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強震記 [日録]

 昨夜(10月7日)22時40分ごろの地震には肝を冷やしました。マダムがちょうど風呂から出てきたところで、私はこれから入ろうと思っていた矢先の揺れで、

 ──あ、これは大きいな。

 とすぐに思いました。蓋を開けたままの浴槽のお湯が、ボッチャンボッチャンと音を立てて波立っています。こんなことは滅多に無いので、これはしばしば体験している震度4ではおさまらないのではないかと思いました。
 しかし身構えていると、ごく短時間でおさまりました。微動はもうしばらく続いていた感じですが、大きな揺れは10秒間くらいだったのではないかと思います。幸い、何か落ちてきたり、何か倒れたりといったことはまったくありませんでした。うちの中は相当乱雑にいろんなものが積み重なって散らかっているにもかかわらずです。
 10年前の東日本大震災のときも、うちはほとんど被害が無く、本棚の上に積んであった古雑誌が落ちてきたくらいだったのですが、今回はそれもありませんでした。大震災のときは確かうちのあたりは震度5強だったので、そうすると今回は5弱というところかな、と思いながら、テレビの電源を入れて速報を見ることにしました。
 すると、なんとしたことか、「埼玉県南部」に震度5強の表示が出ているではありませんか。
 もう少し詳しい速報はないものかと思って、テレ玉にチャンネルを変えてみたり、データ放送にしてみたり、ネットで災害情報を出したりしてみました。その結果、埼玉県南部と言っても、さいたま市の大半は震度4であったことがわかりました。緑区だけが5弱になっています。
 しかし、川口市のデータを見て驚きました。まさにここが「5強」だったのです。他に5強だったのは、同じ埼玉県の宮代町東武動物公園のあるあたり)と、東京都足立区だけでした。隣町、というよりほとんど川口市に囲まれているような位置の蕨市は5弱になっています。
 へえ、と声を上げてしまいました。東日本大震災のときと同じ震度だったわけです。あのとき落ちたものが落ちなかったのは、短時間だったからか、それとも同じ5強のうちでも差があるからでしょうか。
 揺れかたの問題も大きかったかもしれません。
 しばらく速報を見ていると、震源地情報が発表されました。今回の震源は、千葉県北西部の深度80キロメートルの地中だったそうです。そう近くはない川口市と宮代町で最大の震度を記録したことから考えると、両方から等距離にある野田市あたりの地下になりそうです。もっとも野田市自体は震度4だったようですが、波長や周期などの関係があるのでしょう。
 つまり、東日本大震災のようなプレート型地震ではなく、直下型だったわけです。プレート型の場合は震源が遠いので、タテ波(P波)とヨコ波(S波)が時間をおいて訪れます。最初にズシンッと突き上げる感じがあり、それから後を追うようにグラグラと揺れはじめるのです。P波とS波の伝わる速度に差があるのでそういうことになります。
 これに対し、直下型の場合は震源が近いため、P波とS波の到達にさほどの差が出ません。しかも地中から上に向かってくる感じであるため、横揺れが案外と小さくなります。それで、短時間のうちにズシンッと来て、グラグラはあまり感じられずに終わってしまったりします。今回の揺れは、まさにそういうタイプでした。震源の直上よりも、P波とS波の周波数が合ってしまったあたりでいちばん揺れることになるのではないでしょうか。
 それにしても、深度80キロというのはかなり深いようで、その深さも揺れかたに関係しているのかもしれません。
 ともあれ、そんなわけでうちはまったく被害がありませんでした。心配してくださったかたがた、ありがとうございました。私らは完全に無事で居ります。

