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平成最後のファミリー音楽会 [日録]

 今日は恒例の、板橋ファミリー音楽会でした。1月13日開催というのはけっこう早く、2回あるホール練習のうち第1回は去年のうちにやっていたほどです。第2回をこの前の水曜日(9日)におこない、昨日ゲネプロを済ませて今日を迎えたという日程でした。
 もっとも、昔はもっと早い時期にやったこともあります。私が板橋区演奏家協会に入会した次の年のファミリー音楽会は、確か7日とかそのあたりで開催したのではなかったかしら。その頃は「お正月ファミリー音楽会」とか「新春ファミリー音楽会」とか冠していました。ホールの事情で1月中に開催できなかったことがあり、そのときから「新春」などの冠がはずれたのだったと思います。
 また、最初のころは入場無料でした。当時は区役所の文化振興課というところが演奏家協会を管轄しており、そこの主催色がけっこう強かったと記憶しています。つまり文化振興課の主催するファミリー音楽会に、演奏家協会が出演協力するという形でした。入場無料ということは事業収入が無いわけで、出演者のギャラがどうなっていたかはよく憶えていません。出演者もノーギャラであったか、それともいくらか役所の予算から出ていたか。
 そのうち、有料(前売り1000円)となり、演奏家協会独自の運営色が強くなり、出演ギャラが出るようになり、管轄は区役所から財団に移ったわけですが、それらの出来事の順序なども憶えていません。ある程度因果関係を持ちつつそのように変化したはずですけれども、有料になったからギャラを出すことにしたのか、管轄が替わったから協会の運営色が強まったのか、はっきり記憶していないのでした。まあともかく、いろいろな変遷を経ていまのようになってきたということです。 
 だんだん企画に手が込んできたことは確かです。はじめのころは、出演者がそれぞれ手持ちのレパートリーを持ち寄って代わる代わる演奏する、いわゆる発表会形式の演奏会に過ぎませんでした。歌や楽器のメンバーが、ピアノメンバーと合わせるという程度のリハーサルの必要はありましたが、そんなのは個人的に打ち合わせてできますし、まだ若いメンバーが多かったこともあってどこかの学校の部屋を使ったりすることもありました。
 せっかく何人も出演しているのだからということで、最後に全員で合奏&合唱するステージを設けることにしたりしました。出演者の専攻はその都度バラバラですので、それに合わせてアレンジをしなければなりません。私が専攻として入会した「編曲部門」というのは、事実上、そのために設置されたと言って良さそうです。
 やがて、漫然とした発表会ではなく、なんらかのテーマを持った演奏会にしようではないかという声が大きくなりました。何回かは、半分発表会、半分企画ステージといった形でやったこともあります。前年の夏ころに、出演者を募集するときに、演奏したい曲目もある程度出して貰っていたのですが、その中で企画ステージに組み込める曲は組み込んでしまい、どうにも企画の趣旨にこじつけられない曲は発表会ステージにまわしてしまう、といった方法を採っていたのではなかったかと思います。
 それがいつのころからか、全面的にしっかり企画を固めた演奏会ということになってゆきました。1000円とはいえ入場料を取るからには、発表会を聴かせるのは申し訳ないという気持ちも、曲がりなりにもプロ集団である演奏家協会の中にはあったものと思われます。

 そんなこんなで30回以上開催してきたファミリー音楽会ですが、上記のとおり、年を追う事に手が込んできて、1月上旬などという時期にあってはもういろいろ追いつかないことが多くなっています。13日という、中旬あたまくらいでギリギリ準備できる感じでした。
 企画のほうも知恵をしぼってはいるのですが、初期メンバーなどはそろそろネタが尽きかけています。
 最近になって、ようやく少し、企画サイドに加わってくれる若いメンバーが増えてきたので、少し新しい発想が生まれないかと期待しているところです。
 その若手発案の第一弾とも言うべき企画が、今回登場しました。ドヴォルジャーク『新世界より』を10分くらいのメドレー風にやってしまうという、かなり無茶な企画です。何が無茶かというに、まともに演奏すれば40分以上かかる交響曲を10分程度に再構成するのも、フルオーケストラの曲を今回出演する器楽奏者だけによる編成にアレンジするのも、結局私がやらなければならない作業なのでした。話を受けたときは
 「なんじゃそりゃ~!」
 と思わず叫んでしまったほどです。
 以前、「3分で終わる『第九』」というのはファミリー音楽会でやったことがあります。基本的には「晴れたるあおぞら♪」の歌詞で2番まで、ということだったのですが、序奏に「あの」第四楽章の序奏をくっつけ、間奏は「あの」よく出てくる間奏を用い、2番では「あの」マーチテンポの伴奏をつけ、歌い終わったあとに「あの」コーダをくっつけてやたら壮大に終わるようにしたのでした。やたら壮大に終わってみると3分くらいしか経っていないという、まあぶっちゃけて言えば冗談音楽みたいなものです。お客はどう思ったか知りませんが、出演者には大受けで、
 「第九って、この程度でいいんじゃないの?」
 などと言い合っていたものです。
 「10分で『新世界より』」はこれにちょっと似てはいますが、3分で終わるネタと違い、10分もかかると冗談音楽を標榜するわけにもゆきません。それに、オープニングで演奏するということで、ファミリー音楽会のオープニングの常として、合唱が加わります。協会員のみならず、アマチュアの合唱団なども参加して一緒に歌うようになっています。この合唱を採り入れなければなりません。
 幸い、『新世界より』の第二楽章といえば、あの「家路」もしくは「遠き山に陽は落ちて」として、歌詞付きでも知られているメロディーです。それは当然採用するとして、それだけでは合唱団は手持ち無沙汰です。
 やむを得ず、第三楽章のトリオにも合唱を加えました。そこの歌詞は私がでっち上げました。
 それから、第四楽章の終結部も合唱付きにしました。ここはヴォカリーズだけで済ませようと思ったのですが、なんとなくそれではつまらない気もして、こんな歌詞をつけてみました。

