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通信販売の現在と未来 [世の中]

 昨年末、通信販売でけっこう大きな買い物を3つもしてしまいました。
 羽毛布団と、電子オーブンレンジと、高圧洗浄機です。
 羽毛布団は、結婚してすぐの冬に、近くにあったダイエーが店じまいするので安くなっていたのを買って使っていたのですが、カバーをかけていなかったのがいけなかったのだと思いますけれども、10年を過ぎたころから破れ目ができてきて、そこから羽毛がはみ出してきました。別の布を当てる、テープを貼るなどの、文字どおりの弥縫策を講じたものの、年々羽毛が舞うようになり、15年めでとうとう使用を中止しました。16年めにあたる昨シーズンは、私がコロナにやられたりもしたのに、なんと羽毛布団無しで乗り切りました。
 今シーズンになって、やっぱり欲しいということになり、マダムがジャパネットたかたのサイトで手頃なのを発見しました。見てみると確かに手の届きそうな値段です。私は独身時代に悪質な羽毛布団業者にひっかかったことがあり、合計すると70万円近く巻き上げられて、どうも羽毛布団には不信の念を抱いているのですが、これなら後日の余計な徴収も無さそうだし、思いきって購入することにしました。
 それまでも、新しい布団を買おうと思ったことはあるのですけれども、うちのはダブルサイズということもあって、どこで見てもちょっと躊躇するような価格だったのです。通販だとずいぶん安くできるのだなと感心しました。

 次いで、オーブンレンジです。前のオーブンレンジは結婚前から使っていたのだと思います。つまりすでに20年近く経っていたわけです。レンジとしてはもちろん毎日のように使っていましたが、オーブントースター機能にしても、毎朝のトーストを焼くのにも役立ちましたし、クリスマスの鶏の丸焼きを作るのにも重宝しました。ごくたまにマダムがパンやお菓子を焼いたりもしたものでした。
 確か2年ちょっと前、すなわち2020年の後半ごろから調子が悪くなったのだと思います。トーストがうまく焼けなくなりました。下側は焼けるのですが、どうも上側のヒーターが壊れてしまったようです。その年のクリスマスの鶏は、90分加熱してもちっとも焦げ目がつかず、仕方なくレンジアップしました。食べられるようにはなりましたが、ローストチキン特有の香ばしい匂いも無く、味気ない想いをしました。
 しかしこの状態で、さらに2年も使い続けたのですから、うちも我慢強いというか物持ちが良いというか。去年のクリスマスについては、マダムが岐阜から調理済みの丸焼きを取り寄せました。また、今年の半ばくらいに、マダムがシンプルなトースターを買いました。昔からある、ダイヤルで時間を合わせるヤツです。久しぶりにこのタイプを使った気がしますが、電子オーブンレンジよりも短時間で焼けることがわかり、レンジを新調してもトーストなどはこちらを使っています。
 このあいだ、テレビを見ていたマダムが
 「3万円切ったよ!」
 と叫んだので、何かと思ったらやはりジャパネットたかたのCMで、利益還元祭だかなんだかで電子レンジが安くなったという報告だったのでした。テレビではもちろん、いますぐお電話を、と煽っていましたが、私はサイトをみて確認し、確かに29,800円という値段がついていたので、これまた思いきって購入したのでした。もっとも、送料とか5年保証とかをつけると3万円以下では済まず、33,000円くらいになりました。しかしこの値段で、古いのを下取りしてくれたので助かりました。
 型落ちだとは思いますが、20年くらい使っていた前のレンジに較べればはるかに新しい機械であることは間違いありません。まだ使ったことはありませんけれどもスチーム機能もついています。回転式でないので温めたものがこぼれたりすることも少なくなりました。電化製品というのは、しばらくぶりにリニューアルすると驚くほどの進化をとげているものだと思います。

