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湯西川温泉と日光江戸村(2) [旅日記]

 栃木県の北西の奥深く、湯西川温泉に一泊した私たちは、10月11日(火)の朝、9時39分発の「初発バス」で宿をあとにしました。これより早くバスで出てゆく便はありません。
 前日にしばらく過ごした水の郷観光センターを過ぎ、またトンネルの連続となります。あらためて車窓を見ると、本当に山深いところだと再認識しました。野岩鉄道も無く、トンネルも開通しなかったころは、どれほど不便な場所だったでしょうか。
 ダムの水面が見えてきて、その水面がだんだん近づいてきたと思うと、ダムの突堤を経て、また川が深い渓谷の下に沈んだあたりで、湯西川温泉駅に到着しました。
 ここで30分ばかり待って電車に乗っても良かったのですが、「デジタル湯西川フリーパス」のおかげでバスもフリーパスです。往路と少し趣きを変えようと思い、鬼怒川温泉までそのままバスに乗ってゆくことにしました。正直なところ、野岩鉄道はトンネルばかりで、車窓風景はさほど楽しくありません。
 同じことを考えた人が多かったようで、湯西川温泉駅で下りた客はほとんど居ませんでした。
 バスは5分ほど時間調整をおこない、ふたたび走り出します。

 こんどは五十里(いかり)ダムに沿って高度を下げてゆきます。どうでも良いようなことですが、湯西川ダムの事務所近くのバス停は「湯西川ダムサイト(site)で、五十里ダムのほうは「五十里ダムサイド(side)となっていました。「ダムサイト」のほうが普通であるような気がしますが、「サイド」も「ダムの側」ということならおかしくはないのかな、と少し混乱しました。
 なお、「ダムカレー」というのがあるらしくて、あちこちのダムの近くでそれぞれに特徴のあるカレーライスを供していることが多いのだそうです。そう言われれば水の郷観光センターの食堂にもメニューがありました。ダムとカレーとなんの関係があるのかと不思議ですが、マダムがよく見ている「マツコの知らない世界」で「ダムカレーの専門家」なる人が出てきたこともあるらしく、ダムカレーというのはそういうカテゴリーが成立するほど広く存在しているようなのでした。
 さらに下がってゆくと、川治温泉郷に入ります。ここは古くからの温泉街で、かなり範囲も広く、大きなホテルもたくさんありました。そういえば子供のころ、川治温泉で火災騒ぎがあって、テレビで切迫したニュースを流していたことを思い出します。
 その下が龍王峡温泉となります。前日、宿で見ていたテレビ番組で、偶然ここが出てきていたとマダムが言っていました。川治温泉よりさらに賑やかです。こういう様子は、電車の車窓からではよくわかりません。バスに乗って良かったと思いました。
 そのあたりから、信号機にひっかかることが増えました。そろそろ鬼怒川温泉街に入ります。
 10時半ちょっと前に鬼怒川温泉駅に到着しました。バスを下りると、すぐ前に「日光江戸村循環」と表示されたバスが待機しています。私たちはこれから日光江戸村に向かうので、そのバスに飛び乗れば乗れたと思うのですが、いちおう30分後の便に乗る予定にしていたので見送ります。湯西川温泉からのバスは本来10時30分着のはずで、道路状況によりわずかに早着しただけで、本来はその循環バスには乗り継げないのでした。
 飲み物を買ったり、温泉まんじゅうを買って食べたりしながら、次の便を待ちました。
 と、向こうのタクシー乗り場から、運転手がひとり寄ってきて、どこへ行くかと訊ねました。江戸村だと答えると、
 「それじゃうちのクルマに乗って行きませんか。おひとり400円で結構ですから」
 と言うのでした。
 フリーパスがあるから、と言うと残念そうに去ってゆきましたが、今日びタクシーの営業もなかなか大変なのかもしれません。なお、バスだと運賃は420円で、運ちゃんはぎりぎりのところでバスより安くしていたようです。

