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草津温泉雨中行 [旅日記]

 今年のゴールデンウィークは、いろいろ差し迫って大変なことになりそうでした。
 板橋オペラで再演される『セーラ』の再オーケストレーションに手間取ってしまい、例年なら連休に入る前に全データを揃えて印刷・製本担当に送り、私はお役ご免になるところ、まだ終わっていません。まあ、あと残っているのは最後の三幕二場だけで、このシーンは短い上に、後半は序曲の合唱がほぼそのまま使われるので、たぶんあと2日もあれば仕上げられるとは思いますが、それにしても遅れています。
 今回はほぼフルオーケストラになります。弦5部に、木管は全7本。クラリネットがひとりで、ファゴットの代わりにテノールとバリトンのサクソフォンが入るという変則編成とはいえ、ほとんど二管編成に近い楽器構成となります。金管も、ホルン・トランペット・トロンボーンが各2本ずつという豪華版です。ホルンが普通は4本だとか、トロンボーンの1本をバス・トロンボーンにできなかったとか、いくつか瑕疵はあるものの、充実した音が見込まれます。金管だけのアンサンブルの部分すら可能です。それに打楽器もふたり確保しています。さすがに予算の関係でティンパニは入れられませんでしたが、その代わり本式のドラムセットが加わります。あとハープも参加します。ほぼ二管編成と言って良いでしょう。
 ところが、フルオーケストラのパート数を舐めていました。全部で22パートあり、前回の16パートより6パート増えています。これが案外ばかになりません。1場分のパート譜を作るのに、丸一日では足りないので、われながら驚きました。
 そんなわけで予想よりも手間取ってしまっているのに加え、『セーラ』だけに専念するわけにもゆかないのでした。今年は妙にこの時期に仕事が集まってしまい、ある程度まとまったオーケストレーションの仕事がもうひとつ、しかも締め切りがけっこうタイトです。この締め切り、そもそも仕事を受ける時点から、いつくらいまでに仕上げれば良いのか問い合わせているのに、何度訊ねても
 「なるべく早くお願いします」
 というばかりで、そう言っても4月中はまったく手をつけられそうにないということを伝えておいたにもかかわらず、急に「5月7日まで」と通告してきたので仰天しました。これは到底無理なので、交渉した結果、なんとか12日までということになりましたけれども、それでもこれから着手する分量を考えると相当に厳しいものがあります。『セーラ』の最終部分およびパート譜づくりと並行して、双方を微妙にからませながら進めるしかなさそうです。
 さらに譜面作成サービスの常連さんから、シューベルトの交響曲全曲分の、クラリネットの移調パート譜を作成して欲しいという依頼も入りました。こちらはすでに終わらせたものの、やはりそれなりの時間を食い、『セーラ』やオーケストレーション仕事がさらに遅れることになったわけです。
 こんな状態ですので、この連休はどこへも出かけられないと思っていたのですが、あいにくとだいぶ前に、4月30日5月1日草津温泉に行くことに決めて宿をとっていたのでした。宿をとったのはもちろん、連休中がこんなに忙しくなるとは思わなかった頃です。最近は連休中の宿などは、かなり早めに押さえないと、非常識なほどの高額なところしか残っていなかったり、そもそも全然空いていなかったりします。このたびもけっこう早く手配したつもりが、すでに値上がりがはじまっていました。30日~1日というのは本来ゴールデンウィークの中でも平日であるので、比較的押さえやすいはずなのですが、今年はご譲位の儀に伴って全部休日になっています。宿のほうもそれを当て込んで料金を高めに設定していたとおぼしいのです。
 マダムが草津温泉に行ったことがないというので、連休中のレクリエーションとして草津を選んだのでした。キャンセルするわけにもゆきません。むしろここで強制的に休みを入れることではずみをつけたほうが良いかもしれないと思い返し、出かけることにしました。
 行程も何も考えていません。往路は、マダムが高崎で昼食を食べたいと言うので、とにかく高崎までの切符を買いました。マダムはさらに、特急に乗りたいとも言ったのですが、特急「草津」を利用するのであれば、長野原草津口まで直行すべきであって、高崎で途中下車するのはもったいないと言わざるを得ません。
