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板橋オペラ『こうもり』上演 [日録]

 今年も板橋オペラが開催されました。前にも書いたとおり、今回の出し物はヨハン・シュトラウス『こうもり』でした。
 実は板橋区演奏家協会において、もっとも上演回数の多い演目がこの『こうもり』です。私が多少なりとも関わったのが4回、それから私が入会する前に1回やっていたようで、今日1期生のピアニスト佐野淑美さんが会場に来ていたのですが、その「第1回公演」のときの話を述懐していました。当時は楽器も少なく、佐野さんと、5期生の小山さゆりが連弾でピアノを弾き、それに若干管楽器が加わるという形の「オーケストラ」であったようです。
 それに較べると、今回はピアノを使わず、ちゃんと弦5部(第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)が揃い、打楽器を3人も用意できたのですから、隔世の感があります。

 オペラ公演でピアノを用いなかったのは一昨年の『ドン・ジョヴァンニ』がはじめてでした。それまでは、小編成オーケストラの響きを補う意味でも、どうしてもピアノを使わざるを得なかったのです。また協会員にピアニストがけっこう多いので、なるべく参加して貰うという意義もありました。しかし、本来は入っていないピアノがオーケストラに加わっていると、どうしても「代用品」的な響きになってしまいます。毎年指揮をしている成田徹くんとしては、できればピアノを用いない編成でやってみたいと切望したのも無理はありません。
 それで3回目の『ドン・ジョヴァンニ』である一昨年の公演でそれを試してみたわけです。
 ところがこのときは、残念ながら弦楽器が、ヴァイオリンとコントラバスしか揃いませんでした。上と下だけ弦の音で、内声部分は例によってサクソフォンアンサンブルに頼らざるを得なかったのでした。
 その次、去年の『カヴァレリア・ルスティカーナ』『修道女アンジェリカ』の2本立てでは、ピアノが復活しました。この回は、弦楽器は増えて、第二ヴァイオリンこそ欠いていたものの「弦4部」となっていたのですが、管楽器がいつもより少なめであったのと、打楽器が加えられなかったことで、やはりピアノで補強する必要があったのでした。
 そして今回、かなり頑張ってヴァイオリンやヴィオラを揃え、チェロも協会員だけでふたり賄えるようになり、木管楽器も充実しました。本来2管編成ですから、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴットが2本ずつあるべきですが、フルートとオーボエはちゃんと2本ずつ入り、クラリネットは1本だけだったものの、ファゴットの代わりにはテノールサクソフォンとバリトンサクソフォンが入っているので、パート的にはほとんど不足がない状態でした。弦楽器が揃ったため、いつも弦の代わりを務めていたサクソフォンが、その役目から解放されたのです。
 もっとも、クラリネットが1本しか無いというのは、やや不便なこともあり、第2クラリネットの役割は、第2フルート・第2オーボエ・テノールサクソフォンのいずれかが、手が空いていれば果たすというアレンジにしていました。どの奏者も手が空いていない場合はどうするかというと、ヨハン・シュトラウスくらいのスタイルでは、すべての管楽器が独立した動きを持っていることはまず無いので、木管楽器が全員参加している箇所というのはいわゆるテュッティ(総奏)であり、必ずいくつかのパートがユニゾン(同音)またはオクターブで重なっています。だから和音をよく響くように配置すればそれで良く、それぞれのパートがどうしても必要不可欠というわけではないのでした。
 問題は金管楽器で、本来はホルン4本、トランペット3本、トロンボーン3本が必要です。それが今回は、各1本しか使えませんでした。
 ホルン4本というのは、オーケストラの中では、いわゆるホルン・ブランケットと言って、4声体の和声をホルンで作り、全体の響きの中核もしくは下敷き(だから「毛布」と言う)とするという役割を果たすことが多く、それが無いとどうしても響きが薄くなりがちです。ただ、ホルンがそういう役割を担当するようになるのは、幸いなことに『こうもり』よりは若干あとのことでした。これがリヒアルト・シュトラウスのオペラだったりしたら大変だったでしょう。
 幸いうちのトロンボーンの金川マコトさんはかなり器用な奏者で、中音域あたりでホルンっぽい音にすることも充分可能ですので、ホルンの代用としてだいぶ活躍して貰いました。木管と金管のハイブリッドと言っても良いサクソフォンに若干の金管の役割を振った箇所もあります。
 そんなこんなで、いくぶん薄い響きではあるものの、今回はほぼフルオーケストラの音に近くなっていたのではないかと思います。

