SSブログ

墓参行と遊園地(2) [旅日記]

 高尾前橋で墓参りを済ませた私たちは、関東地方が猛烈な熱暑に見舞われた8月11日(火)の昼下がり、その関東の北端とも言うべき黒磯に到着しました。
 武漢コロナの感染発覚者が日々増える昨今、旅行もあまり推奨されることではありませんが、その一方で大打撃を受けている観光業を進行すべく、Go-toキャンペーンもおこなわれており、いまのところそのキャンペーンが取り消されてもいません。マスク着用やソーシャルディスタンスなどにきちんと留意すれば、大丈夫だろうと判断して出かけてきました。
 もっとも、伊勢崎桐生で40度超えの気温を記録したこの日、電車に乗っていても窓開け対策のためにろくに冷房が効かず、座席に坐っているだけでも蒸し暑いことこの上なく、マスクもまともに着用していると眼がまわってきそうです。鼻までは出して、口だけ覆っていました。
 黒磯からは、那須ハイランドパーク行きのバスに乗ります。宿はハイランドパークの少し先にあるらしいのでした。プリントしてきた地図を見る限り、500メートルかそこらと思われました。
 ところで、那須ハイランドパークというのは公共交通機関では非常に行きにくい遊園地です。那須塩原発着で黒磯を経由する路線バスが1日2往復あるだけで、しかもオフシーズンになると平日は運行していないようです。運営会社である関東自動車のホームページを見たところ、7月からだったか、「平日は土曜ダイヤで、土曜は休日ダイヤで、休日は特別ダイヤで」運行するなどという、ものすごくわかりづらい記載があって、面食らいました。8月11日は平日ですが、この記載によるならば土曜ダイヤとなり、従ってハイランドパーク行きも運行しているはずですが、もしかすると運行していないかもしれず、そうなったらタクシーを拾うしか方法がありません。
 路線バスの他、東京からの直通高速バスもありますが、コロナ禍のため今年は運転していないとのこと、これは確実にサイトに出ていました。
 コロナ禍が無かったとしても、那須ハイランドパークへの公共交通によるアクセスはこの3本のバスしかありません。ほとんどマイカーだけが輸送手段であるという、日本国内とは思えないようなレジャー施設なのでした。
 さて、黒磯駅に着いて、駅前の関東自動車のバス停に行ってみると、どうやらちゃんと運転している日であったようで、ひとまずほっとしました。バス停の時刻表を見ると、「平日」にも同じ時刻にハイランドパーク行きのバスがあるようで、ただし「学」と添え字があります。通学生だけ乗れる便があるのでしょうか。
 ほっとしたところで、少し離れたところにある関東自動車の事務所に足を運びました。日なたを歩くと、兇悪なほどの日射がぎらぎらと照りつけます。黒磯駅は標高300メートルほどで、105メートルの前橋からは200メートル近く上がってきていますし、位置的にもだいぶ北になるので、2~3度くらいは気温が低いはずですが、とてもそうとは思えない陽射しです。いや、陽射しはむしろ高度を上げるほうが強かったりするのですが、ともあれ肌をじりじり灼くような暑さでした。
 事務所は掘っ立て小屋のような小さな建物でしたが、窓口に近づくとひんやりとした風を感じました。中は充分冷房されているようです。
 わざわざ事務所を訪れたのは、バスカードを買うためでした。黒磯から那須ハイランドパークまでは大人ひとりで1170円、ふたりで往復すると4680円かかります。しかし、3000円のカードを買うと3370円分使うことができ、1000円のカードだと1100円分使えるそうですので、両方を4000円出して買えば470円分得になるわけです。この情報を事前に仕入れていたので、すぐに事務所に足を運んだわけです。
 バスカードを欲しいと言うと、事務所のおばちゃんは
 「はあ、回数券ですか?」
 と訊き返してきました。バスカードの宣伝ポスターは事務所の前にも貼ってあったので、私はそれを指し、
 「いや、これなんですけど」
 と言うと、おばちゃんは迷い無く回数券を渡してきました。昔、うちの近所を走る国際興業バスでも販売していた、金券式の回数券です。200円券が16枚、50円券が3枚、10円券が2枚綴られて小冊子のようになっているものでした。カードじゃないじゃん、と憮然たる想いにかられました。
 しかし、これで470円分を浮かせられました。おばちゃんは回数券と共に、路線図つきの時刻表や観光案内の冊子なども渡してくれたので、バスの中でも退屈せずに済みました。
 バス停で待っていたのは私たちの他にも何人か居ましたが、14時55分発の那須ハイランドパーク行きに乗ったのは私たちだけでした。他の人たちは、15時00分発の那須ロープウェイ行きに乗るつもりだったようです。このあたりは全体として那須地方ではあるのですが、大雑把に那須温泉郷板室温泉郷に分かれ、那須岳のロープウェイやサファリパーク南が丘牧場などがあるのは那須温泉郷側、ハイランドパークがあるのは板室温泉郷側なのでした。那須温泉郷側のほうが見どころが多く、名の知れた観光ホテルなどもそちらにたくさんあって、目指す客も多いのでした。板室温泉郷側は板室温泉とハイランドパーク以外にはさほどの見どころも無く、どちらかというと地味な路線です。
 走り出すと間もなく「板室街道」と書かれた道路標示があり、ひたすらにその道を走ります。やがて急激に登り道となり、明るかった空が急激に暗くなるほどに鬱蒼とした林の中を走ったりして、40分ほどで板室温泉に到着します。なるぼど見るからに地味な温泉郷で、玄人好みという印象を受けました。バスの折り返し所にわざわざ「板室温泉」と看板を出しているのが微笑ましいというかなんというか。
 板室温泉まではバスの便も多いのですが、ここから先が1日2往復、オフシーズンになると平日は運転無し(?)になる山道です。ぐいぐいと高度を上げてゆきますが、最高地点は途中の三沢台のあたりで、それからは坂を下りる形でハイランドパークに向かいます。
 やがて広大なハイランドパークが見えてきますが、バスはゲートをくぐると、斜面に設けられたこれまた広大な駐車場のあいだをぐんぐん下り、遊園地の入口前に到着したのでした。ゲートから入口までこれほど遠いとは思いもよりませんでした。当然、宿に向かうにはゲートまで歩いて戻らなければなりません。当然ながらずっと登り坂で、歩くのはかなりハードでした。駐車場が広いのは、マイカー以外に現実的なアクセス方法がほとんど無い那須ハイランドパークとしては無理もないことでしたが、混雑しているときはこの駐車場の上のほうまで埋まることになると思われ、到着時はともかく帰る際はだいぶしんどいことでしょう。
 結局ゲートまで歩くのに10分以上かかりました。翌日復路で確認したところ、この先の宿などに行くときは、終点のひとつ手前の遅山橋という停留所でバスを下りたほうがはるかに楽だったようです。

