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「健康ランド」ハシゴの旅(その1) [旅日記]

 2泊ほど出かけてリフレッシュして参りました。
 作曲仕事が重なって忙しい忙しいと言っていたのに何をしているんだとツッコまれそうですが、8月中がどうにも精神的に大変そうなので、思いきって7月中にリラックスしてくることにした次第です。またマダムと私の夏休みのあいだのスケジュールも案外と合わせづらく、2泊もするとなるとここしかとれなかったという点もあります。
 それで、わずか1週間前になって宿を手配しました。
 今年の1月に、近畿大学のグリークラブが私の男声合唱組曲『きょう、いきる ちから。』を初演してくれたので、大阪まで聴きに出かけました。その帰り、駿河健康ランドというところに一泊しました。主体は一種のスーパー銭湯で、宿泊設備が附属しているというていの施設です。そこがなかなか気に入ったので、もういちど行きたいと思いました。
 また、この施設を経営している会社は、他にもふたつ、山梨県石和長野県松本に同様の「健康ランド」を持っており、なんとこの3箇所のあいだを相互に往来する無料連絡バスを運行しています。つまり、静岡から松本までただで移動できるというわけです。それならば、いっそ駿河健康ランドに続けて、松本にある信州健康ランドに連泊してしまおうというプランを立てました。

 直前の手配でしたが、幸い部屋が予約できました。実は直前でむしろ良かったようで、お盆の頃も旅行へ行く候補日として考えていたのですが、そのあたりは駿河も信州も満室になっていたのでした。しかも、お盆や年末年始は無料連絡バスを運行していないということも判明し、いささか急な予定が決まったわけです。
 さて、駿河健康ランドのある興津まで行き、信州健康ランドのある村井から帰ってくる必要があります。こんな離れたところを行き来するためには、青春18きっぷを使うにしくはありません。そして18きっぷを使うなら、ただ最短距離で行って帰ってくるのは惜しくなります。往路の興津までは、そんなに回り道をする余地もなさそうですが、復路の村井からは、いろんな経路が考えられます。他にすることがあるのに、私は少なからぬ時間を、そのプランニングに費やしてしまいました。
 仕事のことも少々心配です。いちおう五線紙を携えてゆくことにしました。

 ともあれ27日(日)の朝、8時過ぎに家を出ました。青春18きっぷはすでに入手してありますが、川口駅でマダムと私のSUICAに千円ずつチャージしました。東京から熱海までの東海道線の電車で、少し旅行らしく、グリーン席に乗ろうと思ったのです。首都圏の普通電車のグリーン席は、料金をSUICAで乗車前に払うと少し安くなるのですが、東京駅でチャージとグリーン料金支払いを一緒にやっていると少々あわただしいと思われました。
 東京からは9時15分発の快速「アクティー」に乗車します。普通の東海道線電車に較べて4駅しか余計に通過しないという、さほど快速らしくない快速電車ですが、グリーン席とあいまって少しは旅行に出ている気分になります。
 幹線中の幹線と言って良い東海道線ですが、根府川から真鶴にかけての海岸風景は絶品と呼んで差し支えないと思います。風光明媚な車窓というものが、必ずしもローカル線の専売特許ではないことを思い知らされます。私はこの区間でいつも眼福を覚えているのですが、今回はじめて2階席からそれを見ると、わずかな角度の差なのに、海がさらに広々と見えることに気がつきました。かつて「アクティー」には2階建て車輌(215系)が使われていましたが、現在はそれが無くなり、いまや2階からこの景色を見られるのはグリーン席だけになりました。グリーン料金分くらいの価値はあると私は思ったのですが、どんなものでしょうか。
 熱海で乗り換えます。JR東日本JR東海の境界駅なのでやむを得ないとはいえ、以前はもっと先まで行く電車が何本もあったはずです。現在では、朝晩に沼津まで乗り入れる便がわずかにあるくらいで、日中の電車はすべて熱海乗り換えになってしまいました。東日本同士であるはずの伊東線に乗り入れる便すら、特急以外にはほとんど見られなくなりました。合理化ということなのでしょうが、融通が利かなさすぎという気もします。
 熱海発11時16分の普通電車は、例によってロングシートです。静岡県内の普通電車は、一時期クロスシート車輌が少し復活していたような記憶があるのですが、最近またロングシートばかりになっています。

