SSブログ

オーディションの再開 [日録]

 板橋区クラシック音楽オーディションが2年ぶりに開催されました。
 昭和58年から、ずっと毎年おこなわれ続け、一昨年には第31回を迎えていました。
 基本的にはこのオーディションの合格者が板橋区演奏家協会に入会することになります。最初は合格者全員が自動的に協会員となっていましたが、途中から運営のための会費を徴収することになって、それと同時に入会も希望制となりました。しかしいちど合格していれば、入会の資格はずっと持ち続けるという規定になっています。すぐに入らなくとも、何年か経ってから思い立って入会するということもありえます。
 まあたいていの場合は、合格したその年に入会を希望する人が多くなっています。第何回目のオーディションで合格したかによって、演奏家協会で第何期という扱いになります。私は第7回目にはじめて設置された「編曲部門」で合格したので、第7期というわけです。当然、一昨年の第31回で合格した人たちは31期です。
 この「○期」というのを、長らく演奏会のプログラムなどに記載していたのですが、最近になって、ヒトケタ期の人々あたりから、記載をやめて欲しいという要望が出されるようになりました。いかにも年寄りっぽく見えて面白くないというのでした。確かにオーディションの受検資格は18歳以上なので、1期の人などはどれほど若くとも49歳以上ということがバレてしまいます。この前の総会で、期そのものを無くしたらどうかという話も出ましたが、それも書類などの整理の都合上ややこしくなるので、プログラムに記載するかどうかをその都度確認するということでおさまりました。

 さて、第31回まで順調におこなわれてきたオーディションですが、去年はおこなわれませんでした。御多分に洩れず財政上の理由です。区から貰える予算が減ってしまったので、オーディションは隔年にすると、演奏家協会を直接管轄している公益財団から通告されたのでした。
 世の中の景気は、去年あたりから回復しはじめているはずなのに、それが役所の文化事業などにまでまわってくるには、まだ時間がかかるようです。去年の暮れには、定期的に開催している演奏会への補助の大幅減額を申し渡されました。一時はほとんどゼロになりかけて肝を冷やしたものです。
 オーディションの予算については、さらにその前の年度に検討されており、その検討の根拠となるのはそのまた前年の税収です。オーディションが中止されたのが2014年、中止が決められたのが13年、中止を決める根拠となった税収は12年のものということになります。2012年といえば、民主党政権の最後の年であり、前年の東日本大震災の影響の上に、超円高が放置されて日本経済がグダグダになっていたちょうどそのときでした。税収が激減して、いくつもの事業を切らなければならないということになったのも無理はありません。

