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ぶんげんさんのCD [お仕事]

 去年、愛知ぶんげんさんの求めにより、いくつかの曲をフルート用にアレンジしました。
 15年くらい前の日誌にはちょくちょく登場しているのですが、お忘れのかたもおられると思いますので、いまいちどご紹介しておきます。
 ぶんげんさんは愛知在住のプロのフルーティストです。2003年というからもう19年前、名古屋オフ会を開催したことがありますが、そのときに肝煎り役をやってくれたのが彼でした。
 その頃は、いまでは閉鎖してしまった掲示板「お客様の声」や、チャットルーム「Cafe Blue Phantom」も絶賛稼動中で、それらの書き込みの中から話が盛り上がってオフ会開催、ということになることがよくありました。私も、食事だけのミニオフも何度も開きましたし、それ以外になんらかのイベントを企画するオフ会(私はフルオフと呼んでいました)も主催しました。
 名古屋でのオフ会は、4度目の、そして最後のフルオフとなります。
 それまでは、たとえば地方在住のネット友達が上京するのに合わせて開く、といったケースが多く、開催地はだいたい東京近辺でした。それがなぜ名古屋で開催することになったのかと言うと、その当時なぜか掲示板に書き込んでくれる人に、中京圏在住者が妙に多くなっていたからです。
 愛知県民もけっこう居ましたし、そうでなくとも岐阜在住だったり三重在住だったりということが少なからずあったのでした。
 「これなら、そのうち名古屋でオフ会でも開けるんじゃないですかね」
 と私が掲示板に書き込むと、これがえらい盛り上がりとなったのでした。私はあくまで「いずれ」というつもりで言ったのでしたが、
 「開くなら参加したい」
 「この辺の時期なら参加可能」
 などと気の早い書き込みが目立つようになりました。
 掲示板でもチャットルームでもその話題で持ち切りとなり、
 「しばらくぶりに掲示板を見たら、名古屋でオフをやるそうで」
 などとすでに既定事実かのように書き込む人も出てきました。
 しかしながら、名古屋で私主催のオフ会をやるとなると、土地鑑がありませんので、食事の場所やイベントの企画をするのが困難です。それで、
 「誰か、現地での肝煎りをやっていただければ……」
 と呟いていたところ、ぶんげんさんが名乗りを上げてくださったというわけです。

 そのときのオフ会の様子は、オフ会報告を読んでいただければわかりますが、企画がどんどんふくらんで、小さなホールを借りてミニコンサートのようなものをおこなうことになりました。
 不思議と中京圏在住の仲間たちは、なんらかの演奏ができる人がほとんどだったのです。さすがにプロの奏者はぶんげんさんだけでしたが、名の知れた合唱団のメンバー、マンドリンやバラライカをたしなむ人、アマチュアオケでチェンバロを弾いている人、ピアノ科を受験したこともある学生など、錚々たるもの。
 ホールを借りてミニコンサートをしようという話が出たとき、私は、演奏ができる人は良いけれど、そうでない人が退屈なのではないかと、やや消極的でした。しかしそんな懸念を吹き飛ばすように、芸達者なメンツが集まり、とても楽しい時を過ごすことができたのでした。終わったあと、なんとホールのオーナーが出てきて、企画をいやに褒めてくれ、コーヒーまでふるまってくれました。
 そのあと、ほかのメンバーも加わって、食事会となりましたが、リアル「連狂歌」なんかもやって、実に楽しく充実した一日を経験したのでした。

