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GDP雑感 [世の中]

 日本のGDP(国内総生産)が、ドイツに抜かれて世界第4位になるのではないかと言われています。
 20世紀の最後の20年間くらいは、日本のGDPはずっとUSAに次いで2位をキープしていたのですが、しばらく前に中国に抜かれ、そしてこんどドイツに抜かれるとなると、日本の強みであった経済力がどんどん落ちてきているように見え、力を落とす人も少なくないようです。また、一部には大喜びな人も居るようですが。
 ただ、現時点でドイツの経済力がそんなに強いようにも見えないのが不思議なところです。ウクライナ戦争にも関連して、電力が際限なく高騰し、それにつれてインフレが加速して、そのわりに国民の所得は追いつかず、むしろ青息吐息といった印象を受けます。自動車産業のEVシフトを高らかに謳い上げたわりには、その後うまくゆかずに四苦八苦しています。いまドイツと立場を代わってくれと言われても、あまり喜びたくはない気がします。
 なんのことはないので、ドルベースでGDPを算出した場合に、現在は円安であるために日本の額が小さく見え、それに対してユーロは高めであるためにドイツが大きく見えると、どうやらそれだけのことであるようです。たとえば円がいま急に1ドル100円になったとしたら、日本のGDPはたちまち1.5倍くらいになり、ドイツなど寄せつけないくらいの水準になることでしょう。
 とはいえ、こんなに円安なのは、やはり日本の経済力が落ちているからだ……という見かたをする人も居るでしょう。
 そういう一面も無いとは言えませんが、過去を鑑みると、日本はどちらかというと、通貨が安いときに躍進する性格の国であるようでもあります。民主党政権のころなど、たいへんな円高であり、政府もそれを放置していました。その時代の国内の行き詰まり感、閉塞感といったら無かったと思います。円高では輸出が不利になり、企業はどんどん海外へ逃げ出しました。
 もちろん逆に輸入は有利になるわけですが、日本の輸入品というのは食糧や原材料が多く、実は額ではそれほどの大きさになりません。輸入した原材料を用いて高度な付加価値をつけてそれを輸出するというのが日本の貿易の型であることを思うと、円高はあまりメリットにならないのでした。
 せいぜい海外旅行のときに助かるという程度です。外国製品が安く買えて良いじゃないか、という意見もあるでしょうが、趣味的な品物ならともかく、現在の日本に、どうしても舶来物でないと、と言えるほどに欲しくてたまらないような外国製品があるのかどうか。
 ここしばらくの円安で、海外に逃げていた企業もだいぶ日本に帰ってきました。外国の工場で作ったものを日本に送るよりも、国内工場で作ったほうが安くなったからです。この影響で、どうやら税収は過去最高になる見通しです。
 だいぶインフレも加速しつつあります。毎日の買い物が、明らかに値上がりしています。しかし、USAやヨーロッパ諸国に較べれば、まだまだ抑制の利いた状態と言えましょう。これでもう少し収入のほうも増えてくれれば言うことは無いくらいです。いまの日本は、珍しくも世界の中でも住みやすい国のひとつになっていると言え、名目的なGDPがドイツに抜かれようが、そんなに気にすることは無さそうに思えるのです。

 中国がGDP2位というのも、私はいまだに疑っています。2位と「称している」だけではないかと思うのでした。
 中国の通貨である人民元は、そもそも変動相場制ではありません。通貨バスケット制という、複数の国外通貨に連動する一種の固定相場制を採っています。米ドルとの連動は2010年に切ったようですが、ほかのいくつかの通貨とはいまだに連動するようになっています。連動する通貨が高くなれば人民元も一緒に高くなるわけです。
 通貨バスケット制は、経済規模の小さい国ではわりと便利なのですが、世界第2位を称する国がいまだにこの為替制度を採っているのは異様です。はたして、中国が日本と同じような自由変動相場制に切り替えたとき、人民元にそれほどの力が残っているのか、はなはだ疑問です。
 それ以前に、変動相場制の円と、固定相場制の人民元を同列に並べて、ドルベースでのGDPを比較することに、どれほどの意味があるのだろうかと、経済にど素人の私は思うのですが、誰かわかりやすく解説してくれないものでしょうか。
 ともかく、中国から出てくるいろんな数値は、とてもそのまま信じられるものではないと私は考えています。

 GDPという数値には、さまざまなものが含まれるようで、そのひとつに治安維持費などもあります。
 日本の社会も、最近だいぶ物騒なことになってきているように感じますが、犯罪の数自体はずいぶん減ってきているとか。突出した目立つ犯罪が多くなっているだけで、件数は決して増えていないそうです。
 犯罪が少ないことは、治安維持費がかからないことでもあります。GDPが少なく見えるのは、そのためでもあるとどこかで読みました。それなら、むしろ誇らしいことでもあると言えます。
 そういえば大学受験のとき、政治経済の試験で、GNP(当時はGDPよりもGNP=国民総生産が重んじられていました)に含まれないものはどれか、などという問題があったことを思い出します。私は共通一次世代の、しかももっとも大変だった五教科七科目世代でしたので、音楽大学志望なのに政経の試験なんかも受けなければなりませんでした。そのときその問題に正答したかどうか忘れましたが、

 ──ウソ~、こんなもんもGNPに計算されんの?

