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ハワイの大火 [世の中]

 ハワイの大規模な山火事は、すでに100人以上の死者を出しつつ、まだ収まる気配を見せていないようです。
 山火事の原因は、まだはっきりはしていないようです。送電線の柱がハリケーンで倒れたとか、山火事を利用して増殖する外来種の植物がはびこっていたとか、いろいろ推測されてはいますが、まあ乾燥していた山野で葉がすれ合ったりして発火し、ハリケーンの強風によって燃え拡がったというところでしょう。電気の事故もあったかもしれませんが、きっかけに過ぎないと思われます。
 日本ではあんまり山火事というものが起こりませんが、外国ではわりに簡単に起こります。つい最近も、ニューヨーク州の奥地で山火事が起こって、隅っこにあるニューヨークシティまで煙に覆われたなんてことがありました。
 私も、外国で山火事に遭遇したことがあります。シチリア島に行ったときのことです。その日はサハラ沙漠渡りの熱風シロッコが吹きすさんで、気温が43度まで上がった、ものすごく蒸し暑い一日でした。この気温は私がこれまで経験した最高気温でもあります。
 私たちはパレルモの郊外にあるカリーニという街に滞在しており、その日の晩、カリーニの野外劇場で演奏会をする予定でした。日中あまりに暑くて、こんな暑さの中で演奏会などできるのだろうかと疑いましたが、陽が傾きはじめるとだいぶしのぎやすくなってきました。
 野外劇場は、山の手、というより山の中腹あたりにありました。私たちは夕方くらいにそこへ行き、リハーサルをはじめました。
 と、空から何やら降ってくるのに気がつきました。何かと思ったら、灰のようです。紙を焼いたときのような黒い灰が、ちらほらと降ってくるのです。どうもあたりが焦げ臭いようでもあります。
 上のほうで、誰か焚火でもしているのだろうか、困るなあ……と私たちが言い合っていると、山の下のほうから、消防車が何台も登ってきました。焚火どころの話ではなく、山火事だったのでした。
 幸い、そんなに大きな山火事ではありませんでした。シチリアの山は灌木がちょぼちょぼと生えている程度の禿山が多く、燃え拡がるのもそんなに早くはなかったのでした。無事に消防車によって消し止められたようです。
 とはいえ、灰はもうしばらく降り続けました。歌い手が演奏中に灰を吸い込んでしまったら大変なことになります。演奏会はヒヤヒヤものでした。
 空気が乾燥していると、枯葉などがすれ合うことで、簡単に火がついてしまうものであるようです。シロッコは地中海を渡るうちにたっぷりと水分を含み、そのためにカラッとした暑さではなくて相当に蒸し暑くなるのですが、それでも日本の多湿さには遠く及ばないようで、ドライアイになった人も居ました。湿度はかなり低かったのでしょう。
 オーストラリアでちょくちょく起こる山火事も同様だと思います。コアラが何十万匹死んだなどという話もありました。
 私たちの遭遇した山火事は軽いものでしたが、いったん燃え拡がると、なかなか消防車くらいでは手がつけられなくなるようです。

