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漢字パズルの話 [趣味]

 最近、漢字パズルをよくやっています。
 実家の両親がだいぶ齢をとって、いろいろと補助が必要であるため、このところ週に1~2度は実家に帰っているのですが、実家には私の持ち物がひとつも残っていません。
 学生時代にひとり暮らしをはじめて、かれこれ40年近く経っており、そもそも私が暮らしていた痕跡さえほとんど無いのでした。妹ももう独立して30年近くなるのですが、妹のものはいくぶんか残されています。彼女が子供の頃に買ったマンガ本などもそのままになっています。しかし、私のものは本当にきれいさっぱり無くなっています。
 そんなわけで、私は実家へ行っても、ほぼやることが無いのでした。
 両親が貰った処方箋を持って薬局へ走ったり、買い物をしてきたりといった用事を言いつかれば、それをこなすわけですが、いつでもそんな用事があるとも限りません。また親がどこかへ出かけるときに付き添うこともありますが、それはもっと稀なことです。
 要するに、大半の時間、暇をもてあますことになります。
 仕事を持って行って、実家でやっていれば良い、と思われるかもしれません。確かに、以前義父が調子が悪かった時、マダムも義母も都合がつかず、私がマダムの実家に行ったことがあって、そのときには『いのちの渦紋』という曲の作曲を進めていました。義父は幸い、ちょくちょく様子を見なければならないような状態ではなく、昼食を作ったりするくらいで良かったため、私はかなり集中して作曲を進めることができました。というか、この一日が無ければ完成が覚束ないようなギリギリ加減だったのです。この一日で、半分近くまで進められたので、あとがだいぶ楽になったという事情でした。
 私のものが全然無いマダムの実家に缶詰めになっていたから良かったので、自分の家に居たらいろいろと気が散って、こうは進まなかったと思います。
 自分の実家でも、自分の持ち物が一切無いのだから、同じように仕事を進めれば良いようなものですが、なかなかそうもゆかないのでした。
 現在のところ、私のインドア仕事のほとんどの場面でパソコンが必要です。文書を作るのにも、楽譜を作るのにも、パソコンを使っています。使わないのは、作曲の、それも最初の段階だけです。つまりピアノとにらめっこしながら下書きを作る段階です。
 下書きを清書するときにはもちろんパソコンを使うのですが、これもただきれいに書き写すというだけの話ではなく、入力するときに推敲して若干変えることもありますし、音符以外の要素、たとえば強弱の変化とかテンポの変化などの書き込みは、よほど強調したいとき以外はパソコン入力のときにおこないます。
 マダムの実家で『いのちの渦紋』を作ったときは、この最初の下書き段階だったからできたようなものでした。そして、この段階の作業は、そうしょっちゅう入るわけでもないわけです。これまでのところ、実家で作曲をしなければならないタイミングになったことは無いのでした。
 で、私がいま使っているのはいちおうノートパソコンではあるのですが、事実上据え置き型です。官公庁などのオフィスの払い下げ品であって、バッテリーもついておらず、電源をコンセントから抜くとすみやかに使えなくなります。重量もかなりあって、持ち運びには向いていません。しかも外付けハードディスク、外付けスピーカー、外付けマイク、外付けテンキー、外付けカメラなどいろんなものがつながっていて、それらを整理するのも大変です。
 このメインマシンではなく、もっと軽量の持ち運び用のパソコンを別に用意して、データなどはクラウドに入れて呼び出し、出先ではそちらを用いるというのがイマ風であることは重々承知しているものの、どうもそこまでして外で仕事しなくても良いのではないかと思ってしまうのでした。たぶん、そこまで仕事に追われていないから言えることだろうとは思うのですけれども、出先では出先として気分を切り替えたい気持ちがあります。
 そんなわけで、実家での待機時間内に仕事を進めるということは、いまのところしていません。
 それで、どうしても暇になってしまう時間があって、その時間を潰すのに漢字パズルをやっているというわけです。

