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動物園の半日 [日録]

 久しぶりに、動物園に行ってきました。
 今日10月1日都民の日であって、東京都内の公営施設のいくつかは入場無料となります。上野動物園多摩動物公園葛西臨海公園水族園井の頭自然文化園などです。
 特に予定も無い日だし、それらのどれかに出かけて来ようと思ったのですが、うちから手近なのはどうしても上野動物園ということになってしまいます。多摩動物公園まで行こうとすると一日がかりになってしまいます。家で洗濯などを済ませ、スーパーに買い物に行き、ひと息ついて出かけるというタイミングだと、上野がせいぜいなのでした。
 まあ、上野動物園もそう頻繁に足を運んでいるわけではありません。上野の大学に通っていたのに、在学中には全然行きませんでしたし、その後も3、4回くらいしか行っていないような気がしますので、飽きたというほどのこともありません。半日出かけて、いろんな動物たちの顔を見て来るのも良いか、と思いました。
 マダムは今日いろいろ忙しかったようで、ひとりで行くことにします。自分のペースでまわるというのも悪くありません。
 昼過ぎに出かけました。

 上野駅の新しい公園口にはなかなか馴れないのですが、改札を出ると真正面に動物園のゲートが見えたのでちょっとテンションが上がりました。前の公園口は文化会館と相対する位置でしたので、遠くまでは見わたせなかったのでした。改札口から、広い遊歩道が一直線に突き当りの動物園まで貫通しているというのは、上野にはじめて訪れた人に対しての演出としてはなかなか良いのではないでしょうか。
 西洋美術館ではキュビズム展をやっており、科学博物館では海をテーマにした特別展をやっているようで、惹かれるものを感じたのですが、初志貫徹で動物園に向かって歩きます。科博などは一般展示も見たくなるに決まっており、そうすると13時半過ぎというこの時刻からの観覧では時間が足りなすぎです。また日を改めてくることにしましょう。
 無料ですので、動物園のゲートは開放されており、誰でも自由に通れるようになっていました。
 予測はできたことですが、非常に混んでいました。都民の日であると同時に日曜日でもあったわけで、それはみんな押し寄せることでしょう。覚悟はしていましたが、それにしても10歩とまっすぐには歩けないほどです。
 親子連れが多いのも予想どおりでした。しかし予想を上回ったのは、外国人の親子連れがやたらめったら多いことでした。白人も黒人もたくさん居ましたが、東洋人になると見た目があんまり日本人と変わらないので、突如としてわからない言葉を話しはじめるとギョッとします。中国語や韓国語なら、意味はわからないなりに言葉の調子でまだ見当がつくのですけれども、どちらでもなさそうな言語をしゃべっている、一見日本人とさほど区別がつかない家族連れともちょくちょく行き交いました。どうやら上野動物園はいまや国際的な観光スポットであるようです。ファミリー向けの観光施設として、外国のガイドブックなどにも記されているのでしょう。