 ハイランドパークのゲートを出て、しばらく坂を下って川を渡り、そこからかなりの急坂を登って、少し横道に入ったところに、今夜の宿がありました。結局バスを下りてから30分くらいかかったことになります。英国の森ホテルクイーンズマナというところで、ホテルと称していますが実際には夫婦経営のペンションです。全部で6室しか無く、よく予約できたものだとわれながら感心するほどでした。
 案内された部屋には「ヴィクトリア」とプレートがかかっていました。他の部屋は「エリザベス」だったり「アン」だったり「メアリ」だったり、基本的に英国の女王の名前がついているようです。入ってみると非常にゆったりとした空間の使いかたをしており、特にバスルームがきわめて広々としているのが、効率重視型のビジネスホテルなどとは違ったゆとりを感じさせられました。調度なども英国式ホテルを意識しているようです。普通の宿なら煎茶を置いていそうなところが、紅茶になっていたりもしました。マダムも大喜びです。
 部屋にも風呂はついていますが、温泉になっている浴室が別にあり、そこは早い者勝ちで施錠して入れるようになっています。もう少し大きい宿だと、入浴時間を予約したりするところですが、6室なら早い者勝ちでも差し支えないというところでしょうか。
 到着時、なんとなく気分がすぐれなかったのですが、温泉に漬かり、それから部屋でわずかながらまどろんだらだいぶ回復し、夕食を食べる元気も出てきました。
 英国式を標榜する宿ですが、夕食はフレンチのフルコースでした。配膳や給仕はもっぱらマスターがおこなっており、奥さんがシェフを務めていると思われます。メニューはアミューズ・オードブルののちジャガイモのスープ、スズキの焼きもの、牛フィレの赤ワインソースなどと、きわめてオーソドックスな組み立てでしたが、地元産の食材などを使っているようで、味はとても良かったと思います。
 全員が着席してからコースをはじめるという方式で、これは部屋数の少ない強みというものでしょう。テーブルも6脚だけで、全部埋まっていました。おそらく夫婦者であろう男女ペアが私らを含めて4組、小学生くらいの女の子を伴った3人家族がひと組、それに女性同士のペアがひと組でした。
 男女ペアのひと組は自転車で旅しているようで、最初私たちの部屋の窓の外に駐輪されてマダムが憤慨していましたが、そののちもっと奥まった自転車置き場に移してあったので彼女も機嫌を直しました。それにしても、この高さまで自転車でやってくるとは恐れ入ります。
 食事はフルコースならではというか、まるまる2時間をかけて供されました。このテンポも、ゆったりした気分にひと役買っている感じです。
 前の晩のように脚が攣(つ)ることもなく、家に居ればまだ活動時間と言って良い23時頃にはすっかり眠くなり、気持ち良く寝ました。