 ハワイの山火事は、マウイ島で発生しました。
 ハワイとひとことで言っても、百いくつかの島より成る群島です。観光客がいちばん集まるのは、州都ホノルルのあるオアフ島でしょう。ワイキキの海岸などもこの島にあります。真珠湾もこの島です。
 次が最大の島であるハワイ島でしょうか。たびたび噴火して話題になるキラウェア火山はこの島にあります。ハワイの火山は日本の火山に較べて溶岩の粘性が低く、爆発するというよりも噴火口から水のようにあふれだして周囲に拡がるのだそうです。そしてそのまま海に流れ込み、冷やされて岩となり、ハワイ島の面積を増やし続けています。
 マウイ島はその次くらいに位置する島です。人口ではオアフ、ハワイの両島に次ぎ、面積ではハワイ島の次に大きいそうです。しかし、日本人観光客が行くのは大体オアフ島、せいぜいハワイ島で、マウイ島まで足を延ばす人は少ないようです。ほかの外国人観光客もそんなに訪れず、マウイ島はUSA国内からの観光客が多くなっているとのこと。受け容れ態勢としてもUSA対象という傾向が強いそうです。滞在型リゾートというところなのでしょう。日本人でも、ゴルフをする人などはよく行っているらしい。
 しかし、特徴の無い島というわけでもありません。フラダンスが趣味のマダムに聞くと、マウイ島を舞台にした歌がずいぶんたくさんあるのだそうです。それもそのはずで、マウイ島のラハイナという街は、1845年までハワイ王国の首都だったのでした。いわば古都であり、ここを詠った歌が多いのもうなづけます。
 ハワイ王国は案外と新しい国で、建国は1810年のことでした。それまでは小王朝、というより小部族があちこちに乱立している状態でしたが、ヨーロッパ人と接触して鉄砲を大量入手したカメハメハ一世がそれらを片端から征服しました。最後まで従わなかったニイハウ島カウアイ島が軍門に下ったのが1810年だったわけです。カメハメハ一世がマウイ島に首都を置いたのは、ハワイ諸島のだいたい真ん中に位置したからかもしれません。
 このラハイナが、今回の山火事で大きな被害を受けました。ラハイナのホテルに滞在していた観光客はみんな避難しましたが、火にまかれて命を落とした人も居るようです。また、逃げ場を失って海に飛び込み溺死した人も居たというのですから、容易ならぬことです。バイデン大統領は、ハワイ州に対して大規模災害の宣言をおこないました。
 古都の焼失、となると数年前の首里城火災を思い出しますが、あのとき燃えたのはお城だけです。ラハイナ焼失は、いわば那覇市全体が焼け落ちてしまったような大事件に相当します。まあ、ラハイナの人口は1万人程度で、30万以上の人口を擁する那覇市とは較べものになりませんが。
 ラハイナからホノルルに首都を移したのはカメハメハ三世ですが、カメハメハ三世自身は、騒がしいホノルルよりも、素朴な静けさをたたえたラハイナのほうが好きだったとか。
 カメハメハ王朝は、5代目までは順調に受け継がれました。カメハメハ五世が、後継者を決めずに1872年に崩御してから、王国の命運に翳(かげ)が差しはじめます。
 王国司法府は、6代目国王を決める選挙を執りおこないました。国王を選挙で決めるという、珍しいことがおこなわれたのです。結果、ルナリロが即位しましたが、わずか1年あまりで、やはり後継者を決めずに結核により病死します。
 ふたたび選挙がおこなわれましたが、こんどはひどい中傷合戦となり、ハワイ史上もっともきたない選挙と呼ばれています。そのきたない選挙を制して即位したのがカラカウア王で、20年近くにわたってハワイに君臨します。この王様は、ハワイ王国ではじめて、立派な王宮(イオラニ宮殿)を建造しました。USAの領土内にある唯一の王宮跡で、ハワイの名所のひとつにもなっています。
 ハワイ王国はそれまでに米英仏などと国交を結んでいましたが、ご多分に洩れず不平等条約でした。カラカウア王はこれを解消すべく尽力したのです。
 サモアなどの島嶼国家と結んで、太平洋同盟のようなものを起ち上げようとしました。とりわけ期待していたのが日本でした。
 日本は各国と不平等条約を結ばされていましたが、他国に先駆けていちはやくこれを解消したのがハワイ王国だったのでした。カラカウア王は1880年代に世界歴訪の旅をおこない、その途上で日本にも立ち寄って、明治天皇と会見しました。そのときカラカウア王が提案したのが、日本とハワイを連邦化するという、驚くべき気宇壮大なプランだったのです。
 その糸口として、カラカウア王の姪であるカイウラニ王女と、山階宮定麿王との婚儀が発案されました。カイウラニ王女はその後、カラカウア王の妹で、最後の女王となるリリウォカラニにより、王太女に指名されています。カラカウア王からもリリウォカラニ女王からも信頼された、すぐれた女性であったようで、いまに残る写真を見ても、美貌と知性を併せ持ったあでやかな容姿が見て取れます。
 この婚儀が実現し、日本とハワイの連邦化がおこなわれていれば、その後の歴史は大きく変わったことでしょう。のちに真珠湾を攻撃するのは、日本軍ではなく米軍であったかもしれないのです。
 しかし残念ながら、明治14年の日本政府は、カラカウア王の提案を謝絶してしまいます。西南戦争が終わって間もない時期でもあり、そんな夢のような大風呂敷に乗る余裕もなかったのです。タイミングが早過ぎたとしか言いようがありません。30年後、日清・日露戦争に勝利したあとの日本であれば、乗ったかもしれない、と思います。しかし、そのころにはすでにハワイ王国は存在していませんでした。
 カラカウア王が即位したころ、すでにハワイの土地の多くの部分がアメリカ人を主とする白人たちに買い占められていました。カラカウア王は憲法を改正して、白人の土地取得や国王選挙権の行使を制限しようとしましたが、果たせぬまま1891年に崩御します。跡を継いだリリウォカラニ女王は、兄の遺志を継ぎ、憲法改正を断行しますが、白人たちの秘密結社によるクーデターが発生。そのクーデターを支援すべくUSA本土からは軍艦が派遣されました。圧倒的軍事力の前にハワイ王国は抗すべくもなく、王政は停止させられ、女王リリウォカラニはハワイから連れ去られます。
 音楽に堪能であったリリウォカラニ女王が、心ならずもハワイをあとにするときに作ったのが、いまなおハワイアンソングの最高の名曲とされる「アロハ・オエ」にほかなりません。
 それにしても、白人の秘密結社がリリウォカラニ女王を陥れたやりくちは、読むだに胸が悪くなるような悪辣さで、いつも正義の味方づらをしているUSAの本性のようなものが見て取れる気がします。

 ハワイはローマ字で書くとHawaiiですが、最後の i がふたつあるのを不思議に思った人は少なくないのではないでしょうか。
 実は、もう少し丁寧に綴ると、Hawai'iとなります。ハワイ語の母音には2種類あり、ひとつはのどに力を入れずになめらかに出す発音、もうひとつはのどにひっかけるようにして出す発音です。前者が「i」、後者が「'i」であるわけです。
 このふたつは別のシラブルですので、ハワイというのは本当はハワイイと表記すべきかもしれません。ホノルル、ワイキキ、ウクレレなど、ハワイ語の単語には最後の発音を重ねるものがよくありますが、ハワイ自体もそうなのでしょう。
 私はまだ行ったことがありませんが、一度くらいは体験しても良さそうな場所ではあります。
 山火事が早く鎮火することを祈ってやみません。

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