 そして高圧洗浄機。これについては前回に記しました。マダムが熱を込めて語っていたような、夢のように汚れの落ちる機械というわけではありませんでしたが、水回りの清掃などにはそこそこ使えそうではあります。これはやはりジャパネットたかたで、2万円を切ったというので購入しました。こちらも、いろいろ含めると2万円以上かかりましたが、まあそこは仕方がありません。
 以上、12月だけで10万円くらい、ジャパネットたかたに貢いだことになります。
 寝具屋とか電器屋とかに全然足を運ばずにこれだけ買い物ができるとは、便利な世の中になったものだと実感します。しかも寝具屋とか電器屋とかで同じものを買おうとすれば、倍とは言わないまでも、1.5倍くらいの額にはなったような気がします。
 通販会社というのは、店舗を持たずに商売をしているので、固定費としての家賃などを払う必要が無く、その分商品を安く提供できるというのはよくわかります。私も事務消耗品などを買うときはアマゾンアスクルなどをよく利用します。もう少し大きなものとしては、タブレットやレーザープリンターなども買いました。確かに近所のヤマダ電機などで買うよりもお手軽であり、安上がりでもあるようです。
 昔は、テレビCMで情報を得て、それこそ「いますぐお電話を!」と煽られて、争うように電話をかけたものでした。オペレーターを増やしてご対応しています、と言われても、なんど電話してもつながらなかったりしてイライラさせられたのでした。いや、実は私は通販に電話をかけて頼んだことがいちども無いので、上に書いたのは想像の光景なのですが、たぶんそんな様子であったかと思われます。
 私がいまひとつ通販を信用できなかったのは、まさにこの煽るようなCMのせいでした。利用者は多かれ少なかれ頭に血が昇ったような状態になり、冷静な判断ができなくなっているのではないかと思われます。そこにつけこんでいい加減な商品を送りつけているのではあるまいか、そんな懸念がぬぐえませんでした。
 まあ、クーリングオフが義務づけられてからは、そういう悪質なことは無くなったのだろうとは思いましたが、それにしても私は電話をかけるのが苦手ということもあって、少なくとも電話からはまったく利用したことがありません。
 電話でなくてネットで注文できるようになって、だいぶ忌避感がなくなりました。
 はじめてネット通販を利用したのは、絶版となっていた本の取り寄せです。旺文社文庫で出ていた内田百閒の本を、2冊ほど友人に貸していたのが、その友人と疎遠になってしまい、返して貰うあてもなくなっていたのでした。そのときすでに旺文社文庫は撤退しており、書店で買い直すことができませんでした。ダメモトでアマゾンで調べたら、嬉しいことに在庫があり、元の値段に較べればもちろん高くなってはいたものの、そう非常識な高値でもなく入手することができたのでした。ネット通販というのは便利なものだな、とそのとき私は思いました。
 とはいえそのとき感じたのは、「店ではなかなか買えないものを簡単に買えた」という便利さであり、買い物というのはまだ、店に出かけて行って、自分で見て触って選んで買うものだという観念が、牢固として残っていたと言わざるを得ません。いまのように、店でも買えるものを通販で取り寄せるという感覚はありませんでした。やはり、商品を自分の眼で確かめていないために、何を送られるかわかったものではないという不安がまさっていたのです。実際、ネット通販で取り寄せたおせち料理のセットがひどいシロモノであったというような騒ぎが起こったこともありました。
 通販の信頼度が高まってきたのは、SNSが発達して、けしからん商品が送られてきた場合に、誰でも簡単にそれを世間に弘め、「晒(さら)す」ことができるようになったからかもしれません。メーカーも通販会社も、「晒される」ことで評判を落としてしまってはあとの営業に差し支え、元も子も失うことになりますので、最近はかなり慎重になってきているのではないでしょうか。外国製品などはいまでも「ガチャ」めいたところもあるようですが、少なくとも国内メーカーがそんなに変な商品を送りつけるということはなくなったように思えます。
 いまや、通販で取り寄せられないものはほとんど考えられないほどに、商品の種類も拡がり、どこにでも届けられるようになりました。さらにコロナ禍で仕事もリモートワークとなっては、まったく家から出ずに生活するということが可能になり、実際そんな生活をしている人も珍しくはなくなりました。

