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「私鉄の特急」を考える(3) [趣味]

 首都圏関西圏の私鉄特急を見てきました。ほかにも私鉄の特急が走っている地域があります。今回はそれを概観してみましょう。

 まずは名古屋鉄道です。ここは近鉄に迫るくらい特急運転網が充実しており、名古屋本線・豊川線・常滑線・空港線・河和線・知多新線・西尾線・犬山線・津島線・尾西線に走っています。主力は名古屋本線の豊橋岐阜間を走る快速特急特急、それから中部国際空港新鵜沼間を走る特急とミュースカイで、列車によっては空港と岐阜を結んだり、豊橋と新鵜沼を結んだりするクロス運転がおこなわれ、また支線区に入ったりもするというところです。
 ミュースカイというのは種別というより、「全席指定列車」のことです。日中の停車パターンは中部国際空港から神宮前までノンストップで、常滑太田川などにも停まる特急より上位に見えますが、早朝などにはわずかながら特急と同じパターンの停車駅となっているミュースカイも存在します。特急や快速特急にも指定席車輛が連結されており、ミューチケットを買わないとその車輛には乗れませんが、ミュースカイは全車がその指定席車輛になっているというわけです。
 現在のミューチケットもそうですが、名鉄の特急券は、伝統的に「指定席券」という性格なのでした。特別に速いとか、特別に座席グレードが高いとかいうことに対する料金ではなく、着席保証のための料金で、その意味では名鉄特急は、特急型特急ではなく、ライナー型特急の先駆をなしていたと言えるかもしれません。
 私がそれに気づいたのは、27年ほど前に「名鉄乗り潰し」に行ったときのことでした。3日ほどかけてひたすらに名鉄を乗り潰し、それでも乗り残しがいくつかあったという、名鉄の規模を思い知る旅行でした。まあその頃は三河線吉良吉田西中金まで行っていたし、八百津線なども残っていたし、岐阜県内の軽便電車(岐阜市内線・美濃町線・揖斐線・谷汲線)も残っていましたので、いまよりずっと手間取ったのでしたが。
 その中で、河和に向かうときであったか、乗った普通列車が、パノラマカーだったのです。
 パノラマカーは名鉄の看板列車で、小田急ロマンスカーに先んじて前面展望車を投入した劃期的な車輛でした。運転席を2階に置き、大きな窓で前面の景色を満喫できるようにしたのです。オールクロスシート車で、もちろん最初は特急用として走りました。名鉄も、その頃の特急料金は、確かにこの特別車輛に対する料金であったと思います。
 ところが、そのパノラマカーも、年月を経るうちに古びてしまいました。そして特急用にはパノラマスーパーと称する新型車輛が投入されたのでしたが、型落ちのパノラマカーをどうしたかというと、急行以下の列車にまわしたのです。つまり、その時点でパノラマカーは「特別な列車」ではなくなったのでした。
 それで私が河和線に乗ったころには普通列車にまでパノラマカーが使われていたわけです。
 ところが、終点の河和に着いてみると、その普通列車は、特急として折り返すことになっていたのでした。その当時、パノラマスーパーはまだ本線系だけの運転で、河和線のような支線区には入っていませんでした。
 普通列車と同じ車輛を使っているのに特急料金をとるのか、と私は憮然としたものでしたが、このとき、名鉄の特急料金とは車輛などに対するものではなく、座席指定に対する料金なのだろうとひらめいたのでした。そういえば名鉄の特急料金は、どこからどこまで乗っても一律の値段で、これは現在のミューチケットも同様です。普通の特急料金だと、乗車距離に従って加算されるのが普通ですが、座席指定料金と考えれば一律でもおかしくはありません。国鉄=JRの指定席料金も一律です。
 名鉄は、特急券のありかたについて、いろいろ模索した形跡があります。上記のとおり、パノラマカーが特急列車として走り出したころは、ほかの鉄道会社と同じく特急型特急として考えていたと思われ、「速さ」「特別な車輛」そして「座席指定」という三要素が揃っていたでしょう。
 しかし、パノラマカーの旧型から順に一般車輛に回してゆくにあたって、「座席指定」以外の要素があいまいになってきました。
 名古屋近郊の鉄道として、ラッシュアワーの程度も区間も、東京や大阪などに較べればそう深刻でなく、一般車輛としてクロスシート車を走らせても問題ないくらいであったことが、かえってややこしさを生んでいたのかもしれません。
 私の子供の頃には、名鉄には「高速」という独特の種別が走っていました。たぶん名鉄以外で使われたことはないと思います。これは、ありていに言えば自由席特急です。種別としての特急はあくまで全指定席ということにして、それを補完する全自由席の優等列車が高速でした。種別として分離するため、停車駅は特急よりやや増やしていましたが、大差はない程度です。
 しばらく経って、やはり特急にも自由席を連結することになり、その時点で高速も役目を終えて姿を消しました。そして、指定席・自由席が混在する特急が標準となり、特急券の「指定席券化」がはっきりとしたことになります。ただし、支線区では全指定がしばらく続きました。上記の私の乗り潰しのころも、上野間から内海などというごく短距離で、時間の関係で特急に乗らざるを得ないことがあり、そのとき特急券を買わなければならなかったのは、知多新線を走る特急にはまだ自由席が存在しなかったためです。
 セントレア空港が開業し、アクセスとして常滑線~空港線が整備されたのち、ようやくすっきりしたと言えるでしょう。特急・快速特急は基本的に自由席だが、指定席車輛が連結される。それとは別に全指定席列車が設定され、ミュースカイと名付けられる。特急券だか指定席券だかよくわからなかった特別料金は、ミューチケットと称されて指定席料金と位置づけられる……という具合です。
 指定席車輛は「特別車」とされて、自由席車輛よりもグレードの高いものが宛てられました。南海「サザン」なども同様で、指定席車輛は同時にグリーン車みたいなものでもある、という形をよく見かけるようになりました。JRの新幹線や特急でも、指定席は自由席よりも少しハイグレードということが増えてきました。昔は「確実に坐れる権利」だけで、座席の質そのものは自由席と変わらなかった指定席も、いまでは「追加料金を払うんだから少しは良い座席を」という利用者の声に応えなければならなくなっているのです。