 さて、正門ゲートをくぐったら、右手のほうにパンダが居たと記憶していたのですが、配置換えがあったようです。いつも長蛇の列ができていたパンダ舎が見当たりません。ゲートで貰ったガイドマップを見ると、パンダは西園に移ったようでした。
 上野動物園には東園と西園があり、上野駅の公園口からまっすぐ行けるのが東園です。西園は不忍通りをはさんだ不忍池の側にあり、つい最近まではモノレールが両園を結んでいました。
 このモノレール、単なる園内遊具ではなく、上野懸垂線としっかり名前のついたれっきとした都営の鉄道路線です。昭和32年に開業した日本ではじめてのモノレールであり、『続・TOKYO物語』のナレーションにも採り入れさせて貰いました。SUICAには対応していませんでしたが、確かイオカードまでは使えていたような記憶があります。
 設備の老朽化を理由に、令和元年から運行を休止していました。来年正式に廃止となるのだったと思います。この運行区間、歩いても大したことはなく、またマイクロバスによる両園の連絡もはじまったので、もうモノレールとして残す意味も無さそうですが、東京都としては跨座式の小型モノレールを後継に作るつもりだそうで、しかし建設から運用まですべてを都が負担するのは厳しいので、第三セクターのような形態にする気で居るようです。
 ついモノレールの話に入りこんでしまいましたが、ともあれパンダが見られるのは長らく東園のゲートを入ってすぐの場所であったのが、現在ではモノレールの西園駅周辺に設置された「パンダのもり」という場所に移ったらしいのでした。
 上野動物園で、駅からいちばん近いのは、実は弁天門なのですが(京成上野駅からも近い)、入場者がいちばん多いのはやはり正門でしょう。正門をくぐった途端に、いわば最大の目玉商品があるというのは、考えてみればあまり良い配置とは言えません。言いかたは悪いですが竜頭蛇尾の気配があります。ほかの動物たちが色あせて見えかねません。
 それよりも、いろいろな動物を見て歩いて、期待を高めて行って、クライマックスとしてパンダを見る、という配置にしたほうが、演出的にすぐれているように思われます。パンダを西園の、しかも旧モノレール西駅附近の比較的奥まったところに移したというのは、なかなか好判断だったのではないでしょうか。
 もっとも、私は今日はパンダは見ませんでした。混雑していただけに、パンダを見るのに60分待ちという話で、
 「いまからパンダをご覧になると、ほかの動物を見ることはできません」
 などと係員が叫んでいました。そこまでしてパンダを見る気にもなれなかったのでした。
 それに、一頭につき毎年一億円くらい中国政府に支払っているというような話を聞くと、どうしても素直な気持ちでパンダを愛でる気がしなくなります。目下大人気の双子、シャオシャオレイレイは日本生まれですが、この2頭分についてもやはり一億円ずつ支払わなければならないようです。彼らの姉であるシャンシャンは、5歳半まで上野で暮らしましたが、今年の2月に家族と引き離されて中国に送られました。中国政府は、国外にはあくまでパンダをレンタルしているだけという立場をとっており、国外で生まれた個体についても、所有権は中国にあると考えています。国際法的にそれが妥当なのかはわかりませんが、どこの国もそういう契約でパンダを受け容れているのですから仕方がありません。まさにパンダ外交です。
 さらに、パンダが棲息しているのは、本来の中国領土ではせいぜい雲南省の一部であって、大多数はチベットだというのも、素直に愛でられない要因です。ご存じのとおりチベットは、中国が強引に領土として組み入れてしまった地域で、もともとは全然別の国であり、文化もまったく違うのに、中国政府は大変な勢いで同化政策を推し進めており、さまざまな悲劇が漏れ聞こえてきます。中国のパンダ外交は、何やら他人のフンドシで相撲をとっているような色合いがあります。いや、他人のフンドシを無理矢理自分のだと言い張っているようなものでしょう。
 そんなわけで、テレビなどでパンダを見ても、私は微妙に複雑な気分になってしまうのでした。すいているときなら見ても良いのですが、60分も待って見る気にはなれません。

 パンダ以外の動物も、前に訪れたときに較べると、若干配置が変わったような気がしました。トラの森ゴリラの森北極グマの海といった、園地作りつけのコーナーはさすがにそのままでしたが、あれ、この動物はここだっけ、と首を傾げることが何回かありました。
 アフリカの動物などは、以前は東園に居たように思いますが、思い違いだったでしょうか。実は前に来たとき、ツチブタという動物が妙に印象に残りました。普通の豚の属する偶蹄目ではなく、確か管歯目という分類で、アリクイなんかに近い動物だったかと思います。屋内の部屋の中で、2頭並んでグダーッと寝ていたので、同行したマダムと顔を見合わせて思わず苦笑してしまったのでした。なんとなくわれわれの日常に似ているような気がしたのです。
 そのツチブタ、確かカバなどと一緒に東園に居たように記憶していました。しかし、今日来てみると、西園にある小獣館の、地下の夜行性動物のコーナーに引っ越していたのです。ツチブタは「小獣」という大きさではないのですが、夜行性なのでまとめられたのでしょう。この前は寝ていましたが、夜行性だけあって暗いところではけっこう活溌で、あっちへ行ったりこっちへ来たり、何やらせわしなく歩き回っていました。