 それで快速「アーバン」に乗りましたが、最近は長野原草津口などという、かなり遠い場所まで行くのでも、切符は「下車前途無効」なので困ります。国鉄の昔から、片道100キロ以内の切符というのは当日限り有効で途中下車ができないという決まりになっていましたが、その他の特例として、「東京近郊区間」「大阪近郊区間」では100キロを超えても当日限り有効・下車前途無効でした。その頃は東京近郊区間と言っても、北は熊谷小山、東は土浦、東南は成田上総一ノ宮君津、西南は小田原、西は大月あたりまでに過ぎなかったので、さほど問題はありませんでした。しかし最近はその東京近郊区間なるものがむちゃくちゃに拡大し、上越線方面は水上東北線方面は黒磯常磐線方面はいわき東海道線方面は熱海中央線方面は松本まで範囲に含まれてしまいました。また千葉県内全域(鹿島線を含む)もすべてエリア内となり、さらに吾妻線・日光線・烏山線・両毛線・水戸線・伊東線・八高線・信越線高崎口の全線が入り、加えて水郡線水戸常陸大子常陸太田小海線小淵沢野辺山間なんてところまで入ってしまったのでした。野辺山や烏山や常陸大子が「東京近郊」と言われても納得できないものがあります。
 この広域をすべて「当日限り有効」「下車前途無効」にするというのは無茶です。中にはかなり便数の少ない路線もあり、それを待つあいだちょっと外へ出るのも許さないというのでは、客の不満が高まっても仕方がありません。
 例えば高崎、宇都宮、水戸、成田、安房鴨川、熱海、高麗川、甲府、小淵沢などいくつかの「下車可能駅」を設定して貰いたいものです。近郊区間の広域化には、SUICAの利用可能駅が拡大したという事情があるのでしょうが、SUICAに下車可能駅情報を登録するなどごくごく簡単なことであるはずです。
 JRの運賃には逓減制というのがあり、長く乗るほど割安になります。例えば東京から大阪に立ち寄って博多まで行くような場合、東京~大阪、大阪~博多と分けて切符を買うと18360円かかりますが、東京~博多の切符を買って大阪で途中下車ということにすると13820円で済み、安いビジネスホテル1泊分くらいの差がつくわけです。川口から長野原草津口程度の距離なら、高崎で切符を分割しても30円差くらいなものですが、そうだとしても高くつくことに違いはありません。JR東日本にはこのあたりを一考して貰いたいものです。
 この季節は青春18きっぷのようなものも発売されていませんし、草津方面を対象としたフリーパスのたぐいも見当たりませんでした。結局、ごくごく普通に切符を買って行かざるを得なかったというわけです。
 グリーン車も使わず、普通車に乗りました。それでも多少は旅行気分を感じたいので、14輌め・15輌めにあるクロスシート車輌に陣取りました。しかしこの列車、途中の籠原で5輌切り離しとなります。先頭の11~15輌めが切り離されるので、もっとうしろの車輌に移らなければなりませんでした。このことは知っていたのですが、最初から、例えば9輌め10輌めのクロスシート席を狙っても、マダムと同じボックスに坐ることはできなかったのではないかと思います。長かったときには中ほどの車輌なので、乗客が多かったと考えられるのでした。
 高崎に11時過ぎに着き、早い昼食とします。西口の駅ビル「モントレー」の食堂フロアに行きましたが、パスタ屋の「はらっぱ」と鶏めし屋の「登利平」には、早くも行列ができています。人気店なのは知っていましたが、11時半前からこれほどの行列になっているとは、驚くやらあきれるやら。特に待っている人の居ない洋食屋に入りましたが、これが案外アタリで、マダムなどすっかり気に入っていました。あとで気づいたのですが、その店は「峠の釜めし」の「おぎのや」が経営していて、峠の釜めしで培った調理方法を洋食に応用したというふれこみだったのでした。なるほど味が良いはずです。
 12時37分発の小山行きに乗ります。目的地は吾妻線ですから、もちろん新前橋で乗り換えます。以前は上越線・両毛線・吾妻線の列車がそれぞれ高崎から出発していたのですが、細かい合理化がおこなわれ、上越線と吾妻線の一部は新前橋発着となりました。県都前橋へ向かう両毛線がいちばん利用者が多いと判断したのか、両毛線だけはすべて高崎発着となっていますが、それより利用者が少ないと考えられる上越線と吾妻線は支線扱いということで、両毛線と分岐する新前橋を起終点にしたようです。高崎~新前橋間の輸送量を精査すればこれが正しいのかもしれませんが、なんとも面倒くさいことになりました。
 そして、どの線もロングシートばかりになりました。何年か前までは、セミクロスシート車とまぜこぜだったのですが、これも整理したのでしょう。山の中へ分け入ってゆく吾妻線の電車が山手線ばりのロングシートでは、旅情が削がれること甚だしいのですが、これも時代の流れというものでしょうか。クロスシート車よりロングシート車のほうが、清掃にかかる手間や費用が少ないのだそうです。