 名古屋本線の特急と快速特急は、日中はだいたい1時間に2往復ずつ走ります。この両種別の差は、国府新安城に停まるのが特急、停まらないのが快速特急で、それほどの大差はありません。昔の特急が現在の快速特急と考えれば良いと思います。なお朝のうちは伊奈に停まる特急も何便かあります。歴史的事情により豊橋駅のプラットフォームが1線しか使えないので、隣の伊奈を起終点とする列車も多いからと思われます。
 日中は、豊橋発の快速特急が犬山線に入って新鵜沼行き、特急が岐阜行きというパターンが多いのですが、逆向きでは新鵜沼発着が特急、岐阜発着が快速特急となっています。犬山線に入ってからの停車駅には違いは無いのですが、不思議な運行形態と言えます。
 中部国際空港発着の特急とミュースカイは、朝夕はいろいろ例外もあるものの、日中のダイヤとしてはミュースカイは名古屋止まりとなり、特急が岐阜や豊橋に向かうというのが基本パターンです。ミュースカイには空港と名古屋を直結するという使命を与えているのでしょう。
 河和線や知多新線には特急が入り、どちらも1時間くらいおきに運転しています。これらは基本的に名古屋発着で、岐阜や新鵜沼に足を延ばすのは朝のうちなど少数です。
 ほかの支線区に入る特急は、1日に1便から数便程度で、しかも平日のみの運転とか、一方通行のみの運転とかとなっており、一種のホームライナー的な扱いです。内海~佐屋間の特急など、4便もあるのですが、やはり平日夜、佐屋行きが走るのみで逆向きはありません。
 名鉄の特急網は、今後もインターシティとしてJR東海道線と張り合う名古屋本線と、空港連絡とを二本柱として組み立てられてゆくでしょう。もしかしたら妙なところに入りこむ列車があるかもしれませんが、それも補助的な存在になると思われます。そしてミューチケットのありかたは現在安定しているように思えます。今後増収を狙って快速特急を全指定にするなどということが無いとは言えませんが、快速特急と特急の速度や停車駅の差を考えると、それはかつての「特急」と「高速」のように中途半端なものになりかねません。名鉄特急網がガラリと様相を変えてしまうようなことは、当分起こらないでしょう。

