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湯西川温泉と日光江戸村(1) [旅日記]

 5月に実家の家族で新潟に旅行に行った際、宿の予約を私がおこなった関係で、なんだかじゃ×んのポイントが大量に入っていました。家族で旅行できるのもそろそろ最後だろうと思った父が奮発したのでしたが、予約したのは私の名義であったため、ポイントはすべて私に入ったわけです。
 ところが、その大量ポイントは、いつまでも貯めておけるということではなかったようで、7月の終わりに近づいたころ、失効が近いことを事務局から伝えてきました。どうも、7月中にどこか宿泊を予約しないと、ポイントを失ってしまうらしいのです。
 それはあまりにもったいないので、急遽、どこかへ旅に出なければならなくなりました。
 そうは言っても、私は今年は旅づいています。7月に島根に、8月に沖縄に行き、11月にも札幌広島に行くことが決まっています。すべて仕事関係ですが、それにしてもその中に泊まりのある旅行をはさみこむのはなかなか大変です。そうそう、9月には墓参行もありました。
 マダムと相談した結果、泊まりのある旅が入っていない10月に、一泊旅行をしてくることに決めました。マダムは忙しいひとで、2日連続で予定を空けるというのは難しいのですが、スポーツの日である10月10日と翌11日ならば、なんとか予定を空けられるということだったのです。月曜に定期で入っている仕事が祝日で休みとなり、火曜は仕事と言うよりは趣味で忙しいのであって空けられないこともないというわけでした。

 次に目的地の選定です。一泊なのでそう遠くへは行けず、せっかくポイントを使って泊まれるのだから交通費もできるだけ圧縮できる場所……と考えた結果、湯西川温泉に決めました。鬼怒川温泉からもう少し先へ行ったところの温泉です。マダムが諸手を挙げて賛成したのは、彼女もいちど湯西川温泉に行きたいと思っていたそうなのでした。
 なぜかというと、マダムが好んで見ている「西村京太郎トラベルミステリー」なるサスペンスドラマシリーズで、野岩鉄道の湯西川温泉駅が出てきたことがあり、犯人役の国生さゆりがその駅で下りたのが妙に印象に残っていたらしい。それで自分もその駅をぜひ訪ねてみたいと思っていたと言います。
 さて、それは良いとして、肝心の温泉場は、実は駅からかなり離れています。バスで20分近くかかります。そのバスの運賃がけっこう高いので、若干躊躇しました。
 しかし、そこへ救い主が現れました。その名は「まるごと鬼怒川・東武フリーパス」。前に大内宿のある湯野上温泉に行ったときに使った「まるごと会津・東武フリーパス」の姉妹版です(現在は「ゆったり会津・東武フリーパス」と改称)。会津フリーパスは鉄道線だけのフリーパスでしたが、鬼怒川フリーパスは、周辺の一部のバス路線もフリーパスとなるのでした。そしてそのフリー区間に、湯西川温泉(駅ではなく温泉場のほう)までのバスも含まれていました。
 さらに、東武ワールドスクウェアおさるの学校日光江戸村などを通る路線バスにも乗れるようで、なおかつ、そのパスを見せれば、主だった施設で割引を受けられるらしい。これはもう、使うしかないでしょう。
 マダムに、日光江戸村に行ってみる気はあるかと訊くと、非常に乗り気でしたので、2日めには日光江戸村に立ち寄ることにしました。私も30年近く前に行ったことがあるばかりで、久しぶりです。ここは入場料がかなり高額なので、割引を受けられるのはありがたいことです。まあ、宿代がほとんどポイントで賄えているので、ほかのレクリエーションに少しばかり奮発しても大丈夫です。
 このフリーパス、フリーエリアまでの往復は東武鉄道を使うことが義務づけられています。そして特急券などは別料金となります。ひとつ困ったことは、出発駅に行かないと、そこを発駅とするパスが買えないのでした。うちからだと浅草北千住から乗ることになりますが、そこまで買いに行くのは少々面倒です。先日大宮に行ったとき、アーバンパークラインの券売機で買おうとしたら、大宮発のものしか買えませんでした。
 面倒だなと思っていると、東武の「お得なきっぷ」に、新たなラインナップがいつの間にか付け加えられていました。それは「デジタルフリーパス」です。その中の「デジタル湯西川温泉フリーパス」は、「まるごと鬼怒川・東武フリーパス」とまったく同じフリーエリアを持ち、しかも鬼怒川フリーパスよりもやや安いのでした。デジタルフリーパスはスマホですべての決済をおこないますので、発駅も自由に設定できます。ただし紙のチケットは無く、スマホの画面上に掲示される「デジタルチケット」をその都度駅員に見せることになります。1年前だったら私には使えないパスでした。
 今回は往復の特急券もネット上で購入しており、座席番号などを記した「控え」は印刷してありますが、クラシックな意味での「切符」は一切持たない旅行となりました。旧来の乗り鉄である私としては、なんとなく心許ないというか心細い気分が拭えませんでした。