 これだけ通販が普及してしまうと、実店舗を持つ商店の営業が成り立たなくなってくるというのも、また予想される事態ではあります。
 実際、デパートなどは相当苦しくなっているようです。このところ閉店の話が相次ぎます。私の住んでいる川口にあった唯一のデパートであるそごうも、数年前に潰れました。新宿小田急百貨店が閉店したり、京王百貨店も間もなく閉店予定だったりするのは再開発の都合かもしれませんが、再開発後に営業を再開するかどうかははっきりしていません。西武百貨店も業態を変えるようです。
 これらは量販店の増加に伴って経営が苦しくなったということもありますが、その量販店もいまや危なくなってきています。なんとなれば、量販店に行って品物を見て、良さそうな商品の型番などを控えて帰宅して、通販で取り寄せる……という消費行動をとっている人が、若者層ではむしろ普通になっているようなのです。つまり実店舗のほうは単なるショーウィンドウと化していて、売り上げがまったく伸びなくなってきているらしいのでした。
 この状態は、ひと足先に書店などでも見られました。本を買うときというのは、確かに目的の書物が決まっていてそれを買いに行くというよりも、むしろ並んでいる本を眺めたり手に取ったりして、目次を見るなりちょっと立ち読みするなりして、その場で気に入ったものを選ぶという行動になることが多いと思いますが、書店でそこまでやってその場では買わず、通販で取り寄せるというケースが、けっこう以前から少なくなかったようです。
 こうなっては、もともと利益率のあまり良くない街中の書店などはとてもやってゆけません。個人経営の書店などは最近めっきり見なくなりましたし、チェーン書店の支店などもずいぶんと減りました。最近では生き残るために、従来は迷惑きわまる存在として目の敵にしていた「立ち読み」を認め……というか、むしろ「坐ってゆっくり寛ぎながら試し読み」することさえ奨励する書店が増えてきています。さらにコーヒーショップと提携して、お茶を飲みながら試し読みできる店さえあちこちに見られるようになりました。そこまでやって、「お気に召したらどうかご購入ください」というような姿勢を見せないことには、お客が離れる一方なのです。
 量販店でも、例えばマッサージ椅子などを、使えるような形で設置しているところが多くなりました。実演販売ということなら昔からありましたけれども、このケースではマッサージ椅子を買う気がさらさら無い人でも使用可能という点で以前とは異なります。「どうぞ当店でリラックスして行ってください(気に入ったらまた足を運んでください)」という、それ以上の意味の無いディスプレイです。
 実店舗は、店を構えるための家賃や土地代、建造代などがかかりますし、商品も倉庫に置いてあるだけとは違って、客の眼を惹くための維持費や清掃費などがバカになりません。そういった費用は商品の価格に上乗せしないと利益が出ませんから、実店舗を持たない通販会社には、価格の点ではどうしてもかなわないことになります。
 その上、商品の質も遜色ないようになってきているとなると、実店舗のありかたとしては、通販ではテレビやモニターの画面でしか消費者が確認できない、商品の色形、触った感じ、そして使い勝手など、五感に訴えることを徹底的にやってゆくしか、今後生き残ってゆく道は無さそうです。「商品には決してお手を触れないでください」では、もはややってゆけないのです。
 そして、これまでは迷惑な存在、冷遇すべき存在であった「冷やかしの客」「ウィンドウショッピングの客」もまた大事にしてゆかなければならないでしょう。書店の「立ち読み」と同じです。実店舗の営業のありかたは、ここ数年で大きく変わってきていると言って良いのではないでしょうか。
 通販のほうも、より一層クオリティを高めてゆく必要があるでしょう。テレビ番組で、立場の微妙なタレントに、商品を褒めそやさせたり驚かせたりしていれば良いというものではありません。今後は、デメリットや適用限界も誠実に伝えることが求められるようになると思います。ネット通販では、たいてい利用者が星をつけたりして、その商品のメリットデメリット、使い勝手などを評価するようになっていますが、これはヤラセも多いようで、

 ──アマゾンの5つ星と1つ星は参考にしない。

 と明言している利用者がけっこう居ます。得られる情報がモニター越しでしかないために、利用者の側にもそれなりのリテラシーが求められていると言えるでしょう。

 私は通販で失敗もしています。そう高額な商品でなかったのでまだ良かったのですが、とある曲のスコアを通販で買い求めました。スコア(総譜)というのは、オーケストラ曲の場合、普通はすべての楽器が羅列され、どの楽器が何をやっているかということが完全に把握できる譜面のことを指します。商品名にははっきりと「スコア」と附記されていたので、私は当然そのつもりで購入したのでした。
 ところが、送られてきた楽譜は、妙に薄っぺらいものでした。その曲のボリュームからすると、到底考えられないくらい薄い本だったのです。
 不審に思いながら中身を見てみると、なんとそれは「コンデンススコア」だったのでした。
 コンデンススコアというのは、主な楽器の動きをピックアップして、3段譜くらいで記したものです。ブラスバンドなどでは、指揮者はこれを見て振ることが多いと聞きますが、「総譜」の名には遠く及ばないダイジェスト譜に過ぎません。そのときの私の役にはまったく立たないシロモノでした。
 仕方なく、その後池袋ヤマハに行って、本当のスコアを買いましたが、価格はそのコンデンススコアの6倍くらいしたのでした。安すぎるとは思ったものでしたが……
 通販には、そういう危険はまだ残っています。1ページでも内容サンプルを表示してくれていれば、こんな失敗はせずに済んだのですが、楽譜をはじめとする書籍には、まだサンプル表示をしていないものがけっこう見受けられます。大手通販会社を通したものではなく、楽譜屋がその店だけで通販をやっているようなところでしたから、仕方がないと言えば仕方がないのですけれども、
 もしかしたらその楽譜屋さんはブラバン系の扱いが多く、コンデンススコアを「スコア」として売ることに、なんら違和感を持っていなかったのかもしれません。自分の常識が外界でも通用すると思ってしまったのでしょう。しかし、こういうのもだんだんブラッシュアップしていって貰わなければ困ります。

 通信販売は、今後ますます盛んになるでしょう。すでに生鮮食品などまで通販で入手できるようになっています。思いもよらない商品が出てくるかもしれません。そしてその中でも熾烈な競争がおこなわれ、信頼性の低いところ、対応の誠実でないところはどんどん淘汰されてゆくに違いありません。商品の呈示のしかたも、いろいろ変わってゆくのだろうと思います。いままでの店舗販売とはまったく異なる展開になってゆくことも充分に考えられます。
 利用者のほうも、通販と店舗を、賢く使い分けてゆきたいものです。

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