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二度目の自転車の新調 [日録]

 少し前に、使っている自転車にだいぶガタが来ていることを書きました。すでにまる10年乗っている自転車で、年間平均1000キロくらいは走っていると思われるので、走行距離は1万キロくらいにはなっているでしょう。前に使っていた自転車は6年でオシャカになりましたが、その頃はいまより自転車を使って行くところが多く、年間2000キロくらい走っていたようなので、やはり1万~1万2000キロくらい走行したことになります。自転車というのは、競技用とか、マウンテンバイクみたいなごついヤツでない限り、1万キロほど走ればだいたい寿命を迎えるらしいと知りました。
 2月頃に、マダムの自転車を買い替えたのでしたが、そのくらいの時期に私の自転車もそろそろヤバくなってきていた気配があります。まずは、あんまりスピードが出せなくなっているような気がしました。もともとそんなに飛ばすほうではないにせよ、ペダルを漕いでいればなんとなく感じられます。
 それから少しして、後輪のほうからやたらバキバキと音がするようになりました。最初はスポークが折れたのかと思いました。けっこうヘビーユーザーなため、スポークを折ってしまったことも何度もあり、そのときの音と似ているような気がしたのです。しかし、確かめてみても別に折れてはいないようでした。また乗ったときの感触も、スポークが折れたときとは微妙に違うようでもありました。
 しばらくその手の金属音がしていたのですが、あるときからぱたりとその音がしなくなり、今度はやたらとキイキイ言うようになりました。どこかに無理がかかっているのは確かなのでしょう。
 そのくらいのところで自転車屋に持って行って見て貰うべきだったのでしょうが、どうも嫌な予感がしてためらっていました。つまり、この自転車がそろそろ寿命ではないかとうすうす感じていたのです。修理するにしてもだいぶ金額がかかりそうで、むしろ買い替えなければならないのではないか……
 マダムの自転車を買い替えたばかりなので、予算的にも少し厳しい時期でした。何しろ春には、国民年金だの固定資産税だの、やたらとお金を巻き上げられることになっています。所得税などとは違って、これらは収入が少なかろうと否応なく持ってゆかれてしまいます。
 それで、警告音のようなキイキイ声を耳にしつつ、なおもだましだまし使っていました。近場の買い物とかばかりでなく、これで東川口のピアノ教室とか、板橋とかまで往復していたのだから、われながら意地になったものです。ピアノ教室はいちばん近い道を通っても片道12~13キロの長距離です。板橋はその半分くらいなのでそれほどの長距離とは言えませんが、どちらにしても道中かなりのアップダウンがあります。坂道の途中で致命的な故障が生じたりしたら、大怪我ということになりかねません。

 その後、あまり変な音を立てずに走れた日もありましたが、先週の土曜に教室へ行く途中で、

 ──あ、こりゃダメかもしれん。

 と思ったのでした。
 最初のうちはそれでもおとなしかったのですが、20分ばかり走っているうちにまたキイキイ言いはじめ、さらに走って、石神交差点から戸塚地区へ向かって一気に下る坂道の途中で、しばらく聞かなかった金属音が急にやかましく鳴りはじめたのです。それも今度はスポークが折れるような軽めの音ではなく、ガツンガツンと大層な音を立てています。このまま崩壊するのではないかと、本気で心配になるほどでした。
 自転車から下りて、何が起こっているのか確認しようとしても、よくわかりません。眼に見えるところが変な接触をしているようでもないのです。
 なんとか教室にたどり着き、レッスンを済ませて、帰り道はごくごく注意深く走行しました。やはり猛烈な音がします。しかも前と違って、その音に伴い、ペダルがずれるような、ハンドルをとられるような、妙な振動が発生していました。しかも、急に自動的にブレーキがかかるように感じられることもありました。これは意外と危険です。意図しないブレーキは、こちらが慣性で前に投げ出されるかもしれないのです。
 途中で閉口して、また様子を見てみたところ、どうも後輪の車軸が、歪んでいるのかゆるんでいるのか、とにかく安定しない状態になっているらしいことが見てとれました。素人目にもそうであってみれば、すでに末期症状なのではないかと思います。
 毎週のように往復している教室ですが、このときほど帰り道が長く感じられたことはありません。途中でパンクしてしばらく押し歩いたなんてことも何度かあるのですが、それよりもずっと疲れました。また歩行者を追い越したり、他の自転車とすれ違ったりするときにも、大仰な音を立てているものですから、かなり羞恥を覚えたりもしました。
 とにかく、もう買い替えるしかないのだろうな、と思いました。幸い、コロナ禍でまったく入らなくなっていたお金も少しずつ入るようになってきています。自転車を買い替えるくらいの費用は捻出できそうです。

