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紅葉の寺と関東鉄道 [旅日記]

 急に思い立って、最勝寺というお寺を訪ねてきました。
 紅葉がとても美しいと聞いたのでした。もう12月に入って、さすがに紅葉も終わっているだろうとは思ったのですが、まだ散っていなかったら儲けものくらいのつもりでした。
 場所は下館です。何度か下り立ったことがあり、いちどは泊まったことまでありました。ゴールデンウィークにさまざまな花を観る旅をしたことがあり、ひたちなか海浜公園ネモフィラを観たあと、市貝芝ざくら公園芝桜を観るため、移動の途上にある下館に泊まったのでした。市貝町というのは真岡鐡道の沿線にあり、真岡鐡道は下館が起点です。朝の便で芝ざくら公園に向かうつもりだったのですが、乗る便をうっかり間違えて、接続のバスに間に合わず、タクシー代を4000円くらいも使うはめになりました。
 もっとも、最寄りのバス停からでも4キロくらい離れていて、他には公共交通機関がまったく無いところでしたので、バスに乗れたとしても相当くたびれたものと思われます。片道だけでもタクシーで直行できて良かったと思うべきでしょう。
 とはいえ、そのあとあしかがフラワーパークを観に行ったのですから、ずいぶん元気だったなあとわれながら感心します。
 その下館に再訪することにします。街そのものはごく普通の地方都市といった趣きで、シャッターを下ろした店が多いのもありがちな光景です。
 行きかたはいろいろあるのですが、うちからいちばん簡単なのは小山廻りでしょう。赤羽浦和宇都宮線の電車に乗って、小山まで行き、水戸線の電車に乗り継ぎます。全部JRなので安くつく……と思いきや、ネットの乗換案内で「最安」を検索すると、大宮から栗橋まで東武をはさんだほうが安いらしいので驚きました。つまり、大宮で野田線に乗り換え、春日部まで行って日光線の電車に乗り換えて、栗橋で再度JRに乗り換えるという方法です。しかし当然ながら時間は、乗り換えが多い分だいぶ余計にかかりますので、検討の結果これはやめて、やはりJRだけで行くことにしました。
 しかし帰りはそのまま戻るのでは面白くないので、久しぶりに関東鉄道常総線に乗ろうかと思いました。
 最勝寺は最寄駅から徒歩30分、とどこかに書いてあったので、11時30分に下館に到着し、往復と滞在に1時間半を費やすとすると、13時07分の常総線列車に間に合いそうです。この列車は快速です。1日6往復くらいしか無い快速列車なので、ぜひ乗りたいものです。

 いずれにしろ、そんなに綿密なプランは立てず、粗々にその程度のことを決めて、出かけました。
 川口発9時23分という電車に乗れました。ただし3分ばかり遅れていたようです。発車したとき、車内のモニターに表示されている時計では9時26分になっていました。
 浦和発9時50分の快速に乗ろうと思っていたのですが、時刻表をよく見ると、この電車は土休日運転ではありませんか。それではそれより前の快速は……と見ると、浦和発9時35分です。これに乗れると、小山で1本早い水戸線電車に乗り継ぐことができるので、乗れると良いなあと思ったのですけれども、通常川口から浦和は11分を要することになっています。遅れを取り戻すべくスピードを上げたとしても、どうもギリギリで間に合わないように思われます。
 南浦和駅で、思ったより長い時間停車していたりもしましたし、これは無理かなと思いました。浦和着は車内の時計では9時36分です。やはり間に合わなかったようです。
 しかし、ひとつ希望がありました。快速電車は湘南新宿ラインから来るはずなのですが、私の乗った京浜東北線の電車が浦和に着くまで、それらしい電車に抜かれた様子が無いということです。快速は赤羽を、私が川口を出た9時26分に出ているはずなので、浦和で先行するためにはどこかで抜かれていなければならないのです。
 その追い抜きが無かったので、もしかしたらと息をはずませてコンコースに下りました。すると、9時35分発の宇都宮行き快速は、まだ入線していないことがわかりました。
 埼玉県の条例に違反してエスカレーターを駆け上がりましたが、まだ電車は到着していませんでした。私の乗った京浜東北線と同じく、約3分遅れで入ってきたのでした。
 運が良かったとしか言いようがありません。これで1本前の水戸線に乗り継ぐことができ、下館着は10時59分となります。少し滞在に余裕ができました。
 快速電車は、大宮を出ると遅れを取り戻そうとするかのようにスピードを上げ、小山には定刻・10時22分に到着しました。かつては小山など、ずいぶん遠いイメージがありましたが、最近は快速などが頻繁に走るせいか、わりに近郊の印象になっています。
 水戸線には何回か乗ったことがありますが、近年はオールロングシートになっていたように思います。しかし、現在の標準編成は、5輌編成のうち水戸寄りの3輌がセミクロスシート、小山寄りの2輌がロングシートということになっていました。私はもちろんボックス席に坐ります。
 今日は降雨確率が40%とかで、空はどんよりと曇っていますが、しばらく走ると筑波山がはっきりと見えてきました。頂上がふたつに割れた特徴的な姿もさることながら、関東平野にいきなりそびえ立って、とにかく目立つ山ではあります。右斜め前方に見えはじめた筑波山が、ほぼ右側まっすぐあたりに見えるようになった頃、下館駅に到着しました。左からは真岡鐡道、右からは常総線が寄り添ってきて、揃って駅に突入する趣きです。

