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クマの話 [いろいろ]

 今年はクマによる被害が多いようです。襲われて死傷した人も少なくなく、すでに6人の死者が出ています。
 夏ごろまでは、OSO18が猛威をふるっていました。これは神出鬼没のヒグマで、人間こそ殺していませんが、実に60頭以上の牛を襲って肉や内臓を食い散らかしました。牧場主にとっては不倶戴天というべき強敵で、いろいろ策を講じ、罠なども張ってみたものの、OSO18はそれらを華麗にスルーして、足取りを人間につかませないまま各地の牧場を襲撃し続けたのでした。
 まるで忍者のような出没ぶりにはハンターも手を焼いていたようですが、最期は意外とあっけなく射殺され、おいしくいただかれたと聞きます。
 しかし、OSO18を仕留めたハンターのところには、ずいぶんと抗議が行ったようです。
 秋以降に人間を襲ったりしているのは、北海道のヒグマではなく秋田あたりのツキノワグマですが、これらを駆除すると、やっぱり自治体などに猛抗議が来るのだそうです。
 クマがかわいそう、というのでした。
 もちろんそんなことを抗議してくるのは、クマ被害があるような地域の人間ではありません。野生のクマなど見たことも無いであろう都会の住民たちです。
 そんな連中が何を言ってきても、相手をする必要はないと思われますが、何十回何百回と電話をかけてきて、役場の仕事に差し支えるほどになっていると聞けば、放ってはおけないような気もします。業務妨害などで取り締まれないものでしょうか。ましてやハンター個人にしつこく抗議をするなどというのは脅迫にもあたりそうです。
 彼らの言い分では、人間がクマのテリトリーを侵食しているのが悪いのであって、クマは仕方なく自衛しているだけだというのです。それを射殺するのはあまりに人間の身勝手だというわけです。
 テリトリー争いというのはどこにでも、どんな動物にでもあるもので、どちらが悪いということもありません。ただ人間は、その歴史を通じて常にほかの動物とのテリトリー争いに勝って、領域を拡げ続けてきましたから、ときおりそれをうしろめたく思う者が出てくるのもやむを得ないかもしれません。
 しかし、クマがひとたび人間を食ったりしてしまうと、それ以後そのクマにとって人間はエサの一種として認識されてしまうので、やはり放置するのはまずいわけです。いつまたほかの人間が襲われるかわかりません。それがOSO18のように頭の良い個体だったりすると、被害がとめどなく拡がる可能性があります。
 また、人間が食われないまでも、人里で家畜や作物などを食べてしまうと、その個体はおなかが減るとすぐに人里に下りてくるようになります。山林の中でドングリやらほかの動物やらを獲って食べるよりも、簡単に食物が手に入ると学習してしまうのです。そのうち出くわした人間が襲われるということも当然考えられます。もちろん人的被害以前に、経済的被害が大変なことになるのも当然です。
 やはり、人里に出てきたクマは射殺するしかないのでした。確かに「人里」が作られるにあたって、クマのテリトリーを侵すということもあったかもしれませんが、それだからと言って人的被害、経済的被害を放置するわけにはゆかないでしょう。

