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続・自作のオーケストレーション [お仕事]

 また編曲作業の多い季節となりました。
 秋から冬にかけては、翌年早々に開催される板橋ファミリー音楽会のための編曲に追われることが多いわけですが、それは最近、作業量としては減っていました。ファミリー音楽会のメイン企画が、このところ有名オペラのダイジェストという方向にシフトしてきたからです。
 つまり、出演を希望する人には圧倒的に歌手、それもソプラノ歌手が多く、そのメンバーを割り振りするのにずっと苦労してきたのですけれども、それならいっそほぼ全員をオペラのプリマドンナにしてしまって、とっかえひっかえアリアを歌わせれば良いのではないか、という素晴らしい案が出たのでした。
 去年1月のファミリー音楽会で、その最初の試みとして、『椿姫』をやってみました。ヒロインのヴィオレッタ役を次々と取り替えつつ、そのときのヴィオレッタ以外の歌手は脇役とか合唱にまわるという按配です。もちろん、そういうプランがいわば「シャレ」になるような演出を施してのことで、そうでなかったら何をやっているのかわからないことになるでしょう。
 これがなんと、お客には大受けだったのでした。
 しかも意外なことに、出演者にも大受けだったのです。せいぜい3、4分の時間を貰って歌曲などを歌うよりも、1曲ずつでも良いからプリマドンナを演じるというほうが、歌手にとっては魅力的だったのかもしれません。
 それで、今年の1月には、こんどは『カルメン』を扱ってみました。カルメンはそもそもソプラノ役ではなくてメッツォソプラノ役だというのに、これもみんな気合いが入りまくり、これまたお客に大受けしたのでした。
 特定のヒロインにそうそう大量の出番のあるオペラというのは限られているので、遠からずネタ切れになりそうではあるものの、しばらくはこの路線で行けそうです。来年、つまり今度のファミリー音楽会でも、また別のオペラを扱う予定になっています。
 話が逸れましたが、こういうオペラ演目がメインとなった結果、いままでけっこう数の多かった、歌の曲にひとりから数人の楽器奏者を加えた演奏という形態の演目が少なくなりました。オペラ演目のほうにもピアノ以外の楽器が加わることもありますが、これは編曲者の手を通さず、奏者が原曲を見て、自分が加われる部分を判断してアドリブで参加するというのが通例になっています。
 それで、私の作業も減ったわけです。まあ、オープニングやエンディング、それに中盤のお楽しみステージなど、大がかりなものはそのままなので、そう劇的に量が減ったということでもないのですが、なんにせよ曲目が少なくなったというのはありがたい話なのでした。リハーサルのときも、自分が編曲した分はチェックしていなければならないので会場に詰めている必要がありましたけれども、その時間もだいぶ減りました。
 この秋も、ファミリー音楽会がらみだけであれば、そう大変というわけでもありません。
 しかし現在、それ以外にも、わりに大きな仕事が控えているのでした。
 主なものとしては、『セーラ』および『星空のレジェンド』の再アレンジです。

