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尾張瀬戸とんぼ返りコンサート [お仕事]

 少し間が空いてしまいました。先週中は、恒例の板橋ファミリー音楽会のための編曲作業にかかりきっていました。今回は曲数がそう多いわけでもなく、耳コピのために苦労するということもありませんでしたので、比較的楽ではありましたけれども、それでもやはり一定の手間はかかります。かなり大量の印刷も必要でした。
 そんなわけでなかなか日誌を更新するに至りませんでしたが、19日(日)にはいきなり愛知県までとんぼ返りしてきましたので、そのことを書いておこうと思います。
 一昨年の10月に、岐阜までとんぼ返りしたことがありますが、今回もそれとまったく同じ仕事です。N響のメンバーで形成された小編成のオーケストラの中でピアノを弾くというもので、その内容も前回と同じくスタジオジブリ作品の主題曲や挿入曲など、プログラムにも変更はありません。同一内容であちこちに持って行って演奏しているようです。いつもは私の後輩が担当しているのですが、この11月19日の回は都合がつかなかったとのことで、また私に代役を依頼してきたというわけです。
 楽譜はきわめて不備で、ピアノに関しては大半アドリブで弾くことになります。その後輩とは違う人が編曲した譜面がいくつかあって、そちらはわりとちゃんと書かれており、パート譜が無くて総譜を見て弾くという厄介さを除けば問題も無いのですけれども、後輩の編曲したものは、アドリブ前提で作っているため、ピアノパートにほとんど音符というものが書かれていないのでした。

 主旋律や全体のコードなどを参考にしながら、その場の勢いで弾かなければならないわけですが、こんなことは普通のクラシック系のピアニストには無理です。ジャズピアニストならできるかもしれませんけれども、その場合でもコードだけは指定してやらなければならないでしょう。総譜を眺めつつ(スコアリーディングと言います)とっさにアドリブでピアノを弾いてゆくのは、作曲の訓練を受けている者でないと難しいと思います。
 私はまあ、ある程度できますけれども、後輩のようにド派手に飾りつけるようなことはできず、せいぜい分散和音などでお茶を濁すくらいなものです。しかも、アドリブでやっていると、どうしても自己流のハーモナイズ(和音付け)をしてしまいそうになります。オーケストラの奏でているコードと一致しないと困るわけで、つまり自分の編曲であればアドリブもできるのですが、他人の編曲の上でアドリブというのは、実のところ相当に気疲れすることなのでした。
 しかもリハーサルは当日本番前にいちど、現地でおこなわれるだけです。前回ははじめてのことでもあり、ほとんど惑乱しそうになったほどでした。ギリギリになって後輩から、各曲の演奏方法を簡単に説明したメールが送られてきて、往きの新幹線の中でひたすらそのデータを譜面に反映させる作業をしていたのを思い出します。