 幸い、今回はそれほど長時間乗るわけではなく、吉原で下車します。上記の1月の駿河健康ランドからの帰途、「吉原中央駅」までの送迎バスを使ってみたところ、岳南電車吉原本町駅までわりと近く、思いがけずこのローカル私鉄に乗ることができました。ちなみに吉原中央駅というのはかつての富士馬車鉄道のターミナルで、現在は鉄道の駅ではなく、バスターミナルになっています。そうなっても「吉原中央」とせず、いまだに「駅」をつけて呼んでいるのでした。
 マダムがローカル私鉄好きであることは何度も書きましたが、岳南電車のことも気に入ったようで、全線乗れなかったのを残念そうにしていました。また、吉原本町駅のプラットフォームに掲示されていた「つけナポリタン」の案内にいたく心惹かれていたようです。近年、あちこちの市町村で、その土地の伝統とはあまり関係のない「ご当地グルメ」なるものが流行していますが、吉原ではそれが「つけナポリタン」なのでした。パスタを、別盛りにしたトマトベースのつけ汁にひたして食べるというもので、ラーメン界におけるつけ麺をパスタに応用したのでしょう。
 私は、何度か書いていますけれども、こういう風潮に反対ではありません。その土地の風土や伝統になんら根ざしていない、思いつきのような「ご当地グルメ」などなんの意味もない、と切って捨てる向きも多いとは思いますが、昼間からシャッターを下ろした店が並ぶ活気のない街並みを旅先で見せつけられることの多い身としては、たとえ単なる思いつきであっても、街がそれで盛り上がって、少しでも活性化するのならば、試してみる価値はあると考えざるを得ないのです。すぐに風土とか伝統とか言いたがる人は、まずご当地グルメに代わる街の活性化プランを提示すべきではないかと私は思います。
 ともあれマダムが「つけナポリタン」に大いに興味を持っていたので、今回吉原で昼食をとるように計画を立ててみたのでした。岳南電車は全線乗っても20分程度とごく短いので、まずは終点の岳南江尾(がくなんえのお)まで行って、その帰りに吉原本町で下車して「つけナポリタン」を食べる、ということにしていました。
 熱海からの電車が、沼津の手前でしばらく非常停止したので、吉原での乗り継ぎを少し心配しましたが、連絡通路はごくシンプルだったため、充分岳南電車に間に合いました。岳南電車はだいたい1時間に2往復程度しか走っていないので、1本逃すとかなり待たされます。
 1月に、岳南電車からJRに乗り継ごうとして、駅の外をだいぶ歩きましたが、乗り換え口でJRの切符を売っていなかったためで、逆にJRから岳南への乗り継ぎの場合は、岳南の出札口があるので構内通路を使うことができます。そちらを通れば乗り換えは非常に楽なのでした。
 出札口で、一日フリー乗車券を購入しました。これは年間を通して販売されていますが、平日と土休日とでは値段が違い、土休日用のは驚くほど安いのです。なんと、全線に片道乗って、あと1駅でも乗ればもう元が取れてしまうというスグレモノでした。
 井の頭線のお下がりを塗り替えて走らせている岳南電車に乗り込みます。沿線はほぼ全部工業地帯で、ちょっとJR鶴見線に通じるような雰囲気のある路線です。貨物用の側線が何本も用意されている駅も多く、本来は貨物主体の私鉄でした。ところが、貨物の扱いが年々減ってきて、最近ついに扱いをやめてしまいました。旅客だけではとても経営が成り立たないので、路線の廃止も考えたらしいのですが、地元が協力すること、利息金払いなどを切り離して身軽になることを条件に存続が決まりました。それまで岳南鉄道と言っていたのを岳南電車という社名にしたのはその時です。
 吉原を出た時にはそこそこお客が居たのですが、2つめの吉原本町、3つめの本吉原あたりで大半は下りてしまい、真ん中あたりにある比奈を過ぎると、乗っているのは私たちを含めて4人だけになりました。そして、他のふたりも明らかに「鉄」です。同類の嗅覚で、そうであることはすぐにわかるのでした。案の定、終点の岳南江尾に着くと、全員がそのまま折り返したのです。だいたい岳南江尾という終着駅は、工業地帯からも外れ、新幹線の高架が近くを通っているくらいが取り柄で、なんにもないところです。最近になってマックスバリュが近くにでき、ようやく人を呼べる要素が生まれましたが、それによって利用客が劇的に増えたわけではなさそうです。空気を運んでいる時も多いのではないでしょうか。