 そのオフ会をきっかけにして、ぶんげんさんとは何度か会う機会がありました。
 実はオフ会のとき、彼はしばらく前に送ってあった私の旧作『無伴奏フルートのためのパルティータ』を全曲演奏してくれていました。高校時代に作った作品で、ずっとお蔵入りしていたもので、なんとそのときが初演だったのです。彼が吹いてくれるとはまったく思っておらず、このときはまさにサプライズでした。
 それで私の書くものに興味を持ってくれたようで、翌年に会ったとき、そのまた翌年に予定されていたリサイタルのために新曲を書いて貰えないか、ということを打診されたのでした。
 リサイタルと言っても完全な独演会ではなく、ヴァイオリン、ソプラノ、ピアノの共演者が加わっているそうです。この全員が参加できる曲を求められたわけです。
 それに応えて書いたのが、モノドラマ第3番『愛のかたち~パラクレーのエロイーズ』でした。最初は和歌などをテキストとした歌曲のようなものを考えていたのですが、ぴんとくる歌がなかなか見つからず、それなら自分自身の得意なジャンルでもあるモノドラマを作ってしまえ、と腹を据えたのでした。演奏会の最後に、全員参加のちょっとした顔見せ程度の規模と考えられていた新曲が、一転してえらい重量感のある作品となってしまったので、関係者各位にはいろいろ心労をかけたかと反省しますが、しかしとても素敵な演奏会となったと思います。
 その後は年賀状をやりとりする程度のつきあいが続きました。ミニコンサート付きのオフ会をまたやろうという話もあったのですが、私自身が間もなく結婚したこともあって、具体化しないままに日が経ってしまいました。
 最近ではむしろマダムが、SNSなどでぶんげんさんの消息を追っていて、ときどき私に教えてくれたりしています。マダムは上記のリサイタルのとき、結婚前でしたがたまたま両親と「愛・地球博」を観に来ていて、名古屋に滞在していたので、聴きに来てくれていたのでした。それでぶんげんさんとも面識はあります。

 そんな感じで、15年以上が経過しました。
 去年の6月だったか、ぶんげんさんから久しぶりにメールが届きました。私の編曲作品リストにある、ドビュッシー「小さなニグロ」の編曲に眼を止めたようで、楽譜を拝見したい、とのことでした。ずいぶん前に、フルート・チェロ・ピアノの三重奏用に編曲したもので、まだ手書きの時代の譜面です。
 あらためて楽譜をひっぱり出してみたら、なぜか最終ページが欠けていることが判明しました。また手書きのものをコピーして送るのも面倒だし、さほど長い曲でもないので、Finaleで打ち込んでデータ化して送りました。
 そうしたら、お気に召したようで、そのすぐあとに、ほか2曲の編曲について相談を受けました。同じくドビュッシーの「月の光」、そしてサティ「ジムノペディ第1番」について、自分で編曲してみたのだがいかがなものだろうか、というのでした。
 拝見した上で、いくつか助言をしたのですが、するといっそのことMICさんが編曲してください、という話になってしまっていました。なんとなく、うまく乗せられたような気がしないでもないのですが、ともあれその両曲を手掛けることになったのでした。「ジムノペディ」は「小さなニグロ」と同じフルート・チェロ・ピアノの三重奏、「月の光」はそれに第二フルートを加えた四重奏です。ただしこの第二フルートはオプション扱いで、省いても可能なように書くことを求められました。
 ひとつのパートを、あっても無くてもどっちでも良いように書くというのは、どうも作曲家的良心がとがめる想いなのですが、実は吹奏楽などではよく使われる手段です。学校によっては備えていない楽器があったりするもので、たとえばオーボエやファゴットといった楽器は、無くても構わないように書くのが普通らしいのでした。
 この「月の光」の場合は、第二フルートをぶんげん夫人が吹くということだったようです。ぶんげん夫人はやはりフルート吹きなのですが、演奏の現場からは遠ざかって久しいようで、音量などもあまり出ないし、難しいパッセージなども無いほうが良いという要望でした。それで私は慎重にそのパートを付け加えましたが、それでも高い音を弱音で出すのが難しいとのことで、あとでちょっと改変したところがあります。
 これらの曲を、こんど出すCDに収録したい、ということでした。フランス音楽でまとめた曲集になるようです。
 「ジムノペディ」にしろ「月の光」にしろ、作曲者のいちばん有名と言っても良い作品で、つまり名曲中の名曲ですから、編曲にも気を使いました。奔放なアレンジも可能ではありますが、CDのコンセプトとしては原曲の味わいを活かす方向のほうが良さそうです。しかしあまり原曲にこだわると、面白くもおかしくもない平凡な編曲になりがちです。私のプライドとしては、それも避けたいところです。最高なのは「もともとこの編成のために書かれた曲だったんでは?」と聴く人に思わせるようなアレンジなのですが、言うほど簡単なことではありません。
 ともあれ7月下旬くらいまでに仕上げ、ぶんげんさんに送りました。CDの録音をする前に、「小さなニグロ」も含めて3曲、地元の学校音楽教室でやってみたそうです。そのときの音源も貰いましたが、小学生たちがほとんど私語も無く熱心に聴いている様子が伝わってきました。
 録音は今年に入ったくらいから開始したようですが、思いのほか苦戦しているような知らせがありました。意外にもジムノペディが難しかったようです。極限までシンプルな音楽だけに、かえって各楽器の息遣いなどを完璧に合わせる必要があって、大変だったのかもしれません。