 11時00分の循環バスで日光江戸村に向かいます。少し走ると4年前に訪れた東武ワールドスクウェアで、バスは園内まで入り、エントランス前に停車しました。
 新高徳駅まで南下したので、どこまで行くのかと驚きましたが、そこが循環バスで、東武鬼怒川線を陸橋で渡ると、こんどは北上しはじめました。日光江戸村はいわば「戻り道」に立ち寄るルートになっていたわけです。あたりには立体迷路やら巨大迷路やらの施設もあるようでした。この手の迷路、一時期大流行して各地に作られましたが、最近は事故を起こしたりしてあんまり人気が無いようです。このあたりの景気はどうなのでしょうか。
 11時45分ごろに日光江戸村の門前に着きました。雨上がりとはいえどんよりと曇っていた前日とは異なり、この日はよく晴れて、陽射しがいい感じに暖かく、レジャー日和であったと思います。
 入場券売り場で、
 「割引券などお持ちですか」
 と言われたので、「デジタル湯西川フリーパス」を提示しました。係員が何かをかざすと、それで券売機で割引券が発行できました。このフリーパスを提示すると300円オフになり、5800円の入場料が5500円になっただけですが、無いよりはましでしょう。この割引、最初使おうとしていた「まるごと鬼怒川・東武フリーパス」なら1割引き、つまり580円引きだったのですが、鬼怒川フリーパスよりデジタル湯西川フリーパスのほうが330円安かったので、微妙なところとはいえデジタルフリーパスのほうが安くついています。あと、鬼怒川フリーパスだと浅草まで買いに行かなければならなかったのかもしれず、その手間と交通費を考えると、やはりデジタルフリーパスにして良かったと言うべきでしょう。
 関所(改札)の近くに、園内での謎解きのパンフレットが置いてありました。新撰組に入隊するため近藤勇から試験を受けるという体裁の謎解きで、よくふたりで謎解きイベントに参加しているマダムと私としては、すぐに飛びついたわけですが、所要時間が2~3時間となっています。江戸村のアトラクションなどを見物しつつ、この時間で謎解きができるかどうかは微妙です。まあ、クリアできたら儲けものくらいのつもりで参加することにしました。
 ところが、園内でおこなわれる謎解きはこれだけではなかったのです。
 「街道」エリアを突っ切ると「宿場町」エリアとなるのですが、ここには当時の商店のたぐいがいろいろ並んでいます。マダムが「かごや」と読み間違えた「旅籠屋」なんかもありましたが、その中に「口入屋」がありました。いまで言う派遣会社だと説明するとなぜかマダムが大受けしていたのですが、そこに2種類の謎解きのパンフレットが置かれていたのです。こちらは初級編と言うべき簡単なものでしたが、私はこっちも手に取ってしまい、そうすると解決したくなり、ますます時間配分が難しくなりました。
 日光江戸村では、いくつかの演劇風のショーがあります。手間も人員もふんだんにかかる催しで、それらを全部追加料金無しで観ることができると考えると、入場料も決して高くはないように思えます。
 その時間割表を見ながら、マダムがショーを観る順序などを決めました。「忍者からす御殿」というのが12時30分、「南町奉行所」が13時00分、「若松屋・花魁ショー」が15時00分、「水芸座」が16時00分。それぞれは20分程度ですが、マダムは15分前から行っていたいなどと言い出しました。ぎりぎりに行くと入場を断られるかもしれない、と言うのです。
 休日ならそんなこともあるかもしれませんが、この日は平日で、入場できないなどということはまず無いだろう、と私が言っても信用しません。確かにどの催しも、平日にしては客が多かったと言えますが、それにしても断られるというほどのことではなさそうでした。20分ほどの催しのために15分前から行っているとなると、倍近く時間を食うことになります。ますますタイトになりました。
 さらに、「日光の天然氷」のかき氷があちこちで売られているのを見て、マダムがぜひ食べたいと言いました。かなり高いのですが、これは食べても頭が痛くならない氷なのだそうです。やはり前にテレビで見て、食べたいと思っていたようです。頭が痛くならないのはどういう理窟かわかりませんが、かなりの量があり、食べ終わるのにけっこうな時間がかかりました。シロップの甘い匂いに釣られたか、蜂が周りを飛んでいて剣呑でした。
 そんな風にあれこれと時間を食いながら、ショーを観て、展示を見て回って、謎解きを進めました。

 ショーのうち「忍者からす御殿」は、抜け忍の男が、刺客として襲い来る忍者たちと戦うという設定で、めまぐるしい殺陣が見どころです。おそらく事前に録音されているはずの剣戟の音に、ぴったりと合わせた打ち合いのタイミングに眼を瞠りました。よほど段取りがしっかりしていないとこう同期するのは難しいでしょう。
 「南町奉行所」は、暴れ馬に遭遇した駕籠から転落して怪我をした商家の主人の訴えを、大岡越前守が裁くというていの芝居でした。進行役の与力のテンションがえらく高くて、これを一日3回もこなすのは大変だろうと思いました。合いの手を入れる町人の役を客に求めたりして、大いに盛り上がりました。
 「若松屋」は吉原の遊郭の一室をイメージした舞台で、客の中からひとり「お大尽」役を選んで舞台に昇らせます。それで「狐拳」で遊ぶというのが主な内容でした。狐拳というのはジャンケンの一種で、狩人は狐に勝ち、庄屋は狩人に勝ち、狐が庄屋に勝つという三すくみで、昔の遊郭でよく遊ばれていました。「お大尽」はまず新造と勝負し、続いて禿(かむろ)と勝負し、最後に太夫と勝負します。太夫との勝負のときは、進行役の幇間(たいこもち)がヒントをくれるので確実に勝てる……はずなのですが、このときの「お大尽」は意識的か無意識的か大ボケをかましてくれて、これまた大いに盛り上がったのでした。
 水芸は前に来たときにも観た憶えがあります。あちこちから水が噴き出して、現代の技術ならどうということはないだろうと思いますが、水芸の伝統は1000年以上になるそうで、昔はどうやって水を制御していたのだろうかと首をひねりたくなります。
 どれもマダムが非常に喜んでいたようで、ここに連れてきて良かったと私も満足しました。