 朝食が8時半からというのも、珍しくゆったりとしています。たいてい、朝食を供する宿では、7時とか、早いときは6時半くらいから出すことが多いのですが、そんなにあわてず、ゆっくりしたテンポに身をゆだねて貰いたいという宿のコンセプトによるものでしょう。ただ、前の晩早めに寝たので、6時過ぎに起きてしまい、朝食時間まで少々長くておなかがすくようではあります。
 朝食のほうはイングリッシュ・ブレックファストで、山盛りのサラダやスープ、卵料理などでかなり満腹します。実際、この日の昼食はきわめて軽いものでしたが、マダムもさほど空腹を訴えなかったほどです。
 朝食のあともしばらくゆっくりして、10時20分頃にチェックアウトしました。チェックアウトの事務も全部マスターがやっていて、シェフと思われる奥さんは最後まで登場しませんでした。食事のあとなどに顔を見せるかと思ったのですが、それも無く、
 「あんまり人前に出たくない人なのかもね」
 などとマダムと言い合っていたのですが、宿を出て少し歩きはじめたところで、うしろからその奥さんらしい女性に声をかけられました。別に用があったわけではなく、ありがとうございました、と挨拶してくれただけですが、人前に出たくないというわけでもないのかもしれません。
 再訪してみたい、居心地の良い宿でしたが、アクセスが悪いのが厄介です。実は那須インターからは近いようなので、クルマならわけはないのですが、公共交通機関を使おうとすると、私たちの使ったルートしかありません。チェックインのときに、クルマのナンバーを訊かれ、クルマで来たのではないと答えたら、
 「タクシーでいらしたんですか」
 「いや、バスです」
 「レッドラインですかね」
 「いえいえ、黒磯からのバスで」
 と答えると、マスターは眼を丸くしていたほどでした。
 レッドラインというのがわからなかったのですが、これは那須地域を巡回しているバスだったようです。時刻表などには載っていないので存在に気がつきませんでした。ただ、あとで案内を見てみましたが、ハイランドパークのあたりまでは来ていないようで、レッドライン利用でここまで来たという発想をマスターがしたのが不思議に思えました。

 さて、宿を出た私たちは、昨日の道を逆に戻って、那須ハイランドパークに着きました。ゲートからはこんどは下り坂なので、30分はかからないだろうと思ったら、なんだかんだでやっぱりかかってしまいました。
 チケットブースに行って、ファンタジーパスというのを購入します。入場料に加えて、中のアトラクションのどれでも利用可能という、要するにフリーパスで、そうでなければいちいちアトラクションごとに料金を払うことになります。入場料だけだと1600円、ファンタジーパスは5600円なので、損益分岐は4000円となります。つまり4000円分以上アトラクションを利用すれば元が取れるということです。
 しかし、ブースのお姉さんは苦笑混じりに言いました。