 ──わたしたちの、板橋。
 光る未来 はぐくむ街。
 みどりと文化のかがやく街。

 これは、板橋区役所のホームページに掲げられているキャッチフレーズから採りました。せめてこのくらい遊ばないとやってられねーや、という気分でした。
 スコアにして60ページ超えという、ファミリー音楽会のためのアレンジとしてはきわめて大規模なものになりました。演奏所要時間は、楽譜に書いてあるテンポ表示を確実に守ればほぼ10分というように仕上げましたが、実際の演奏では第二楽章や第四楽章でだいぶ遅くしたところがあり、13分くらいになっていました。
 細かく言えば、第一楽章の序奏を若干カットして主要部に入り、第一主題の確保のところで第二楽章冒頭の和音変化に乗せてしまってそのまま第二楽章へ。第二楽章は堀内敬三の歌詞を全部使ったところで、トリオには入らずに、いきなり第三楽章のトリオへ。そこから主題に戻るシークエンスはそのまま用い、主要部の最後のところをちょっと変化させて第四楽章の序奏の途中に飛び、第四楽章では第二主題に入る前のところで終結部に飛ぶという、力業に次ぐ力業で無理矢理4分の1に刈り込んだのでした。いくつか捨てざるを得なかったメロディーがあるのはやむを得ません。
 通して聴いた感じ、どのようになるだろうかと若干心配でしたが、本番では、第四楽章での合唱の参加が効果的で、思わず「ほほお」とうなりそうになりました。お客も、けっこう強引に感動させられたのではないかと思います。
 それにしても、若手メンバーの話を聞いていると、
 「来年は何にしようか?」
 などと言っています。『運命』などという語も聞こえてきました。交響曲シリーズを続けるつもりでしょうか。なんとなく私が割を食っている気がするのですが(笑)。

 この『新世界より』ダイジェストをオープニングとして、次にはここ最近定番となった「お笑いオペラ」シリーズが置かれます。
 一昨年の『椿姫』、去年の『カルメン』に続いて、今年は『蝶々夫人』の登場となりました。
 演奏家協会のメンバーとしてやたらに多いソプラノ歌手を大量消費するための企画で、10人くらいの歌手が次々とプリマドンナを担当してオペラのナンバーを歌ってゆくのです。もちろんそれが不自然にならないような台本と演出が為されているわけですが、毎年意外と好評なのでした。お客のみならず出演者にも好評なのが驚きでしたが、たとえ短時間でもプリマドンナを演じるというのが歌い手にとっては魅力なのかもしれません。
 台本も演出も、ひたすら笑いをとる方向です。特に結末がひどくて、去年の『カルメン』では、刺そうとしたホセからカルメンが短刀を奪いとり、
 「おまえが死ねぇ!」
 と叫んで逆にホセを刺し殺してしまいました。今年も、本来は蝶々さんは最後、脇差しで頸動脈を斬って自害するわけなのですが、ファミリー版では、自害したと見せかけて駆け寄ったピンカートンをドスでばっさり斬り捨て、高笑いで見得を切るという幕切れでした。元ネタを知っていれば大笑いなのですが、知らない人が見たらいくぶんかの誤解を生みそうではあります。
 今回はさらに「豪華番宣」なる趣向も付け加えられていました。2月に『魔笛』のコンサート形式上演、6月に『セーラ』の再演が控えているので、この両オペラの一部を「予告編」として披露したのです。『魔笛』の番宣など、ド頭に据えられていたので、お客は何が起こっているのかすらわからなかったかもしれません。
 『セーラ』のほうは、私が突然舞台に駆け込んで、屋根裏のワルツの部分を指揮するという台本になっていました。屋根裏のワルツを途中で歌うということは聞いていましたが、私がその場に出てゆくということを知ったのは先月の舞台リハーサルのときで、おかげで一日中ほとんど休憩無しのリハーサルになってしまいました。
 さらにMCの一環としても『セーラ』の番宣をすることになり、その流れで演奏会エンディングの『時代』の合唱に私も加わることになり、そもそも全然舞台には上がらないつもりだった私が、ずいぶん顔を見せることになってしまったのでした。