 しかし、毎年おこなわれていたイベントが急に隔年になるというのは、予算が半分で済むということ以上に、けっこう重大な結果をもたらすことになります。
 それは、知名度が急激に下がるということです。毎年やっているからこそ、
 「あ、今年もやってるんだ」
 と人々の意識に残るのですが、それが一回中止になると、
 「今年はやらないのか」
 となります。そして、やらないとなれば、イベントの存在そのものが意識から消えてしまいます。そうすると、翌年の同時期になっても、意外と思い出さないものなのです。その次の年に再開したとしても、
 「そんなのもあったな」
 と思われるばかりで、受検者もあらかじめ意識していませんから広報を見逃すことが多くなるでしょう。もし思い出したとしても、そのまた翌年やらなかったりすれば、またイベントの存在は意識の底に沈んでしまうことでしょう。
 最初から「4年に1度」と決まっているオリンピックなどとは話が違います。オリンピックだって、どこそこに決まった、開催を2年後に控えて会場が云々などなど、次々に途中経過が報道されてゆくからこそ人々の興味が持続するので、もし4年に一度、開催が近くなってから急に周知がはじまるなんて体制であれば、決して現状のように盛り上がりはしないでしょう。
 隔年で開催するのであれば、開催しない年の同時期にも「何か」をしなければ、忘れ去られるだけなのです。
 私の住んでいる川口市は、しばらく前に鳩ヶ谷市と合併してから、「御成道(おなりみち)まつり」と称するイベントをはじめましたが、いまのところこれは隔年開催ということになっています。しかし、開催しない年には、「『御成姫』募集」ということをしています。市内在住の女性から「姫」を募集し、翌年の御成道まつりのパレードに出演して貰うと共に、選考からパレードまでの1年間、さまざまな市の行事に「姫」として参加して貰うことになります。隔年事業というのは、そういうことでもしないと憶えていて貰えないものなのです、本当のところ。
 お役人というのは基本的に単年度発想ですので、そういうことがなかなかわかりません。
 しかし当のイベント企画団体である演奏家協会のほうにはよくわかっており、オーディションが隔年になってはおそらく火が消えたようになってしまうだろうと予想しました。
 そこで、財団主催、つまり区の予算によるオーディションが隔年になるのならば、それをやらない年には、いっそ演奏家協会主催によるオーディションをやってしまおうではないか、という動きが出てきました。主催者が異なるので名目を同じにするわけにはゆきませんが、外から、つまり受検する側から見れば、同じようなオーディションが毎年継続しているかのように思えることでしょう。
 2014年はそのようにするつもりだということを財団に申し出たところ、それは困ると言われました。まあ、区の事業と紛らわしいものを開催されては困るというのも、わからないではありません。しかしこちらとしても、あれこれ考えた末のことです。
 少々あわてたように──もういちど検討してみるので、待って欲しい──と言われました。
 それでしばらく待ってみたところ、14年のオーディションはやはりできないし、演奏家協会主催だとしても認められないが、15年以降は毎年開催に戻す、という回答が来たのでした。
 私らの動きに対応して考えをあらためてくれたのか、あるいは13年からの景気回復に伴って少し予算的な余裕が見込まれるようになったのか、それはよくわかりませんが、結局14年の1回だけ抜けて、旧に復したというわけです。何はともあれめでたい結末でした。

 そして今日、2年ぶりの、第32回オーディションが開催されたのでした。
 演奏家協会会長の佐藤俊先生、同名誉理事の神野優子先生(初代会長神野明先生の夫人)、それから外部からお呼びした3人の先生と、私を含む協会員3人と、計8人が審査員です。
 これもはじめのころは、各専攻ごと(ピアノ、声楽、弦楽器、木管、金管など)に数人の審査員を呼んでやっていたのですが、やはり財政上の理由がひとつ、また常に各専攻の受検者が居るわけではなく、あらかじめ審査員を頼んでおいたのに受検者が居ないためキャンセルするというようなことがちょくちょくあったのがもうひとつの理由で、ここしばらくはずっと、7~8人のさまざまなジャンルの審査員が全受検者を審査するという形になっています。
 佐藤先生はピアニスト、神野優子先生はヴァイオリニストであり、招待審査員の3人はそれぞれ声楽家、オーボエ奏者、音楽評論家となっています。私は作曲家として、この音楽評論家と似たような立場、つまりどの楽器の専門でもなく音楽全般を見るということで長年名を連ねています。それぞれの細かい技術的なことなどはよくわからないので、私はもっぱら、

 ──この演奏はカネを払って聴きたいほどのものか?

 という観点から採点しています。ごくときたま他の皆さんの評価と乖離することもありますが、おおむねそれでうまく行っています。
 今回の受検者は、いままでよりも少なめでした。また、レベル的にも少し不満足なところがありました。上位の人は良かったのですが、平均レベルは明らかに落ちています。
 やはり、去年1回抜けてしまったことが、この結果につながっているのだと思います。2年分の満を持して受けに来た、なんて人は居なかったのでした。
 なんとか毎年開催に戻りはしましたが、はたして認知度や信用度はこちらの思うほど回復しているかどうか、本当に回復するにはまた何年もかかるかもしれない、という気がしています。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0