 などとびっくりした記憶がありますので、たぶん間違えたのでしょう。とにかく「生産(Product)」という言葉からはまるでイメージできないようなものでも計算に入れるのが、高校生の私には納得できなかったわけです。逆に、どう見ても何かを「産み出して」いるのに、GNPには計算されない行為があるというのもよくわかりませんでした。GNPもGDPも、市場で取り引きされる経済行為を対象にした数値なので、直感的なイメージとは食い違うことがよくあるのを知らなかったのでした。
 要するに、GDPというのは気が遠くなるほどの項目の積み上げであり、その中には素人が思ってもみないような要素も含まれているので、単に出てきた数字を眺めただけでは、その国の本当の国力などはわからないと言って良さそうです。
 いまドイツと入れ替われと言われても躊躇しますし、中国と入れ替われと言われたら大半の日本人が即座に拒否するでしょう。USAと入れ替わることだって気が進まないという人が多いかもしれません。GDPは国力のひとつの指標ではありますが、その国の暮らしやすさを保証するものではないようです。

 同じことが人口にも言えます。高齢化と少子化が進んで、日本の人口がこれから減少に向かうのは避けられない趨勢となっています。これも、さあ大変だと大騒ぎしている人が多いのですが、必ずしも人口がその国の豊かさを表すものでないことははっきりしています。人口が多いほうが豊かであるのなら、人口が多い国ほど裕福でないとおかしいわけですが、次の国々が日本より豊かだと考えられるでしょうか。

 【2023年世界人口ランキング】
   1. インド
   2. 中国
   3. USA
   4. インドネシア
   5. パキスタン
   6. ナイジェリア
   7. ブラジル
   8. バングラデシュ
   9. ロシア
   10. メキシコ
   11. エチオピア
   12. 日本

 なんらかの意味合いで日本より裕福と感じられるのは、USA以外には無さそうです。USAを除き、「日本に居るより良い暮らしができそうだから、移住する」と言いたくなるような国は、少なくとも私にはひとつもありません。そして上に書いたとおり、USAでさえ最近はためらう人が多そうです。年収10万ドル以上あっても住居を確保できず、キャンピングカー暮らしのホームレスになってしまう、なんて話を聞くと、とても住みたい国とは呼べないでしょう。病気になっても医療費が高すぎて病院にかかれない、カリフォルニアなんかだと最近では950ドル以下の窃盗は軽犯罪扱いで不起訴となる、などなどとマイナス要素の話が続々と入ってきます。
 多くの日本人が憧れる北欧あたりの国は、たいてい人口が1000万にも達しません。近年は北欧も、移民が増えて治安が悪化している、おそろしく税金が高い、なぜか異様に鬱病患者が多い、などの負の面も明らかになって、ひところほどの魅力がなくなってきたようですが、それにしても北欧的な暮らしを、なんとなく豊かなものと憧れる感覚はまだ残っているでしょう。人口もGDPも、日本にははるかに及ばない国々なのにです。
 結局、人が豊かさというものを感じるには、人口もGDPも、一面の指標にはなっても、決め手にはならないということなのでしょう。そしてそのことを、多くの人はうすうす察していると思われます。
 それでは、何が決め手になるのでしょうか。いろんな考えかたがあるでしょうが、私の考えとしては、「選択肢が多いこと」がその大きなものだと思います。東京から大阪へ行くのに、新幹線だけでなく、飛行機、普通列車、夜行列車、夜行バスなど、いろいろな手段から選べるというところに、われわれは豊かさを感じます。同じように、いままでの学校教育以外のルートで社会人になる人がたくさん居るのも良いし、勤務形態を選べる会社も良いですね。ユニクロがあれだけ世界中で繁盛しているのは、きめ細かく選択肢を用意しているからです。あらゆるデザインの服に、すべてのサイズが用意されているというところに、人は安心感と豊かさを感じるのです。
 残念ながら、日本の経営者の中には、いまだに高度経済成長期の規格大量生産の発想から抜けられない人が多く見受けられます。その発想からすると、人口やGDPの規模が縮小することは一大事で、とにかく移民を大量に入れてもそれらを維持しなければ大変なことになる、という考えになってしまうでしょう。しかし、いまはもう多品種少量生産の時代です。
 指標は指標として、参考程度にとどめておくのが良いのでしょう。GDPや人口の順位が下がることが、日本の凋落を示しているとは、私には思えないのでした。

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