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自作の音源化 [お仕事]

 『星空のレジェンド』のオーケストラ版作成については何度も書いてきましたが、今年の6月はじめにいちおう作業を完了し、平塚の合唱連盟に提出しました。
 作曲自体は2014年のことで、もう6年前になりますが、その当初から、フルオーケストラの形にしたいということは考えていましたし、企画の推進役であった大川五郎先生にもその旨を繰り返し伝えていました。
 ピアノ伴奏という形で初演し、その後もピアノ伴奏つきで毎年の公演を続けてきたわけですけれども、そのピアノ伴奏は最初から「本来オーケストラであるべきもののリダクション」というつもりで書いており、そのためピアノのテクニック的にはかなり無理を強いてしまっています。それをちゃんと弾きこなしてくれた歴代のピアニストさんたちには頭が上がりません。
 そもそも、当初の企画では、ピアノ以外にもいくつかの楽器を加え、いわば室内オケのような様式で初演するという話だったのでした。だから2014年の年末に作曲を終えても、これは単なる経過点で、これからさらに編曲作業をおこなわなければならないと思っていたものでした。予算が予定していたほど下りず、他の楽器を加えるのが没になったとその後聞いて、思わず脱力してしまいました。ピアノ以外の楽器としては、終曲にピンポイントで登場する和太鼓(かね)だけとなりました。
 その後、何度かリハーサルに顔を出し、そして翌2015年の6月末に初演を迎えてそれを聴いてみて、この曲はやはりオーケストラで演奏すべき内容を持っていると確信しました。
 この作品を毎年、年中行事として公演してくれている平塚の合唱連盟のかたがたには本当にありがたいことだと思っていますが、そんな中でも、3回目くらいからは、伴奏のピアノが合唱や和太鼓などに音響として負けていることを感じはじめました。合唱が歌い馴れてきたことが一因でもあるでしょう。この合唱を受け止めるには、やはりオーケストラの響きが必要だと考えました。
 大川先生は、最初の頃は電子オルガンでやったらどうかなどと言っておられました。やはりオーケストラを使うということになるとお金もかかりますし、そう簡単に諾と言える話でもなかったでしょう。しかし、その後ご自身でも乗り気になったようで、確か2018年のはじめごろに、オーケストレーションの具体的な話を持ってこられ、東京駅近くのビルのカフェで打ち合わせをしました。大川先生と打ち合わせるときは、なぜかいつも東京駅近くだったのです。
 その場で、オーケストレーションをおこなうのであればどのくらいの期間が必要か、編曲料はどのくらいになるのか、といった、かなりつっこんだ話をしました。演奏を頼むオーケストラには、その時点では目星はついていなかったようですが、例えば大学オケなどに頼んでみたら……などと、それなりに実現可能性のある段階の話をしたものでした。
 その年の後半くらいから、ぼちぼちオーケストレーションをはじめました。パソコンで作譜し、ある程度進んだところで、Finaleのプレイバック機能を使って音を出してみました。もちろん、パソコンの備えている音源に依存した、いささかチープな音ではありますし、楽器ごとのPan値(その楽器の音がどのくらいの角度で聞こえてくるかを設定する変数)や音量バランスなども決めていませんので、実際のオーケストラで聞こえる音とはまるで違うことでしょうが、それでも自分で感動していました。やはりオケの音はいいなあ、という気分と、やはりこの曲はオケで演奏すべきだったのだなあ、という気分とが混じっていたようです。
 半分くらい作業が済んだあたりで、『セーラ』の再オーケストレーションがはじまったりして中断してしまいました。2019年の第5回公演までに終わらせたいなどと思っていましたが、果たせませんでした。それでも、第1曲のスコアをプリントアウトして、ホールで大川先生にお渡ししました。ちゃんと進めていますよ、というアピールのつもりでしたが、それが大川先生とお目にかかった最後となりました。