 そのロングシートに揺られて、吾妻川を遡ります。私はこのところ睡眠時間が少なく、とりわけ出かける前の晩に至っては3時間ちょっとしか寝ていないので、しばしば眠気が襲ってきました。
 長野原草津口には14時20分に到着しました。この駅でなぜか20分近く停車して、万座・鹿沢口まで行く電車をあとに、改札口に向かいます。SUICA対応の機械は設置されていましたが、普通の切符は駅員が集めていました。
 ここから草津温泉まではバスとなりますが、乗り場に行くと臨時の急行バスが発車間際で、それに乗り込みました。この急行バス、本来は14時49分発であるはずなのですが、電車からの乗り継ぎ客のみを対象としているようで、私たちが乗り込むと、まだ発車時刻前なのに、あっさり出発しました。もう乗り継ぎ客は居ないと判断したのでしょう。
 急行なのでどこにも停車せず、草津温泉バスターミナルに直行します。バスしか通っていないのに、時刻表の索引地図では「みどりの窓口」のある「駅」として、停留所を表す丸印が緑色に塗られている不思議なバスターミナルです。昔からそうなので、私は不思議でたまりませんでした。ほとんど国鉄バス(その後JRバス)が仕切っているからでしょう。
 ターミナルで確認すると、なんと翌日に以降としていた白根火山への路線が運休中であることがわかりました。
 私は今回、草津温泉は4度目となります。1度目は確か板橋区演奏家協会が以前やっていた親睦旅行で仲間たちと訪れ、2度目はネット仲間のむくまえ氏およびドクターNとオフ会のノリで行き、3度目は宿泊はせず長野市方面からの帰途に湯田中からバスに乗って草津温泉に立ち寄りました。いずれの時も白根火山をほとんどセットとして訪れていました。それで今回も、はじめてだというマダムを帯同して行こうと思っていたのです。ところが、白根山の噴火警戒レベルが2になってしまったので、当分バスの運行は見合わせるということになったらしいのでした。
 これは参りました。白根火山に行けないとすれば、2日目は草津温泉の町中で過ごすしかありません。まあ幸い、草津の町中にはいくつも無料で入れる公衆浴場があり、そういうところをハシゴするのも悪くないかもしれません。
 さらにもうひとつ、この30日~1日の2日間、全国的に雨模様だったという残念な状況でした。往路上でもしとしと降っていたようではありますが、われわれが草津温泉に到着した頃にはすっかり本降りとなり、予約した宿まで行くあいだに、もちろん傘はさしていたのに、靴からズボンの裾から袖口からぐしょ濡れとなってしまいました。
 また、草津の町中は、とにかく山峡で坂が多いのですが、マダムが坂道が苦手で、歩いてもなかなかはかがゆきません。そんなこんなで、普通ならターミナルから15分くらい歩けば着く宿であったのが、30分近くかかったような気がします。
 おもに値段で選んだ宿でしたが、あとで調べると「日本で3番目に古いペンション」であったそうです。老舗というわけですね。利用者の口コミを見ると、建物についてはいささか微妙な評価が多かったものの、供される料理については絶賛している人が多いようでした。
 実際着いてみると、なるほど床があちこち傾いだり陥没したりしていて心許ない感じでした。なんだかこちらの平衡感覚が狂わされるような状態でいささか閉口しましたが、夕食は評判にたがわず豪勢なものでした。上州牛の陶板焼きをメインとした料理でしたけれども、前菜風なオシャレなのが4皿くらいあり、あとから運ばれてきた蒸し物、スープ、グラタンなどもたいへん美味でした。
 思えば4月30日は平成最後の日であり、この夕食が平成最後の食事でした。とても満足すべき「最後の晩餐」であったと思います。
 テレビは御代替わり関連一色で、部屋ではほとんどその種の番組を見て過ごしました。まあ、私は非常に眠くてしばらく寝ていたりもしましたが。
 一夜明けて、5月1日は令和最初の日です。テレビはやっぱりその関連の番組ばかりでした。宿の朝食が「令和最初の食事」でしたが、これもおいしくいただきました。
 白根火山へ行けなくなったので、何時に出発しなければということもありません。適当にチェックアウトし、かろうじて雨の上がった道を歩き始めました。
 近くにひとつ公衆浴場があったので、早速入浴します。観光案内所や宿で貰ったガイド冊子の地図にも記載が無く、新しい公衆浴場だったようで、木の香が匂うほどでした。
 前日にびしょ濡れになった靴がまだ乾いておらず、靴下が濡れてしまい、着脱しにくかったので、この日はもう諦めて、靴下は履かずに、直接素足に靴を履いて過ごしました。公衆浴場に何度も入ったので、そのほうが簡単でした。結局町中の公衆浴場にはつごう4箇所で入浴しました。マダムはそれに加えて、バスターミナル近くの足湯にも漬かったので、4回半というところです。