 スマホの地図を活用して、最勝寺への道をたどります。このときは経路探索を使わず、わかりやすい道であることを優先して歩いたので、必ずしも最短距離ではなかったかもしれません。
 縮尺が微妙で、かなり太い道と思ったのが片側車線だけの細道だったり、次の交差点までが考えていたほど近くなかったりしました。これは案外遠いのではないかと思いはじめました。
 真岡鐡道の踏切を渡ります。渡ってしばらく行くと、うしろで警報機が鳴り出しました。列車はなかなか近づいてこなかったようですが、歩きながらときどき振り返っていると、そのうちモスグリーンと赤の単行ディーゼルカーが通り過ぎてゆくのが見えました。真岡鐡道も、そんなに便数の多い路線ではないので、走っているのを見られたのはラッキーだったと思います。
 それにしてもなかなか着きません。これこそ関東平野という感じのだだっぴろい田園風景の中を、ごく大雑把に書き割ったような道が、どこまでも続いているばかりで、お寺などありそうにないのでした。
 下館駅から30分くらいというのが、上に書いた真岡鐡道の踏切を振り返っていたあたりでした。それから下館バイパスの下をくぐり、ようやく一直線の道から逸れてお寺への細道に入りこみ、ホッとしました。
 最勝寺は、枯れ木となった雑木林の中に抱かれたような場所にありましたが、山門へ向かうと、途端に燃えるような赤色が眼に飛び込んできました。さらに山門をくぐると、あたりは誇張でなく真っ赤に染まりました。
 とっくに時期が過ぎているだろうと覚悟していましたが、最勝寺の紅葉はまだまだ盛りだったのでした。平地とは思えないような鮮やかな色です。
 来て良かった、と思いました。紅葉というのは、春の桜と違って、見事なものをそう簡単に観ることができません。たいていは山間部ですし、急な冷え込みがあるようでないと発色が良くならないのです。それを、北関東の平野部で堪能することができるとは、驚きの誤算でした。
 最勝寺の境内はさほど広くはありませんが、遊歩道のついた庭園があり、庫裡なども趣きのある様子でした。ついつい何周も歩き回ってしまいました。ネットで記事を見て、いきなり思い立って来てしまいまいしたが、そんなことでもないと一生訪れないような場所でしょう。
 下館駅からは結局50分ほど歩いてきたことになります。30分というのはなんだったのかと、コメントした人を恨みたくなりましたが、よく考えると、「最寄り駅から」と書いてあって、「下館駅から」とは書いていなかったことに気づきました。あとで確認すると、水戸線でひとつ小山寄りの玉戸駅、あるいは真岡鐡道の下館二高前駅からであれば、かろうじて30分で到達できそうだったのでした。最寄り駅というのは玉戸か下館二高前のことだったのです。もっとも、その両駅からであれば、わかりやすい道はありません。それこそスマホを片手に経路確認しながら歩かないと確実に迷ってしまうでしょう。
 常総線の快速列車は13時07分発ですから、帰りも徒歩であるとすると、12時15分くらいには寺を出発していないと間に合いません。しかし私は結局、12時半くらいまで滞在して紅葉を満喫してしまいました。バスでもあるか、あるいは途中でタクシーでも拾えれば間に合うかもしれません。それが無理なら、まあ快速を諦めても良いか、という気になっていました。