 トラやゴリラは、見当たらないことも多いのですが、今日はいちおう目撃できました。しかしとにかく大変な混雑で、あまり長くは見て居られません。すぐに場所をあけて、うしろに並んでいるお客たち(子供もいっぱい)に交代しなければならないのでした。もっと空いた日に来たいなあ、とは毎回思っているようでもあります。北極グマはついに見ることができず、ほかの熊たち(ヒグマ、ツキノワグマ、マレーグマ)も一瞬見えただけでした。
 「アイアイのすむ森」というコーナーは、前に来たときにはあったかどうか。西園に入って、不忍池にかかった橋を渡った先にあるコーナーで、これまで不忍池を渡ったという記憶が無いのでした。コンセプトとしては、独特な生態系を持つマダガスカルの動物を集めたというものでした。マダガスカルはアフリカ大陸に近いわりには、かなり早い時期にアフリカから切り離され、むしろインドとつながっていたりした島で、動植物も独自進化をとげ、アフリカとはまったく異なっています。童謡に歌われるアイアイユビザル)もその一種で、それでコーナーの名前に採り上げられました。こんなマイナーな動物をネタに童謡を作った作詞家には感心させられます。
 アイアイは夜行性なので、ここにも照明を落とした展示館が設置されていましたが、この展示館はあまりに暗すぎて、肝心のアイアイにしても、影のようになっていてさっぱり容貌がわかりません。居るのはわかるし、動いているのも見えるのですが、姿がまるっきり影になっているのです。もっともスマホで撮影している人がたくさん居て、その画面をちらりと見ると、けっこうちゃんとアイアイの顔が映っていました。スマホの解像力はすごいものだと思いました。
 マダガスカルには、アイアイのほかキツネザルの仲間も多いようですが、むしろ爬虫類や両棲類に独特なものが多いと言います。今後、そういった動物も展示されるようになれば面白いですね。
 その両棲類や爬虫類を展示している両生爬虫類館。前にマダムと来たときは時間切れで見られなかったので、今日はゆっくり見てやろう……と思っていたのですが、このコーナーは16時に閉館ということで、そのギリギリの時間になってしまったせいか、とてつもない混雑になっていました。立ち止まってワニやカメを見ているような余裕はありません。人混みに押し流されるまま、ちらちらと動物たちを眺めてゆくしかなかったのでした。
 しかし爬虫類というのは、基本的にあんまり動きませんね。巨大なイリエワニが居ますけれども、ものすごい人混みを前にしても、太い丸太のごとくじっとしています。ワニ類はたいていそんな感じで、むしろカメ類のほうが動いているようでした。ヘビ類もほとんどが微動だにしません。
 動かないと言えば、上野動物園で私がいちばん好きなハシビロコウ。昔来たときに、けっこう間近で見たのでしたが、その次にマダムと来たときは見当たらず、今日もかなり奥のほうにたたずんでいました。最近電車内テレビの日清紡のCMに登場して、なんだか嬉しくなってしまったのでしたが、あのCMでもしばらく不動でたたずんでいて、最後に口を開けたところで「ニッシンボー!」のセリフ(叫び?)が宛てられていました。餌になる魚などに気がつかれないよう、不動の構えで待機する習性になったのだそうです。
 そういう生態も面白いのですが、私はハシビロコウの顔を正面から見たときに、
 「こいつは実は恐竜なのでは?」
 と直覚的に思ってしまったことがあり、それ以来この鳥を見るのが好きになったのでした。恐竜が爬虫類ではなく鳥類であるという説を、私が強く支持するようになったのは、ハシビロコウを見てからです。
 奥のほうで遠かったとはいえ、ハシビロコウも見られて、私は満足して池之端門から出ました。この門はメトロ千代田線根津駅に近く、私も根津から西日暮里に出て帰宅しました。

 上野動物園に来るたびに、あまり広くない敷地をなんとか工夫して使っているなあとの想いを強くします。通路もずいぶん入り組んでいて、実際にはさほどの広さの無いトラの森だのゴリラの森だのを、広く見せようとしている意図がわかるようになりました。
 面積に上野ほどの制約が無かった多摩動物公園が、どういう土地の使いかたをしているか、そういう観点でも見てきたい気持ちが強まりました。子供の頃に行ったことはありますが、かれこれ半世紀くらいご無沙汰しています。再訪する機会を作りたいものです。

 また、上野にしても無料の日ばかりに行かず、すいているときにゆっくり散策したいという気分になりました。考えてみれば600円ばかりでこれだけの動物を見ることのできる施設はそうそうありません。ケチケチせずに行ってくるとしましょう。なおあと6年もすれば、年齢区分が変わって300円になります。それからでも良いかな。いやいやそんな考えがケチだと申す。

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