 『蝶々夫人』は前後編に分けられていました。前篇のあとには、これも近年定番となっているピアニストステージが置かれました。演奏家協会にはピアニストもけっこう数多いのですが、従来案外とまとまりが悪く、ピアニストだけで何かやるということはあまりありませんでした。それが、一昨年あたりから、わりとノリの良い新人が増えて、まとまりも良くなってきました。先月にはピアノだけのライブリーコンサートも開催されました。それで、ファミリー音楽会でもピアニストたちが羽目を外すステージが導入されたわけです。
 今年は実に8人(いつもソロで出演する佐藤俊会長を別として)もエントリーしています。それで、『剣の舞』をアレンジして貰えないかと打診されました。もちろん否やはなく、1台8手という前代未聞の連弾版『剣の舞』を書いたことは前に記しました
 私は当然、4人の奏者が1台のピアノに群がって弾くことを想定して書いたわけですが、どうせなら8人全員出してしまえということで話がまとまったらしく、8人の奏者が片手ずつで参加して演奏することになりました。洗足学園のピアノの先生たちによるユニット「レ・サンドワ」でも同じような試みはなされていますが、1台には5人が限界です。8人というのは破天荒で、そもそもどのように並んでいるかもよくわからないような状態になっていました。
 弾くだけでなく、途中でピアノから離れて踊ったり行進したりと、視覚的にもかなり愉しめます。これも最初のころはぎこちなかったのですが、3年目にもなるとだいぶ手慣れてきました。

 ここまでで1時間近くかかっていますが、まだ前半が終わりません。フルート2本によるドゥメルスマン『ウィリアム・テルによる華麗な二重奏曲』と、おなじみピアソラ『リベルタンゴ』が演奏されてようやく前半終了です。このリベルタンゴ、珍しくピアノを用いず、フルート1本、サクソフォン2本、コントラバス1挺、パーカッション1部という編成でアレンジを頼まれました。楽音が事実上4声しか使えないというのはかなり厳しいものがありましたが、お任せで託したパーカッションが好い仕事をしてくれたと思います。

 後半の幕開きは、ここしばらく定番となっている「お楽しみステージ」で、ほとんどコスプレ大会と化しています。ここだけはお客も自由に写真や動画を撮れることになっています。曲名はプログラムには記されないのですが、今年は「Young Man(Y.M.C.A)」です。去年亡くなった西城秀樹さんへの追悼という意味でもあったようです。星条旗をモティーフにしたコスプレをしている出演者が多かったのですけれども、「Y.M.C.A.」のUSA版元歌は、知る人ぞ知るゲイソングです。あんまりアメリカっぽくして良いのだろうか。
 そのあとに佐藤会長のソロピアノが入ります。ひとつには、そのソロステージのあいだに、みんなコスプレ衣裳を脱いで演奏用の服に着替える必要があるためでした。佐藤会長は毎年演奏曲目に困ったようなことを言うのですが、今年はブラームスの作品118から最初の3曲でした。ブラームスのそのあたりの曲なら、今後3年くらいは選曲が保ちそうな気もします。来年は117の「三つの間奏曲」とか、その次は119からラプソディとか、しばらくブラームスシリーズでもお客は満足だろうと思います。
 そのあと歌(「勿忘草」)、ヴァイオリン(「ツィゴイネルワイゼン」)、マリンバ(「ランド」by村松崇嗣)のソロが続き、蝶々夫人の後篇があって、最後に上述のとおり『時代』をエンディングとします。本来しっとりと終わる曲ですが、何しろファミリー音楽会のエンディングですから、やたら壮大な終わりかたにアレンジしてあります。

 終わってみるとまるまる3時間かかっていました。私は開演前はロビーでの受付のヘルプに入っていたのですが、そのときに何人かのお客さんに
 「終演は何時くらいですか?」
 と訊かれました。
 「17時半くらいじゃないでしょうか」
 と答えていたのですが、開演が15時なので、つまり2時間半と見積もったわけです。過少でした。
 昨日のゲネプロのときに3時間くらいかかっていたのですけれども、舞台転換の手際などもまだ馴れていないし、本番ではもっとスムーズに運ぶだろうから、まあ2時間半というところか、と踏んだのですが、甘かった。
 しかしまあ、考えてみれば、わずか1000円の入場料で、相当に濃い3時間の音楽会を体験できるのですから、安いものだとも言えます。あまり長いので途中で帰ってしまった人は居ましたが、最後まで居たお客さんはみんな満足そうでした。
 実は、運営が苦しいので、入場料をちょっとだけ値上げしたことがあります。ところがその年は、眼に見えて入場者数が減ったのでした。こんなにあからさまなのかとわれわれは瞠目し、次の年には1000円に戻しました。ファミリー音楽会というコンセプトからしても、あまり値上げということは考えないほうが良さそうで、今後も薄利多売を心がけてゆくしか無いのでしょう。

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