 大川先生は今年(2020年)の2月に亡くなり、私はなんとなく、『星空のレジェンド』のオーケストラ化の話も進まなくなるのではないかという気がしていました。
 しかし、大川先生の遺志はしっかり動き続けていました。合唱連盟の担当者から、オーケストレーションはどうなっているかという問い合わせが、しばらくして届きました。
 平塚市で建設中の新しい文化センターのこけら落としとして、なんとか『星空のレジェンド』オーケストラ版の初演をねじこみたいという話でしたが、降って湧いたるコロナ禍により、工事も遅れが予想され、オケ版初演もいつになるかはわからない、という心許ない状況ではありますが、いろんなイベントが立て続けに中止になって、どうにも暗い気分になっていたところへ、少なくとも前向きな話が寄せられて、私も自分に発破をかける気持ちとなりました。
 それで6月に、作業を終わらせて譜面データを担当者に送りました。しばらくして編曲料も振り込まれました。
 今年の7月に予定されていた第6回公演は、残念ながら中止となりました。
 来年ならできるのかどうか、それもわかりません。
 そんな中、「カラオケ公演」の話が持ち上がりました。
 つまり、オーケストラ部分をシンセサイザーで打ち込み、その音源をホールに持ち込んで、それと一緒に歌うという案です。
 最初に私のところに話が持ち込まれたときは、私はてっきり、練習用の音源ということかと思ったものでした。私が渡せる音源といえば、Finaleのプレイバック音源だけですので、そんなものではとても本番の役には立たないだろうと考えたからです。
 しかし、このけっこう厖大な作品を、外注してシンセに打ち込むとなると、相当な予算を組まなければならないと思われ、だんだんと、私のところでなんとかならないかという話になってきました。
 これは少々困りました。何度も書いているとおり、Finaleのプレイバックは機能が限られています。少なくとも作った譜面データだけでは役に立ちません。
 まず、上に書いたように、Pan値や音量バランスをかなり細かく設定する必要があります。オーケストラの配置図を見ながら、どの楽器がどのくらいの角度をもって聞こえてくるかを決めてやらなければなりません。音量バランスにしても、本来ならオケがフルで鳴っていても容易に飛んでくるはずのトランペットやピッコロの音が、基本設定のままだとさっぱり聞こえてこないのでした。
 まあ、そういうことは多少の面倒くささを辛抱すればそれで済むのですが、実際の演奏でおこなわれる微妙なテンポの揺れとか、息遣いを考慮した間合いとかは、Finaleのプレイバック機能程度ではまったく作ることができません。シーケンサーソフトを使って、0コンマ何秒単位でテンポを動かせば可能ですが、そこまでの機能はFinaleにはありません。
 それに、楽器によっては音が激しくチープです。まず多くの打楽器類がそうで、スネアドラムくらいならなんとかそれらしい音が鳴ってくれますが、グラン・カッサ(大太鼓)とかタムタム(銅鑼)なんかになるとまるで思った音になりません。カサッ、という感じのしょぼい音になります。
 さらに輪をかけてひどいのは、独奏弦楽器です。弦楽器でも、弦楽合奏の音になればそこそこ聴けるのですけれども、独奏になると、「ファミコンかぁ~!」と叫びたくなるような音しか出ないのでした。これは私のパソコンやFinaleのせいとばかりは言えないようで、何かのコンサートの際、打ち込みで音を作って貰ったときに、
 「ヴァイオリンだけは無理なんですよ」
 と言われ、やむなくヴァイオリンだけは生演奏をつけた、なんて人も居ます。『星空のレジェンド』でも、残念なことに第3曲「私はヴェガ」に、独奏ヴァイオリンを全面的に使っており、どうしたものかと思います。
 第4回公演から大川先生に代わって合唱指導と指揮をしている中村拓紀さんがカラオケ公演の発案者のようで、中村さんとも電話で直接話をしました。来年の7月も、コロナ禍が終熄しているかどうかはまったくわからない以上、なるべく「関わる人を少なくする」という形で公演を打ちたい、というのが中村さんの考えらしく、独唱者もピアニストも無しで、曲もいくつかカットして、それでもとにかく「続けたい」ということであるようです。
 私はFinaleによって作れる音源の限界を伝えた上で、とにかくサンプルとしてどれか1曲を作成してみましょう、と申し出ました。それで本番でも使えるようなら他の曲も同様に音源化し、無理だったら他のプロのシンセ奏者に打ち込んで貰う、ということにしたわけです。
 その話をしてから、他の仕事をいくつか済ませなければならず、なかなか着手できませんでしたが、中村さんから再度打診があり、かつ仕事も済んだタイミングだったので、問題の「私はヴェガ」をいじってみました。