 西日本鉄道の特急には、私は二日市から久留米まで1回乗ったことがあるだけで、体験としても薄いものですので、あまり実感のこもったことは書けません。
 ともあれ、西鉄の特急は伝統的に新快速型、つまり専用車輛を使って料金不要、というタイプで運転されています。クロスシートですが、京阪の特急のような高級感は無い気がしました。イメージとしては昔の京急快特くらいでしょうか。なお、ラッシュ時などには一般車も使われるそうです。
 南半分の、久留米~大牟田間は、花畑・大善寺・柳川・新栄町の停車で、これは急行とまったく同一です。つまり特急の特急たるゆえんは北半分(福岡~久留米間)にあるわけです。こちらの区間は、急行がかなりこまめに停車するので、特急の飛ばしっぷりが目立ちます。近年になって、少し停車駅が増えたようですが、それでも福岡~久留米間約40分の急行に対して、特急は約30分という所要時間であり、特急としての貫禄を保っています。
 コロナ禍以来、なぜか昼間の特急は急行に格下げされ、昼間には特急が走らなくなってしまいました。コロナと特急格下げがどう関係しているのかわかりませんが、また元のように走る日を心待ちにしています。

 長野電鉄の特急は、以前はややこしくて、A特急からD特急まで4種類が走っていました。A、B、C、Dの順に停車駅が増えていたので、たとえば特急・急行・準急・区間準急といった具合に命名しても差し支えは無かったと思うのですが、長電としては優等列車からはすべて料金を徴収したかったのでしょう。急行券、準急券などとしては体裁が悪かったのかもしれません。通過する駅より停車する駅のほうが多いくらいのD特急であっても、とにかく優等列車はすべて一緒くたに特急扱いして、特急料金をとることにしていたわけです。そういえば長電は、「普通急行が無いのに特別急行だけある」という状態になったのが、かなり早い時期であったように思います。
 現在はさすがに整理されました。基本停車駅は権堂・須坂・小布施・信州中野となり、朝夕には市役所前・本郷・信濃吉田・朝陽に追加停車する準特急とでも言うべき列車が走ります。すべて特急料金100円が必要です。
 「ゆけむり」と呼ばれる元小田急HiSEロマンスカー「スノーモンキー」と呼ばれる元JRの「成田エクスプレス」だった2編成が特急用に宛てられています。車輛グレードはなかなかと言えましょう。大半の便には指定席がついており、指定席料金は300円です。さらに「スノーモンキー」には4人用個室もあり、個室料金は1200円となっています。端から端まで乗っても1時間かかるかかからないか程度の長電で個室をとるほどの需要がどのくらいあるのか心配ですが。
 土休日のみ、「ゆけむりのんびり号」というのが1往復走っています。ガイド付きであるほか、軽食や飲み物、土産物などを車内で買うことができます。これには指定席が無いというのも面白い設定だと思います。

 富士急行富士山麓電気鉄道)の特急は長らく「フジサン特急」として親しまれ、JR特急をぶった切ったような、前面と後面が違う形の編成が特徴的でした。現在もフジサン特急は健在で、元小田急RSEロマンスカーを導入してぐっとスマートな印象になっています。そのほか「富士山ビュー特急」というのが走るようになりました。こちらはJR東海で「(ワイドビュー)」付き特急に使われていた車輛です。
 そのほかJR中央線から特急「富士回遊」が乗り入れてきます。大月までは「あずさ」「かいじ」に併結されるのでした。そんなこんなで、富士急の特急はけっこう多士済々になってきたのですが、少々料金体系が面倒なことになりました。まず特急料金ですが、車輛点検か何かの都合か、「富士山ビュー特急」が一般車輛で運転される日があり、そのときは特急料金免除かと思いきや、半額になります。また「富士山ビュー特急」にも「フジサン特急」にも指定席とか特別車輛とかがついているのですが、その料金は両方の特急で異なるのでした。さらに、「富士回遊」は富士急線内で乗り降りする限りにおいては特急料金がかかりません。何に乗ればいくらかかるのかというのがわかりにくくなっています。鉄道会社としては収益を上げるために、いろいろな料金を設定したくなるのでしょうが、できるならシンプルにお願いしたいものです。