 今年のクマ被害が多いのは、夏が暑すぎて、山の中のクマのエサになるものが少なかったからとも言われています。これもまた、クマ擁護派に言わせると、人間のせいで温暖化が起こって猛暑になっているのだから、クマは悪くない、むしろ人間側が多少の被害は甘受すべきだ、ということになるようです。
 どうも擁護派の言い分を聞いていると、クマの生態などいろんなことについて、聞きかじりの知識を自分の都合の良いように曲解して採り入れているようにしか思えないのですが、基本的には、かわいい動物なのに射殺するなんてかわいそう、というところに帰着するようです。
 クマが「かわいい」という感覚は、どう考えても実物のクマに接して得られたものではなさそうです。プーさんパディントンくまの学校くまもん等々、数限りないぬいぐるみやアニメキャラ、ゆるキャラなどによって形作られた感覚であるに違いありません。うちのマダムもクマのぬいぐるみをたくさん持っていて、それぞれに名前や性格をつけてかわいがっています。
 確かに、彼らのもとになっている幼体のクマ、いわゆる子熊は、実物を見てもとてもかわいらしく見えるのは事実です。まあ、動物の子供というのはたいていかわいらしいものですが。
 しかし、成体の実物のクマをモデルにしたキャラクター「夕張メロン熊」がちっともかわいくなく、むしろ「怖い」と言われて、結局ゆるキャラヴァージョンを作らざるを得なかったことを考えると、成体のクマのイメージをよく知らない人が多いのではないかとも思えてしまうのでした。子熊イメージのキャラクターよりも夕張メロン熊が先に普及していたら、もしかしたら現状の狂気じみた抗議活動なども起こらなかったのではあるまいか、などとも考えてしまいます。
 とにかく成体のクマというのは、人間は素手では絶対にかないませんし、刀剣などの武器を持っていたとしてもよほどの心得のある人でなければまず対抗できません。事実上、銃以外にはクマを仕留める方法は無いと言って良いでしょう。到底「かわいい」などと言える相手ではないのでした。
 人に馴れるということもまずありません。プーさんやパディントンのイメージで考えてはいけないのです。つい最近も、子熊の頃からペットとしてかわいがっていた人が、成長したヤツに瀕死の重傷を負わされるという事件がありました。クマには人間の情愛は通じなかったのです。あるいは情愛が通じていて、いつものように飼い主に無心にじゃれついたつもりが、自分の腕力が制御できずに傷つけてしまったという可能性も無いではありませんが、それにしたって力を制御できない猛獣が危険なことには変わりありません。クマは「猛獣」なのです。

 山道でクマに出遭ったら死んだふりをしろ、ということは昔から言われていますが、これが有効かどうかは説が分かれています。クマは屍肉も食べるのだから死んだふりをしても無意味だという説、食べるつもりで襲ってきたわけでないのなら効果があるという説、どちらも著名な動物学者や探検家が言っているので、判断に困ります。まあ、死んだふりをしていていきなり襲いかかられたら、次の動作をとりようがなくただやられてしまうことになるので、あまり試したくはない気がします。
 山歩きが好きだった私の父は、一度だけクマに遭遇したことがあったらしく、大声を出したら逃げて行ったと言っていました。まあ、ヒグマはともかく、ツキノワグマは人間をこわがっているところもあるため、ある程度の距離があるならこれがいちばん有効でしょう。
 ニラメッコというのもわりに有効だそうです。とにかく視線をそらさずにクマの顔をにらみつけてやると、だんだんキョドりだすそうで、そうなってきてからフッとよそを向いてやると一目散に逃げてゆくのだとか。いわば精神力勝負ですね。
 いずれにしろいちばんいけないのは、動顛して背を向けて逃げ出すことだそうです。これはクマどころか犬でも同じで、逃げる相手を追いかけるのは肉食をする動物の本能みたいなものですので、まず間違いなく襲われます。逃げるスピードが速いのなら良いのですが、残念ながら人間の走る速度はたいていの動物よりも遅いのでした。相手が4本の脚を使えるのに対してこちらは2本だけですから、それだけでも不利なのは明らかでしょう。
 二足歩行で有利な点は、正面から見た場合の体高が、たいていの動物より高いという点でしょうか。動物は体高によって相手の脅威度を測るらしく、眼の高さなどが自分より高い相手は、こりゃかなわんと判断するようです。だからニラメッコが有効だったりするわけですが、ツキノワグマの場合は立ち上がっても人間よりは背が低いことが多いので、あちらとしてもあまり戦いたくないだろうと想像できます。人的被害が出てしまっているのは、たぶんつい逃げようとしてしまったのではないかと思います。
 ヒグマとなるとそうは行かないでしょう。ヒグマは立ち上がると人間よりも背が高くなりますし、ツキノワグマより獰猛でもあります。クマよけに空き缶などをつなげて音を立てていると、かえって寄ってくるなんて話もあって、山道で遭遇した場合はどうすべきなのか、あまり安心できそうな対策が無い気がします。
 駐車場などに現れて観光客が襲われたという事件もありました。これも、てんでんばらばらに逃げ出したのがいけなかったようです。逃げるにしても集団で、少なくともうしろの何名かはクマから眼を離さずに後ずさりしつつ遠ざかるというくらいの配慮は必要だったのでしょう。