 このたびは2度目で、曲目にも変化がないので、前よりは気が楽かと思って引き受けたのでしたが、2年あいだが空いていると、やはりいろいろ忘れていることがあり、前日になって譜面をひっぱり出して見てみたら、本当に大丈夫なんだろうかと冷や汗をかきそうになりました。しかしもう、逃げるわけにもゆきません。
 今回の場所は愛知県の瀬戸市です。ジブリコンサートは全国あちこちに持って行っているらしく、実際今年はこのあと毎週のようにスケジュールが入っていて、京都に行ったり福岡に行ったり沖縄に行ったりするという話を聞きましたが、私が関わったのは岐阜と瀬戸という、きわめて近い場所でした。少し残念ではあります。
 まあ、どこに行くにしろ、タイムテーブルはきっちりと決められていて、往復の新幹線のチケットもしっかり指定席で事前に送られてきています。この指定券、同じ日であれば他の列車の自由席に乗っても良いという扱いで、実際現地で親戚などに会うため帰りの便を遅らせたという人も居たのですが、1泊して翌日などということになるともう使えません。そうなれば帰りの交通費は自腹ということになります。ともあれ、自由時間にどこかに見物をして……などという時間的余裕は全然無いため、札幌へ行っても鹿児島へ行っても同じことだとも言えそうです。
 19日の朝、8時の「のぞみ」に乗りました。私が「のぞみ」にはじめて乗ったのは前回の岐阜行きのときであって、この日はそのとき以来です。私は基本的に新幹線が嫌いで、仕事でやむを得ない場合以外はなるべく乗りたくないと思っていますが、それにしても極端かもしれません。
 通路側の座席であったこともあり、車窓を眺める愉しみもあまり無く、朝早かったせいでときどきうつらうつらしているうちに、1時間40分の道中を走り抜けて名古屋に到着してしまいました。この種の仕事、将来リニア新幹線が走り出したらそちらの切符が送られてくるのでしょうか。リニアであれば名古屋まで40分になってしまいます。始発駅とされている品川までがそもそも40分くらいかかるわけで、こうなるともうほとんど「地方へ行く」という気分ではなくなりそうです。
 名古屋駅の太閤口でしばらく待たされました。会場まではチャーターしたバスで向かうことになっていたのですが、そのバスとなかなか連絡がとれなかったらしいのです。駅前でバスを駐めておける場所というのが少し遠く、われわれは迎えの人が駅まで来ると思い込んでおり、バスの運転手はわれわれがバスの場所まで来るものだと思い込んでおり、その辺連絡の行き違いがあったようなのでした。われわれがなかなか現れないので運ちゃんも途方に暮れ、何度も担当者に電話をかけたそうなのですけれども、その担当者というのがわれわれとは別行動ですでに会場に向かっていたりして、こちらとなかなか連絡がとれなかったという事情でした。
 結局30分近く太閤口で待っていたことになります。ようやく事情が判明して、バスの停車場所まで歩いて乗り込みました。バスはすぐ発車しましたが、途中が案外混んでいて、会場の瀬戸市文化センターまで1時間ほどかかりました。その結果、到着はリハーサル開始予定時刻の7分前というタイトな日程になってしまいました。
 いっそのこと電車で向かったほうが早かったな、と私は思いました。会場の最寄り駅である尾張瀬戸まで、名古屋駅から直通の電車は無く、地下鉄に2駅乗ってに出て、そこから名鉄瀬戸線に乗り換えて終点まで行くことになります。大きな楽器を抱えている人も多いので実際的ではないかもしれませんが、瀬戸線は栄町から尾張瀬戸まで全線乗っても30分くらいなので、乗り換えを考えてもチャーターバスより速かったように思われます。

 バスはしばらく高速道路を走り、長久手市に入る手前で一般道に下りました。そこから長久手市を突っ切って瀬戸市に入るというルートです。途中、リニモの下を走っているように思われる道を通り、それから愛知環状鉄道のガード下をくぐった気もしますが、そのあたりの土地鑑が無いので定かではありません。
 ともあれ長久手市内はまだかなり街中という感じであった車窓が、瀬戸市に入るあたりからはすっかり田園風景という風情になり、急激に田舎っぽくなってきたなと思っているうちに、あたりの景観と不釣り合いなほど立派な文化センターの建物が出現しました。ホールは1500席だそうですから、かなり大型です。
 楽屋に落ち着く間もなく、リハーサルがはじまります。私以外のほとんどのメンバーは、しょっちゅう同じプログラムを一緒に演奏しているわけです。ホールによって響きが違うため、そのあたりの微調整のためにはやはりリハーサルが必要なのでしょうが、楽器同士の合わせということについてはほとんど要らないのではないかと思えるほどに息が合っています。つまり、主に通常メンバーでない私の息をみんなと合わせさせるためのリハーサルだと言っても過言ではなかったかもしれません。
 実際のところ、どの曲に関してもダメ出しを食らうのはほぼ私だけで、だんだん凹んできましたが、これはまあ仕方のないことでしょう。うまく弾けていないというのではなく、テンポ感が合わないというのが主要な問題なのです。
 私のほうも、リハーサルの時点ではみんなの持っているテンポ感を探るような形になるため、どうしても消極的な音しか出せません。そうすると当然ながら、
 「もう少し固めの音を貰えませんか」
 といった要望が出されることになり、これまたつらいところではあります。
 そう何度も返している時間はありません。本番の所用時間プラスせいぜい30分程度しかリハ時間はとられておらず、しかも到着がギリギリになった関係でリハ開始もやや遅れています。大半の曲は、本番でなんとかするという口約束のまま流れてしまいました。本当に大丈夫なのか、とまたしても胃の痛む想いです。