 ところで実は来年の公演で、『セーラ』を再演するという話になっています。初演のときは私は「演奏家協会員でできる限り賄う」という方針でした。そのため、オーケストラの編成もだいぶ遠慮したところがあります。弦楽器はヴァイオリン4、チェロ1、コントラバス2という不均衡な状態でした。これではチェロが弱いのではないかと思い、バリトンサクソフォンと重ねた部分がだいぶ多かったと記憶します。4挺のヴァイオリンは第一と第二に分けると貧弱になりそうだったので1パートのみ。従って第二ヴァイオリンとヴィオラの役割はやはりサクソフォンアンサンブルに託しました。木管もフルート1、オーボエ2、クラリネット1で、ただしサクソフォンは全部で5本使いました。
 金管はトランペット1とトロンボーン2。やはりホルンの音が欲しいなと思う箇所もたくさんありました。打楽器は使わず、ピアノが入ります。ティンパニがあれば格好良いのに、と感じるところも多く、それ以上にジャジーな部分がしばしば出てくるため、ドラムセットが使えればなあ、と思ったりもしました。
 要するに、本当はフルオーケストラにしたいのが本音というか、自分の中ではフルオーケストラの響きがあり、その仮想の響きを、「板橋編成」にアレンジするというつもりで前回は書いたわけです。
 今度は遠慮せずに、どんどん楽器の要望を出して下さい、と言われましたが、本当に遠慮しないのならば、当然フル編成が欲しいわけで、さすがにそれは無理です。せめて弦5部がそれなりのバランスで揃い、フルートとオーボエが2本ずつ、それにクラリネットと若干のサクソフォン……というわけで、今回の『こうもり』編成くらいのものが揃えばオンの字でしょうか。ハープも欲しいところですが、これはピアノでも良いかもしれません。20世紀に入ってからは、オーケストラの中の正規メンバーとしてピアノが加わるということもよくおこなわれるようになりました。
 いずれにしろ、自分のオペラが、さらに一歩フルオーケストラの響きに近づくというのは、大変嬉しいことで、今からアレンジが楽しみになっています。

 話が先走りました。今日の『こうもり』公演についてです。
 私は久しぶりに、客席で舞台を観ることができました。3年前の『セーラ』初演のときはさすがに客席で観ていましたが、それを除くと、去年と一昨年は字幕操作の任務に就いており、4年前の『トゥーランドット』では舞台に出ており、5年前の『フィガロの結婚』と6年前の『ラ・ボエーム』では照明のキュー出しのため調光室にこもっており、7年前の『ドン・ジョヴァンニ』(一昨年のもうひとつ前の公演)では通奏低音部分のハープシコード(電子キーボードで代用しました)を弾くのでオーケストラピットに入っており……と、毎年何かかにか当日の役目があって、客席におさまっているわけにはゆきませんでした。今年は珍しく、何も役目を振られなかったので、悠然と客席に坐っていたわけです。
 毎年、練習ピアノを多少割り振られることもあったり、合唱指導に携わったりすることもあって、稽古にも何度か顔を出すことが多いのですが、今回はそれもありませんでした。たいてい区民公募の合唱練習が本式にはじまる前に、私が2回ほど「初心者講座」なるものを受け持つのですけれども、今年は日本語公演ということもあり、合唱が歌う箇所がそれほど多くないという事情もあって、初心者講座が開かれませんでした。また練習ピアニストも、今年は全稽古で都合がついたらしく、私が行かなければならない日はありませんでした。私が顔を出したのは、オーケストラの練習のときに2回ほどで、あとはホール練習とゲネプロを見に行っただけです。
 私はどうも『こうもり』のときは、なんとなく公演とのかかわりが薄い印象があります。編曲を担当する箇所が、いままでの経緯からくる事情のため、他の演目のときより少なめである、という理由もあったと思いますが、今回は序曲以外はすべて編曲していますので、その理由ではなさそうだとはいえ、やっぱり微妙にかかわりが薄い気がするのでした。
 逆に、それだけ「観客」の眼で舞台を観られるようでもあります。それはそれでありがたいことかもしれません。
 マダムと並んで坐って板橋オペラを観たのも、『セーラ』のときを除くといつ以来か……というより、そんなことがあったろうか、と首を傾げたくなります。今年は私の両親も、マダムの父も、都合が悪くて観に来られなかったもので、マダムと義母と、3人で並んで観たのでした。役得というべきか、少し早めに客席に入り、好い場所を確保しておきました。もっともいちばん好い、たとえば通路うしろの中央ブロック最前席などは、さすがにちょっと気が引けて、取る気になれませんでしたが。
 しょっぱなから笑いを取りに来る芝居で、しかも今回はどういうツテがあったのか、関西系のキャスト──ファルケ博士役の橘茂氏、アルフレード役の土師雅人氏──に賛助で来て貰った甲斐もあって、いきなり捧腹絶倒です。何しろ、セリフに関西弁を混ぜるだけで、オペラを観に来ている客にとっては意外であり、笑いが湧き起こります。ついでに歌詞も関西弁にすれば良いのにと思ったほどでした。