 それにしてもOSO18に手も無く食われてしまった牛たちは、わりと若いのが多かったのでしょうか、有効な抵抗もできた形跡がありません。
 実は牛というのもなかなか強い動物であるはずで、過去にはヒグマと戦って相討ちになった牡牛なども居たそうです。自身も腹などに咬みつかれて息絶えたのですが、ヒグマのほうも角で突き殺されていたとか。私は田舎道を歩いていて牧場にさしかかったところ、中に居た牛が急にこちらに突進してきて肝を冷やしたことがあります。牛が本気で走るとかなりのスピードとなり、その体重ともあいまって相当な破壊力を発揮しそうです。椽(たるき)に針金を張っただけの柵では、牛の突進を防ぐ防壁としてはまるきり心許ない気がしたものでした。
 ちなみに上記の、ヒグマと牛の相討ち事件を記していた本は、『きたぐにの動物たち』という昭和30年代くらいの書物でした。史上最悪のヒグマ被害を出した三毛別事件についても書いてあります。この本、朝日新聞の北海道支社の編著ということになっていましたが、実際は本多勝一記者が大半を書いています。「南京大虐殺」なるものを報じ、その後朝日新聞が右傾化(!)してきたと憤懣を抱いて退社し、「週刊金曜日」の編集長となったあの本多勝一氏ですね。『きたぐにの動物たち』の中で本多氏は、ヒグマとトドだけは「絶滅させるべきだ」と力説しているのですが、その後も同じ意見でしょうか。

 クマだけでなく、シカも最近増えすぎているようです。これも、「かわいそう」の声に屈して捕殺に制限をかける自治体が増えた影響と思われます。ある程度捕殺することでバランスがとれていた生態系ですから、捕殺を減らせば増えるのはあたりまえの話です。
 シカはクマと違って確かに「かわいい」ところがあると思いますが、それにしても増えすぎれば害獣です。木の若芽などを食べ尽くしてしまうので、林業に壊滅的な被害を与えることがあります。林業も人間の勝手な営みであると言われればそのとおりではあるのですけれども、今になって急にやめるというわけにもゆきません。共存可能な程度までシカの頭数をコントロールする必要はあるでしょう。
 なお、千葉県ではなぜかキョンが大繁殖しているそうです。キョンは世界最小のシカと言いましょうか、大きめの猫に長い四肢をくっつけたような動物です。「がきデカ」というマンガで「八丈島のきょん」というフレーズが有名になりましたが、八丈島には居らず、大島には多少居るようです。それが本土に渡ってきて千葉で繁殖しているというのだからわけがわかりません。
 キョンはごく小さいシカなので、捕殺しても肉も毛皮もあんまり役に立ちません。その上啼き声がものすごく不気味なんだそうで、ハンターも撃つのに二の足を踏むそうです。夜な夜な不気味な遠吠えをしているのが人里でも聞こえるらしく、不眠症になった人も居るとか。
 いろんなところで、いろんな動物が変な増えかたをしているのは、何やらイヤな傾向です。
 そういえば、ついこのあいだ、夜に井の頭線の電車に乗ろうと思って駅で待っていたら、線路をタヌキがてけてけ歩いているのを目撃して、思わず絶句してしまいました。あまりに意表外で、動画を撮ることさえ頭に浮かびませんでした。まさか東京23区内で野生のタヌキを見るとは。
 その近くの、線路に面した料理屋で、庭にときどきタヌキがやってくる、みたいな話を聞き、まさかと思っていたのですが、きっとそのタヌキだったのでしょう。その庭に住んでいるのか、あるいは近所に巣でもあるのか知りませんが、ともかく家に帰るところだったのだと思われます。電車に轢かれなければ良いのですが。
 料理屋の庭のタヌキの話はけっこう以前から聞いていたので、このところ急にタヌキが増えたということでもないのでしょうが、あまりに普通に歩いていたところを見ると、タヌキが普通に生活できる環境がそのあたりにあるということです。だとすればこれから繁殖する可能性もあります。
 クマ被害の話からだいぶ逸れましたが、ともかくほうぼうの生態系が、私らなどの常識からだんだんと外れはじめているような気がしてなりません。何かの前触れでなければ良いですね。

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