 どちらも、ほかでもない私自身の作品なので、他人の作品をアレンジするよりはオリジナリティを活かせるし、やりがいもあると思うのですが、なぜ同じ時期にくる?……と嘆息せざるを得ません。
 そういえばこの2作、作曲するときも並行進行でした。2014年の下半期は、この2作の作曲に塗りつぶされていた観があります。
 初演もわずか1週間(正確には6日)差でした。『セーラ』は上演に約3時間を要するグランドオペラ、『星空のレジェンド』はこれまた約1時間を要する音楽物語(事実上オラトリオと言って良いと思います)で、私の作品中でも大規模なものです。演奏時間だけで見れば第1位と第4位に相当します(ちなみに第2位は『葡萄の苑』、第3位は『豚飼い王子』です)。
 同時期の作曲、同時期の初演、そして同時期の再アレンジと、この2作はまるで双子のようです。
 『星空のレジェンド』のほうは毎年6~7月に上演しており、すでに4回を重ねています。私自身は、この作品は最終的にはフルオーケストラを伴う曲にしたいと作曲した時点から考えており、関係者にもそれとなく言ってありました。ただ先方も予算的に厳しいらしく、なかなか色好い返事をくれません。確かにオーケストラを使うとなると、いままでとは段違いの経費がかかるでしょう。
 しかし、3回目の上演くらいから、とりわけ和太鼓や鉦などが加わる終曲については、ピアノ伴奏だけでは音量的に支えきれないという状態がはっきりしてきました。4回目にあたる今年はコーロ・ステラの本番と重なって聴きに行けなかったのですが、事後に送って貰ったDVDを聴いてみると、やはり終曲のピアノがどうにも物足りません。
 台本作者兼企画推進者である大川五郎先生は、『星空のレジェンド』をオーケストラ化したほうが良いという私の意見に賛成して下さいましたし、一足飛びのオーケストラ使用が無理なら、知り合いの電子オルガン奏者に頼んでみても良いとのことでした。そのオルガン奏者は、オーケストラスコアから自分でアレンジできる人らしいので、その意味でもやはりとにかくオーケストレーションはやっておきたいところです。
 そんな話をしていたので、前にちょっと『星空のレジェンド』のオーケストレーションについて触れたエントリーもあります。しかし、実際に企画運営をしている合唱連盟からは、どうしても渋い返事しか反ってこなかったのでした。
 それが、ここへ来て急に話が動き出しました。といってもすぐに来年の上演からオーケストラを使うということではなさそうなのですが、少なくともいつそういうことになっても対応できるように、オーケストレーションを済ませておきたいという私からの言い分が通った感じです。大川先生もお口添えをしてくださったのでしょう。
 合唱団員もお客も、年々集めづらくなっているという事情もあるようで、それならばなおのこと、「オーケストラと一緒に歌える」という目玉があって良いでしょう。またこの作品を平塚市だけのものにせず他の街に持ってゆきプレゼンするような場合も、オーケストラ作品であるほうがむしろアピールしやすいと思います。普通に考えるとピアノ伴奏のほうが予算が少なくて済み、相手も受け容れやすいだろうと思いがちですが、イベントごとというのは実はそういうものではありません。むしろ派手にぶち上げたほうが相手に印象づけられるはずです。
 ともあれそんなわけで、先日大川先生と、合唱連盟のE氏と会って話をして、オーケストレーションを進めるということになったのでした。
 これ自体は大変嬉しい話です。オーケストラ版初演がいつになるかはわかりませんが、とにかくいずれはちゃんと音になる可能性の高い「自分の」フルオーケストラ作品というのはほぼはじめてのことであり、気合いも入ろうというものです。ちなみにいままで音になった私のオーケストラ作品は3曲だけで、うち1曲は作品目録にも入れていない試作です。他の2曲も学生時代のことで、客受けとか採算とかは当然度外視したものです。一方、学校を出てから、他人の作品のオーケストレーションはイヤと言うほどやっています。オラトリオ、オペラ、レクイエム、バレエ、協奏曲など大規模作品てんこ盛りです。その結果、たぶん私のオーケストレーションの手際は、日本でもけっこう有数のものになっているのではないかと自負さえしています。その手際をもっていよいよ自作のオーケストレーションに取りかかるとなれば、武者震いを禁じ得ないとしても無理はないでしょう。
 しかし、もういちど言いますが、なぜこれが『セーラ』の再アレンジと同時期に……? と思うのでした。

 『セーラ』については、初演後にJASRACから請求された著作権料がえらく巨額で、こんな額を払っていては運営が成り立たないと思われるほどでした。ちなみに私はJASRACにまだこの作品を登録していないのですが、JASRACの言い分としては、自分らの管轄は個々の作品ではなく加入している著作者なのであって、著作者が作品を登録していようがしていまいが、規定の著作権料を請求できるのだということらしいのでした。これは去年初演した『月の娘』に関しても問題となりました。
 どう考えても変な規定であって、いっそJASRACなどやめてしまいたいくらいです。それだけ巨額の著作権料を巻き上げたところで、そのうち私に払い込まれるのはまさに雀の涙程度のものでしかありません。ただ、私が入会している主な理由は、代々木上原けやきホールを無料で使えるということであり、それは私自身と言うよりもある事情によってやむを得ずというところがあって、勝手に退会するわけにはゆかないのでした。
 実は請求額を軽減する方法はいくつかあるのですけれども、『セーラ』初演の際は板橋区演奏家協会の誰もそこに気づかず、一切減免無しのフル請求をされたわけです。協会は反省し、その後はいろいろと対抗策、自衛策を講じるようになりました。
 そんなわけで『セーラ』の再演はなかなか難しいと思われていたのですけれども、今年のオペラ公演『こうもり』が終わったあと、そろそろ『セーラ』をまたやろうかという話になったようです。他人事みたいですが、私はそういう話になっているところには参加していません。運営する役員会側だけでなく、初演に出演した歌手たちからも、
 「『セーラ』は再演しないの?」
 という声が上がったと聞きます。出演者がこの作品を愛してくれているのは、作曲者としてはこれにまさる喜びはありません。
 ともあれ『こうもり』からしばらくして、来年は『セーラ』の再演に決まったから、と私に話がありました。
 しかも、今年の『こうもり』はかなりフルオーケストラに近い形のアンサンブルによる上演だったのが好評だったらしくて、『セーラ』も同程度のオケを使って良いということになりました。
 前回はオケはなんとか協会員の中で賄おうと考えて、サクソフォンアンサンブル主体のいわゆる「板橋編成」を用いました。外部からの賛助出演は無しとしたわけです。
 しかしその後、指揮者である成田徹くんの意向もあって、やはり賛助を雇ってでも音質を上げる方針となりました。それで『こうもり』では弦楽器や打楽器などにかなりの賛助を頼み、準フルオケと言ってもよいような編成になったのでした。板橋のサクソフォンアンサンブルは相当にグレードが高く、弦楽合奏に近い音を出すことも可能なのですけれども、やはり本物の弦楽器には一歩を譲ります。歌い手も弦楽器を相手にしたほうが歌いやすいという意見でしたし、聴くほうも同様でしょう。歌とサクソフォンは同じ息を使う演奏だけに、どうしても楽器が歌を掩ってしまうという弊害が生じます。
 それで、『セーラ』でも同じように弦楽合奏を使えることになりました。さすがに本物のシンフォニックオーケストラ並みの、第1ヴァイオリンが7プルト(14人)などといった規模にはできませんが、それでも弦楽合奏には違いありません。木管楽器も、おそらく2管編成が可能です。フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴットの4種の木管楽器が2本ずつ用意された編成が2管編成ですが、ファゴットだけはサクソフォンで代替しなければならないと思われますけれども、待望のふたりめのクラリネットも使えそうなのです。
 強いて言うと金管楽器は絶対的に足りません。現代の2管オーケストラだと、ホルン4本、トランペット3本、トロンボーン3本、あとオプションでテューバが1本といったところが標準型なのですが、これだけ揃えるのはたぶん無理で、なんとかホルン2本、トランペット1本、トロンボーン2本くらいの規模で揃えたいところです。まあ、「オーケストラ曲」ではなくオペラの伴奏ですから、金管楽器はそれほど充実していなくともなんとかなりそうです。ラッパを揃えたい宮殿のシーンとか戦争のシーンとかがあるわけでもありません。あと打楽器は使えそうです。
 『星空のレジェンド』のようにフルオーケストラではありませんが、ほぼそれに準ずるくらいの編成になりそうですので、これもやりがいはあります。そしてこちらは確実に来年、演奏されます。
 どちらも私にとっては意欲をかき立てられる仕事であって、不満はありません。ただ、