 うちが無事だったために、例によって全体的にも大した被害は無かったろうと考えてしまったのですが、都内ではけっこう深刻なことになっていたようです。いまのところ死者は出ていないようですが、怪我をした人はある程度居るとのことです。また停電も発生しているらしく、もしかするとその停電によって透析などが停まってしまい、体調が悪化して亡くなるという、二次被害はこれから出てくるかもしれません。
 電車が軒並み停止したために、帰宅難民も発生したようです。まあ23時近くといった遅い時間帯だったので、ラッシュ状態ではなかったと思いますが、それにしても駅で解放してくれるならともかく、駅間で停まってしまって外に出ることもできずにじりじりと時間だけ経過してゆくのでは、不安もつのるでしょう。
 また、水道管や下水管の破損なども報告されています。都市部のこういうインフラは、老朽化したものを取り換えるのもなかなか大変で、まだ耐震管にしていないところもけっこうあった模様です。何日か断水する地域が出るかもしれない、などと言われていました。そういえばこの前、和歌山の水道橋が損壊して、少なからぬ地域で断水状態になってしまったという事件がありましたが、東京でそんなことになるとシャレになりません。渇水による断水が東京の夏の風物詩であったのは、もう60年以上前の話で、いまの都民のほとんどは、断水などということへの心構えはできていないでしょう。
 コンビニエンスストアなどで、商品が床に散らばってしまっているところなどもテレビによく出てきたようです。ワインの壜が落ちて割れたりもしたようですが、うちの状態から考えて、あの揺れでそんなに物が落ちるものだろうかなどと不思議に思ったりしました。
 実際ネットに出ているコメントなどを読んでも、そんなに大きな地震だとは思わなかった、という意見が多かったようです。川口市からのコメントもあり、東日本大震災のときより明らかに揺れが小さかったのに同じ震度とは、と書かれていました。上に書いたとおり、揺れかたが違っていたのだと思います。地震計の針は大きく動いたのでしょうが、短時間だったので、体感としてはさほど強く感じられなかったのでしょう。
 体感がそれほどでなかったせいか、テレビなどが騒ぎすぎという意見も出ていました。しかしまあ、首都で震度5というのは、東日本大震災のときを除けばもう長らくマークされていなかった数字なので、大騒ぎになるのも無理はありません。また、ついこのあいだ青森でやはり震度5の地震があったのに、メディアはこんなに騒がなかったではないか、などというコメントもありましたが、影響する人口に大差がありますので、これもまあ仕方のないことだと思います。

 最近地震が多くて、震度5くらいではあんまり驚かなくなった、という意見も眼にしました。
 私は10年前の東日本大震災までの半世紀近く、震度5以上の地震に遭遇したことがいちどもありません。私よりさらに四半世紀以上長く生きているうちの父も、震度5というのはそのときがはじめてだったと言っていました。
 この期間、新潟地震とか伊豆沖地震とか宮城沖地震とか、もちろん阪神淡路大震災とか、各地を見れば大きな地震は幾度も起こっていましたが、自分自身の体験としてそれらに遭遇したことは無かったわけです。日本中の大半の人がそんな感じではありました。
 それが、人生も後半に入って、わずか10年おきで「5強」を2回も体験することになるとは、やはりそれなりの感慨を覚えずにはいられません。
 たぶん、日本列島附近の地殻が、活動期に入ってきたのであろうと思われます。震度5くらいの地震は、今後も何回も遭遇することになるのかもしれません。

 しかし、必要以上に怖れることも無いのかな、と思います。
 東日本大震災で2万人以上の死者が出たと言っても、そのほとんどが津波による被害でした。地震そのもので建物の倒壊や火災に巻き込まれて亡くなった人は、ごく少数です。津波と、そのあとの原発事故さえ無ければ、あの地震は、マグニチュードの大きさに比して驚くほどに人的被害の少なかった災害として特筆されたに違いありません。阪神淡路の教訓から、日本の耐震建築技術はものすごく進歩し、いまや世界のどの国の追随も許さないほどになっています。
 震度7とかなるとどうなるかはわかりませんが、5~6くらいのレベルであれば、首都圏の建物の倒壊はほぼ心配しなくて良いように思われます。火災のほうも、最近のコンロやストーブは大きめの揺れを感じると自動的に火が消えるようになっているので、以前よりは格段に危険が少なくなりました。地震そのもので命を失うおそれは、現在ではほとんど考えなくても良い段階に達しているのでしょう。
 いまやもっとも心配すべきは停電や断水となり、特に高層マンションの上層階などに住んでいる人たちは大変だと思います。エレベーターが動かなくなって二十何階まで歩いて昇ったりしなくてはなりませんし、水道管は無事でもポンプが停まるので水が揚がらなくなります。これらは地震だけでなく、一昨年の颱風のときにも脆弱性が明らかになりました。
 「オール電化ハウス」は東日本大震災前に大いにもてはやされていましたが、震災後にはすっかり息をひそめていました。それが年月が経つにつれ、またちょくちょく宣伝されているのを見るようになった気がしていましたが、颱風や今度の地震で、また人気が無くなったのではないかと思います。エネルギーを電気だけに頼るのは危ない、と多くの人が認識するようになっているのではないでしょうか。

 なんにしろ、首都圏では珍しい震度5に見舞われつつ、人的な被害がほとんど出なかったのは喜ばしいことです。家具が倒れたり部屋が散らかったりした人はご愁傷様ですが、地震に強い都市づくりが成果を上げているようで、何よりだったと思います。

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