 他に、「湯もみ」体験というのをしてみました。草津温泉の源泉は70度近い高温なので、湯もみという共同作業をおこなって、お湯を外気に触れさせて温度を下げます。下げても46~48度という、普通の風呂よりはるかに高温のお湯なので、これに入浴するためには細心の注意が必要となり、「湯長」という管理者の号令のもと何人もで一斉に入湯しなくてはなりません。むくまえ氏・ドクターNと一緒に来たときに見学はしており、むくまえ氏がすっかり気に入って、ハンドルネームを「湯長」と変えてしまったりしたものでしたが、今回は実際に体験してみたわけです。大きな木の板をお湯につっこみ、リズミカルに上下させつつ裏返したりして、けっこうな重労働であることがわかりました。なお草津温泉のイメージキャラクターは「ゆもみちゃん」という女の子で、これは今まで来たときには無かったと思います。
 それから「熱帯圏」というのに行ってみました。町外れにあるドーム型の植物&動物園です。マダムは最初「熱帯園」の間違いではないかと言っていましたが、「熱帯圏」が正しいのでした。ドームの形を「圏」としゃれたのかもしれません。
 ドームの中は高温多湿に保たれており、入るとたちまち眼鏡が曇りました。各種のワニとかカメ、トカゲといった爬虫類を中心とする動物が飼われています。それからカピバラが何頭も居ます。カピバラに触れるというイベントもあるようで、マダムは楽しみにしていましたが、残念ながらこの日はやっていませんでした。
 ドクターフィッシュ(ガラルファ)の体験もあり、手足を水槽につっこめるようになっています。前に駿河健康ランドでやってみたときは、10分間で500円とられました。ここはそういう制限が無く、これがあるだけでも1000円という入場料が高くないという気がしました。私が足をつっこむとたちまち群がってきて、他の人のところに行かなくなってしまいます。そんなに私の足は彼らにとって美味なのかと思いましたが、今日に関しては素足に靴を履いているので、靴の革の匂いや味が連中を惹きつけていたのかもしれません。
 ともあれ、観光地の片隅にある子供だましの施設かと思ったら、予想外に充実したものだったので、大いに満足しました。
 マダムはそういう施設のほか、お店にも興味津々で、特に「草津ラスク」の店と、遅い昼食を食べたレストランに感銘を受けた様子でした。
 雨はまた昼まえから降りはじめ、前日と同じくびしょ濡れの散策となりましたが、マダムは草津温泉が気に入ったようでした。まずは良かったと思います。
 帰りの方法については何も考えておらず、16時をまわった頃にバスターミナルに行って確認してみると、東京へ直行する高速バスはすでに17時半という便しか無く、しかも窓口で聞くと満席とのこと。おまけに途中が渋滞でいつ着くかわからないという状態でしたので、諦めて鉄道の切符を買いました。「みどりの窓口」なので鉄道の切符もまとめて買えるのです。調べてみると、17時発のバスで長野原草津口まで行くと、吾妻線電車の終点である新前橋で、前橋始発の快速「アーバン」に乗り継げて、高速バスよりかなり早く帰れることが判明しました。
 行きも帰りも普通の電車やバスだけだったので、せめてと思い、最後の「アーバン」だけはグリーン車をとりました。高崎からだと微妙ですが、新前橋からならグリーン料金を払う甲斐もあると判断したのでした。
 グリーン席はそれなりに快適ですが、去年と一昨年に乗った「たんばらラベンダー号」「リゾートやまどり」のことが思い起こされます。グリーン料金よりかなり安い指定席料金だけで、3列シートのゆったり座席に乗れるというすばらしさ。実は今回もリゾートやまどり使用の臨時列車は無いかと考えました。時刻表に「四万温泉やまどり」という列車を発見したときは胸が躍りましたが、残念ながら運転日は4月20日と5月11日で、ゴールデンウィーク中には運転していませんでした。
 さて、2日間、仕事からすっかり切り離されて過ごしたわけですが、リフレッシュして明日から頑張れるかどうか。確かに多少のリフレッシュにはなりましたが、この時期の草津温泉はとにかく人が多すぎ、クルマも多くてしかも雨降りで、私としてはくたびれたほうが大きかったと言えなくもありません。ともかく残りの連休中、ふだんの仕事は全部休みにしてあるので、ひたすら馬力をかけるしかないでしょう。

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