 島根県の一畑電車にも特急が走ります。ここは平日と土休日で運行の様相がまるっきり変わります。
 本線格である北松江線を、出雲市から松江しんじ湖温泉まで走る特急は、平日の朝に1便だけです。逆向きはありません。「スーパーライナー」と名付けられていますが、停車パターンは急行とそれほど変わらず、「スーパー」感はあまり無いのでした。とはいえ京王から譲り受けた5000系はクロスシートで、なかなか快適です。ただしロングシートの2100系が充当されることもあって、やや運任せと言うべきでしょうか。
 これとは別に、土休日に限って出雲市から出雲大社前まで4往復半している特急があります。川跡でスイッチバックすることになります。13キロばかりの短距離運転ですが、出雲大社の参詣客にとってはそこそこ便利でしょう。松江しんじ湖温泉のほうは松江駅からだいぶ離れているので、出雲市乗り換えのほうが楽です。

 第三セクターでは、智頭急行に特急が走ります。鉄建公団が新しい鉄道建設思想のもと、高規格路線として作っているため、いまや陰陽連絡線としてトップクラスの存在となっています。この路線が大赤字必至と見られて建設中止になっていたのはまったく解せません。たぶん国鉄に任せておいたら、普通列車がしょぼしょぼと行き来するだけのローカル線になっていたのではないでしょうか。
 京都発着の「スーパーはくと」が7往復、岡山発着の「スーパーいなば」が6往復走り、区間によっては普通列車よりも特急のほうが多かったりします。非電化単線ですが、線路の規格が高ければこれほどに有効活用できるのかと蒙を啓かれる想いです。
 あと土佐くろしお鉄道中村・宿毛線にもJRの「しまんと」「あしずり」が乗り入れますが、これは明らかに土讃線の延長線であって、「土佐くろしお鉄道の特急」とは言いにくい気がするので、詳細は省略します。

 首都圏のところで触れるのを忘れていました。地下鉄関連です。東京の地下鉄は大半が郊外私鉄と相互乗り入れを行っていますが、以前は地下鉄内は各駅停車ということが普通でした。しかし最近は通過運転をするものも増えてきました。そのうち、特急と言えそうなのは、東京メトロ千代田線メトロロマンスカーと、都営浅草線エアポート快特でしょうか。副都心線S-Train日比谷線THライナーは、特急と呼べるかどうかやや微妙です。エアポート快特よりも通過駅の割合は多いと思いますが、S-Trainは西武としては特急よりも格下という気分でしょう。東横線では特急クラス(旅客扱い停車駅は特急より少ない)なので、特急扱いでも良さそうではありますけれども……。THライナーも、東武の特急と較べると格落ちな気がします。
 メトロも都営も、以前ほどには通過運転に対する忌避感が無くなってきたようなので、地下鉄乗り入れの特急は今後も増えるかもしれません。ただ、追い越し設備のある駅がほとんど見られないのがネックで、そのため特急といえども前後の列車のペースに合わせなければならず、ノロノロ運転を強いられるのがつらいところです。乗り入れ会社も出資して、駅の拡張を図るべきでしょう。

 最後に、富山地方鉄道について触れておきます。
 この鉄道には、現在は特急が走っていません。去年のダイヤ改正で無くしてしまったのです。やはりコロナ禍で利用客が減って……ということらしいのですが、雰囲気としては廃止というより休止という印象を感じます。また復活させるときも来るのではないでしょうか。
 本線特急立山特急、本線・立山線両方を股にかけるアルペン特急、そしてかつては名鉄から国鉄高山本線を介して乗り入れていた壮大な特急「北アルプス」など、富山地鉄の特急はかつてかなりの栄光をかちえていました。自社製の車輛こそあんまり無く、他社からの譲渡に頼っていましたが、それでもなかなかの名車を揃え、特急料金を徴収するにふさわしい特急でした。
 本線は終点の宇奈月温泉黒部峡谷鉄道に接続していますし、立山線は終点立山立山黒部アルペンルートの基地となっています。観光資源としては充分すぎる立地なのです。まあ、宇奈月のほうは新幹線の黒部宇奈月温泉駅ができて、富山から地鉄特急で向かおうという客が減ったことは予想されますが、それにしてもこれだけの観光資源を抱えながら特急の運行をやめてしまったというのは消極的に過ぎる気がします。地鉄の特急の早期復活を祈りつつ、私鉄特急について長々と書いてきた筆を擱きたいと思います。

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