 もともとは母がそういったものを好み、実家には漢字パズルの雑誌が何冊も置いてあります。最近は数独のほうがお気に入りらしくて、漢字パズルの雑誌のほうは埋まるのがゆっくりになっているようでもあります。
 私もけっこうなパズル好きを自認していますが、どうも母からの遺伝であったようです。父もやってはいるのですがそんなに熱中している様子は無く、数独などは母より少し難易度が低めのをプレイしています。
 それで、私は暇な時間に、母が解いていない問題を手がけはじめたのでした。
 やってみると、時間つぶしとしてはなかなかスグレモノと言えます。1~2時間くらいなら簡単に過ぎてしまいます。
 まあパズルで時間つぶしというのは昔からやっていたわけですが、特に漢字パズルを好んだということもありませんでした。「パズル通信ニコリ」という、非常に多種多様のペンシルパズルを扱う雑誌を購読しており、その中ではカックロとかスリザーリンクとかいったパズルが好きで、単行本なんかも買っていたほどです。いろんな種類の中には漢字ネタのパズルもありましたが、比率としてさほど多くはありませんでしたし、私の興味の向きかたも「いちおう」程度のものでした。
 しかし、漢字パズル専門の雑誌というのもかなりたくさん出ているようで、それだけ裾野も広いのでしょう。

 いちばん分量として多いのは「漢字ナンクロ」というパズルのようです。ナンクロはナンバークロスの略で、クロスワードのような盤面に、すべてのマスに数字が振られた形をとっています。で、同じ数字の振られたマスには同じ文字が入るというルールです。ナンクロ自体は「ニコリ」にも載っていましたが、必ずしも漢字だけではなく、カナのナンクロもありました。
 便宜のため、どの数字がどの文字になるかという一覧表も添えられていて、文字が判明したらそちらにも書き込んでゆきます。
 いくつかのマスには、すでに漢字が印刷されていて、それがヒントになります。たとえば「百□□首」となっていればまず間違いなく「百人一首」でしょう。「人」と「一」が判明するわけです。ただしときどきノーヒント問題もあります。
 普通はクロスワードと同じく、文字の入らない黒マスがあるのですが、ナンクロの場合は「ホワイトナンクロ」というのもあり、黒マスが一切示されていません。文字と同じように、特定の数字のマスが黒マスになるのでした。黒マスはどうしても数が多くなるので、やたらと頻出する数字のマスはおそらく黒マスであろうと判断できますが、それだけでは判断のつかない場合もあるわけです。
 漢字ナンクロをやっていると、
 「こんな言葉、本当に実在するのか?」
 と言いたくなるような熟語がちょくちょく出てきます。スマホで検索してみると、なるほど実在していて、自分の知らない言葉というのはずいぶんあるんだなあ、と感慨を催したりします。仏教用語みたいなものが多いようですが、知っていて良さそうな熟語もあります。まあ制作者のほうも字引と首っ引きで作っているとおぼしいのですが、知らない言葉を知るのはなかなか愉快なことではあり、この辺は数字パズルであるカックロや、点つなぎパズルの一種であるスリザーリンクなどでは味わえないところでした。
 逆に、やたらと使われていて、見かけるとつい笑ってしまうというような言葉もいくつか出てきました。一例をあげると「人生行路」なる言葉。これは知らなかったわけではなく、使いかたも見当がついていますが、浮世でそんなに使う言葉でもないのに、いろんな問題に頻出するのが面白い。4文字共にわりに使う文字で、ほかの言葉と組み合わせやすいのだろうと思います。制作者諸子のお気に入りとなっているのでしょう。

