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暗殺事件の衝撃 [世の中]

 昨日(7月8日)、午前中からとある演奏会のリハーサルに参加していたのですが、途中で事務所の人が、
 「やっ、アベさん心肺停止だってさ」
 と叫びました。
 一同「?」となって彼のほうを見ましたが、彼は、
 「あ、失礼失礼。スマホを覗いたらいきなりそんな話が眼に入ったもんで。気にせず続けてください」
 そうは言われても、なんだか気になります。
 休憩時間にスマホのニュースをチェックした人も居て、アベさんというのがほかならぬ安倍晋三元首相のことであること、奈良で参院選の応援演説中に撃たれて倒れたことがわかり、私もさすがに驚きました。私自身がニュースをチェックしたのはリハーサルが終わって、小腹がすいたのでマクドナルドで一憩しているときでしたが、安倍氏のファンであったマダムからもLINE経由で一報が入っていました。
 最初の頃は、散弾銃で撃たれたとか、まだ助かるだろうとか、いろいろ情報が錯綜していましたが、私がチェックしたころには、すでに兇器は手製の銃であったこと、首に孔があいたような状態でほとんど蘇生の見込みがないことが判明していました。そして間もなく、死去が発表されたのでした。

 ネット上での多くのコメントと同様、現代の日本でこんなことが起きたというのが、どうにも信じがたい想いで、しばし茫然としました。
 もちろん、社会党委員長であった浅沼稲次郎が右翼少年に刺殺された(昭和35年)事件をはじめ、政治家が襲撃された事件は戦後にも数多く起こっています。今朝の新聞にその一覧が出ていましたが、殴られたり銃撃されたりといったことはあっても、その後長らく、死亡に至るまでの事件は起きていません。しかし、平成14年2002年)に衆院議員の石井紘基氏が刺殺され、42年ぶりの死亡事件となり、平成19年2007年)には伊藤一長長崎市長が射殺されました。近年は致死率が高くなっているようです。死人は出ませんでしたが平成18年2006年)に加藤紘一氏の山形県の実家が放火されて全焼した事件も衝撃的でした。あと、平成21年2009年)に亡くなった中川昭一氏も暗殺説(毒殺説)が出まわっていましたが、これはネット上のネタみたいなもので、他殺説は公式には否定されています。
 政治家というのは、どうしても人の(それも、見知らぬ人の)恨みを買うことが多い仕事です。誤解されることも多いでしょう。私憤公憤義憤にかられて、つい直接的行動に移りたがる輩が少なくないのも、残念ながら事実です。
 これを「民主主義への挑戦だ」「民主主義の冒涜だ」云々と言うのは簡単です。実際今回も、与野党を問わずそういうコメントを発した人は数多く居ました。あまりに多くて、だんだんこの言葉が薄っぺらく思えてきたほどです。
 しかし、自分が恨まれやすい立場であること、世の中には言論より暴力で自己表現をしたがる手合いが確実に存在することを踏まえて、政治家にはやはり常在戦場というか、いつ襲われても不思議は無いという覚悟をつねに持っていて貰う必要があるのではないでしょうか。
 安倍晋三氏が日本の憲政史上最長の政権を保持したきわめて有能な首相であったこと、特に外交手腕において卓越した資質を持ち、民主党政権下で地に墜ちていた日本のプレゼンスを世界において回復し、大半の国々の指導者と緊密な友好関係を築いたこと、その思想に揺るがぬものを持ち、決して右顧左眄することの無かった骨太な政治家であったことは、もちろん私も認めます。とはいえ、それだけに敵も少なからず居たこと、誤解を受けるケースが多かったことも事実です。首相の座を退いたとはいえ、360度ひらけたような場所で、無防備に演説をはじめたという不用心さが残念でなりません。

 もちろん、安倍氏にはSPがついていて、演説のときも付き添っていました。しかしたったひとりだけだったようです。これでは360度に気を配るというのも、なかなか大変だったでしょう。
 銃撃は2回起こっており、どうも1発めはかすっただけで、2発めが致死的だったと考えられています。1発めは仕方がないにしても、なぜSPは2発めの銃撃から対象者を護れなかったのかと、だいぶ批難の声が上がっています。SPというのはそういう場合、すかさず護衛対象者に覆いかぶさってその場に伏せ、的を小さくして襲いづらくし、なんなら自分が代わって襲撃を受け止めるという訓練を受けているはずです。
 今回の事件は衆目監視のもとでおこなわれ、一部始終がカメラに収められていました。それでSPのそのときの行動も皆の知るところとなったわけですが、1発めの銃撃のあと、SPはほとんど茫然としたように棒立ちになっており、むしろ選挙運動員が動きはじめるほうが早かったくらいだったそうです。それで致死の2発めを撃たせる隙を与えてしまったわけです。
 銃規制の厳しい日本では、SPも銃撃をあまり想定していないという話もあります。しかし上に書いた長崎市長の事件はもちろん、結果的に無事だったとはいえ平成6年細川護熙元首相が銃撃された事件もあったわけで、想定していなかったとしたら認識が甘すぎるでしょう。
 今回の兇器は手製の銃だけにものすごい音と煙が発せられ、あたかも大砲が発射されたかと思うような騒ぎであったと言います。SPもそのために現状認識が遅れたのだろう、という擁護論も見ました。人間、いきなり耳をつんざくような音を聞かされると、本能的にフリーズしてしまうものでもあるようです。とはいえそれでは、なんのために厳しい訓練を受けていたのかわかりませんし、選挙運動員のほうが先に動き出したというのはどう見ても失態です。
 誰もが銃を持てるUSAのシークレットサービスは、日本のSPよりもはるかに高度な訓練を受けており、おそらく今回のようなことがあれば、犯人が銃らしきものを取り出した瞬間に射ち殺していただろうと思われます。ただ、危険を感じたら問答無用で射殺するという習慣が日本の警察にはありませんし、それを実行したときの世の中の批難の声もUSAとは較べものにならないくらい厳しいものになるでしょう。動機や背後関係を洗ったりするのも難しくなります。どちらが良いとも言いがたいのですが、とにかく護衛対象を護りきれなかったというのは、護衛者にとっては屈辱的な失敗であると言えましょう。