 このCDに私の編曲を収録するにあたって、JASRACに編曲登録をするよう求められました。その許諾番号が無いと販売が認められないと言うのです。
 私はいちおうJASRACの準会員にはなっていますが、JASRACの方針には賛成できないところも多く、あまり積極的に関与してきていません。刊行作品については出版社任せで、私自身から作品登録をしたこともごくわずかです。どうせ著作権料など雀の涙だという気持ちもありました。まあ、その雀の涙が積もり積もって、かなりの額になっていたという嬉しい誤算が判明したときもありましたけれども、そんな例は滅多にありません。
 とりわけ編曲作品に関しては、自分でも片手間仕事という意識があるせいか、本になったもの以外は登録したことなどまったくありませんでした。このたびはじめて、編曲作品登録について泥縄で調べたのでした。
 すると、オリジナル作品の場合はただ申請すれば登録されるのですが、編曲の場合は審査を通ることが必要だとわかりました。審査は年4回くらいあるようです。
 審査ということは通らないこともあるわけで、そのひとつとして、「メロディーをほかの楽器に移しただけのもの」というのが挙げられていました。例としては、オーケストラ曲を吹奏楽用に編曲するケースなどが当たるそうです。この、よくありそうな編曲は、審査を通らないらしいのです。
 私の編曲はどうでしょうか。見ようによっては、ピアノの動きの一部をフルートやチェロに移しているだけともとれそうです。審査を通るか、微妙という気がしました。通らなければ登録されず、すると許諾番号も発行されず、CDが出せなくなる、なんてことになりはしないかと、いささか焦りました。
 審査が通ったかどうか、実はまだ私のところには連絡が無いのですけれども、CD刊行についてはそちらの問題は解決したようで、先日現物が送られてきました。ちゃんと許諾番号もついています。
 「月の光」というのはCDタイトルにもなっていました。曲目中最大編成でもありますし、聴いてみた印象も、私が思っていたよりも重厚感があるようです。もちろん原曲のパワーではありましょうが、表題作として不足の無い重みを感じました。
 ピアノはぶんげんさんのお嬢さんの宇佐美文香さんで、たぶん上記の2003年のオフ会のときには、生まれてはいたでしょうが、まだ赤ちゃんか幼児だったのではないかと思います。その後すくすくと成長し、愛知県立芸大に進んでピアノを専攻し、在学中からよく親父さんと共演しているとか。さすがに父娘で、息の合いかたなどは半端ではありません。それにしても年月の過ぎることの早いことよ、と感嘆せざるを得ません。
 私の編曲もの3曲の中では、意外にも「小さなニグロ」が聴きばえがしました。原曲を活かそうなどという意識がそれほど無く自由に編曲したのが良かったのかもしれません。
 そのほかにはドビュッシーの「夢」「亜麻色の髪の乙女」、それに無伴奏フルートの定番「シランクス」が収録され、ピエール・サンカン「ソナチネ」やジャン・ミシェル・ダマーズ「演奏会用ソナタ」など面白いラインナップが並んでいます。サンサーンス「白鳥」フォーレ「夢のあとに」などフランス音楽の鉄板も押さえてあります。興味深かったのはクープラン「恋のウグイス」、これはピアノを伴わず、ぶんげんさんはリコーダーに持ち替え、チェロとの二重奏で演奏していました。
 試聴していると、どの曲もマダムに刺さったようで、いちいち
 「あ、これ好きなヤツ!」
 などと叫んでいました。
 あらためて通して聴いてみると、ぶんげんさんはフルートの低音に特に魅力のある奏者であると思いました。いちばん下のオクターブは息のコントロールが難しいようで、あまり表情豊かに吹いてくれる人が多くないのですが、彼がこの音域を吹くときには非常に艶を感じます。いずれまた作編曲などで関わることがあれば、この低音域の良さを活かせるように書いてみたいものです。

 ぶんげんこと宇佐美敦博氏のCD「月の光~フランス・フルート作品集」は、そろそろ店頭にも並んでいるのではないかと思います。最近はCDもあまり店頭で買うものでなく、AMAZONなどで取り寄せる人が多いのかもしれませんが、ぜひお手に取っていただければ幸いです。

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