 10日の朝、8時20分くらいには家を出ようと考えていたのに、眼が醒めるとすでに8時近くなっています。マダムなどは荷物をほとんど詰めていない状態だったので、支度に大わらわでした。どうも前日、ふたりともだいぶ疲れていたようです。
 それでもそう遅れずに出立できたのだから、人間、やろうと思えばできるものだとわれながら感心しました。
 上野から銀座線に乗り継いで、無事に浅草に到着し、9時30分の「リバティ会津113号」に乗車しました。この列車は「リバティけごん13号」との併結で、下今市で3輌ずつに切り離します。リバティの基本編成が3輌なので、こういう運用ができるようになりました。6輌が基本のスペーシアと違って小回りが利くので、アーバンパークラインにまで乗り入れるようになりました。
 乗車率はまあまあでしたが、座席を回転させて向かい合わせているグループが何組が見受けられました。これはコロナ禍にあって禁じられているはずで、私も5月の旅行で知らずにやってしまって車掌に怒られました。しかし、この列車では車内アナウンスも無く、車掌が通りかかっても特にとがめていませんでした。解禁されたのかと思いましたが、帰りの特急ではやはり禁止のアナウンスがありました。帰りはスペーシアだったのですが、リバティに限っての解禁だったのでしょうか。
 前日の夜、日光線内の踏切でリバティと軽自動車がぶつかって、軽自動車が50メートルもはね飛ばされるという事故があったそうですが、そんなことは知らぬげに特急は快走します。ほとんど通過駅の駅名板が読み取れないほどでした。なお、50メートルもはね飛ばされたのに、軽自動車を運転していた女性の生命に別条はありませんでした。特急の乗客のほうに若干首筋を傷めた人が居たくらいなものだったそうで、どんなぶつかりかただったのか気になります。
 下今市から鬼怒川線に入ると、単線で線路も細くなり、線形も悪くなってスピードが出なくなりました。それが、新藤原から野岩鉄道に入ると、ふたたび息を吹き返したように速くなります。野岩鉄道は鉄建公団の作った、新しい建設思想による鉄道なので、単線といえども線路の規格は良く、トンネルや鉄橋をふんだんに使用してなるべく線形を直線に近づけ、優等列車がスピードを出して走れるようにしてあります。しかし、前後の鬼怒川線と会津鉄道(旧国鉄会津線)の規格が低いので、せっかくの高規格も宝の持ち腐れという印象があります。
 川治温泉郷のふたつの駅(川治温泉・川治湯元)を過ぎると、次はもう湯西川温泉です。この駅は完全にトンネルの中にあります。先を見るとトンネルの出口が見えるのですが、そのさらに先はいきなり鉄橋となっています。複雑な地形の上を、無造作に直進しているのです。
 マダムは駅に下り立って嬉しそうにしています。国生さゆりの気分になっているのでしょう。
 しかし、エレベーターに乗って地上へ出ても、何があると言うわけではありません。駅そのものが「道の駅湯西川」と一体化しており、売店や日帰り入浴施設などがありますが、まわりには商店ひとつ見当たらない、正真正銘のローカル駅です。そもそもこの駅は、野岩鉄道と並走している国道121号からもやや外れており、国道から分岐して湯西川温泉郷に向かう一本道の途中にあります。国生さゆりがどんな犯罪を犯したのか知りませんが、こんな駅で下り立っても、あっさり捕まりそうですし、アリバイ工作などもできそうにありません。
 ただ、水陸両用バスの起点になっているようで、マダムが興味を示していました。どうも、湯西川ダムを遊覧するものであるようです。

