく、本業のサクソフォン奏者としても2曲に参加していたので、気分的には休む間もない感じだったでしょう。
 フル編成の曲は、このところ、最初と最後のアマチュア合唱を加えたステージ、休憩明けのお楽しみステージ、それにエンディング前のクラシックステージの4曲でほぼ固定されていたのですけれども、今回はそれに2曲が加わったのでした。
 毎年のオペラ公演で、いつも区民講座と称してアマチュアの合唱を募集し、速成で指導して出演させています(そうすると区からの予算がおりやすいのでした)。もうかれこれ10年ばかり続けていますが、速成でやるだけではなくてもう少しじっくり学びたいという声が上がってきたのと、演奏家協会でも少し事業の幅を拡げようかという機運が高まってきたので、去年の10月から「IPAオペラアンサンブル」というものを起ち上げました。IPAというのは板橋区演奏家協会の略称(Itabashi music-Players' Association)です。オペラ専門のアマチュア合唱団ということです。これを演奏家協会の運営する演奏会に積極的に参加させて、ひいてはオペラ公演の時の合唱の中核になって貰おうという魂胆です。
 そのオペラアンサンブルが、今日のファミリー音楽会でデビューを飾ったのでした。『椿姫』乾杯の歌です。もちろんヴィオレッタアルフレードは協会員が歌いました。これはオペラアンサンブルの趣旨から言っても、フル編成で伴奏をするのが妥当でしょう。
 それと、なぜかソロ曲である「Jupiter」もフル編成になりました。全体として、けっこう豪華な演奏会になっていたような気がします。

 私は今日は、最後のほうでMCに呼ばれて舞台に出て行き、6月の『セーラ』の宣伝をするだけの役目で、本当は客席で聴いていても良いくらいだったのですが、いちおうどんな用事があるかもしれないので、ずっと舞台袖で待機していました。
 モニターを見ると、客入りはもうひとつという感じでした。ひどく寒かったせいか、連休の中日だったせいか、それとも今年から入場料が少し上がったせいか……実際のところは後日入場者数報告がないとわかりません。出演者からの配券が年末年始にかかって思ったほど売れなかったということかもしれません。
 『セーラ』の終幕の合唱「新しき世は来たり」がオープニングです。オペラのラストの合唱なので、どっちかというとこれで終わってしまいそうな雰囲気です。ファミリー音楽会でもラストに持ってきたほうが良かったのではないかという意見もありました。しかしまあ、お客への印象は強かったのではないかと思います。
 2曲目が久石譲作曲「Stand Alone」、NHKドラマ「坂の上の雲」の主題曲です。最近合唱などでちょくちょく聴くようになりましたが、今日は稲見裕美さんの独唱。吉原さんがオプリガートフルートをつけたひとつです。
 次は「いすゞのトラック」、なんでこんな曲を選曲したのかよくわからないのですが、譜面なんぞ無いので当然私の耳コピ編曲です。ピアノの他、オーボエコントラバスを加えました。なおコントラバスの山本昌史くんは、「いくらでも弾きますよ」と豪語していたので、大半の曲に参加させられています。この曲、リハーサルの時に、急にカデンツァを入れることになりました。オーボエ、コントラバス、それに歌い手の菅原直子さんが、適当に技倆をひけらかすという趣向で、これは私は関知せずに、勝手にやって貰いました。
 有賀祐介くんのバストロンボーン独奏で「テネシー・ワルツ」をやったのち、尾崎紀世彦のヒット曲「また逢う日まで」、これも耳コピ編曲であり、ピアノとコントラバスの他アルトサクソフォンを加えてあります。
 次の「バラが咲いた」は、一昨年秋にやった「心にしみる日本のうた 五」で使ったそのままのアレンジ(ピアノ、フルート、コントラバス)を流用したので、私の編曲ではありますが今回は作業していません。子供の頃から知っている曲ではありますが、あらためて聴くと佳い曲だなと思いました。まあ私がけっこう素敵コードを当てているせいでもありそうですが。
 「胸の振子」というのは特に大ヒットしたわけでもないのにいつの間にか普及していた「隠れスタンダード」なんだそうですが、私は知りませんでした。従ってこれも耳コピ編曲で、ソプラノサクソフォンとアルトサクソフォンを加えています。
 そのあとが、前にも書いた二村定一のコミックソング2曲「百萬圓」「アラビヤの唄」です。二村定一という人は戦前のヴォードヴィリアンで、かのエノケンの師匠筋にあたるらしいのですが、企画担当がよくこんな曲を見つけてきたものだと思いました。聞くと担当者も、youtubeで発見しただけで、別に自分で聴いたり歌ったりしたことがあったわけではないらしい。「百萬圓」にはヴァイオリンを、「アラビヤの唄」にはフルートとオーボエを加えましたが、ヴァイオリンの古川知佳さんが、意外にこういう曲調に適った、独特の味のある音を持っていることに気がつきました。クラシックばかり弾いているだけではもったいないかもしれません。
 続く「カチューシャの唄」は、これも「心にしみる日本のうた 五」で用いた編曲に準拠しましたが、ただ「心にしみる」のほうではピアノ伴奏付き女声合唱だったものを、独唱とピアノとテノール&バリトンサクソフォンという編成にリアレンジしました。バリトンサクソフォンが低音を担当するため、ここまでしばらく出ずっぱりだった山本くんがようやく退場します。
 しかし次では早くも復帰し、スッペのオペレッタ『ボッカチオ』「恋はやさし 野辺の花」の伴奏に加わります。これは私の編曲ではなく、吉原さんがオブリガートフルートをつけた2曲目ですが、こちらは山本くんもオブリガートコントラバスをつけたのでした。
 吉原さんと山本くんがそのままで、女性の歌い手全員が出てきて前半最後の曲「涙くんさよなら」を合唱します。これも「心にしみる」で使ったそのままの編成です。前半最後に女声合唱、というのも、ここ数年定番になっています。