 漢字ナンクロと人気を二分していそうなのが「漢字ジグザグワーズ」というパズルです。これは基本的に白い盤面で、すべてのマスに漢字が入ります。こちらも、ヒントになる漢字があらかじめ印刷されていることが多いようです。入れる熟語は決まっていて、すべて番号がついたリストになっています。盤面にも数字の振られたマスがあり、その数字と同じ番号の熟語がそこからはじまります。
 番号の熟語をマスに埋めてゆくわけですが、このとき熟語がタテヨコに折れ曲がることが多く、だからジグザグワーズというわけでした。複数の熟語がひとつの文字を共有することもあり、そのあたりをカギにして解いてゆくわけです。
 ホワイトナンクロに相当する上級編として、網掛け付きのジグザグワーズというのがあります。網掛けのマスがいくつかあり、そのどこかに数字が隠されているという趣向です。このパズルの数字は、左上からヨコ向きに振られるのがルールなので、それと文字の配置などから数字の位置を推理します。たとえば36と振られたマスと39と振られたマスがあって、あいだに網掛けマスがふたつあれば、そこに37と38が入るのは一目瞭然なのですが、なかなかそう簡単にはゆきません。

 そのほかにも何種類かのパズルがあるようですが、圧倒的勢力を誇っているのは上記の2種なのでした。
 この2種だけでなくほかの種類のパズルも同様ですが、最終的には、盤面からいくつかの文字を抽出して、ある熟語を作ったりします。ナンクロであればいくつかの数字を指定したりするわけです。このパズル雑誌は懸賞雑誌でもあり、それぞれの問題で出てくる最終回答をハガキに書いて編集部に送ると、抽籤で景品が当たったりします。母は全然そういうことをしていないようですが。
 逆に、出てくる最終回答の見当をつけて、そちらから盤面を埋めるということも可能です。問題にはすべてタイトルがついていて、そのタイトルが最終回答のヒントにもなっているというのがこの雑誌の趣向であるようです。たとえばタイトルが「ご迷惑をおかけします」となっていると、出てくる最終回答が「工事中」「通行止」だったりします。大したヒントではないと思われそうですが、難易度が上がってくると、これがなかなか馬鹿になりません。
 幸いなことに、書けない文字というのにはいちども遭遇していません。
 「漢字を書けなくなった~~」
 と愚痴る知人なども多い中、私はまだしっかりしているようです。最近は文章を書くにしてもパソコンやスマホで済ませているので、実際にペンをとって文字を書く機会が減り、

 ──え、この字、どう書くんだっけ?

 と迷ってしまうケースが増えているのでしょう。私もまったくそういう経験が無いとは言いませんが、市販の漢字パズルで使われている程度の漢字なら、まだおおむね大丈夫です。ただ先日、「びょうぶ」の「屏」のほうが明かされていて「風」を埋めなければならなかった際、

 ──あれっ、「ぶ」はどの字だっけ?

 と迷ったことはありました。うっかり「生」と書いてしまってほかの言葉とつながらなくなったりして。
 漢字検定を受けたことは無いのですが、ネットなどで模擬問題を見る限り、私はいまのところ準一級くらいなら合格する自信はあるのですけれども、それもだんだんと衰えてきつつあるのかもしれません。
 なお、一級となると、動植物の固有名詞や、外国の地名の漢字表記などがたくさん出てくるので、問題に恵まれない場合は受からないかもしれないと思っています。地名の倫敦巴里紐育くらいならもちろんわかりますが、聖林桑港となると迷うかもしれません。ちなみに答えは透明色で記しておきます。

 倫敦=ロンドン 巴里=パリ 紐育=ニューヨーク 聖林=ハリウッド 桑港=サンフランシスコ

 また植物名などになると、テレビのクイズ番組で「漢検一級問題」などで出てくるとかなり頭を抱えます。たまたま知っているものが出ない限りは、答えられないような気がします。字面からはまったく想像できないものだったりするので。
 この齢になって新しい言葉を覚えるという点でも、漢字力をキープする上でも、暇つぶしにはじめた漢字パズルはなかなかスグレモノであることがわかったので、今後も実家に寄るたび続けていこうかと思っています。

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