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ふたたび「戦勝記念日」に [世の中]

 昨日(5月9日)は、ロシアウクライナに侵攻してから2回めの「戦勝記念日」でした。第二次大戦中の独ソ戦に勝利した記念日です。
 例年、戦勝記念日には盛大な軍事パレードがおこなわれるのが常なのですが、昨日登場したのは、T-34という、第二次大戦中に開発された骨董品のような戦車が1台だけで、なんとも寂しいパレードであったそうです。主力の戦車はみんなウクライナにつぎ込まれ、なおかつその多くが潰されたり鹵獲されたりで、すでにロシア国内にはろくな戦車が残っていないのではないかとささやかれています。戦車ばかりでなく、戦闘機などもお目見えしませんでした。
 去年の戦勝記念日には、プーチン大統領は、ウクライナ侵攻が正しいことであった、と主張しました。またそれに先立って、旧ソ連諸国に対し、
 「ナチズムの復活を許さないことが、われわれの共通の義務だ」
 と申し送ったりしています。
 これに対し、今年の演説では、

 ──ロシアに対して再び本物の戦争が起こされたが、われわれは国家の安全を守る。

 と語ったそうです。
 この要約だけでもいろいろツッコミどころがある演説ですが、ともあれプーチンはこの戦争を「米欧によって仕掛けられた、ロシア破壊のための企み」と言い張り、かつての独ソ戦同様の「祖国防衛戦」であると規定したことになります。
 こう規定してしまっては、ロシアとしてはモスクワが陥落でもしない限り戦争をやめられなくなりました。
 プーチンがいますぐにウクライナからの撤退を指示すれば、戦争はたちまち終結を迎えるし、おそらくロシア領内に他国の軍が攻め入るということも無いでしょう。賠償金はとられることでしょうが、ロシアそのものの破壊ということにはならないはずです。
 ただし、プーチン個人にはICC(国際刑事裁判所)から逮捕状が出ていることでもありますし、ここまでやっておいて撤退ということになればロシア国内からの突き上げも大変なことになるでしょう。彼がその地位と権力を保持できる可能性はほとんど無いと言わざるを得ません。そして、地位と権力を失ったプーチンは、たぶんその生命や財産を保持することもなかなか難しいでしょう。つまりウクライナ侵攻は、「祖国防衛戦」ではなくして、プーチンの「自己防衛戦」とも言うべきものになっていると見て良さそうです。
 自分の生命や財産はどうなっても良いから、ロシア国民を塗炭の苦しみから救って欲しい……などという殊勝なことをプーチンが言い出す事態は、まったく想像できません。プーチンだけでなく、紛争中の国の指導者は、誰ひとりそんなことを言い出さないでしょう。昭和天皇マッカーサーへの懇請がいかに破天荒なものであったか、あらためて頭の下がる想いがいたします。

 いまのところ、プーチン個人はもとより、ロシア領内に深刻なダメージが与えられることも無さそうなので、彼らが考えを変えることも、当分は無いでしょう。そうである限り、ウクライナからの撤退はまず考えられません。
 少し前に、クレムリンがドローンによる攻撃を受けたなんて話もありましたが、あれはロシアの自作自演であろうというのがもっぱらの観測となっています。少なくともウクライナ側が飛ばしたドローンが、モスクワまで撃ち落されることなく到達するとはとても思えません。もしそれが可能なら、鉄壁を誇ったはずのロシアの防空網はもはや有名無実であると認めることになってしまいます。被害もきわめて軽微でした。
 また、国境近くの軍事設備などで爆発が相次いだという話もありました。これも、ウクライナ側からの攻撃であるという証拠はいまのところ出ていません。ロシアの場合、過失ということも充分に考えられるのが情けないところではあります。
 ともあれ、ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦闘行為は国内でしかおこなっていない、と明言しました。それを信じるか信じないかは自由ですが。

 去年の2月に侵攻がおこなわれて以来、わりと早い時期に、ロシアの戦車や戦闘機が大量に潰されたとか、将官級の上級軍人がやたら戦死したとか報じられたわりには、ウクライナに米欧から無限供給される兵器に対して、ロシア側がずいぶん頑強に粘っているという印象があります。そこはさすがにロシアの底力と言うべきかもしれません。精鋭特殊部隊のスペツナズなども、後詰めが無かったために、ごく初期にあっさり全滅の憂き目を見ているし、ロシア軍の士気はだだ下がりだとよく報じられましたが、士気の低い軍勢を戦わせるためのノウハウが、ロシアの将校たちには伝統的に備わっているのかもしれません。
 最近は上級軍人の戦死の報もあまりありませんし、さすがにロシア軍も学習したのでしょう。
 とはいえ、侵攻軍の一翼を担っている民間軍事会社ワグネルが、弾薬不足を公然と訴え、正規軍の将軍たちをあしざまに罵っているのを見ていると、何をやっているのかとあきれた気分にもなってきます。
 民間軍事会社というのは、日本にはもちろん存在しないので、なかなかピンときません。USAの民間軍事会社は、「刑事コロンボ」のいくつかのエピソードに出てきた記憶があります。傭兵組織とはまた別なのでしょうか。ロシアでは傭兵組織は公式には認められていないのですが、今回の戦争でワグネルが目立ったこともあってか、30ほどの民間軍事会社が林立しつつあるとのことです。刑務所で兵士をスカウトし、囚人部隊みたいなのを作ったのもワグネルだったと思います。
 正規軍からは眉をひそめられているようですが、プーチンがずいぶん頼りにしている感じです。初期の正規軍のていたらくに愛想をつかしていたのかもしれません。プーチンの寵愛をいいことに、ワグネルの代表者プリゴジンは、いろいろ言いたい放題である様子なのでした。弾薬の支給が遅れたのは、正規軍からワグネルへの嫌がらせという説もあります。もちろん、本当に弾薬が不足してきているという説もあります。