 後半の最初は「お楽しみタイム」と称して、プログラムに曲名を載せていません。この枠は過去、「いい湯だな」「ズンドコ節」「マツケンサンバ」「365歩のマーチ」なんかを歌い、出演者総出で仮装というかコスプレをするのが通例になっています。年を追うごとに悪ノリの度合いが進んでゆくようで、「ファミリー音楽会でいちばん頭を使うのがここ」という出演者も居ます。歌い手だけではなく、楽器奏者もコスプレするのがミソで、今年などはどでかい太陽の塔をかぶった奏者なんてのも現れました。指揮者もダースベイダーの扮装をしていました。ちょっとしたかぶりものさえ烈しく嫌がられた20年前とは、まさに隔世の感があります。
 今年の歌は「愛して愛して愛しちゃったのよ」で、実は何年か前に、前半ラストの女声合唱枠で使った曲です。女声合唱より、やはり男の歌い手も加わったほうが面白いようでした。
 今回はじめて、この枠に限って「撮影禁止」令を解除することにしました。お客が喜んだかどうかは知りません。
 曲が終わると、稲見浩之さんが「撤収~~」と叫んで歌い手がちりぢりに退場するのが通例となっていますが、その時に楽器だけで「盆回り」を演奏します。ドリフターズの退場の時の曲だと言えば、
 「ああ、あれか」
 と思い当たる人も多いでしょう。ずっとSE(音響効果、この場合はCDを流すなど)で処理していたのですが、タイミングを合わせるのが難しかったりするので、一昨年からナマ音でやることにしたのでした。ただし去年の「365歩のマーチ」の時は、曲そのものに退場アクションを仕込んでおいたので「盆回り」は使っていません。この「盆回り」も当然ながら私の耳コピ編曲ですが、最初に書いた12曲中には含めませんでした。

 このあとしばらくは私のタッチしていない曲が続きます。まず佐藤俊会長のピアノ独奏でシューマン『幻想小曲集』の最初の2曲が演奏されましたが、もちろんこれは編曲などする余地がありません。
 ガスタルドン「禁じられた歌」デ・カプア「オー・ソレ・ミオ」アルディーティ「くちづけ」リスト「愛の夢」と外国曲が続きますが、「オー・ソレ・ミオ」に金井くんのアレンジでアルトサックスとコントラバスが加わっていただけで、あとはピアノ伴奏の独唱でした。なおリストのはピアノ曲ではなく、その原曲である歌曲です。本当は「愛しうる限り愛せ」と訳されているタイトルですが、歌詞全体を見ると、私としては「愛せるうちに愛せ」とでもしたほうが妥当ではないかと思います。愛せるうちに愛しておけ、相手が墓の中に入ってから後悔しても追っつかないぞ、という内容です。
 その次がIPAオペラアンサンブルのデビューステージ「乾杯の歌」でした。それから「Jupiter」だったので、楽器のセッティングはそのままで楽だったと思います。
 「Jupiter」は、言うまでもなくホルスト「木星」に詞をつけて平原綾香が歌ったものですが、確かに曲のスケール感からすると、フル編成で良かったかもしれません。この歌は2オクターブの広音域を縦横に使いまくるので、マイクがあればともかく、ナマ声で、しかもフル編成の伴奏を向こうにまわして歌えるのは、演奏家協会では今回の宮内直子さんしか居なかったと思います。人選も最適でした。
 これも耳コピ編曲でしたが、youtubeで聴いた平原綾香の歌では、ラストの締めかたがあんまり面白くなかったので、ホルストの原曲から、3拍子の活溌なところを1フレーズだけ借用してきてコーダとしました。これが予想外に演奏者や聴客に好評で、嬉しい驚きでした。
 「やっぱり『木星』と言ったらあそこが無くちゃあ」
 と思っていた人が多かったようです。
 楽器セッティングはそのままで、次のバッハ『管弦楽組曲』に進みます。上に書いた「クラシック枠」というヤツで、基本的に器楽合奏曲を扱いますが、一部に声楽のヴォカリーズを入れるというのがファミリー音楽会の恒例になっています。この枠は金井くんの担当というのも恒例でした。
 2番から序曲・ブーレ・ポロネーズを、3番からガヴォット・アリアG線上のアリア)をピックアップしていましたが、歌が入るのは3番の2つの楽章です。ガヴォットでは、原曲のトランペットを合唱に割り振るという面白いことをしていましたが、アリアは誰か歌手が歌っていたことがあるらしく、英語の歌詞がついていたようでした。
 エンディングは中島みゆき「時代」です。もともとがそんなに盛り上がる曲というわけでもないので、エンディングにふさわしくするため、多少頭をしぼらざるを得ませんでした。実際に音になったのを聴いても、いささかとってつけたような盛り上げであるような気がしてならず、やはり「時代」のほうをオープニングに置いて「新しき世は来たり」で締めたほうが良かったかもしれない、と思いました。

 2時間くらいで終わらせるのがベストなのですが、後半が意外と長引き、まるまる2時間半かかる演奏会となりました。長さ的にも内容的にも、相当にゴージャスであったと思います。
 今後も同じように続けられるか、目下予算がばっさり切られるという話が持ち上がっており、その話がそのまま通るのかどうか微妙なところですが、ともかくなんとも心許ない状況です。予算が切られた場合、収入源は入場料だけになり、同じように廻すためには入場料を上げるしかなくなりますけれども、それでは「ファミリー音楽会」という趣旨にそぐわなくなるのではないかという疑問も生まれます。難しい局面にさしかかっているようです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0