 ──♪あんたはいまも わてのもんや~♪

 等々。
 また『こうもり』には、歌が無い役がいくつかあります。そのうち看守のフロッシュという役は、歌のある場面にすら登場せず、従って合唱やアンサンブルに参加することもなく、まったくセリフだけです。いままで協会のピアニストである和氣友久くんが担当して、怪演ぶりを披露していたものでしたが、今回はここにも、芝居が専門である遠藤裕司さんをお願いし、第3幕冒頭でかなり長いひとり芝居をして貰っていました。オペラを観るという頭で居たお客は面食らったかもしれませんが、これが非常に面白く、ある意味「二度おいしい」感じでもありました。
 ついでに第3幕には、ピコ太郎「ベンパイナッポーアッポーペン」のネタが使われ、そのネタのために私は追加の編曲をしなければなりませんでした。つまり贅沢なことに、このネタはオーケストラ伴奏で登場したわけです。実はある日いきなり「ペンパイナッポー……」の冒頭部分を編曲してくれと頼まれ、どこでどういう形で使われるのかも理解していなかったのでした。舞台稽古を観て、使われかたは理解したものの、はたしてお客にちゃんと受けを取れるか、微妙なところだと感じました。まるでシーンとしていたらいたたまれません。そもそもピコ太郎をネタにするには、少々遅いような気もします。
 本番ではどうだったかというと、それまでの流れで客席が充分温まっていたため、さすがにシーンとしているということはありませんでした。ただ大爆笑というわけにもゆかず、クスリと笑いが洩れたというところでした。いささか瞬間芸っぽすぎて、何が起こったのかわからなかった人が多かったかもしれません。

 いままでの『こうもり』公演では、カットする箇所がけっこうあったのですが、今回はほぼフルな形で上演されました。ところどころ曲を短絡した部分はありますが、曲数は全部揃っており、しかもコンサートシーンでヘンデル『エジプトのジュリアス・シーザー』(これが実に長い)のアリアと親父ヨハン・シュトラウスラデツキー行進曲を演奏するという豪華版でした。さらに上記のひとり芝居なんかもあったおかげで、上演時間は3時間を超えました。
 オペラシリーズがはじまった頃は、お客が飽きるだろうという配慮があって、上演時間を2時間くらいに抑えようとしました。そのためにいろいろ曲のカットなどを工夫したものでしたが、最近ではオペラの場合、長くてもお客がついてきてくれるということがだんだんわかってきたので、ノーカット版で上演することが多くなりました。もちろんそのほうが上演形態としては好ましいでしょう。

 ただし編曲者としては作業量が増えて大変ではあります。この際、オーケストラもオリジナル版でできるようになれば良いのですが。

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