 まず元の譜面データから、音源作成用のコピーデータを取ります。いろいろ変えるところがあるので、元のデータを使うわけにはゆきません。
 Pan値は、わりとすぐに設定できました。この変数はここで設定してしまえば、他の曲でも同じ数値にできますので、楽と言えば楽です。
 音量バランスは、何度も聴き直しながら設定してゆきます。デフォルトでは全楽器が101になっています。そのままでは聴こえかたが全然アンバランスですので、いくつかの楽器は下げ、いくつかの楽器は上げ、実際に聞こえるであろうバランスになるまで調整します。場合によっては、譜面上のダイナミックス( f とか p とか)を何段階か付け替えたりもします。Finaleのデフォルト設定では、どうも pp あたりになると音量を落としすぎなようで、ほとんど聞こえなくなったりするため、などに上げておくわけです。
 それから打楽器を調整します。実際の譜面では、打楽器のパートは、一本線の上に音符を置いたり、せいぜいその上下に置いたりする程度なのですが、Finaleでは音符の位置によって楽器の種類が割り当てられており、必要な楽器の音を得るためには音符を動かさなければなりません。私が書いておいたいくつかの楽器、たとえばウィンド・チャイム(20本くらいの細い金属筒が吊り下げられていて、シャラララ、という軽い金属音を出す)などは用意されていないもので、他の楽器で代用したりしなければなりませんでした。
 さらに何度も聴いて、私が要求しているテンポでは歌うのがつらいかもしれない、と感じたところは少し遅くするとか、本来指揮者の裁量に任せる程度の軽いテンポの揺れをなんとか再現してみるとか、いろいろ手を加えます。テンポも細かく数値で設定できれば良いのですが、Finaleでできるのはrit.とかaccel.とかの記号で動かす程度なので、とても思ったほどのことはできません。シーケンサーソフトがあれば良いのだが、と思います。以前、Cakewalkというシーケンサーソフトを使っていて、私のホームページにあるMIDI楽曲などはそれで作成したのですが、いつの頃からか使えなくなっていました。タイミング的に、前のFinale(2006)を入れたときに、音源がバッティングしてしまったのかもしれません。
 なおいま使っているFinale25のプレイバック機能は、2006に較べて、ずいぶん進化したのは確かであるようです。前のではfp(強い音を出してすぐに小さくする)すら再現できず、音源を求められたときはfpを別々に付け直したものでした。なるべく人間が演奏している音色に近づけるヒューマン・プレイバックの精度もだいぶ上がりました。
 まあこんなものか、と感じるまで手を加え、最後にエクスポートします。ここも2006とは変わっていて、前はMIDI音源として保存することはできましたが、それだけでした。25では、waveファイルとして保存することができます。waveは市販のCDなどでも採用している形式で、ものすごく容量を食います(だいたい1分につき10メガバイト)が、音質は非常に良くなります。MIDIファイルにしたものと聴き較べて、愕然としたほどでした。
 さらに、前から音楽CD作成などに使っていたSound Engineというソフトを使い、保存したwaveファイルにリバーブをかけたり、高音域や低音域のサラウンドを拡げたりしてみると、案外と聴くに足る音になったような気がしました。
 さしあたり、中村さんに送ってみました。3分以上かかる曲なので、容量は30メガバイト以上になり、メールに添付するには大きすぎるので、ダウンロードサービスを利用しました。
 最初のヴァイオリン独奏は、やはり微妙だったようですが、まあ
 「慣れてくるかな……と思っています」
 とのことだったので、それもひとつの選択肢かもしれません。途中からはまったく気にならず、他の曲に関しても同様のやりかたで音源化して貰いたい、と要望がありました。
 はたしてカラオケ公演が成功するかどうかは、現時点ではなんとも言えませんが、「withコロナ」下の演奏会とのひとつの試みとして、面白い案だとは思います。
 中村さんの腹案としては、来年と再来年はこのカラオケ公演でつなぎ、2023年くらいには文化センターができるだろうから、そこで生オケでの公演を実現させたいということであるようでした。先の長い計画ですが、実現できれば良いと念じます。

 わりとはずみがついて、それから次々と音源化を進めています。今回は独唱・重唱が重要な要素になっている「愛の二重唱」「天の怒り」「愛の想い出」の3曲をカットするそうなので、10曲分作れば良いわけですが、すでに5曲を済ませました。ただし短いものを先にやっているので、残りの5曲はなかなか大変そうです。
 それでも、自分の曲をオーケストラの音で聴くというのは、パソコンの音源ではあっても嬉しいもので、やっていて楽しい作業であると思えています。

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