SSブログ

たまにはアフリカ情勢について [世の中]

 日本国内が大変なことになっていて、われわれはつい海外の様子を閑却しがちですが、考えてみれば東日本大震災直前に注目を集めていたのは、北アフリカ各国で多発していた革命騒ぎでした。チュニジアベンアリ政権が倒され、エジプトムバラク政権も倒され、アラブ諸国が慄然となっているところへ、リビアカダフィ大佐が頑として叛乱勢との妥協を拒否し、さあどうなることやらと世界中が固唾を呑んでいたのが、もうはるか昔のことのように思われます。
 もちろんリビアの情勢は現在進行形で動き続けており、関係国にとっては日本の地震などよりもずっと切迫した事態でしょう。私も遅ればせながらリビアはどうなっているのかが気になり、ニュースサイトで確認してみたところ、カダフィ大佐は暴走を続けて、市民に対し無差別攻撃をかけている様子です。これに対して英仏両国が軍事介入を始めており、NATOによる空爆などもおこなわれて、かなり深刻な状態になっているようです。
 ヨーロッパから見ると、北アフリカは対岸であり、言ってみればお膝元みたいなものです。これに対し、日本などは極東の辺境国というイメージであって、普通であれば関心の比重はアフリカ情勢のほうが圧倒的に大きくなりそうです。原発事故が無ければ、日本の震災への関心もとっくに薄れていたのではないでしょうか。放射能がばらまかれてやしないか、うちの原発は大丈夫なのか、といった不安が、一向にらちのあかない福島原発の状況に海外からの注目を集め続けているとも言えます。
 われわれ日本人としては、地道に自分たちのやるべきことをやってゆくしかありませんが、諸外国の眼がいつまでもこちらに集まっているとは思わないほうが良いでしょうね。

 ベンアリやムバラクに較べ、カダフィは一筋縄では行かないだろうと私は思っていました。
 エジプトのムバラクは、王制を打倒した革命者ナセル、中東和平の立役者サダトという存在感ある前任者のあとを平和裡に継承した、いわば3代目です。チュニジアのベンアリはといえば、前任者のブルギバをクーデターで追ったとはいうものの、無血クーデターでしたから武闘派とは言えませんし、体制自体を変革したわけでもありません。いわば与党内政変に過ぎませんでした。
 そういう意味では、このふたりは創業者としての迫力に欠けていたと言えます。わりとあっさりと逃げ出したり身を引いたりしてしまったのは、自ら血と汗を流して獲得した地位だったとは言えないからでしょう。
 これに対し、カダフィは自らイドリス国王を逐った男です。まあ、王様は病気療養のためトルコに滞在していましたから、王様その人を処刑するとかそういう物騒なことはしなくて済みましたが、やはりベンアリの体制内クーデターとは違って大きな変革を伴いました。カダフィは独特の革命理論を持っており、きわめて急進的な汎アラブ主義者でもあります。アラブ版のレーニンもしくはスターリンというような位置づけをしてもそう間違ってはいないでしょう。かつてエジプトのサダトはカダフィを、

 ――頭のてっぺんから足の爪先まで狂っている男

 と評しました。強烈なイデオロギーに染まっている人間は、往々にして外部からはそんな風に見られるものです。
 自ら権力をつかみとり、しかも強烈なイデオロギーを持つカダフィですから、妥協などするはずがありません。イデオロギーのことを司馬遼太郎氏は「正義の体系」と定義しましたが、信奉する者にとってそれこそが正義であるがゆえに、自らに反対する者はことごとく不正義としか見えなくなります。彼らにとって妥協とは、正義が不正義に屈することです。不正義の輩を亡ぼすための暴力は、暴虐ではなく正義の戦いということになります。
 カダフィは、体制内クーデターをやっただけのベンアリ、お気楽な3代目のムバラクのようには、政権をそうあっさりと明け渡すことはできないのです。世界中が敵に回ろうとも、自らの正義を貫くつもりであるのに違いありません。イラク戦争の時に書いたことがありますが、負けが決まったらじたばたしないで潔く負けを認めるわれわれ日本人の美意識と、アラブ人のそれは大いに異なっています。彼らは、最後のひとりになっても敵ののど笛に食らいつくことを壮とするので、おそらくリビアの紛争は長引くことになると思われます。

 アフリカといえば、スーダンも内乱状態になっていました。今年の1月におこなわれた住民投票で、南部が独立するという話になっていましたが、その後どうなったのでしょう。スーダンはアフリカで最大の面積を持つ国でしたが、分裂すればその地位も失われます。
 われわれがひいこら言っているうちにも、世界は動いています。政治家諸氏には片眼で日本の復興を睨みつつも、もう片方の眼は常に世界を見据えて、誤りないようにこの国を導いていただきたいものですが、さて……


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0