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相互乗り入れ [いろいろ]

 先日、都営地下鉄三田線に乗る機会があったのですが、プラットフォームに入ってきたのが相模鉄道12000系電車だったので、ちょっとびっくりすると共になんだか嬉しくなりました。
 12000系は、数年前に相鉄がJR埼京線と直通運転をするに際して投入した新型車輛です。ネイビーブルー1色というシックな塗色は、なんだか上品な色合いとして知られる阪急のマルーンカラーを連想します。車内もロングシートとはいえグレーを基調にしたオシャレな内装で、坐り心地も非常に良いのでした。そのときは車輛端の短いシートに坐ったのですが、ここはひとりずつの仕切りがついている上に少し座面が高くなっており、私のような大柄な人間にとってはさらに坐り心地が良いようでした。
 埼京線との直通がはじまって間もなく、その連絡線の試乗に行ってきた際に乗ったばかりで、その後はいちども乗ったことがありません。新宿駅でちょくちょく見かけるのですが、乗る機会がなかなか無かったのでした。
 それが三田線に入ってきたので一瞬驚いたわけですが、3月に東急新横浜線相鉄新横浜線が同時開業して直通運転が開始されたのはもちろん知っており、その直通電車が東急目黒線を介してメトロ南北線や都営三田線にも走るようになったことも知っています。さらに埼玉高速鉄道の時刻表で「海老名行き急行」の存在も確認していますので、よく考えれば驚くことは何も無いようです。とはいえ、実際に三田線の駅で12000系に乗るという体験をすると、かなりのインパクトを感じると共に、
 「本当に直通したんだなあ……」
 と実感が湧いてきたのでした。

 いまのところ、まだ新規開業の新横浜線に乗りに行ってはいません。おそらく大半が地下線なので、車窓としてはそんなに面白くないだろうと予想していますが、日吉から、まだ乗ったことの無い線路に乗り入れて分岐するあたりなどはゾクゾクしそうです。
 三田線に乗り入れてきた12000系の車内には、もちろん路線図が掲げられています。相鉄の車輛ですから、もちろん相鉄部分がいちばん大きな文字で、明瞭に描かれていましたが、乗り入れ路線の部分がすごいことになっていました。
 相鉄本線西谷から新横浜線が分岐します。その新横浜線の最初の駅・羽沢横浜国大から、長々と埼京線が伸びています。JRに入ると全車各駅停車になりますので、当然、全駅が書かれています。わずかながら新宿以遠まで乗り入れる電車もあり、最奥は川越となっています。
 次の新横浜で東急新横浜線、そして東横線に直通しますが、その東横線の田園調布で目黒線を分岐します。
 東横線のほうは、そのままメトロ副都心線に乗り入れて、さらに東武東上線にもつながります。いまのところ西武に乗り入れる電車は無いようですが、東上線の最奥は川越市まで行くらしく、路線図も川越市まで表示されていました。
 目黒線のほうは、メトロ南北線と都営三田線の両方に乗り入れます。そして南北線は埼玉高速に直通します。途中止まりの電車もありますが、それぞれの終点である浦和美園と西高島平まで行く便もあり、路線図には当然そこまで書かれています。
 つまり、4つの長大な乗り入れ路線が、図の中に詰め込まれているのでした。
 関係する鉄道会社だけでも、JR東日本、東急、東京メトロ、都営地下鉄、埼玉高速、東武と6社に及びます。
 駅の数も大変なことになっています。埼京線の枝は、羽沢横浜国大から川越まで18駅。東横線~副都心線~東上線の枝は、新横浜から川越市まで40駅。目黒線~南北線~埼玉高速の枝は、田園調布から浦和美園まで32駅。そして三田線の枝は、白金高輪から西高島平まで24駅。合計114駅。相鉄自身の駅数は27駅しかありませんので、その4倍近い他路線の駅が路線図に散りばめられていることになります。
 こんなに一気に手を拡げてしまって、大丈夫なのだろうかと心配になります。確かに相鉄は、東京に直結することを悲願としてきたらしいのですが、何も6社10路線までルートを増やさなくとも……と思ってしまいます。ダイヤや収益の調整だけでもえらい騒ぎでしょう。
 だいたい、他社路線が相互乗り入れする場合、乗り入れ区間はお互いにほぼ同じくらいにするというのがこれまでの暗黙のルールでした。乗り入れというのは、一方では「自社の車輛を他社路線に走らせる」ということでありますが、逆に「他社の車輛を借りて自社の線路を走らせる」ことにもなります。だからそれぞれに「線路使用料」「車輛使用料」が発生し、精算が非常に面倒くさいことになるわけです。あまりに面倒くさいので、ややこしい話にならぬよう、乗り入れ区間をほぼ同じくらいにしてバランスをとる慣行になっていたのです。
 阪神近鉄が直通できるようになっても、奈良線にしか行かないのはこれが理由でもあります。阪神は山陽電鉄とも相互直通をしており、つまり名古屋から姫路までいちおう私鉄のみで線路がつながっているわけなので、この長距離を走破する豪華特急でも走らせれば良いのに……と鉄ちゃん的には考えてしまいますが、現実にはそうもゆかないのは、このバランスの問題があるからなのでした。
 しかし、相鉄は攻めています。相鉄自体の路線は全部合わせても40キロ程度しか無いのに、埼京線への乗り入れ最長距離は75キロほどになりますし、東急には25キロ近く、メトロには40キロあまり、都営には25キロほど、それに埼玉高速の15キロ弱と東上線の20キロ弱、合わせておよそ200キロにも及ぶ乗り入れを果たしたのでした。
 これらの路線を走る車輛は、大いに入り乱れることになります。地下鉄を介した相互乗り入れのため、東武の路線で東急車両が、JRの路線で小田急車輛が走っていたりするのをよく見ます。あるいは品川駅で京急の電車を待っていると、京急車輛のほか、京成車輛・都営浅草線車輛・北総鉄道車輛が次から次へとやってきます。しかし、相鉄がらみの路線は、それを上回るカオスな状況になりそうです。
 さすがに、埼玉高速の車輛が三田線を走ったり、東武の車輛が南北線を走ったりすることは無さそうですが、相鉄の車輛はこれらのどこにでも現れそうですし、東横線の田園調布~日吉間、東急と相鉄の両新横浜線、それに相鉄線内に関しては、あたかも車輛見本市みたいなことになるのではないでしょうか。