 いま話の出た、動機や背後関係については本当に気になるところで、幸い犯人は現行犯ですぐに逮捕されましたので、これから充分に時間をかけて解明して貰いたいところです。
 元海上自衛隊員だったということが、なぜか最初からやたらと強調されていました。元自衛官と言っても、任期制隊員であってほんの3年間、それも20年くらい前に所属しただけのことで、はたしてこの男の前歴が海上自衛隊員であったことが、今回の兇行にどんな関係があるのかよくわかりません。なんだか、近年着実に評判を上げつつある自衛隊の印象を、この機に乗じて下げてやろうというメディアの思惑のようなものが感じられたりもします。
 ただまあ、銃器の扱いに関して、ずぶの素人よりは詳しいだろう、という程度の説明にはなっているのでしょう。彼の手製の銃は、鉄パイプをガムテープでくっつけたようなお粗末なもので、服の裾からひっぱり出したときも、とても銃には見えなかったと言います。SPや地元警察などの反応が遅れたのもそのせいだったのかもしれません。
 「こんな銃でよく命中させられたものだ」
 と驚くコメントもネットに多数寄せられています。
 「よく暴発しなかったものだ」
 とも言われています。煙の濃さからして、相当量の火薬が用いられたに違いなく、下手をすると鉄パイプなど破裂してしまいかねませんでした。
 「ほかの人を巻き込まなかったのが奇跡的だ」
 というコメントも見ました。逆に、ほかの人を巻き込んでいないためこの犯人は死刑にはならないだろう、と残念がるコメントもありました。
 ともあれ、銃の自作なんて技術を、任期制の隊員が海自で教わるはずもなく、この男が元海自隊員であることに、そんなに意味は無さそうに思えます。
 動機については、安倍元首相に不満を感じていた、と最初のころは言っていたようです。ただ殺意に結びつくほどの不満というのがどういうものかはつまびらかにしません。現役の首相でなく2代も前の首相なのですから、よほど深い恨みでもないと、暗殺してやろうなどとは考えないでしょう。
 その後、ある団体と関わっているのが許せなかった、などと言い出した模様です。「団体」と報道ではぼかしていましたが、これはもう統一協会でしょう。安倍氏その他の有力政治家が統一協会幹部と昵懇だった、あるいは統一協会の大会などのときにご祝儀を出していた、というような話は、以前からネットでもちらほらと飛び交っていました。ただ、印象からすると一部の人間があちこちに執拗に書き込んでいた感じで、おおむねほかの投稿者からは相手にされていなかったようです。この犯人は不幸にもそれを信じてしまったのでしょうか。
 統一協会は、韓国発祥のカルト宗教団体で、日本人、特に女性の帰依者に韓国に対する罪悪感を植えつけ、韓国人男性と強制結婚させるような行為で知られます。キリスト教団体を名乗っていますが、キリスト教側からは異端として切り捨てられています(なお、「統一教会」と書かれていることもありますが誤りだそうです)。私らの世代では、大学に統一協会の下部組織である原理研究会が蔓延し、気を抜くとすぐ勧誘にとっつかまる有様でした。東大駒場キャンパスには、原理研の勧誘者が常駐しているようなエリアがあって、一名「原理ストリート」などと呼ばれていたものです。私の通っていた大学ではそんなに跋扈していたわけではありませんが、しかし原理研のメンバーと思われる学生はちらほらと存在していました。ときには原理研のイベントで合唱に参加しないかというような誘いもあり、宗教団体だけあってやたらと高額なギャラが出るもので、行ってしまった人も居たようです。
 韓国人男性と強制結婚させられた日本女性は、たいていひどいDVを受けたりして悲惨な境遇にあるようですが、洗脳によってそれが日本の過去の「侵略」への「贖罪」だと信じているため、理不尽な暴力に甘んじているとも聞きます。とにかくヤバいカルト団体であることに間違いはありません。
 そのカルト団体の幹部が、日本の政治家と昵懇だという噂は古くからあります。そのために、ヤバいカルト団体でありながら取り締まりを免れているというのでした。ほかの噂としては、統一協会のメンバーはすでに日本の企業や各種団体にすでにだいぶ浸透しており、政治家が知らずに援助を与えてしまっているというのもあります。
 統一協会に協力している日本の政治家というのは、時期によってさまざまな名前が挙げられていますが、ここ最近は安倍晋三氏とその周辺であったというだけの話で、根拠はまったくありません。
 それを信じて安倍氏が許せないと思った、というのなら、犯人は思想的には「左」より「右」に属するのかもしれません。残念ながら政治家襲撃事件のリストを見ても、犯人はどちらかというと「右」の人間が多いようで、「左」の人間はあまり襲撃を実行に移すことが無いような気がします。
 が、犯行動機の詳細はまだ完全に明らかになったわけではなく、今後の捜査が待たれます。
 何しろ、安倍元首相が奈良に応援演説に行くことは、前日に急遽決まったことで、あらかじめ知っている人はほとんど居なかったとのことです。その急遽行くことになった奈良に、殺意を持って手製の銃まで用意している人間がたまたま居たというのは、偶然が過ぎるようです。誰か内通者か命令者が居たのでは、と考えたくなります。犯人が奈良の住民であることははっきりしており、元首相を追ってどこからかやってきたというわけではなさそうなのです。
 黒幕が居るだろう、などと言うと「陰謀論者」として嗤われるのが最近の傾向ですが、やはりそこは明らかにして貰いたいところです。もし単独犯だったとすれば、安倍元首相が突然自分の住んでいる近くに演説に来ると知り、わが事成れりと天祐に感謝して、あらかじめ用意していた手製の銃を持って駆けつけたということになりますが、そこまでの殺意を抱く理由とはなんなのか、これも陰謀論と同じくらい突拍子もない事情ではないでしょうか。
 どういういきさつにせよ、銃を手作りするなどというのはすぐにできることではなく、以前からこの日あるを期して用意していたとしか思えない、という点がひっかかり続けるのです。警察にはぜひその辺をしっかり解明して貰いたいところです。