 それにしてももう少し時間があればと思います。湯西川温泉を朝に出てここに来るには、これ以上早くは来られなかったのですが、ショー以外にもさまざまなアトラクションがあり、全部体験しようと思うと、時間がいくらあっても足りない気がしました。
 そういえば私たちが着いたころ、修学旅行らしき小学生たちが出口に向かって歩いていましたが、彼らはせいぜい2時間程度しか滞在できなかったと思われ、そのくらいではとても日光江戸村を味わい尽くすことはできなかったでしょう。もう少し時間をとってあげれば良いのに、とひとごとながら思いました。もっとも、時代劇好きであるとか歴史に詳しいとかいう人が近くに居て説明しないと、面白さがわからないということもあるかもしれません。
 忍者からくり屋敷なども行ってみたかったのですが、そろそろ閉園時間が近づいてきました。
 まだ謎解きは終了していません。実際にあちこちに足を運ばなければならず、けっこう時間がかかります。
 最後のほうになると、スタッフが
 「おっ、近藤局長の指令ですね。頑張ってください」
 などとノリの良い声をかけてくるようになりました。
 ようやくミッションをすべてクリアし、謎を解き終わったのは16時56分、閉園4分前のことでした。ギリギリです。
 最後のミッションは、鍵のかかった箱に、あるキーナンバーを入力して開けるというものでしたが、いささか勘違いしやすい答えでした。私たちが解き終わったところに、もうひと組のプレイヤーが駆け込んできましたが、彼らは閉園に間に合うようにクリアできたでしょうか。
 口入屋にあった初級編の謎解きは、残念ながらクリアできませんでした。片方はあと一箇所に訪れればクリアというところまで進めたのですが、その場所に行っている時間がとれませんでした。まあ、仕方がありません。

 17時15分に、日光へ向かう無料送迎バスが出ます。最初、鬼怒川温泉に戻るつもりだったのですが、この無料送迎バスの存在を知って、利用する気になりました。ひとつにはこの時間帯、鬼怒川温泉に戻っても特急の便が無かったこともあります。また、「デジタル湯西川フリーパス」のフリー区間には、下今市東武日光間も含まれており、ここも追加運賃を払う必要がありません。それで、東武日光まで行って「けごん54号」に乗ることにしたのでした。
 無料送迎バスの定員は39名ということで、またしてもマダムが、乗れなかったらどうしようと心配していましたが、実際に乗ったのは私たちを含めて4人だけでした。けっこうな客足だったのですが、ほとんどの人はクルマで来ていたのでしょう。鬼怒川温泉への循環バスもまだありましたが、それに乗った人が多かったとも思えません。
 バスで走るうちに陽が暮れてきました。30分ほど走って東武日光駅に着くころには、もうすっかり夜という感じです。まだ17時45分くらいなのに、陽が落ちるのが早くなったなと思います。
 さて、「けごん54号」は18時51分発で、1時間ほどあいだが空きます。私の目論見では、その時間にお茶を飲むなり軽い夕食をとるなりするつもりだったのですが、なんとしたことか、東武日光駅のまわりの店々は、18時にすらなっていないというのに、もうすっかりシャッターを下ろしているのでした。若干の土産物屋が開いている程度です。
 ほど近いJRの日光駅近くまでも行ってみましたが、そちらは東武日光駅前に輪をかけて寝静まっている様子なのでした。いくらなんでも早過ぎだろう、と慨嘆しました。
 ならば、駅弁でも買って車内で食べようと考えましたが、駅の売店を覗くと弁当類はすべて売り切れです。18時の日光は、もう夜中みたいなものなのでした。まあ、観光客などはこの時間にはとっくにそれぞれの宿に引き取っていて、駅前をうろうろしているような者は居ないのでしょう。
 結局、閉めかけていた土産物屋で一口サイズのカマボコを買って、東武日光駅の待合室で無聊の時間を過ごしました。
 ようやく特急に乗って走り出しても、まわりは灯りが少なくて、夜汽車に乗っている趣きです。だんだん眠くなってきました。
 乗客は途中停車駅でもあまり増えないまま、20時32分、北千住着。北千住の駅ビルの食堂街でヴェトナム料理の定食を食べてから帰宅しました。

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