 戻りの便に乗り、吉原本町で下車します。つい半年前に来たばかりですから記憶も鮮明です。
 「つけナポリタン」を供する店は、かなり広域に点在しているようですが、吉原本町駅から吉原中央駅までが吉原の街の中心部と言って良く、そこそこの商店街のようになっています。つけナポリタンの店も少なくありません。
 1月にプラットフォームの掲示で見た案内と同じものが、ネットでダウンロードできたので、プリントアウトしてマダムに預けてあります。マダムは熟読玩味の上、いくつかの店を候補としてリストアップしていました。
 マダムの二押し三押しくらいの店はすぐ見つかりました。案内に載っているより値段が高いようだ、とマダムが言いました。何かのテレビ番組で紹介されたらしく、それ以来値上げしたのかもしれません。もちろん消費増税もありましたが、増税分以上の値上げ幅であるようです。
 ところが一押しの店が見つかりません。「吉原中央駅からすぐ」ということで、住所も出ているのに、その住所がどこにあたるのかがよくわからないのでした。しばらく歩き回ったのち、中央駅に掲げられていた附近の案内図を見て番地を確認し、その番地のあたりを丹念に歩いたのですが、やっぱり見当たらないのでした。
 と、一箇所、改装工事中らしい建物が見つかりました。
 「実はここなんじゃないか?」
 と私は冗談で言いましたが、その隣の建物の地番を見ると、どうやらその冗談が正鵠を射ていたようでした。つまり、マダムが調べたその店の住所と、その隣の建物の地番が、ひとつ違いだったのです。
 残念ながらあてがはずれてしまい、すぐ近くにあった「二押し」の店に入りました。構えは昔ながらの喫茶店といった趣きです。
 つけナポリタンは時間がかかる場合がある、などと警告してありましたが、さほどのこともなくテーブルに運ばれてきました。つけ汁の具材は店によってさまざまであるそうですが、その店のは鶏の胸肉とチンゲンサイが主でした。
 マダムはトマト料理に関しては一家言あり、自分で作る料理もトマトベースのものが多いのですが、このつけナポリタンには大いに満足していたようです。添えられていたレモンをパスタの上に搾ると、また違った風味が加わりました。
 その店にはillyのエスプレッソなどもあって、エスプレッソ好きのマダムはその点でも喜んでいました。

 吉原本町駅からまた岳南電車に乗り、吉原に戻りました。特に狙ったわけでもないのですが、昼食時間として吉原本町でとっておいた余裕時分がぴたりで、予想したとおりの電車に乗ることができました。
 このまま興津の駿河健康ランドに直行しても良かったのですが、まだ少し早いように思えたので、静岡まで行ってしまい、駅から近い観光地として登呂遺跡を訪ねてみました。頻発するバスに乗って10分ほどです。最近は吉野ヶ里三内丸山の大規模遺跡が話題に上ることが多いようですが、私の子供の頃などは歴史の教科書で必ず登呂遺跡について触れられていました。しかし、私が実際に訪ねたのは30歳をとうに過ぎてからのことでした。マダムもはじめてだったようです。
 復元された竪穴住居や水田、それに博物館なども面白そうだったのですが、16時半閉館とかでほとんど時間がありませんでした。ざっと眺めただけで帰りのバスに乗って静岡駅に戻り、17時00分の電車に乗って興津まで戻ります。興津では駿河健康ランドへの送迎バスが毎時20分に運行しており、この電車はちょうどそのバスに接続するタイミングです。歩いて行っても大したことはないという印象を持っていたのですけれども、さすがに歩くには少々難儀な距離であったようです。

 半年ぶりですが、施設には特に変化はありません。前回経験しなかったことをやろうと思い、ドクターフィッシュガラルファ)を申し込んでみました。人間の皮膚の角質を好んで食べる魚で、乾癬などの皮膚病にも効能があるそうです。水槽に足をつっこむと、ものすごい勢いで小魚が寄ってきて吸いつきました。ピリピリと微弱電流でも通しているような感触です。私の足は彼らにとってよほど美味だったようで、他の人が同じように足をつっこんできても、あんまりそちらにはゆこうとせず、私のところばかり群がっていました。マメができていたところもだいぶ削りとってくれたようです。10分間で540円という利用料金だったので、なんだか他の人に悪いような気がしてしまいました。
 20種類と豪語する風呂は今回も堪能しました。私はこういう大きな風呂に入る時にはコンタクトレンズをつけます。以前はもっと頻繁につけていたのですが、最近老眼が進んで、コンタクトレンズをつけると本などを読むのがつらくなりました。新しい度に作り直せば良いようなものですけれども、使い捨てのものを使っているので、まだ残っている分を使いきるまではそれももったいない気がします。それで、普通の外出や演奏の本番などの時に使うのはやめ、もっぱら温泉とかプールなどで用いることにしています。
 今回もコンタクトレンズをはめて入浴したのですが、上がってしばらくすると左眼に違和感を覚え、コンタクトを外そうとしたらどこかへ行ってしまいました。落としたのかずれたのかはっきりしません。ただ左眼がゴロゴロとするばかりです。持っていた目薬を大量に差したり、まぶたを指で押さえてマッサージしたり、いろいろやってみたのですが、一向に出てこないのでした。そのうち、眼の違和感が、ずれたコンタクトレンズのせいなのか、何度も眼球を指で触れたせいなのかわからないような状態になってしまいました。こうなっては、そのうち出てくるだろうと諦めるほかありません。何日も同じような状態であれば眼科のお医者にかからなければならないかもしれませんが、旅はまだ1日めです。やや先行きが不安になりました。

 この項、続きます。


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