 安倍元首相が、世界の大半の国の指導者と良い関係を築いていたことは上にも書きましたが、インドブラジルでは喪に服することに決めたようですし、国連でも起立しての黙祷がおこなわれたとか。追悼の意を表して半旗を掲げることにした国もいくつもあります。現役の首相ではなく、すでに2代も前の首相にしてこの破格の扱いです。日本国内では、安倍元首相の外交上の功績について報道されることがごく少なかったので、元首相がこれほど国外で評価されていたことにあらためて驚いた人が多かったのではないでしょうか。
 今回の事件を、戦前の五・一五事件二・二六事件と較べる論評もありましたが、「元首相の暗殺」ということでは、ハルビン駅での伊藤博文暗殺と比較できそうです。安倍晋三が伊藤博文と並べられるクラスの政治家であったかどうかについては議論のあるところかもしれませんが、少なくとも世界に与えた衝撃という意味では伊藤よりもはるかに大きい存在だったと言えます。犯人の言葉が本当であるとすればですが、おそらく誤解によって兇行に及んだと思われる点も、伊藤暗殺犯の安重根と共通しています。
 なお韓国政府はさすがに哀悼の意を表していますが、韓国内のネットではお祭り騒ぎのようになっているようです。こんなめでたいことはない、久々に胸がスカッとした、みたいなコメントが飛び交っています。どういうわけだか韓国では安倍元首相は諸悪の根源みたいな扱いになっていて、メディアなどでも、安倍氏が健康上の理由で退陣したときには、これで韓日関係も修復されるだろう、などという論調が多かったのでした。実際には、韓国が不利益になるようなことを安倍元首相がおこなった事実は何もなく、ただの印象操作なのです。このあたりも、日韓併合にもっとも反対していた伊藤博文が、韓国内ではなぜか侵略の元兇、悪の帝王のような扱いになっているのと似ています。
 中国でも、「安倍が死んだことを祝して、3日間は全品半額!」みたいな看板を出している飲食店の写真がネットにアップされています。が、こちらは客が群がっている様子も無く、閑古鳥が啼いている雰囲気でした。さすがにわずかなりとも良識ある中国人にとって、人の不幸を喜ぶこういう醜態は、ドン引きものであったと思われます。投稿者も、あきれ果てたという感じのコメントをつけています。

 無条件に賛美できる政治家だったとは言いません。しかしいろんな意味で「大宰相」であったことを否定することは誰にもできないでしょう。改憲、教育改革、財政改革、まだまだやりたいことはたくさんあっただろうに、その道半ばで凶弾に斃れてしまったことは慙愧に耐えません。安倍晋三の遺志を引き継げるだけの実力を持った政治家がさしあたり見当たらないというのも心許ない次第です。
 現代日本の事件とは思えないような兇行。それがまた、現代世界の事件とは思えないようなロシアの暴挙のさなかにおこなわれたという点、いったいこれからどうなってゆくのだろうという不安を一国民として感じつつ、とにもかくにもご冥福をお祈りいたします。

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