 最勝寺をあとにして、念のためスマホの音声検索で
 「最寄りのバス停」
 と言ってみましたが、なんとそれでひっかかったいちばん近いバス停は下館駅前でした。往路でコミュニティバスのようなのを見かけたのですが、それはひっかからなかったか、もしくは下館駅前よりむしろ遠かったりしたのかもしれません。立派な道路は何本も通っているわりに、バス路線はほとんど存在しないようです。
 帰りは経路検索して、だいたいそのとおりに歩きましたが、往路とはまったく違う道でした。途中まではあぜ道のような田園の中の小径を歩き、後半はわりと大きな道を歩きましたが、そこにもバスは通っていないばかりか、流しのタクシーなんてものもただの一台も見かけませんでした。
 結局、下館駅まで歩ききってしまったことになります。ちなみに、玉戸駅までなら半分くらいの時間で歩けたようでしたが、到着してもしばらくは電車が来ないようで、どちらにしろ13時07分の快速には間に合わなかったのでした。
 歩数計を見ると、すでに10キロ以上歩いていることになるようでした。これには自宅から川口駅までとか、乗り換えのときの歩きとか、もちろん最勝寺の境内を歩き回っていたときの歩数も含まれているので、下館から最勝寺まではやはり4キロあまりということになりそうです。30分ではとても無理でした。レンタサイクルでも借りれば良かったとあとになって後悔しました。
 帰り道でも真岡鐡道を横切りましたが、なんとレアなことに、遮断機が下りていました。眼の前をディーゼルカーが過ぎてゆくので、思わず写真を撮ってしまいました。
 片道30分と思っていたときは、下館駅周辺で昼食をとろうと考えていたのですが、どうもそんな余裕はありません。快速の次の、13時36分発の列車に乗ってしまいたいと思います。それだと、もうあと15分ばかりしか無いのでした。
 快速に間に合わないとわかった時点で、いっそのこと水戸線で友部まで行き、常磐線で帰ろうかとも考えました。これだと、近郊区間内なので往路と同じ運賃で帰れます。しかし、時刻表で調べてみると、さすがにそれだとだいぶ遅くなることがわかりました。常総線は非電化で、半分以上単線なので、各駅停車だと時間がかかりそうに思えたのですが、意外と速く、しかも快速と各駅停車でそれほど隔絶した所要時間差は無く、せいぜい10分程度の差であるようです。水戸に近い友部まで行くのと、ほとんどまっすぐに取手まで行くのとでは、いくら非電化単線でも後者のほうがずっと早いのでした。
 到着した単行ディーゼルカーに乗り込みます。なんだか路面電車をサイズアップしたようなレイアウトです。平日の真昼間、下館から乗った客はわずかなものでした。
 常総線というのは、だだっ広い関東平野を坦々と走るだけで、車窓はさほど面白くないのですが、走るにつれ筑波山が刻々と姿を変えることにはじめて気がつきました。たぶん全線に乗ったのはこれで4回目だと思うのですが、いつも取手側から乗ってきていたので、筑波山が見える頃にはいい加減飽きていたので注目しなかったのでしょう。下館側から乗ったのははじめてのことです。
 駅も、古い民鉄だけに、けっこう風格のあるところが多いことがわかりました。ただし現在はほとんどが無人駅となっています。無人駅ではあっても、停留所と言ったほうが良さそうな簡易な駅は数えるほどしかありません。片面駅も玉村・南石下・北水海道の3つしか無く、ほとんどは行き違い可能になっています。昔はもっと長い編成の列車が走っていたのでしょう、単行のディーゼルカーでは不釣り合いに思えるほどでした。
 水海道で乗り換えになります。水海道を境に乗客数に差があるからだと思いますが、今日は乗り換えた相手もやっぱり単行でした。守谷駅をはじめ、取手側には4~5輌編成に対応した長いプラットフォームの駅がいくつもあり、これまた不釣り合いに思えます。
 1時間20分かかって、14時56分に取手に到着しました。途中、守屋で下りてつくばエクスプレスに乗り換え、南流山武蔵野線に乗り継いで帰ろうかともちょっと思いましたが、まあ今日は常総線を堪能しようと思い直したのでした。快速だと1時間10分というところのようですので、本当に10分程度の差しか生じないようです。通過する駅は12駅なので、快速のほうがもう少し頑張っても良さそうに思えます。
 取手でようやく駅そばにありつき、15時24分の特別快速に乗りました。常磐線の特別快速には、マダムの実家に行くときなど、まではちょくちょく乗るのですが、その先は乗る機会がありませんでした。我孫子通過という痛快事を体験したのははじめてではないかと思います。まあ特急に乗ればもちろん通過するのですが、昔の急行などは松戸や柏に停まらなくとも我孫子には停車していたりしたので、駅の格としては我孫子のほうが高いような印象を持っていたのです。特快が運転されはじめたとき、北千住と我孫子を通過すると聞いて驚いたものでした。その後、北千住には停車することになってしまいましたが、我孫子通過の快感はいまだ健在です。
 北関東の吹きっさらしの平野を長々と歩いて、すっかりからだが冷えてしまった気がしました。帰りの列車でも、最近は換気のため窓を開けていたりして、乗っていてもあまり温まりません。肌着がわりのTシャツにしみた汗が冷たくなっています。幸い雨には遭いませんでしたが、一日中曇りで気温は上がりませんでした。慄えながら帰宅しました。

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