 ロシア軍による占領と、ウクライナ軍による奪回とは、いまのところ一進一退という印象で、それほど目覚ましい成果はどちらにも上がっていないようです。今朝の新聞に、占領地と奪回地を示した地図が載っていたのですが、ロシア軍の弱さや、ウクライナの快進撃がしじゅう伝えられるわりには、奪回地が思ったより少ないことに驚かされました。ルガンスク州からクリミア半島に至るロシアによる南部回廊は、まだまだ健在です。ウクライナとしてはその回廊の要所を奪回することで回廊を分断し、クリミア半島を干上がらせて回復するという戦略でしょう。ロシアの黒海艦隊はほぼ戦力を失っているので、回廊さえ分断できれば半島への補給は無理になります。
 確かにクリミアだけ見れば、ロシアが「防衛戦」を呼号するのも理解はできますが、そのクリミアも9年前に無理矢理併合したところですので、「なるほど防衛戦だ」と納得する人はあんまり居ないでしょう。ロシアがクリミアを放棄してウクライナ国内から撤退しさえすれば平和が戻ってきて、ロシアも経済制裁から解放されて良いことずくめではないか……とは、ほとんど世界中の人が思っていることでしょうが、「防衛戦」を呼号してしまった以上、撤退は「防衛の失敗」であり、従って最高指導者であるプーチンにとっては命取りになってしまうので、もはや選択肢として考えられなくなってしまいました。
 この戦争の終わりは、誰にも見えていません。
 ロシアが今後さらに戦力の逐次投入を繰り返し、兵力不足が深刻になって、現在はおこなっていない都市部からの徴兵をおこないはじめれば、さすがに都市部での厭戦気分も高まってくるでしょう。その結果としてプーチンが引きずりおろされ断罪されれば、おそらく戦争は終わると思われます。
 また、ウクライナを支援する米欧が、終わりの見えない泥沼に飽きて、支援をやめたとしたら、あとはウクライナ単独での戦いとなり、そこから数年で矢折れ刀尽きてロシアに降伏することになるかもしれません。
 ロシア本土に攻め込もうという気持ちが、ウクライナにも米欧にも無い以上は、この戦争の終わらせかたは、そのどちらかしかないような気がします。どちらにしても、まだまだ長い時間を要しそうな雲行きです。あと1年や2年でどうかなる話ではなさそうです。
 ロシア本土にどこも手を出そうとしないのは、もちろんそのことによってプーチンが核ミサイルのボタンを押す誘惑に負けるのではないかと思っているからでしょう。いままでひっぱり出されてきた各種兵器の整備具合を見ると、なんだかロシアでは核ミサイルすらすでに使用に耐えるシロモノではなくなっているのではないかという疑念が湧いたりするのですが、やはり実地に試してみるというわけにもゆきますまい。
 この戦争でロシア勝利ということになると、やっぱり核兵器を持っている国は好き勝手をゴリ押しできることが証明されてしまいます。だから、ヨーロッパ諸国はともかくとして、日本としては何がなんでもロシアを勝たせないようにすることが重要になります。何しろ日本周辺には、ロシア以外に中国・北朝鮮という核保有国があり、しかもどちらもまともな話が通じる相手ではありません。悪しき前例を作らせるのはなんとしても避けなければならないのです。
 そのために武力を用いるのが現段階では無理なのであれば、遅ればせではありますが、諜報に力を入れるべきです。それも情報収集という受け身の諜報ではなく、情報攪乱とか流言蜚語の拡散とか反体制組織への援助とか、日露戦争時に明石元二郎がやったような「攻めの諜報」がこれから不可欠となりそうです。
 台湾有事は日本有事、と故安倍晋三元首相は言い切りましたが、このたびのウクライナ有事こそ、日本有事への切所と考えるべきです。戦闘行為がおこなわれているのが数千キロのかなたであるせいか、まだ政治家にも、役人にも、財界人にも、学者にも、その自覚が足りていないというか、なんだかのんびりしている観がありますが、一方の当事者であるロシアという国は、わが国の隣国でもあるのです。ロシアの広大さにごまかされていますが、侵略戦争中の国がすぐ隣にあるという事実を、もっとまじめにとらえるべきではないでしょうか。

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