 11時30分のバスに乗ります。いくつかの集落を抜けると、もうダムサイトに出ます。走っているのはダムの建設に伴う新しい道路でしょうが、長いトンネルが連続します。これらのトンネルが作られていなかった頃は、湯西川温泉などまさに秘境だったろうと思われました。実際、平家の落人の隠れ里だったと伝えられています。
 バスに乗ること15分ほど、「水の郷観光センター」という停留所で下車しました。同車していた、外国人をひとり含む4人組もそこで下りたので、バスは空っぽになってしまいました。どんなところかはよくわかりませんが、昼食と、ちょっとした観光ができるだろうと思ってここに立ち寄ったのです。言い換えると、ここにでも立ち寄らなければ見るべきところも無さそうです。もっと上流のほうに行けば、それこそ隠れ里の遺構などの見どころもあるようなのですが、そこまではバスも行っていないし、クルマでも無いととても探訪できないでしょう。
 水の郷観光センターは、すっかり清流となった湯西川の崖の上に設けられた、園地というにはごく小規模な施設でした。思ったよりずっと小ぢんまりしていましたが、ともかくある程度時間はつぶせそうです。
 まず売店を覗くと、さっきの駅の売店よりさらに素朴な感じの品ぞろえでした。立派な野菜が驚くほど安いようでしたが、持ち歩くわけにもゆきません。
 サンショウウオが名物であるようで、サンショウウオを漬け込んだ酒とか、サンショウウオのパック詰めとか売っていましたが、小さいサンショウウオというのはほとんどトカゲみたいなもので、そのままの姿で見せつけられるといささかぎょっとします。
 とりあえず食堂へ。ネットで調べてあたりをつけておきましたが、水の郷Aセットというのを注文しました。これは、手打ちそばと、ばんだい餅というこのあたりの名物をサバ汁に入れたものがセットになっています。そばは、久しぶりにうまいそばを食べたという気になりましたし、ばんだい餅の不思議な食感も気に入りました。味は普通に餅なのですが、粘り気が少なく、この餅ならお年寄りがのどを詰まらせたりもしないだろうと思われました。もち米ではなく、うるち米をついて作った餅であるようです。この製法の餅が全国に普及しないのは、うるち米をついて餅状にするのが、けっこう大変であるからかもしれません。
 満足して食堂を出て、別館となっていた「くらし館」を見学します。ここは「蝶の美術館」というのと一緒になっており、むしろ蝶関係のほうがメインであるかに見えました。言うまでもなく、蝶(揚羽)は平家の紋として有名です。
 下に鏡を敷いて、裏の模様もひと目でわかるような標本の展示をしているのがここの売りであるようでした。切り絵に標本をあしらった、不思議な効果の作品なども並べられています。また非常に細密な蝶その他の昆虫の色鉛筆画が展示されていましたが、これはこの美術館の協賛者のひとりでもある人の作品で、なんと10歳くらいのころからリアルな虫の絵を描き続けていたようです。現在は26歳くらいであるようですが、どんな活動をしているのでしょうか。
 しばし蝶の標本や絵とたわむれてからそこを出ました。
 そのあと、吊り橋を渡って対岸へ行き、「展望所」と記された標識に従って雨上がりの山道をしばらく歩いたり、戻ってきて足湯に漬かったりと、まったりとした時間を過ごしました。
 そのうち15時くらいになり、たぶんもうホテルのチェックインが可能だろうと思い、水の郷観光センターをあとにしました。

 予約したホテルは、いわゆる湯西川温泉郷ではなく、その少し手前に建てられた一軒宿のようなところです。バスの終点の湯西川温泉までだと距離がありますが、ホテルまでは1キロほどらしいので、歩くことにしました。
 途中にトンネルがあって、マダムも私も大声で歌ったりしながら通過しました。トンネル内は反響がすごいので気持ちよく歌えます。
 やがて「湯西川保育所前」というバス停があり、それに面してホテルがありました。伊東園ホテルズホテル湯西川です。失効しそうなポイントでちょうどふたり泊まれそうな宿だったのでした。
 フロントでチェックインしたとき、相手の職員が
 「ポイントでご宿泊ですね」
 と言ったとき、わずかながら嘲弄的な口調であるように感じられたのは、私のひがみだったかもしれません。

 川に面した部屋にくつろぎました。最初から布団が敷いてあるのは、最近の宿屋の傾向でしょうか。
 くつろいでいると、床に急にボトッという音がしました。見ると、小さなカメムシが落ちてきたようでした。いつぞや泊まった宿で、カメムシが大発生することがあるので、その対策にとガムテープが部屋に置かれていたことがあるのを思い出しました。カメムシは叩き潰したりすると非常に不快な匂いを発するので、ガムテープに貼り付けて捨ててしまうことを奨励されていたのでした。この宿もカメムシがたくさん出るようだとイヤだなあと思いましたが、幸いチェックアウトするまでに出現したのはその1匹だけでした。紙を差し出すとうまいことそちらにすがりついてきたので、そのまま窓から振り払いました。
 温泉は弱アルカリの低張性、つまりほとんど澄明なお湯でしたが、少しばかりは湯の花も出ているようでした。露天風呂が少し離れていて、服を着ないと移動できないというのがちょっと不便でしたが、気持ちの良い温泉でした。客はけっこう多かったようですが、そんなに風呂が混み合ったということもありません。私はまず一浴、夕食後いくぶんまどろんでからもう一浴、さらに朝起きてからと朝食後、つごう4回入浴しました。
 夕食も朝食もビュッフェ式で、特にアルコールもビュッフェに含まれているのが伊東園ホテルズの売りなのですが、私は飲まないし、マダムもまだ結石が排出されていないようで薄いハイボールを1杯だけ飲むにとどめていました。あまり得をしなかったような気がします。
 温泉のおかげか、最近は夜中に眼が醒めることが多いのですが、この夜はまったく眠りが中断せずに朝を迎えられました。
 9時39分のバスでホテルをあとにします。かなりのんびりした出立のようですが、実はこれが「初発バス」です。ホテルの泊まり客でこのバスに乗ったのは私たちだけでした。みんなクルマ利用なのでしょう。そして、前日に湯西川温泉駅から一緒に乗って、水の郷観光センターで一緒に下りた一行が、すでに同じバスに乗っていました。奥の温泉郷のほうに泊まっていたようです。

 この項、続きます。

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