 今日、ちょっと外出する機会があったので、自転車屋に寄ることにしました。もちろん自転車に乗りはせず、押してゆきます。押してゆくだけであれば、それほどガツンガツンいう音は立ちませんが、それでもハンドルに妙な衝撃がときおりかかってくるのは感じられました。また一瞬ブレーキが利いているようなこともやはりありました。
 自転車屋まで押して行って、そこらに出ていた店員に見て貰うと、その店員はまだ未熟者らしく、もう少し先輩らしい店員を呼んで、
 「これ直りますかね?」
 と訊ねました。
 先輩店員はひとめ見て、それから若干後輪を廻し、
 「あ~、こりゃひどいな」
 とつぶやきました。
 修理するなら1万円ほどかかる、と言われました。この前にマダムが買い替えたときも同じように言われたので、ほぼ予想した結果でした。10年前の購入価格が約2万円であり、その半額の修理代を要するのであれば、もう見切り時と考えて良いでしょう。
 聞いてみると、車軸がすっかり割れてしまっていたそうです。マダムのときは車軸が歪んでいると言われたのでしたが、それよりはるかに重症であったようです。まあ、どちらにしろ車軸を取り替えなければならないので、修理する場合の費用は同じようなものだったのでしょう。あの大仰な音は、割れた車軸がどこかにぶつかっていたのだと思われます。外からはわからなかったのでした。
 「同クラスの車があれば、買い替えますよ」
 と申し出ました。
 店員は
 「そうですか、じゃあこちらへ」
 と店の奥のほうへ私を導きました。
 「これに、ギアをつけると、だいたい同クラスになります」
 そう言って見せてくれたのは、なるほど同じようなタイプに見えました。しかしギアがついていないわけです。
 子供の頃から、変速ギア付きの自転車というのは憧れでしたが、そんなものはサイクリング車でないとついていないものだと思っていました。しかし、10年前に購入した自転車は、分類としてはママチャリでありながら、6段変速ギア付きのものでした。いちおうヘビーユーザー向けということで薦められたのです。
 ギアがついていると、やはり坂道では重宝します。私は通常走行は4段目でおこなっており、5段目6段目はまず使いません。坂道に差しかかると3段目、それでもきついと2段目にチェンジし、1段目もまず使いませんでした。つまり、6段のうち実際には3段分しか活用していませんでしたが、それでも無いよりはずっとましでした。一旦この便利さを経験してしまうと、ギア無しというのはどうにも心許ない気がしました。
 「ギア付きのは、いまは置いてないわけですか」
 私が訊ねると、店員は何やらニヤリと笑いました。そしてやや声をひそめて、
 「実は、ついさっき入荷したんですよ」
 と言ったのでした。
 「まだ組み立ててないんですけどね」
 店内の別の場所に行くと、なるほどまだハンドルやらペダルやらが装着されていない、メーカーから届いたばかりらしい新車が何台か置かれていました。
 私は良いタイミングで来店したことになるようでした。マダムが買い替えたときは、実車が無くて取り寄せとなり、一週間ばかり待たされたのです。それを考えるとラッキーでした。
 一方、店にとっても、入荷した途端に売れることになったので、これまたラッキーです。ディスプレイする手間が省けたわけです。
 10年前よりちょっと高くなっていましたが、これはまあやむを得ないでしょう。まあ、この10年を考えると、一般物価はあんまり高くなっていない気がするので、ちょっと思うところもありますが。日銀の言う「2%インフレ」がなかなか達成できずに景気が回復せず、政府が困っていたのではなかったでしょうか。同クラスの車が1割以上高くなっているのはいまひとつ納得がゆきません。ただ、10年前に5%だった消費税が10%になったわけで、その分の値上がりがあると考えれば妥当なところなのかもしれません。
 これからすぐに組み立て作業をおこなうというので、先に支払いや保険のことなどを済ませてから一旦帰宅し、夕方にまた行って納車して貰うことになりました。実はその自転車屋は家から徒歩だとやや遠く、帰宅すると汗びっしょりになってしまっていたので、夕方と言うのも指定された時刻より少し遅らせて、充分に涼しくなってから出かけました。
 家の近くには、前の、マダムとお揃いの自転車を買った個人店があったのですが、そこは店主の高齢化により閉店してしまいました。他にも自転車屋があるかもしれませんけれども、いまの行きつけのところはちょっとしたチェーン店で、そのチェーンで買った自転車に関しては修理代などがかなり安くなります。いつも思ったより少し安く済むので、やや遠いのですが常用しています。
 さっきの店員を見つけて挨拶すると、組み立て終わった新車を出してきてくれました。
 これまでのは、フレームが黒一色でしたが、今度のは暗めの緑色です。確か私が子供の頃に最初に買って貰ったミヤタの22型が深緑色だったので、なんとなく郷愁を覚えます。6段変速ギア、左手の手元のベル、自動発光のランプなどは前のと同じ仕様で、店員も
 「使いかたは前のとまったく同じですから」
 と説明を簡単に済ませていました。なおこのランプ、前のを買ったときは、センサーで明るさを判断して勝手に点灯するみたいな説明を受けたのですが、その後様子を見ていると、どうも「常時点灯している」というのが正しかったようです。明るいときには点灯しているのが目立たないというそれだけのことだったと思われます。従来のランプのように、前輪のタイヤと発電機を接触させるわけではなく、前輪の車軸のところに発電機を組み込み、車輪の回転自体で発電する仕組みであるようですから、常時起動させていてもタイヤが摩り減ることもないのでしょう。
 新車に乗って自転車屋を離れます。自転車という乗り物がこんなに静かに走れるものであったことを、すっかり忘れていた気がします。スピードも出るものだと思いました。もう何ヶ月も、ぶっ壊れそうな、これがもしクルマであれば整備不良で減点されそうなのを、だましだまし走らせていたので、なんの懸念も無く走れるということの爽快さがとても新鮮でした。
 さて、また10年くらいはもってくれるでしょうか。

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