 ──なぜ同時期にこういうことになった?

 という点だけが痛恨の極みです。
 どちらも一刻を争うというほどの急ぎではありませんが、オーケストレーションという作業量の多い仕事であるだけに、なるべく早く着手したいところです。とりあえずファミリー音楽会の編曲作業が終わってからということになるでしょう。『セーラ』については、指揮者およびインスペクター(オーケストラマネージャー)と、編成の詳細についてもう少し詰める必要もあります。
 それぞれの期限は、『セーラ』は6月のオペラ公演であるため、いつものように4月中には終わらせなければならないでしょう。『星空のレジェンド』は来年の上演時期、つまり7月上旬までという約束にしましたが、E氏から、
 「もし『急いで下さい』と申し上げたら、どのくらいになりますかね」
 と思わせぶりな質問をされました。話し合いの途中、オーケストラを学生オケに頼めば、安上がりだしけっこうレベルは高いし、早く仕上げてくれるかもしれない、という話が出たので、もしかしたら来年の上演に間に合うかもしれない、という考えがE氏の脳裏にもたげてきたのかもしれません。
 7月上旬(というよりまあ6月中)というのを「5月中」にしてもあんまり違いは無いし、2月~4月はどう考えても『セーラ』のほうに集中する必要がありそうですから、そう問われれば
 「1月中くらいですかね」
 と答えるしかありません。これが実現すると、それこと大変なことになりそうです。

 さて、こういう大きな仕事が待っていますから、ファミリー音楽会のための編曲はできるだけ早く済ませたいと思っていたのですが、そういうときに限って他の仕事が舞い込みます。しかもこれも、室内オケという小さな規模ではありますが一応オーケストレーションの仕事でした。歌ものを2曲ほどで、そんなに長い曲ではありませんが、やはりオーケストレーションとなると1日2日でできるというものではありません。
 こちらの仕事は、幸いもう済ませられましたが、その分ファミリー音楽会の編曲のスケジュールに食い込んだのも事実で、しばらくは忙しい日々が続きそうです。
 そして、私はあることに気づいて愕然としました。
 今年は、まだ1曲も「作曲」をしていないのです。そしてこの調子だと、年末まで「作曲」の仕事が入ってくる見込みが無さそうです。
 なんだかんだ言いつつ、私はいままで、全く作曲をしなかった年というのはありません。初期の習作を除いて自分で「作品番号」をつけたものに限っても、1985年以降は毎年なにがしかの作曲はしています。小品1曲だけという年もありますが、とにかく作品リストに抜けている年はありません。
 それが、今年はこんなに忙しい想いをしているのに、ついにリストにブランクができそうです。どうも面白くありません。
 久しぶりに「自主制作」をしなければならないかもしれません。ピアノ曲などであれば「自主制作」もできそうです。自主制作というのは、どこからも依頼されず自発的に書いた曲で、特に初演予定もないというもので、最近では『3つのソナチネ』などが挙げられます。
 しかし、大きな仕事の控えているこの時期に、自主制作をしている暇がとれるかどうか。いろいろな意味で、この秋は大変なのでした。

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