 それにしても、こうなってみると、先行直通をおこなったJRのメリットがあんまり無くなっているような気がします。
 武蔵小杉から羽沢横浜国大にかけての大迂回のため、相鉄エリアから見れば、武蔵小杉にも、渋谷にも、新宿にも、そして池袋や川越にも、JRよりは東横線経由のほうがずっと早く、そしてたぶん運賃も安く行けるのではないかと思います。新横浜線開通以前でも、海老名大和から新宿へ行くのなら相鉄~JRルートよりも、小田急の快速急行を使ったほうが早くて安かったわけで、現に相鉄沿線に住んでいた知人も、東京に出るときに埼京線乗り入れの電車など使ったことが無いと言っていました。
 分があるのは、西大井大崎くらいではないでしょうか。恵比寿でさえ、東横線から中目黒乗り換えで日比谷線を使ったほうが便利であるように思えます。中目黒の乗り換えは対面プラットフォームの完全シームレスなので、ほとんどストレスを感じません。大崎はりんかい線への乗り換えなどには好都合ですが、相鉄沿線からりんかい線に向かう客がどのくらい居ることやら。大挙して押し寄せるのはコミックマーケットのときくらいかもしれません。まして西大井など、この前やった「秘境駅ラリー」の立ち寄り駅に認定されているほどにマイナーで乗降客の少ない駅です。
 直通する電車も30分に1本程度で、狙わないと乗りづらい状態です。これでは早晩、利用者の減少がはっきりしてくるのではないかと心配です。
 活路があるとすれば、長い迂回路の途中に新駅を作ることくらいでしょう。鶴見駅にプラットフォームを設けて停車できるようにし、また少なくとも、横浜地下鉄ブルーラインと交差する岸根公園に駅を設けるべきです。ブルーラインでは岸根公園は新横浜の隣の駅ですから、東急・相鉄の新横浜線の便利さに、多少なりとも食い込めるかもしれません。

 新幹線利用者の動きがどうなるかも注目したいところです。東横線・目黒線沿線の人は、東京駅や品川駅に向かうよりも新横浜のほうが行きやすくなると思います。東京や品川では、渋谷や目黒でどうしても乗り換えが必要になります。相鉄の乗り入れ路線は、山手線西側、いわゆる裏山手の駅には便利ですが、東側に行くには少々不便です。その点、東横線や目黒線沿線からは、新横浜に乗り換えなしで行けますから、今後は新横浜利用が増えることでしょう。新横浜はもとから新幹線の全列車停車駅ですので、乗り降りには支障ありません。
 東京駅と品川駅の利用者がいくぶん減るということはありそうです。東京や品川から乗車して、空いているなと思っていたら新横浜でどっと乗ってくる、というようなことが多くなるでしょう。
 新横浜駅は新幹線のほか、JR横浜線とブルーラインという、決してマイナー路線ではないにしてもそんなにメジャーとも言えない路線が通っていたわけですが、東急と相鉄というふたつの大手鉄道がやって来たことで、俄然「交通の要衝」という印象が強烈になってきました。横浜市の第二の都心ということになりそうです。

 今回開業したところは、距離としてはさほど長くはありません。駅も、埼京線直通のときに設けられた羽沢横浜国大と、結節点である新横浜のほかには、新綱島ができただけです。しかもずいぶん昔から話が出ていたわりにはえらく時間がかかりました。
 しかし、鉄道のネットワークというのは、ほんのわずかな付け足しであっても劇的な効果が顕れる場合があります。上野東京ラインなんかも、秋葉原から東京までの2キロを新設しただけで、乗客の流れがまるで変わりました。日本一の混雑と言われた上野御徒町間も、東北線・常磐線・高崎線の列車が上野をスルー運転するようになって、混雑が大いに軽減されました。
 今回の新横浜線も、おそらく、ほんの少しの延伸が巨大な効果を発揮する例として記憶される一件になるに違いありません。
 鉄道マニアのはしくれとして、長大な新線開通などにはもちろん心惹かれますが、こういう、少ない延伸で大きな変革、という現象にもわくわくせざるを得ないのでした。
 さて、いつ試乗に行こうかな。実は横浜地下鉄にも、現在の形になってからは乗り潰しをしていないので、いずれ新横浜線と合わせて乗ってこようと思っています。

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