 「今日、午後からははっきり雨になる予報が出ていて、降ってきたら中止になるアトラクションもあるんですが、その場合でも払い戻しはできないんで、その点ご了承ください」
 確かにこの日(12日)は、関東一帯豪雨になる予報が出ていました。前日は熱波、こんどは豪雨と、関東地方はかなりわやくちゃなことになっているようです。那須地方も午後から雨ということだったようですが、そうなったらそうなったでやむを得ません。ハイランドパークには屋内のアトラクションなどもけっこうあるので、できるだけ愉しもうと思います。
 とにかく、先に外の、あるいは遠くのアトラクションから利用することにしました。最初に乗ったのは入口に比較的近いパニックドライブという小型のコースターでしたが、マダムが思いの外絶叫し、コースター系は心臓に悪そうなのでなるべく避ける方針になりました。各種コースターが充実しているのが那須ハイランドパークの特色でもあるのですが、まあやむを得ません。
 「水」系のアトラクションがいくつかあって、何しろ暑いので私はそちらを指向しました。同じ気持ちだった人も多かったようで、リバーアドベンチャーにしろウォーターコースターにしろ、他のアトラクションよりも混んでいた気配があります。
 観覧車スカイバルーンなど、「高さ」系のアトラクションも気分良く乗れました。もともと山の上に設置された遊園地だけに、高く上がるとすばらしい見晴らしでした。
 アトラクションはそれぞれけっこう料金が高く、ファンタジーパスの元を取るのはさほど難しくないような気がしました。ガイドマップにアトラクション料金も詳しく書いてあったので、計算しながら乗っていました。
 16時00分のバスで発たなければならないので、15時30分くらいまでには遊び終えなければならないでしょう。屋内コースターである「SHINPI」に乗ろうと思ったら、消毒のために14時30分から15時まで運転中止となっており、微妙なタイミングでした。15時までは20分以上ありますが、そのまま待っていれば再開したときに一番乗りができ、さっさと済ませられます。他のアトラクションをもうひとつくらい利用してくる時間はありますが、それをやると「SHINPI」でも待たされてしまう可能性が高くなります。そうすると入口まで戻る時間が厳しくなります。那須ハイランドパークは、敷地面積が広い以上に、山の斜面を切り拓いているだけに、園内は階段や坂道だらけで、考えている以上に移動に時間を食うと思われます。
 結局そのまま待ち、もくろみどおり一番乗りを果たしましたが、賢明な判断であったかどうかはわかりません。
 とはいえ、昼過ぎには空はむしろ晴れてきて強烈な陽光が降り注ぎ、雨の気配などまったく感じられなかったのは幸いでした。あとで見たら、腕が相当に焼けており、腕時計と、ファンタジーパスのリストバンドチケットの部分だけ焼け残って縞々になっていました。
 ふだんの年なら、夏休みのこの時期など、もっともっと混んでいただろうと思われるのですが、コロナ禍のおかげかさほどのこともなく、どのアトラクションもわりとすんなりと乗れて、数も稼げました。最終的には、11種のアトラクションを利用し、いちいち料金を払ったとしたときの合計金額は6400円となり、充分に元が取れました。迷路系なども好きなのですが、時間を要するので今回は断念しました。そもそも全部を体験するのは一日ではおそらく不可能で、オフィシャル宿泊施設である「TOWAピュアコテージ」でも泊まり、割引特典を利用して2日間くらいかけなければ、那須ハイランドパークはとても遊び尽くせないと思います。

 16時00分のバスで黒磯駅に戻ります。そこからは普通に、東北本線の電車を乗り継いで帰宅しました。少し前まで、黒磯から直通で湘南新宿ライン上野東京ラインに入る電車があったのですが、いまは朝の時間帯に上野行きが何本かあるほかは、ほぼ全列車が宇都宮乗り換えとなってしまいました。
 乗った電車の窓は濡れていました。私たちは雨に遭わずに済みましたが、関東地方の豪雨は本当に実現していたようで、その豪雨の中を通り抜けてきた電車がずぶ濡れになっていたのも当然なのでした。なんと私の住んでいる川口市が、テレビニュースで採り上げられるほど浸水していたようで驚きました。まあ川口市の中でも、北側の東川口のほうだったようで、私の住んでいる南側は大丈夫だったようですが、在宅していたら気が気でなかったかもしれません。
 11日の猛暑も12日の豪雨もかろうじて避けて帰ってきましたが、川口に下り立つと夜になっても蒸し暑く、那須高原の涼気をつい思い出してしまうのでした。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。