 さらに追い討ちをかけるような不吉な事態が起こりました。本番の衣裳に着替えて、ズボンのベルトを締めようとしたら、そのベルトが切れてしまったのです。
 正確に言うと、普通の男性用ベルトというのは、バックルのところにギザギザの歯のついた留め具があって、その留め具で革ベルトをはさんでいます。ギザギザが革に食い込むことで、ベルトとバックルをつないでいるわけです。そういうつなぎかたであるため、ときどき革がギザギザのところでちぎれてしまうことになるのでした。その場合、一旦ハサミでベルトを切り、あらためて留め具に固定する必要があります。
 それがよりによって本番前などに起こるのが不運としか言えません。しかもハサミなんか持ってきていません。あとから考えると、ハサミは舞台屋さんが必ず持っているはずなので、ちょっと借りれば良かったようなものですが、そのときはあわてていて思いつきもしませんでした。
 ベルトを切らずにそのままバックルをつけようとすると、すぐに落ちてしまいます。やむを得ず一計を案じ、ベルト全体を裏返してはさんでみました。ベルトは何枚かの革が貼り合わせになっており、ちぎれたのはその一層ですから、裏返せばとりあえずは他の層に歯が咬んでくれます。舞台上の演奏者のひとりのベルトが裏返しだと気づく観客など居ないでしょう。応急処置としてそのようにしておいたところ、なんとか終演まではもってくれました。
 ちなみに帰りのバスの中でベルトは再び切れ、もういちどだけ応急処置したものの新幹線の中でみたび切れ、そのあとはやむを得ずベルトそのものを外して帰宅しました。ズボンがゆるくてかないませんでしたが、アジャスター付きだったので、それを締められるだけ締めて、なんとかずり落ちないように調整したのでした。

 そんな心許ない状態でしたが、本番はなんとか、小事故はあったものの無難にこなせたと思います。テンポ感に馴れさえすれば、音のタッチも自信を持って切り込むことができます。リハーサルでアドリブがおとなしかったところも、だいぶ華やかにできたのではないでしょうか。
 とはいえ、アドリブがわりにワンパターンになりがちであったことは争えません。練習してどうにかなることであるのかよくわかりませんが、もう少しパレットを多彩にしたほうが良いかもしれないというのが反省材料のひとつでした。
 名古屋から少し離れており、最寄り駅の尾張瀬戸からも徒歩13分という微妙な距離で、はたして1500席が埋まるようなお客が来るのだろうかと心配でしたが、それは杞憂でした。端のほうに若干空席はあったようですが、子供を中心にほとんど埋まっていました。やはりジブリは強いようです。ただ子供が多すぎて、MCなどがほとんど聴かれていないのではないかという気はしました。
 「となりのトトロ」「さんぽ」を演奏するときには、会場の子供たちが舞台に上がってきて一緒に歌いました。もっとも会場に上がる子供たちについては、あらかじめメンバーが決められていて、リハーサルもいちどおこなっています。ジブリ作品といえども、いつまでもトトロばかりじゃないだろうと私などは思ってしまうのですが、やはりいまだに子供たちに根強い人気を誇っているようです。しかも「さんぽ」はオープニング曲なので、どんなに飽きっぽい子でも、「トトロ」を観る以上は必ず聴いているでしょう。
 アンコールを入れて16曲、妙なテンションになりつつも弾ききりました。

 帰りの新幹線も、疲れが出たせいかうつらうつらして過ごし、品川で下りて上野東京ラインで帰りました。もちろん東京まで新幹線に乗っても良かったのですが、上野東京ラインに乗るとすれば品川からのほうが空いていると考えたのです。時間的には大差ありません。また東京から京浜東北線だと、坐れない可能性が高いと思いました。
 ところが、日曜だったせいか、品川から乗った上野東京ラインはかなり混んでおり、最初は坐れませんでした。新橋でボックス席の一部が空いたのでなんとかもぐり込みましたが、全体の混みかたは変わらず、東京でも上野でも坐っている客が大きく入れ替わるというほどのこともありませんでした。どうも、上野東京ラインの乗降パターンというのはよくわからないところがあります。
 終演後に楽屋で弁当が配られたのですが、その場ではまだおなかがすいておらず、バスや新幹線の中では食べづらく、結局家に持ち帰って、かなり遅い夕食として食べました。
 またいずれ、頼まれればやることになると思いますが、なんにしてももう少し時間的に余裕のある行程だと良いものだと思わざるを得ません。


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